古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1057話

 謁見室から自分だけ先に退室させられた。特に疑われているような悪い雰囲気は無かったし、心の中の動揺も抑えられた筈だが何かしら疑われたのだろうか?

 

 僕とモア教の接点は、それ程多くは無いのだが傍から見ればドップリ浸かっている様に見えるのだろうか?敬虔な信徒である事は自負しているが、あくまでもイルメラの為であってモア教に強い思い入れは無い。

 

 僕自身はモア教を妄信も狂信もしていないのだが、良い様に祭り上げられている気持ちも有る。本人達に悪意は無いのかもしれないが、周囲から見られる影響までは考慮されてない。

 

 

 

『今回の聖戦に対して、モア教は協力を惜しまず。信徒達よ、教義を守る者の為に手を差し伸べろ。モア教の安寧は、我等が守り手と共に』

 

 

 

 この通達文も今考えると異常なんだよな。僕個人を狙い撃ち、だから他の信徒達も聖戦に僕の参戦を切望した。まぁ戦後の復興支援を行う事で収まったが結構な問題だったんだよ。

 

 

 

 これって宗教的なプロパガンダじゃない?報復(侵略)を聖戦という錦の御旗で覆っただけで戦争には変わりない。言葉を飾っても国家間の政治の延長方法だとしても争いに変わりはない。

 

 勿論だが、私利私欲でもないし搾取も弾圧も略奪もしていない。なんならお互いの国の領民達すら歓迎してくれた戦いなのだが、その最たる理由がモア教の協力だ。

 

 彼の宗教がエムデン王国を正義とし、ウルム王国とバーリンゲン王国を悪と定義付けしたから聖戦が発動したんだ。やはり宗教って恐ろしい。どんなに教義が善性だとしても、信徒は人なのだから……

 

 

 

 王宮の廊下を一人で歩くのは久し振りだ。普段は案内で聖騎士団員や女官達が同行しているし、普通の移動もリゼルや配下の官吏達が一緒だった。

 

 

 

 のんびりと自分の執務室に向かう。元宰相の執務室だったと聞いたのは最近の事だ。エムデン王国に宰相が居ないのは、前王の方針を頑なに現王に押し付けようとしたからだ。

 

 国王が変われば国政も変わる。それが悪しき方針で有ったので国家が土台から軋んだから、前王の崩御と共に正さねばならなかった。今考えれば、宰相ってバーリンゲン王国と繋がっていたのでは?と疑いたくもなる。

 

 どうにも打ち出す方針が偽善っぽいし、バーリンゲン王国の連中を甘やかすというか何と言うか……少し考えれば異常だよ。自分達に犠牲を強いて他を優先する?

 

 

 

 賢王とか慈悲深い王とかさ。他国から見れば褒めてる様で褒めてないし、自国が有利な様に煽ているだけだよ。承認欲求?自尊心?まぁはた迷惑な前王だったのは間違いないな……

 

 

 

 すれ違う騎士団や女官達と軽く挨拶を交わしながら執務室に到着、アインとツヴァイに出迎えられて執務室の奥に設えた自分専用の個室に向かいソファーに座る。

 

 戻って直ぐに個室に籠っても、ロイス殿達には疑われていない。御前会議は難解で重要な案件を話し合う場なので、疲労困憊だったり考えを纏める為に個室に籠る事はままある。

 

 魑魅魍魎の跋扈する王宮内で、官吏達の小派閥を率いているだけでも大変なんだ。何も言われないのは、その辺の苦労を知っているから労わってくれているのだろう。

 

 

 

 ソファーに深く座り背中を預ける。ゆっくりと息を吐いて気持ちを落ち着かせる。指先の震えが少し収まった。動揺を隠していたつもりでも、隠し切れてなかったのかな?

 

 

 

「ふふふ、僕もまだまだ甘いって事かな」

 

 

 

 人間らしい感性が残っている事に少し安心した。敵兵を大量に倒しても、国益の為にと若い娘を亡き者にしても、罪悪感など少ししか感じなかった。感情が麻痺していた。

 

 大きな建前を理由に心を守っていたのだが、ここにきてその心の防壁が脆くなってきたのか。まぁ人としては正しく官僚としては問題有りだな。官僚?僕は軍属だったよ。

 

 なんだかんだ言っても、結局は転生前の過去に動揺しているだけだぞ。前にも覚悟は決めた筈だ。『過去に囚われず現在の人達の幸せを守る』とね。

 

 先程、思い付いた事。今は廃れてしまった数ある中の一つの宗教、その教義にある。

 

 

 

 しかし『天使の数字』か……

 

 

 

 エンジェルナンバーとも言われる数字に込められた意味。一桁でも二桁以上でも、その並んだ数字に意味を持たせている。1でも11でも111でも全てに意味が有るらしいが流石に全てを覚えてはいない。

 

 数字に意味を持たせ組み合わせにより何通りにも、いや自分の好ましい事を組合せられる。信者を選ばないという意味では人気があったのだが、廃れた理由は分からない。

 

 他宗教との諍いに負けたのか?その教義が正しく有効でも絶対に信者が集まるという訳でもない。立派な教義を掲げて正しい行動をしても生き残れるかは別問題。

 

 

 

 そういう意味では、モア教は凄い。まぁ信者達が自主的に自分の信じる教義を守る為に、外敵を排除するという行動を起こすんだけどね。その自主性を呼び起こす何かが、人気の秘訣?

 

 

 

 まぁ宗教について深く考えるのは危険だから、思考を切り替えていこう。

 

 

 

 『自己信頼の象徴』殿へ。『バランスと調和』『創造性と自己調和』『物質的な成功』より『才能開花の救世主』ぶりの再会を祝う。

 

 

 

 『自己信頼の象徴』は単体の1を表す。『バランスと調和』『創造性と自己調和』『物質的な成功』はそれぞれ、一桁の意味で2と3と8だ。『才能開花の救世主』は特殊で300を表す。

 

 

 

 これを置き換えると…… 『1殿へ。238より300ぶりの再会を祝う』とも読み取れないか?

 

 

 

 ルトライン帝国魔導士団時代の団長だった僕はナンバー1。ナンバー238はマリエッタ、そして300は300年前。更に分かり易い意味、自分の考えに沿った意味に置き換えるとだ。

 

 

 

 『団長殿へ。マリエッタは300年ぶりの再会を貴方と祝いたい』になる。

 

 

 

 マリエッタは人族だから三百年も生きていない筈だ。延命や不老不死の魔法やポーションは無い。僕と同じく転生した?いや、仮に転生したとしても僕を転生前の団長と結び付けられるか?

 

 ゴーレムの運用を普通じゃないと疑ったとしても、三百年前の無言兵団の活躍は吟遊詩人の唄う内容を調べたけど割と別物だよな。当時を知っていたら逆に微妙に違くて結びつかなくないか?

 

 可能性としては、マリエッタのギフトであった『星読み』の力で未来を予言し、子孫に言い伝えとして残したとか?その子孫がモア教の教皇?うーん、ますます分からないし繋がらない。

 

 

 

 マリエッタが宗教と絡む?いやいやいや、当時の彼女は自分のギフトを宗教の予言みたいに囚われるのを極端に嫌がった。自身の力を神の力だと誤解されるのが嫌だと言っていたが……

 

 ギフト自体が『神からの授かり物』って考えだから、そう捉えられても間違いではないのだが嫌がっていた。他にも理由や意味が有ったのかもしれないが、この話題を彼女は嫌がった。

 

 無理やり聞き出す事に意味が無かったので、次第に話題にはならなくなったので忘れていたよ。だから余計に、モア教とマリエッタが結び付かない。

 

 

 

 パタリと横に倒れる。ソファーの革の匂いを嗅ぐと何となく落ち着くな……

 

 

 

 彼女の『星読み』が未来を予測し、僕等魔導士団も何度も命を救われた。だが予測はランダム性が高く近未来の事ばかりで、流石に三百年も先の未来の事をピンポイントで知れるかと言えば違う。

 

 『どこどこから敵が来る』とか『この先は危険、迂回するべき』とか『誰かは分からないが裏切り者が居て情報が洩れてる』とかさ。アレ?ランダム性?ピンポイントで僕等に関係する事を読んでるじゃん。

 

 僕は何度も命を救われながら、マリエッタの『星読み』の力を甘く見ていたんだな。当時はイケイケの侵攻特化の魔導士団の団長として連戦連勝で浮かれて増長していたのだろうな。

 

 

 

「転生して初めて分かる恥ずかしい自分の過去か、これが黒歴史……最悪だ」

 

 

 

 恥ずかしくてゴロゴロとソファーの上で転がり悶える。過去の黒歴史が暴かれた気持ちって、こんな感じなのだろう。気恥ずかしいなんてものじゃない、憤死ものだ。墓場まで持って行く他ないようだ!

 

 誰も室内に入れないように扉の前で警備してくれている、アインとツヴァイが呆れたような感じを醸し出している。イルメラの顔を模した仮面の君達に、そういう態度を取られると心が抉られるから止めて欲しい。

 

 そのヤレヤレ的に両方の掌を上に向けたり、腰に手を当てて下を向きながら首を振るのを止めてくれないか。君達の親である、僕の心が壊れてしまうから……

 

 

 

 娘に呆れられる気持ち、これがアウレール王が言っている事だな。うん、自分が経験すると理解出来る。『百聞は一見に如かず』とはこの事だ。

 

 

 

「それはそれとして。今の教皇が、僕に絡んで来る意味ってなんだろうか?善意?まさかな。モア教なら有り得るとか思う者も一定数は居ると思うけど、そんな単純じゃない。それなら暗号を送る意味が分からない」

 

 

 

 仮にマリエッタの『星読み』の力で、僕が三百年後の未来に転生する事が分かったとしてだよ。何故、成人して結婚する時に結婚式を教皇自らが執り行う事になるの? 

 

 マリエッタだって『世話になった団長の結婚を祝いたい。転生した三百年後の世界でっ!』にはならないだろう?転生後だって、女神ルナ様の言葉じゃないけど『未来は変動する』のだし、ピンポイント過ぎる。

 

 まぁ事前協議で会いに行けば分かるか。だが謁見して問題を起こしてモア教と敵対が一番ダメージが大きい。つまり受け手側で配慮も必要、エルフ族の交渉以上に気を遣う案件か……

 

 

 

「ここで『なんてこったい、モアの神を』って言えれば良いんだけどね。それは今回は当事者?当事神?だから言えないな」

 

 

 

 どちらにしても行くしかないし、腹を決めるか。

 

 

 

 そろそろ部屋の外が騒がしくなってきている。ツヴァイが部屋を出て行って、アインが扉の前を塞いでいるけど押し切られるのは時間の問題か?

 

 ああ、ザスキア公爵とリゼルの言い合いが聞こえ始めた。会話の内容は、無理にでも入ろうとするザスキア公爵をリゼルが未だ押し掛けるのは早いと押し留めているのか?

 

 声のトーンは乱れていないしゆっくり日常会話程度だけど、公爵本人と言い合えるって凄いぞ。序に言うと、リゼルは部屋の外から、僕の思考を読み始めた。この距離で可能なのが凄い。

 

 

 

 防諜ってなんだろう?

 

 

 

 引き篭もりも気持ちの整理も終わり、先ずは頼れる彼女達と今後の対策について話し合いかな。

 

 

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