古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1061話

 緊急招集、近衛騎士団員二人に先導され王宮内の廊下を進む。今日も女官や侍女達と擦れ違うと壁際に寄って頭を下げてくれる。何時もと変わらない移動風景。

 何も問題無く謁見室に行けると思ったのだが、そう簡単には行かないようだ。通路の先、突き当りとなり左右に分かれる右側が騒がしい。どちらにしても謁見室側なので向かうしかない。

 先導の近衛騎士団が立ち止まり、一人が走って状況の確認に向かった。意識を集中すれば、女性の金切り声が聞こえるな。聞き覚えは無いが、多分だが女性王族の誰かか?

 

 『私の若さを奪うのか?万死に値するわっ!』とか『永遠の若さと美貌、これを手に入れずに何が王族か!』とか『独占は許さない!必ず奪ってやるっ!』とか聞こえる。

 

 ああ、うん。間違い無くネクタル絡みなのは分かった。

 

 確認に向かった近衛騎士団員がダッシュで戻って来たが、その顔には焦りが浮かんでいる。聞こえた内容が酷過ぎるしね。つまり騒いでいるのは結構な地位か立場の相手な訳だ。

 臣下としてエムデン王国に仕えし者として、王族には一定の敬意を持たなければならない。直接的にネクタルを寄越せと強請られた場合は、どういう対応が正解なのだろうか?単純に断るか白を切る?

 おや?通路の左側から六人の近衛騎士団員が走って行くのが見えた。一瞬此方を見て『ヤベェ』とか『シマッタ』みたいな表情をしたのは、僕と相手の接触を阻止するのが仕事なのだろう。

 

 馬鹿みたいな内容だけど、本人達は真剣だし王族案件だから適当では済まされないな。アウレール王に相談案件だけど、親族関連のヤラかしだから心労は想像に難しくない。

 僕もインゴの件で学んだけど、血族の扱いって微妙に難しいし体面を気にする必要が有るし。簡単に罰するだけでは終わらない場合が多い。今回はネクタルという非常識な秘薬が絡んでる。

 あと『新しい世界』の信奉者達の結束と権力と財力がね、強過ぎてナァナァじゃ済まないだろう。妥協案は認められない、それこそ徹底的に白黒つけるまでは納まらないだろうな。

 

「バーレイ伯爵!申し訳有りませんが、迂回をお願いします」

 

 駆け寄ってきて目の前で急停止、敬礼の後に引き返せと言った。目の前では更に三人の増員が走り去っていったが、金切り声は近付いてきている?

 まぁ頑張っても女性王族がゴネて近付いてくれば、近衛騎士団員は玉体に触る事は出来ないので下がるしかない。時間稼ぎも限界が有るし、ここで相手を知りたいとか我儘はね。

 好奇心は有れども、相手の事は直ぐに分かるから良いか。近衛騎士団員の焦り方も凄いし、素直に引き下がろう。声もかなり近付いてきてるし、余裕は殆ど無いな。

 

「うん、分かった」

 

 聞こえる声の感じから、もう10mも進めば角から見れる位の距離かな?少し急がないと、見付かると面倒臭いじゃ済まない。だが『僕がネクタルを渡します』とは言えない。

 

「有難う御座います。お早めに此方に……」

 

 更に数人が増員として駆け込んでいった。具体的な措置方法って人海戦術的に通路を塞いでいるのだろうか?金属と筋肉の壁だな。高貴なる淑女が、異性の列に突っ込んで来れるか?まぁ来れるからの増員か……

 もと来た道を引き返し、途中で大きく迂回する順路になるな。警備上、複数の順路が有り場合によっては室内を通過する事も有る。籠城の際には兵を伏せたり罠を張ったりする細工部屋だ。

 謁見の間は平民階級も立ち入れるけど、謁見室は相応の爵位や地位を持つ者しか入れない。故に順路も分かり辛く複雑で単純でない。つまり相手は頑張ってにじり寄って来ても追いつけない。

 

 前に盗賊ギルド本部に行った時も、本部の建物構造について色々と見て考察した事を思い出した。殆どが外敵の侵入に対しての防衛設備だったが、王宮の場合は移動や脱出用の隠し通路が有る。

 細かく調べてはいないが、この王宮にも張り巡っている。僕の屋敷だって、避難先や脱出先の隠し通路は用意している。備えあれば憂い無しって奴だね。

 問題は騒いでいる方々が、その隠し通路を知っているか?だな。まぁ騒いでいるだけだから知らない可能性が高いけど、最悪知っている奴が抜け駆けして僕の執務室に突撃してくる可能性もゼロじゃない。

 

 さて、そういう相手が居るか居ないか分からないが……今騒いでいるのは誰なのかは、知るのが楽しみだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大きく迂回した通路を通って謁見室に移動、既に僕を除いた全員が集まっている。全員の視線が入口の扉を潜った僕に集まる。

 いや冗談抜きに熱い視線、バニシード公爵がイラついた、その他からは諦めに近い感じを受ける。馬鹿やった、バニシード公爵に呆れているとか、単純な話じゃないのかな?

 取り合えず自分に割り振られている席に座ると、壁際に控えていた女官が紅茶を淹れてくれる。つまり未だ女官に聞かれても良い段階の話しかしていない訳だよな。聞かれて不味いなら人払いするだろうし……

 

 先ずは紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせる。軽く深呼吸を数回して更に気持ちを更に落ち着かせる。この間、他の参加者達は無言で僕を見詰めているだけで、特に話したし話し掛けたりも無い。

 

「ふむ?早朝から全員お揃いですが、何か有りましたか?」

 

 挑発とも思える言葉をバニシード公爵の方を向いて投げ掛ける。何時もならば激高して反発してくる筈だが、不機嫌さは隠していないが何も言わず睨み付けもせず視線を逸らした。

 あれ?ここは憎まれ口を叩いて、情報提供してくれるんじゃないの?何故、そんなにも苦々しく顔を背けるの?何時もと違うけど、それは王族の方々も絡んでいるから引くに引けない状況じゃないの?

 横目でザスキア公爵を確認すれば、下を向いて肩を震わせている?もしかしなくても、笑いを堪えている?ええ、そんなに面白い状況じゃないと思いますが?

 

「バニシード公爵がだな。女性王族の方々の陳情を受けて何とかしようと足掻くのかと思えば、我々に全面降伏をしたんだ。ふふふ、無理なものは無理だから勘弁して欲しいとな」

 

「まぁ泥船に乗りたがる者など居ないがな。普通に考えても賢明な判断ってやつだ」

 

「私としては最後まで頑張って欲しかったのに、早々と降参は……王族の女性達を裏切ったのですが、普段から殿方とは!と言っているのに情けなくないでしょうか?最後まで一緒って男気を見せて欲しいのですが……」

 

 はい?巷の噂は『バニシード公爵と女性王族達が結託して、ザスキア公爵に挑んだ』のではなかったですか?一瞬だが、頭の中が真っ白になった。僕は女性王族達が騒いで押しかけてくる現場も目撃したよ。

 それが早々に崩れたのは、良い方向に向かったのか?それとも悪い方向に転んだ?えっと、どう対応したら良いのだろう?バニシード公爵が他の公爵達に負けを認めたって事?

 勝てないのは理解していても、普段は我を通しますよね?それをさっさと降参?全面降伏?では、あの騒いでいる女性王族陣はどうなるの?

謎と言うか良く分からないのが本音だよ。バニシード公爵は、どうしたんだ?悪い物でも食べたの?

 

「その、何と言って良いか分かりません。僕は全面戦争になる覚悟を持って此処に挑んで来たのですが、早々に梯子を外された感じがして……モヤモヤするというか、もっと頑張れと言うかヤル気出せと言うか」

 

 本当にもっと頑張って下さいよ、政敵さん。散々敵対しておいて、最後の最後で勝てないから掌を百八十度引っ繰り返すとか、残念というか何と言うか。もう少し、その……

 

「心中なんて御免だ!王族だか何だか知らぬが、泥船に乗る気なんて無い!永遠の幼女パラダイスも知らん!そんな腐った性癖の受け入れなどしるかっ!」

 

 あーうん、手足をバタバタと動かして口から唾を飛ばしながら叫ばないで下さい。大きな子供ですか?一応此処は、国王と謁見する格式高い部屋なのですから。だけど気になる単語が幾つか有ったぞ。

 

 幼女パラダイス?嗚呼、へルカンプ殿下も絡んでいるのか。アウレール王も親族だけでなく実子も絡んでいるとなれば、その心中は穏やかでないだろうな。そうか、ヘルカンプ殿下か、懲りない方だな。もう廃嫡待った無しだな。

 あと女性王族の方々に対する非難もさ。此処にいるメンバーの前で言っちゃ駄目だと思うよ。揚げ足取りって訳じゃないけど、足を引っ張るには十分な理由だよ。

 相当焦っているのか、周囲に気が回ってないというか……僕の向ける視線が気に入らないけど反論はしない。両肩を忙しなく上下に動かして荒い息、相当頭に血が上っている?

 

別に感情を爆発させても良いですよ。

 

「落ち着いて下さいませ」

 

 女官が冷たい水の入ったグラスを差し出してきたが、バニシード公爵は相当興奮しているから、女官とは言え危ないぞ。怒鳴るか、グラスを振り払う位は……

 

「あ、うむ。済まぬ。少し我を失っていた」

 

 はい?

 

「ああ、有難う。すまんな、少し落ち着いた」

 

 えっと?

 

「いえ、差し出がましい真似をして申し訳御座いませんでした」

 

 うーんと?

 

「いや、何時も助かっている」

 

 何時も?

 

 頭を下げて壁際に戻る女官は、満足そうな顔を浮かべている。自分の仕事に満足したって事じゃないよな?

 

何だろう?この一連の流れ?差し出されたグラスを受け取った時に謝って、中の水を一気飲みしてグラスを返す時にお礼を言うだと?バニシード公爵が、一介の女官に?

 しかも視線を合わせて短いながらも会話が成立している事も驚きだけど、二人だけの世界って感じがする事が驚きだ。僕等は何を見せられているのだろう?惚気?身分違いのラブロマンス?

 ああ、うん。バニシード公爵は、あの女官に配慮しているというか、ぶっちゃけその初めて見る優しい視線の意味を考えれば分かる。

 

 惚れてるって事か。だから身の破滅と同義の女性王族達とヘルカンプ殿下をバッサリ切ったんだ。

 

ニーレンス公爵やローラン公爵の向ける生暖かい視線に気付いてわざとらしく咳払いをしたけど、僕以外には周知の事実なのか?本妻殿とは仮面夫婦らしいのに、女官殿には優しい対応とは……なんといって良いのか分からない。

 

ザスキア公爵を見れば完全に楽しんでニヤニヤが止まらないみたいです。男女間の秘め事迄は行ってないが、意識し始めた頃の甘酸っぱい感じ?

 

中年の恋愛事情とか、特に知りたくは無いのですが……

 

 

 

 

 

 

 




酷暑、皆様の体調管理は大丈夫ですか?
自分は夏バテが酷いです!
仕事の環境も変わり忙しい日々を過ごしてます。
執筆も暇無く体調良くなく、滞り気味なので暫くは不定期掲載になります。
なるべく早く毎週掲載に戻したいのですが、暫くお待ち下さい。
宜しくお願いします。
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