古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1060話

 モア教の総本山、どんな宗教よりも民衆に寄り添い『友愛』を教義とする世界最大の宗教。その影響力は小国の国王よりも有るだろうし、実際にちょっかいを掛けて国が滅んだ事例が有る。

 

 モア教の関係者が扇動する訳じゃなくて、教徒達が宗教弾圧だと結束して敵対的な宗教関係者に『自主的に』反発する。平和的な話し合いで解決の段階は過ぎているので、武力衝突だな。

 

 略奪はしないし破壊も最小限に抑える努力はしていたみたいだけど、相応の被害は有る訳だから鎮圧された相手からは恨まれるだろう。

 

 

 

 『友愛』を教義に掲げているのに武力解決はどうなんだ?そういう意見も有るのだが、教徒が自主的に行っている事と被害を最小限に留める努力をしている事。

 

 扇動した実行犯というか指導者達は、事が終わったら自主的に罪を償う……この場合は自裁、自らの死を以て罪を償う。故に誰も文句を言おうにも相手がいないし、勝者に敗者は何も言えない。

 

 モア教の恐ろしい所は、反発していた他宗教の関係者達を改宗させられる事だ。敵を味方に取り込めるって事は、敵が減り味方が増える事だ。

 

 

 

 それを何百年も繰り返し、大陸最大の宗教となった。他宗教を異教と非難せず、改宗させて自分達に取り込む。この繰り返しにより大陸の宗教は殆どモア教の一強。

 

 妖狼族の女神ルナ信仰とか少数の宗教は有るけど、その他の殆どの宗教が本物の神々を信仰していない。偽物とは言わないが、自分達の都合の良い様に解釈した欲望塗れの信仰だな。

 

 人間至上主義も有る意味で宗教だし、エルフ族みたいに自然に対する信仰も有る。エルフ族の崇める神様は知らないが、女神ルナ様は実在するし、モアの女神も居るらしい。

 

 

 

 女神ルナ様が教えてくれたのだから間違いはない。『神々の居る場所』が実在するらしく、他の神々も当然だが居るんだよ。

 

 

 

 だから為政者に都合の良い祭る神の実在しない宗教が、その為政者達の支援を受けて挑んでも勝てなかった。長い時を経て、モア教と国の指導者階級は適度な距離感を持って共存していた筈なのだが……

 

 

 

「それを此処で崩すとかさ」

 

 

 

 笑えない非常事態に対応するのは自分だけ。理由は転生前の僕の過去を知る人物が……具体的には、マリエッタの子孫か関係者から接触が有ったから。他の連中を巻き込めない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 とある天候の最悪な日に旅立つ事になった。玄関の扉を開けて外を見る。空には暗雲が広がり風が強く今にも雨が降りそうで、遠くの黒い雲の中には稲光が見えたよ。湿った空気を吸うと心が滅入る。

 

 

 

「最悪の出立だな」

 

 

 

 あまりの状況に感慨に耽っていたら、パラパラと雨が降り出した。と思ったらバラバラと結構な大粒で大地に叩き付ける音が響く。土の湿った匂いが鼻孔を擽る。

 

 

 

「うん、最低の出立だな」

 

 

 

 跳ねた泥水が足元を汚しそうになったが、常時展開型魔法障壁が発動し汚れを弾く。だが見送りの連中は濡れるし汚れてしまうので建物の中に入らせる。見送りは玄関の中からで十分です。

 

 玄関前に横付けの馬車に乗り込む。公式行事の使者なので、エムデン王国の紋章付きだ。僕の所有する馬車を利用した場合、自分の家の家紋付きとなるが今回は借り物なので一目見ても誰が乗っているかは分からない。

 

 これで多少は誤魔化せると思うけど、直ぐにバレるだろうな。窓から、イルメラ達に手を振って別れを惜しむ。数日しか添い寝が出来なかったが、イルメラのインナーは多めに預かったので何とか乗り切る。

 

 

 

「いってらっしゃいませ。旦那様」

 

 

 

 庇の下に濡れないように並んで見送ってくれる、家族達に微笑む。直ぐに用件を済ませて無事に帰って来るよ。

 

 

 

「ああ、留守を頼みます」

 

 

 

 今日の予定は一旦王宮に行って、同行者と合流し出発の流れになる。悪天候だが出発を遅らせる程の理由にはならないだろう。

 

 

 

「不運の出立だな。天が行くのを止めろって言ってるみたいだよ……」

 

 

 

 既に横殴りの暴風雨で、馬車を操作する御者や馬の安否が気になるレベルだ。魔法障壁を広げても良いのだが、他の貴族との兼ね合いもあり自分だけ良い思いをするのも問題だ。

 

 特に王都だし王宮に向かう途中で、他の公爵とかの馬車と接触した場合にさ。自分達だけ暴風雨の被害が無しとか、妬みのネタとして『当事者以外が』騒ぎ出す。

 

 配慮が足りない、相手を軽んじている、自己中心的だ、等々。言い掛かりに近いかもしれないが一定の効果はある。ニーレンス公爵達は気にしないだろうけど、バニシード公爵や王族の一部の方々は……

 

 

 

 ネクタルの件も有るし、配給元の僕に対して色々な思惑で騒ぎ出す連中は必ず居るんだよ。周辺諸国とのイザコザが終わったら、今度は国内でのイザコザだ。

 

 利権争いと言い換えても良いけど、全ての不満を解消出来る訳でもないし、誰かが恩恵を受けられずに割を食う。そういう連中が無抵抗で我慢するかと言えば……

 

 自分が幸せになりたいから他人の迷惑を考えずに行動する。手段や方法の良し悪しは別にして、そのまま我慢する連中が大多数だけど一部がね。有能無能関係無しに何かしらの行動を起こす。

 

 

 

 エムデン王国でも少数だけどさ。まぁ僕だって手段や方法を選んでいるだけで、誰かに不利益を押し付けているから文句を言えた義理は無い?

 

 

 

「うわっ、雷が近くに落ちた?」

 

 

 

 薄暗い窓の外が一瞬光った後、大きな音がした。落雷が近くに落ちたのか?王都で避雷針になりそうな高い建物は王宮だ。慌てて窓を開けて王宮の方を見れば、目視確認では落雷の被害は無さそう?

 

 半円形の魔法障壁が暴風雨の被害を馬車の中には齎さないが、風圧は防ぎ切れずカーテンが強風で暴れるので慌てて窓を閉める。王宮に付いたら、先ずは被害報告の確認かな?

 

 出発予定は昼食後、幾つかの打合せと引き継ぎを行うだけだから時間は掛らない。早めに食事をして出発するつもりだった。最悪、被害が有った場合は修繕の手配と緊急措置で。自分で錬金して応急措置をするか。

 

 

 

 暴風雨の被害で怖いのが漏水、調度品とか濡れたら駄目な物って結構多い。あと書類関連とか、濡れればインクが滲んで内容が分からなくなるし、女官や侍女達が怪我をしてるかもしれない。

 

 災害対策はマニュアル化してるし当直の連中がマニュアルに沿って対応するから大丈夫だと思うけど、王宮には多数の王族も住んでいるから何か有れば対応に苦慮する。

 

 まぁその苦慮するのは主に、レジスラル女官長で警備関連の責任者である、僕に割り振られる仕事は難しくは無い筈だ。施設の使用禁止や通行止め等の誘導か一部の警備の強化くらいか?

 

 

 

 仕事の算段を考えていたら王宮の馬車の待機場に到着、見回せば結構な数の馬車が既に停まっている。緊急事態だし、王宮内に詰めに来たのだろうか?

 

 公爵に割り振られたスペースは全て埋まっている。つまり僕よりも先に公爵四人全員が執務室に詰めているのか。一番最後とは言え未だ八時過ぎだし、天候が荒れたのは少し前だぞ。

 

 うーん、ニーレンス公爵達ならば、僕の見送りという可能性は有るけど少し早くないか?バニシード公爵は分からないな。急に職務に目覚めて早出をする?

 

 

 

 考えられなくは無いけど、可能性は限りなく低いと思う。そういう性格じゃないし、彼に割り振られている仕事内容も緊急を要するものは無いような?って言うか執務室は有るけど、役職には就いてないか。

 

 まぁ考えるのは後にして雨に濡れた御者に労りの言葉を掛けていると、案内役と思われる近衛騎士団員二人が困った顔で速足で近付いて来る。他の連中じゃなくて、僕にか?

 

 普段は割と自由に王宮内を移動出来るのに、案内役が来たとなれば理由が有る。僕に単独で王宮内を歩いて欲しくない理由、誰かとの接触の回避か?つまり厄介事の気配がする。

 

 

 

「おはようございます。バーレイ伯爵」

 

 

 

 目の前に来て並んで立ち、見事な敬礼をしてくれたので返礼をする。うん、軍属って感じです。これが本来の職務で、政務関連は職務外だよ。

 

 

 

「任務ご苦労様です。今日は悪天候以外に何か有りましたか?」

 

 

 

 近衛騎士団員達が顔を見合わせて、何かをお互いに押し付け合っている感じがする。つまり厄介事の内容は知っているが、言い辛いって事だな。報告の義務が有るのに、言い辛い事か……

 

 この厄介事は、相当面倒臭いぞ。出発する当日に持ち込まれるだけでも分かる。普通の用件なら帰って来てからだろうに、そこまで緊急性が有るのか?嫌だけど早く教えて欲しいのだが?

 

 彼等は年が近いし役職も爵位も同じ位なのかもしれない。暫く見つめ合っていたが、目を逸らしたのは性格的なもので勝敗がついたのだろうか?

 

 

 

「えーと、その……何と言いますか……一部の王族の方達とバニシード公爵が結託して、ザスキア公爵を王族に対する不敬だと……その……」

 

 

 

 うん、近衛騎士団員は基本的には、国王と王族に仕える者達だから言い淀んだのか。でも仕えし王族の方々に対して、結託は不敬案件じゃないか?

 

 既に納まっているのか?現在進行形なのか?僕はザスキア公爵の側に立つ事は決定事項として、ニーレンス公爵とローラン公爵の見解と……

 

 いや、最初はアウレール王にお伺いを立てるのが先かな?この状況だと、その王族の方々は不自由な状況じゃないから接触を避ける為に来てる訳だし。

 

 

 

 うーん、緩い感じでの苦情を呈する感じで騒いでる?

 

 

 

「あーうん、理解した。僕は直ぐに、アウレール王に会いに行けば良いのかな?それとも、ザスキア公爵に会う事は可能かな?」

 

 

 

 この願いは無理か?可及的速やかに隔離したいのが本音だろう。事前に下話や調整を行う猶予は与えてくれないよな。

 

 

 

「申し訳有りませんが、このまま謁見室までご案内致します」

 

 

 

 物凄く申し訳なさそうだが、妥協はしてくれなかった。まぁ案内というか連行を頼まれて寄り道は許可出来無いだろう。だが近衛騎士団員を動かせるのは基本的に、アウレール王だけだ。

 

 つまり未だ対応を話し合う段階で、アウレール王が沙汰を下す前なのかな。そこまで深刻じゃないな。公爵達が集まって協議する余裕が有るなら大丈夫、直ぐにどうこういうレベルじゃない。

 

 ネクタル絡みの件で、遂に王族の女性陣がバニシード公爵を巻き込んで騒ぎ出したのかな。普通なら臣下よりも王族優位かも知れないけど、アウレール王が動かない限り勝ち目など無い筈だが……

 

 

 

「うん、了解したよ……まぁザスキア公爵を排斥とか言い出したら……どうなっちゃうか、自分でも分からないけどね」

 

 

 

 身内に手を出す連中は全て排除すべき敵だ。バニシード公爵も少しは軟化したと思ったけど、基本的には政敵で変わらずか。遅かれ早かれ争う事になるのならば、徹底的に潰せば良い。

 

 嗚呼、本当に久し振りに王宮内での政争を始めるのか。最近は外敵ばかりだったから大っぴらに行動していたけど、今回は身内じゃないけど同じ国に所属するだけの敵だから色々と考えないと駄目か。

 

 うん、まぁ何とかなるだろうし、何とかするしかないか。別に初めてじゃないし、方法が分からない訳でもない。自重はするが遠慮はしない。

 

 

 

「あの、暗い笑顔と小声の内容が怖いのですが?」

 

 

 

「大丈夫です。対面と手段は慎重に考えますから、問題は少ないですよ」

 

 

 

 全く問題無しは無理だけど、何かで相殺すれば良いだけだ。うん、覚悟を決めればワクワクしてきたぞ。新しい敵の顔を早く見たくなってきたな。 

 

 




津波、利用路線で電車が運休し大変でした。
来月は私事で忙しく投稿が不定期になるかもです。
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