古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1056話

 リーンハルト以外を残した事による疑いの眼が、国王たる俺に突き刺さる。お前等、無条件で奴が絶対にエムデン王国を裏切らないと信じているだろう。俺も信じているが、奴は何かを秘密にしている。

 

 あの謎の怪文書の内容を解読する方法か、それに近しい事を思い立って動揺した。俺のギフトで奴の心音を聞いた。心音の強弱で有る程度の感情の動きは推測出来るのだが、アレは動揺を隠す事に専念していた。

 

 つまり、この場で知られる事は不利益な内容だったのだろうな。アイツの忠誠心を考えれば秘密を抱えるって事は、自分もそうだが周りにも不利益が及ぶと考えたのか?

 

 

 

 ザスキアを見れば、不機嫌そうに俺を睨んでいる。十代半ばの見た目で国王を睨むとか、色々と常識が歪んで来るな。ネクタル、あの黄金の魔毒は世界の有り方を根本から変えてしまうかも知れないぞ。

 

 

 

「なんだ、なにが不満か?」

 

 

 

 家臣の不満の解消も国王の勤め、理由を聞くだけは聞いてやる。まぁ聞かなくても分かる。この状況でアイツをハブるのは疑っていると思ったか?

 

 正直、リーンハルトの忠誠心は疑っていない。秘密にした理由は知りたいが、公表するとお互いに不利益が生じるのだろうな。秘密の多いヤツの事だから、自分の心の内に仕舞い込んだのだろう。

 

 奴は清廉潔白とか公明正大とか言われているが、実際は清濁併せ吞むというかグレーな事も建前を用意して実行する。バレなければ悪と判断されることも必要なら行う事も厭わない。

 

 

 

 モンテローザの件でも、奴は若い令嬢でも確実に殺すと言う判断を下し……そしてそれを自らの手で実行した。未だ十代の成人式を終えていない若者がだぞ。

 

 そして英雄という側面、戦争時の大量殺人という悪と判断をされても反論できない行動をしても壊れない強固な人格。まさに戦争の申し子といえるのだが、それだけで終わらないんだ。

 

 奴は軍属として魔術師として完成されていながら、政治面にも稀有な才能を示している。普通に高級官僚としての仕事を熟すのだが、誰にも教わってないし教えていないのにだぞ。

 

 

 

 新貴族男爵の長子がだ。伯爵級の後継者の教養とマナーを持ち、魔術師として指揮官として官僚としての実務能力を持つ。十五歳の少年がだぞ。普通なら与太話として取り合わないレベルだな。

 

 俺だって実際に目の前に居るから信じているだけで、他国の連中からすれば諜報部隊が狂ったと思うだろう。だが奴は、実際にバーリンゲン王国の軍隊を相手に殆ど一人で打ち勝っている。

 

 俺も報告書を読んだだけで裏取りの最中だが、屑共が難民を装い万単位で攻めて来た時にだ。魔法一発で全滅させたんだぞ。砂漠の砂が熱で溶ける程の超高温爆発魔術ってなんだ?

 

 

 

 サンアローでもビッグバンでもない。古代魔法か禁呪か?土属性と水属性の二属性持ちと聞いているが、土と水の魔法に爆発は無理じゃね?錬金の応用って?

 

 ははは、錬金は万能属性ですってか?本人も万能、魔法も万能。それに人外の部族との交渉術も高いというか、現状でエルフ族と対等に付き合えるのは奴だけだな。

 

 エルフ族に妖狼族、それに魔牛族もか。ドワーフ族とも錬金と鍛冶絡みで懇意にしてるし、言葉にすると異常なのだが頼もしくも有る。だが頼りきりは駄目だし、疑っても駄目だ。

 

 

 

 秘密の塊のような男だが、それを不義理と曝け出させる程、俺は暗愚じゃないぞ。アイツが秘密にした方が良いと判断したなら、それを受け入れる。何時か話してくれれば良い。

 

 聞きたいし知りたいが、同時に恐ろしくも有る。国王の俺でさえ、墓場まで持っていかなければ駄目な秘密とかじゃないよな?流石にそれはないよな?

 

 これから残りの人生を掛けて編纂する『エムデン王国の栄光と繁栄』に記せない内容じゃないよな?一人の英雄のお蔭で繁栄した国と王とか、後世に残す内容じゃないぞ。

 

 

 

「はい。何故、リーンハルト様だけ先に帰したのでしょうか?」

 

 

 

 ザスキアの言葉に思考を戻す。いかん、思考の海に埋没とか、リーンハルトみたいじゃないか!

 

 

 

 だが考えを纏めるのも重要な事だ。脊髄反射みたいに考え無しで回答するのは、問題有りだろう。

 

 俺は熟考してから回答する。国王の言葉は重い故に、本人でさえ一度言葉にしたら覆すのは難しいんだ。

 

 自分が言った言葉をコロコロと変える様な者は信用ならない。だから相手を待たせてでも考えに考え抜いて回答する。時には日を跨いで後日でも良い。

 

 

 

 まぁ俺の言葉はエムデン王国の方針と同じ。軽々しく決めれる事ではない。 

 

 

 

 不機嫌さを隠さず詰問口調なのは、リーンハルトへの扱いの悪さへの抗議なのだろう。ニーレンスもローランも、サリアリスでさえ口は出さないが同意みたいだな。

 

 まぁ公爵三家が上手く連携していると考えれば悪くは無い。連帯感が有る方が、足の引っ張り合いよりも万倍もマシだ。まぁ連携して、俺に意見してくるとは数年前なら考えられないぞ。

 

 少し前までは、裏でバチバチ遣り合っていたからな。その都度、手を組む相手を変えて少しでも隙を見せた奴を追い込むとかドロドロの政争。まぁ公爵家も侯爵家も大分減ったが……

 

 

 

 有能で連携する連中が生き残ったという事だな。一部は違うが、勢力的には反抗してもどうにもならないので問題は少ないだろう。 

 

 

 

「ん?そうだな。勘でしかないが、リーンハルトは教皇の考えが何となく分かったと思うぞ。だがそれは、我々に教えると不利益が生じると考えたのだろうな。だから言わなかった」

 

 

 

 古代魔法を現代に蘇らせた程の魔術師なのだから、知識量は他の追従を許さないだろう。知識の深淵の闇か?まぁ知らない方が幸せという事は結構有るからな。だから細かくは問い質さない。

 

 『好奇心は猫を殺す』という諺(ことわざ)もある。猫は化生であり複数の命を持つ。要はモンスターみたいに死に難いって事だ。それが過剰な好奇心の為に死ぬという警告だろう。

 

 まぁこの戒めの言葉には続編が有って『好奇心の所為でネコは死んだ。だが物を深く知り、満足したので最後は生き返りました』って生き返るってなんだ。

 

 

 

 流石に蘇生の魔法やポーションは無いぞ。俺が知らないだけか?いやいやいや、そんなフザケタ魔法や薬なんて無い!有ればネクタル以上に大問題だ。

 

 若返りは女性陣には好評だが、男性陣はそうでもない。だが蘇生は……権力者ならば老若男女問わず欲しがるだろう。それこそ相手を殺しても奪うだけの事はする。

 

 万能治癒薬のエリクサーだって流通が確立する迄は酷い奪い合いが有ったんだ。ハイポーションの大量投与でも治せない瀕死の重傷が、エリクサーを飲めば治る。

 

 

 

 権力者ならば幾ら払っても絶対に確保すべきポーションだ。今は魔法迷宮から一定数は確保出来るし、ある程度の数が流通して確保している連中も増えたので落ち着いた。

 

 今は買い取り額は金貨五百枚だが、一時期は金貨一万枚を超えていた。数日に一本しか流通しなかったのだから、皆が必死でエリクサーを求めた。詐欺や偽物も多く、治安も悪くなったな。

 

 各国を跨いで大規模な詐欺が横行し、それなりの地位の貴族共も悪事に加担した。バーリンゲン王国の屑共は国家を上げて詐欺を行った疑いが濃厚だったが、連中の事だからやっていたな。

 

 

 

 息を吐く様に嘘を吐く連中だ。殲滅させるのが世の為で正解だった。エムデン王国は世界平和に貢献したんだ。そう考えれば沈んだ気持ちが少し楽になったぞ。

 

 

 

「あの謎の文章と言うか単語をですか?」

 

 

 

「流石は古代魔術師、ツアイツ卿の生まれ変わりと噂されるだけの事は有ると言えば良いのか?古代の英知?」

 

 

 

「我々にも教えない程の理由?禁呪絡みか?だがモア教からの謎かけに魔術師の禁呪?サリアリス殿は何か考え付きますか?」

 

 

 

「いや、全く分からないぞ。手掛かりすら思い浮かばぬな。そもそも魔術的な範囲ではなくないか?文学的なものか、はたまた芸術的な観点か?そもそも暗号解読は魔術師の仕事の範疇じゃないぞ」

 

 

 

「つまり、リーンハルト卿が思い付いたのは正解じゃない?予想の範疇だから、裏取りするまで話さなかったとか?」

 

 

 

 神聖魔法、僧侶系のモア教が魔術師の禁呪?それとも神聖魔法系の禁呪か?どちらも知ってしまえば何かしらの対応を迫られるのかもしれないので、知らない方が良いか……

 

 サリアリスはさり気無く、俺の勘違いの方向に持って行きたいみたいだな。王の言葉は重いので『勘違いです』じゃ済まないんだぞ。全くデレデレに甘やかすのもどうかと思うが理解はしよう。

 

 この話題は早々に打ち切る必要が有るが、共通認識として奴が裏切っているとかは無しと意識を植え付けておかないとな。それ位のフォローはするが、これは『女絡みの悪さ』じゃないからな。

 

 

 

「リーンハルトの事だから、独自に調べて後から報告するか。いや内々で処理しようとするか?まぁ悪い様にはならないだろうから様子見だな。変に詰問したりするなよ」

 

 

 

 この言葉に、サリアリスは安堵の息を吐いた。ニーレンスとローランは苦笑したが、悪感情は無い。後で『エムデン王国紳士の集い』の会合時に再度念押ししておくか。

 

 ザスキアは納得していない顔だが、視線を送れば嫌々な顔をしたが頷いた。お前な、惚れた男の事を信じてやれよな。諜報が得意な者は、全ての真実を知ろうとしたがる癖が有るよな。

 

 それは悪手だと思うぞ。『何でも正しければ正義』みたいなお伽話か夢物語は止めろ。恋する少女の想い?知らぬし、お前は少女じゃないだろ?乙女?お前の性癖は知っているぞ。

 

 

 

 純真無垢な乙女ではないだろ?これ以上は国王でも身の危険を感じるから考えない。だからリゼル、良い笑顔を浮かべるな。

 

 

 

 私は純真無垢な乙女ですってか?まぁリーンハルトの性癖が未経験か百戦錬磨かは知らぬ。俺は女絡みの悪さはしないと約束しているからだ。だから、この話題は終わり。お・わ・り・だ!

 

 

 

「んんっ!そういう事だからな。暫くは静観しろ。何か分かれば最優先で報告、我々で情報は共有する。リゼルは、リーンハルトに今の話をやんわりと伝えろ。この件はお前に一任する。とな」

 

 

 

 全員の顔を見回して念押しする。藪蛇は御免だからな。振りじゃないぞ、本気だからな!

 

 

 

 ザスキアがリゼルに声を掛けて一緒に出て行った。だが最近のリゼルは一回り以上成長した感じがする。ザスキアとも渡り合える女傑に育ったのは頼もしいのだが、女傑頂上決戦とかは無しで頼む。

 

 『新しい世界』の教祖で盟主と、リーンハルトの腹心で『魔王』。傍から見ればザスキアの方が圧倒的に有利な感じがするが、俺はリゼルが有利だと思っている。

 

 ザスキアもリゼルもリーンハルトの大切な仲間の括りだと思うが、頼れる姉の様な存在と、寄り添って支えてくれる腹心と。何方に奴の心の天秤が傾くかは……

 

 

 

「モアの女神のみぞ知る。か……」

 

 

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