古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1055話

 言葉遊び、暗号、隠語、どれとも違うと思う親書に書かれた謎の文章。

 

 

 

 

 

『自己信頼の象徴』殿へ。『バランスと調和』『創造性と自己調和』『物質的な成功』より『才能開花の救世主』ぶりの再会を祝う。

 

 

 

 

 

 アウレール王も意味不明と言った。当然だが、本人だけが意味不明じゃなく他の連中……参謀や暗号解析の専門部署にも意見を求めて、それでも分からなかった。

 

 数字に意味を持たせる事を教義とする廃れて久しい、人々から忘れ去られた宗教についてなど知っている方が異常だろう。宗教関係者とか古代史の研究者でも怪しいだろう。

 

 そもそも魔術もそうだが、秘匿や迫害で知識や記録が残らないのが厳しい。大体が争って勝った方が都合の良い編纂した記録を残すので、余計に分かり辛くなる。

 

 

 

 当時の事を記憶している長寿の種族……エルフ族とかなら有り得るが、彼等は人間に対して興味が薄いからね。僕等の数ある宗教の教義内容とか興味すら無いだろう。

 

 だが数字に意味を持たせる事は宗教以外でも有る。忌み数とか『4』は死を『9』は苦しみを連想されるとか、逆に『7』は幸運の数字とかね。

 

 そう言う薄い関係性から推測を重ねれば……いや、どんどん真実から遠ざかってしまうか?僕みたいな転生前の記憶が有れば別だが、そういうのは稀というか何と言うか……

 

 

 

 それでも僕は、有る可能性について連想してしまった。

 

 

 

 自分の鼓動が早鐘みたいになっているのが分かる。落ち着け、動揺するな、慌てるな。大丈夫、思考の防壁も崩れていない。この秘密がバレる事は破滅に繋がる事と同じだ。

 

 ゆっくりと鼻から息を吸い、口から吐き出す。リゼルは不審に思っているが、特に問い質したりはしない。だが後で追及される可能性は有る。彼女の目が、今は黙ってますが後で聞きますからと言っている。

 

 御前会議で問い質されて思考を隠すとか『なにか知ってるか思い立ちましたよね?』と疑われても仕方ないのだが……真実を知られるより疑われた方が未だマシだろう。

 

 

 

「どうした?何か思い当たる節でも有るのか?」

 

 

 

 まぁ不審な行動を取れば追及されるか。他の参加者も少しだが怪しんでいる感じがするし、ザスキア公爵は黙って考え込んでいるし……どう誤魔化すかな?

 

 いや思考の海に沈むのは何時もの悪癖だから、そこまで疑われはしないだろう。普段の行いって大切なんだなと思う。良い悪いは別にして、相手に『何時もの事か?』と思わせられる。

 

 今回は、それが良い方に思われているみたいだぞ。だから、誤魔化せるだろう。

 

 

 

「いえ、何時もの様に思考の海に沈んで申し訳有りません。その、余りに意味不明なので逆に混乱しています」

 

 

 

 ほらな。ニーレンス公爵やローラン公爵が、『またかよ、ヤレヤレだぜ』みたいに溜息を吐いたよ。

 

 

 

「そうか。だが親書の内容は意味不明でも回答はしなければならない。それも拒否でなく受諾するという事をだ。今の俺でもエムデン王国でも、拒否は難しいというか出来ないな」

 

 

 

 慶事だし断る正当な理由も考え付かない。断れはしないが、メリット以上のデメリットも複数思い浮かぶ。まぁ殆どが嫉妬関連だから、直ぐにどうこうという話では無いけどジワジワ来るよね。

 

 殆どの国の国教であるモア教からの過去に例のない優遇政策、これを妬まない国家など無いだろう。それ程に、モア教とは支配階級の連中にとっては思想的で利益の高い宗教なんだ。

 

 国政に口を挟まず、民衆に寄り添い、治安維持にも貢献する。モア教の教会が有るだけで、その領地は発展する。良い事尽くめの宗教だが、今迄は権力者側に過度に接触や優遇はしなかった。

 

 

 

 それが、僕にだけ方向転換とかね。聖戦を終えて大陸最大の国家になったエムデン王国の『英雄』に対しての優遇はさ。素直に喜べないし、単純に喜ぶのは愚かだよ。

 

 それだけ『聖戦』や『英雄』と言う言葉は重い。最悪はエムデン王国以外の国々が危機感を感じて連合を組んでしまう位には危機感を煽るだろう。

 

 確かにエムデン王国は大陸で最大の国力を持ったが、新しく組み込まれた領地から戦力を引き抜くには数年掛かるし国境線も広がったので防衛用の必要戦力は倍化した。

 

 

 

 次々と戦争を行うには体力が心許ない。最悪、僕が敵対国の王都に単騎侵攻という反則技も有るが、同じくエムデン王国の王都に他の国が侵攻する可能性も有る。

 

 英雄と持ち上げられても、所詮は個人だから複数の敵には対応出来ない。聖騎士団や近衛騎士団と連携しても、必ず勝てる守れるにはならない。

 

 だから、アウレール王は数年は内政重視の国策に切り替えたのに……まさか僕の結婚式が原因で周辺諸国との関係が悪化する可能性が高まるとか笑えない。

 

 

 

「そうですね。拒否は難しく受けるしかないでしょう。それで先方は事前に打合せに来いとか言ってきていますか?」

 

 

 

 僕の所為でエムデン王国に無用な危機が迫る。悔しさと腹立たしさと情けなさで、胃がムカムカして来た後にシクシクと痛んで来た。

 

 

 

 教皇が総本山から外に出るには、事前準備を十分に行う必要が有る。数回程度、向こうに打合せに行って協議を重ねる必要が普通に有るだろうな。普通に呼び出しの筈だ。

 

 いや謁見か拝謁か?うーん、謁見は正規の手続きを踏んだ上で、公的に面会する場合だよな。アウレール王との謁見も、ちゃんと手順を踏んでいる。いきなり呼ばれたり会いに行ったりはしない。

 

 拝謁の場合は、自分を下に置いた時にする表現だった筈だ。ようはへりくだったという事かな。どちらも身分の高い人や目上の人に会う時に使う言葉だが、僕の立場で間違うと問題だ。

 

 

 

 今回の場合は、どうだろう?『モア教の教皇という貴人に直接会う事を許された』ので、拝謁が正しいと思う。『モア教の教皇に拝謁を承る機会を賜りました』かな?

 

 

 

 この問いに、アウレール王が腕を組んで考える。そんなに難しい質問じゃないよね?普通に事前協議に来いって話だよね。呼び出しだって、向こうに来いなんて言えないって。

 

 アレ?もしかしなくても、僕って疑われているのか?僕をモア教の総本山に送り出す事に不安を感じているとか?アウレール王より教皇を優先するとか思われている?

 

 待たされる事、二十秒くらいか?もっと長かったか?アウレール王が組んでいた腕を解いて、深々と息を吐いた。それ程に悩ましい決断を強いたのか?

 

 

 

「一応は総本山に招くという表現を使っているな。お前の結婚式はエムデン王国の国家事業だが、その件については特に反対もされていない」

 

 

 

 あの、国家主体なのは聞いていますが国家事業にまで話が膨らんでいませんか?もう国王か王太子の結婚式レベルになっていませんか?臣下の伯爵が男爵令嬢と結婚するのですが?

 

 別の意味で胃がシクシクと痛くなってきた。思わず両手でお腹の辺りを抱えてしまう。ストレス性の胃炎、隠れ水属性持ちだから分かる急激なストレスによる胃の粘膜の炎症。

 

 吐き気や眩暈、吐血や下血も有り得る難病。回復するにはストレスの原因を取り除く必要が有るけど、それが出来ないから困っている。

 

 

 

「国家事業でも構わない。という意味でしょうか?逆に国家事業だからこそ、司祭に任せず教皇が出張る理由になる?理由としては弱いでしょうか?」

 

 

 

 この問いに全員が無言を貫いたが、誰も正解を知らないし予想もつかないので沈黙って事だよな。

 

 

 

『今回の聖戦に対して、モア教は協力を惜しまず。信徒達よ、教義を守る者の為に手を差し伸べろ。モア教の安寧は、我等が守り手と共に』

 

 

 

 聖戦の時にモア教が関係者に伝達した内容は周辺諸国の支配者階級も把握している。『モア教の安寧は、我等が守り手と共に』か……モア教の守護者扱いの者の結婚式を教皇が祝う。

 

 

 

「お前の結婚式は三ヶ月後の予定だが、モア教との協議にはそれ程の日数は掛らないだろう。だが総本山は遠い、往復で半月は必要だろう」

 

 

 

 猶予は三ヶ月、だが事前協議で半月は潰れる。幸いモア教の総本山はエムデン王国の国境と接していて他国を通過する必要は無いので、国家間の手続きは不要だから助かる。

 

 いくらモア教の教皇に呼び出されたといっても、他国の宮廷魔術師をなんの縛りも無く国内を移動させる事は有り得ない。案内役という監視が付くなら良い方で、普通に国防上の関係で拒否も有り得る。

 

 その調整が無いだけでも助かる。国内の移動もバニシード公爵の派閥構成貴族の領地は通らなくても良いので、手続き自体も簡単だが……歓待されて余計な時間が掛かるかもしれない。

 

 

 

 慶事だし素通りは礼儀に叶わないとか?うーん、困ったな。どうするか?いや聖地巡礼という意味で、単独で向かえば良いな。

 

 

 

「信者が聖地に呼ばれて向かう訳ですので、単独で行こうと思います」

 

 

 

 領主達の歓待を躱す意味での提案だが、許可は下りないだろうな。面倒臭いからと拒否は難しいが、言うだけならタダだし要求が通れば儲けモノ位な……

 

 

 

「そうだな。宿泊はモア教の教会に泊まる様に希望しているぞ。各教会の司教が祝福を授けたい、全てを廻るのは不可能なのも了承済みで通達済みなので工程に合せるとな」

 

 

 

 あれ?通ったし、宿泊場所も確保出来てる?通過する領地の領主達との懇親も不要?いや挨拶程度で済むの?なんだろう、親書の内容以外の段取りが物凄く配慮されているんだけど?

 

 配慮というか、僕の要望を熟知している?普通の上級貴族なら質素倹約を旨とする教会には泊まらず、領主の館で豪華に持て成されたいと考える。

 

 もし、この扱いを他の上級貴族に求めたら不満が爆発する。でも僕は逆に嬉しく思う。何か変だ、何がとは言えないが胸騒というか……悪意は感じないが、凄く凄い違和感と言うか……

 

 

 

 その後はモア教の総本山に行く具体的な工程と日程を詰める実務者達との打合せを進める事になり、僕だけが謁見室から退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 首を傾げながら謁見室を去る、リーンハルトの後姿を見送りながら考える。本来ならば上級貴族が旅先の宿泊場所をモア教とは言え教会に限定されれば不敬と怒り出すだろう。

 

 質素倹約を重んじる、モア教の教会ならば最上級に持て成されても贅沢に慣れた連中は満足しない。供も無く質素な教会を泊まり歩く強行軍、普通に嫌がるのだがリーンハルトは快諾した。

 

 領主達の接待攻勢よりも、質素なモア教の教会に泊まるを選ぶとはな。本当に欲が無いと言うか何と言うか……俺は無理だ。無駄に贅沢はしないが、流石に質素な食事や粗末なベットで寝るのは嫌だ。

 

 

 

 それを提案したモア教は、リーンハルトの考えを熟知して最適な提案をした。そう、アイツにだけ通用する提案だ。いくら敬虔な信徒とは言え、奴の為人を相当理解しないと無理な話だ。

 

 他の貴族連中がどう思うか?それすら考慮に入れての提案、そして自分達の管理下にある教会を拠点として移動させる。行動も何もかも筒抜けになるだろうし、事前の接触も何の障害も無い。

 

 やりたい放題だろう。まぁモア教の総本山の考えを各教会の管理者が倣うかと言えば、それはそれで違う。ウチの教会の司祭連中も教義には沿っているが、独自の考えで行動する。

 

 

 

 上からの命令に諾々と従う様な者は、そもそも司祭以上にはなれない。確固たる思想と信念が有る連中なのだ。だから国家や権力者にも立ち向える。

 

 

 

 さて、俺のギフト『聴力強化』で、リーンハルトの心音を聞いたが後半は心音が乱れていた。つまりあの怪文書の意味が分かったか、解読の取っ掛かりを掴んだか?

 

 その後の提案については、ホッとしたのだろう。心音は落ち着きを取り戻した。アイツ、領主達との懇親を心底面倒臭いと思っているな。貴族らしからぬというか、まぁ元は新貴族男爵の長子だからな。

 

 貴族的な心構えなど、教育されていなかったのだから大目に見るが、短期間で外側は見繕えるだけのモノは学んだのが驚く。俺だって幼少期からの王族の心得やマナー教育は嫌々だった。 

 

 

 

 それはそれとして、奴は思い付いた事を教えなかった。何故だ?二心無き事は理解しているし、心変わりもしないだろう。それは信用しているし、疑ってもいない。

 

 だが、アイツをこのままモア教の総本山に送り出して良いのか?モア教に取り込まれる?いや、取り込まれても何かデメリットが有るか?『エムデン王国の英雄』が『モア教の守り手』になる。

 

 うーん?無さそうで有りそうだが、具体的には思いつかないというか……駄目だな。これは残ったコイツ等と協議が必要か?

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