王族の事実上の処刑、反乱分子を集め易くする為の囮としての役目を終えたヘルカンプ殿下と、色々と政治工作と暗躍を繰り返す亡国の元女王と王女達の処分が非公式で決定した。
遠因にネクタルが絡んでいるので、僕にも責任の一部は有ると自覚はしている。だが、幼女愛好家と国家転覆を企む腹黒寄生虫女王達を一掃するのは良い機会だとも思っている。
国家の闇の部分で悪業といわれても仕方ないのだが、それが国益優先の国家運営という事で、為政者としては必要な事なので飲み込んでいる。
綺麗事で言えば『清濁併せ呑む』で歯に衣着せぬ言い方で言えば『自国優先』か『利己的・自分本位・自己中心的』あたりだろうか?
それはそれで構わない。僅かながらの罪悪感は、ヘルカンプ殿下とパゥルム女王とミッテルト王女は『全能者の王冠』による緩やかな衰弱死だが、オルフェイス王女だけは毒杯を呷る自死。
彼女の精神力を考えれば『全能者の王冠』の誘惑に打ち勝つ可能性が有るらしい。マジックアイテムの能力を跳ね除けるだけの精神力は……確かに有りそうだ。
病み女の異常性を甘く見て脱走されて、他国に再亡命でもされて暗躍されたら相当面倒臭い事になりそうだ。故に『全能者の王冠』を使用せずに毒杯を呷る自死をさせる。
まぁ僕が担当して立ち会うのが最後の責任という事だろう。既にモンテローザ嬢を自死させたのだから、オルフェイス王女は他人に任せるという選択肢は無い。確実に自死させる為にも必要な責務だ。
権力の恩恵を受けるならば、権力維持の為の行動をする必要が有る。『権利』に対する『義務』だね。多大な恩恵には相応の対価が必要だから、淑女を助けろ!とか女子供を守れ!とかは受け入れない。
エムデン王国の国益と安寧の為に、非道で非情だが彼女達は抹殺する。そしてそれを実行しても、僕の精神は残念ながら病まない。同情はあれども後悔はしない。
これで大陸最大規模のエムデン王国の恩恵にドップリ浸かっている王族の方々が意識改革をしてくれれば万々歳、駄目でも警告にはなる。アウレール王は親族でも国益を損なえば苛烈な処分を下す。
ぬるま湯の安寧で怠惰な生活を維持したければ、相応の慎みを持て!そういう事だね。ザスキア公爵とも今後のネクタルの扱いについて話し合いをしたが……結果は納品の追加要求だった。
『新しい世界』を維持する為には膨大なネクタルの供給が必須で、その納品を賄うのは僕だけ……と言うか、冒険者パーティーである『ブレイクフリー』だけなんだよね。
他の上級冒険者達でも不可能だし、独占をするならば要求するだけの数を自分達で賄う必要が有る。まぁ1日で100個前後は集められるし、レベルアップも資金調達も出来るのでメリットしかない。
週一で魔法迷宮バンクを攻略しても1ヵ月で4日攻略しても400個、年間4800個ならば過剰供給じゃない?1ヵ月分でも50人以上が20歳若返る位の供給が有る。
どこかで供給数を制限しないと過剰な在庫を抱えてしまい、保管場所や警備に苦労する。あまり普及させると元々の供給先、ユグドル神聖樹帝国にある巨大な樹木の迷宮『魔法迷宮ユグリアル』との関係も……
大陸の端だから、そこまで交流も無いし問題は無いかもしれない。だがネクタルを国家間の交渉条件にしていた場合は、後出しでエムデン王国が供給出来ると知られればどうなるか?
外交カードの一つの効力が弱まるのは望ましくない。だからユグドル神聖樹帝国がエムデン王国に悪意を持つ可能性は低くないと思う。
『遠交近攻』で『遠い国と親しくし近くの国を攻略する』が外交の基本だと思うけど、今回は当て嵌まるか微妙だ。それだけネクタルは扱いが難しい。正直、権力を持つ男だったら優先度は低い。
延命や不老不死、病気や怪我の快癒。毛生え薬や精力剤は欲しいが、外見だけの若返りは最優先じゃない。そこは男女の違いだが、ユグドル神聖樹帝国がどう考えるか?
帝国を名乗るから絶対者は皇帝、男性だと聞いているのでネクタルに固執はしていない。固執していれば、他国に贈ったりはしない。全て独占するだろう。
多分だが、それ程本数は入手出来無いので扱いに困って遠方の国に押し付けているのが実情だと思う。他国に贈る程、潤沢に入手し使用していれば噂位は届く筈だが、そんな話は聞いた事が無い。
周辺諸国の外交官達が若返った、ザスキア公爵の秘密をアウレール王にまで確認しようとした事が事実の裏付けだよ。あの慌て方は、他国でネクタルが流通していると思っていなかったからだよな。
◇◇◇◇◇◇
打合せを終えて各々の執務室に戻る途中、ザスキア公爵に呼び止められて彼女の執務室に向かう。ニーレンス公爵とローラン公爵は、何故かバニシード公爵と三人で此方を見ながら立ち話をしていた。
嫌な予感しかしないのだが、特に声を掛けられなかったので黙礼してから執務室を出た。アウレール王は相当疲れたのか未だ玉座に座っていて立ち去ろうともしない。
まぁ話し合いの内容が濃すぎて、僕も早く座りたい気持ちだ。それだけ王族達の処罰とは臣下として結構クルものが有る。例え敬ってはいない、ヘルカンプ殿下であってもだ。
「ヘルカンプ殿下達の件を気に病む必要はないわ。彼等は王族の責務を甘く見過ぎたのよ。自業自得であり、アウレール王の判断も適切だったわ。彼は囮と言う役目を終えて、自分の望み通りの夢を見て逝くのよ」
隣を歩くザスキア公爵が前を向きながら表情の消えた顔で独り言の様に話した。殺される程の大罪か?とも思ったが、アウレール王の判断は間違っていない。最後のお役目って事だろう。
「国家に反逆の意思が有る連中を集める囮、その誘蛾灯の様な彼に最後に引き寄せられたのが親族の女性達。それを唆した亡国の王女も全て処刑という訳ですね」
好きではないが縁の有った他国の女王と王女、その死を悼む位はしても罪には問われないだろう。知り合いが死ぬのは、心が痛くなる。それ位の善性は残っている。
「そう、エムデン王国の王族達が全員有能で慎み深い訳ではないのよ。その高貴なる困った方々に楔を打ち込めただけでも、その死に意味は有るわ。無駄死にではないのよ……」
思わず足を止めてしまう。人の命が行動の阻害程度の意味しかないとは、随分と安い命だな。散々嫌がらせもされたし、立場上仕返しも出来なかったが殺される程の悪行かと思えば違う気もする。
だが違うと声を上げる事はしない。因果応報で自業自得、国王の実子であっても……いや実子だからこそ、その道を外した行いにアウレール王は苛烈な判断を下した。
苦しまない方法だけが救いだ。だが幼女愛好家を放置すれば、幼い子供達に危害が加えられる。魔牛族の幼子達の存在を知れば、何が何でも手に入れようとしただろう。だから、その処遇に安心している。
もしも、エアレー達に最低の欲望を向けて手に入れようと画策したならば……僕は王族だろうと殿下だろうと反発し抵抗した。絶対に受け入れない。
「覚悟ガン極まりみたいな顔をしてどうしたの?」
「いえ、何でも有りません。ですが、もしも魔牛族の幼子達を寄越せと言われたら……どうしただろうか考えてしまっただけです」
返事を待たずに歩き出す。多分だが、もしもそんな要求をされたら……即断してアウレール王に報告、却下されたら出奔かな。エルフ族を頼って移住だな。
大切な人は多いが全員を引き連れて行く事は可能な範囲だな。ライラック商会や各ギルド本部とは疎遠になるかもしれないが、それはビジネスライクという事で大目に見て欲しい。
まぁアウレール王が、そんな判断を下すとも思えないからね。考えるだけで無駄かも知れないけど、最悪の想定はしている。
強制するなら武力行使を厭わないぞ。
「そんな顔しないの」
軽く肩を叩かれた。最悪を考えていたから、表情も悪かったのだろう。普段から『魔術師は冷静たれ』と言っているのに、どうしようもないね。両手で顔を擦る。
「ええ、大丈夫です。僕は大丈夫ですよ」
これ以上は、あるかも話だからね。考えるだけ無駄だし、意味は無いし周囲を無用に困らせても駄目だ。アウレール王の英断で問題は収束する、今はそれで良い。
◇◇◇◇◇◇
ザスキア公爵の執務室には、イーリンとセシリア。それとオリビアが待機していた。全員が心配そうな顔をして、何故か落ち着かない感じでそわそわしている?
「何か有ったの?」
「女性王族のお馬鹿さん達がね。彼女達にもちょっかいを掛けてきたので、安全の為に集めたのよ。私の執務室は、敵の総本山ですから迂闊に近寄れないわ」
嗚呼、確かにそうだ。見落としていた。王宮内に詰めている彼女達は絶好の標的だった。これは最悪の見落とし、彼女達も『僕の大切な部下』で守るべき対象だった。
「それは有難う御座いました。本来ならば、僕の専属侍女達を守るのは自分の仕事、最悪の見落としで申し訳ない」
そう言って頭を軽く下げる。慌てる彼女達だが、謝罪は必要。貴族は軽々しく頭を下げないとかは関係無い。身内しか居ないし、ここで偉ぶっても意味は無い。
「それで、ザスキア公爵の話は今後の防御態勢の構築ですか?それとも敵の排除?ここは攻勢に出るべきでしょうか?」
その言葉に女性陣が固まり、物凄く変な顔をしたが……淑女として、その変顔はどうかと思うよ。あと知らない内に、リゼルとクリスが隣に立っていた。
クリスなら気配を消す事に長けていると思うが、リゼルはどうなの?何時の間に、そんな高等テクニックを身に着けたの?謎は深まるばかりだが……
ザスキア公爵が拗ねて、イーリンとセシリアが慌てて、オリビアが紅茶を用意し始めた。
うん、良く分からないけど、何時ものグダグダだな……