古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1064話

 ザスキア公爵の執務室にお邪魔している。専属侍女三人は保護の為に、リゼルは話し合いに参加する為に来たのだろう。クリスは彼女達の護衛だな。

 元暗殺者だが王族の影の護衛として育てられたので、本人の資質は別として護衛も問題無く熟せる。最近はリゼルの専属護衛をして貰っているのだが、元の身分の侍女クリステルは領地に戻り病死した事になっている。

 なので素顔で王宮を動き回ると知り合いにバッタリとかも有るのだが、気配を消しているので大丈夫との事だ。まぁ誤魔化す為のカバーストーリーの用意はしているので、身バレの心配は低い。

 

 この中で普通の娘はオリビアだけだ。彼女は料理に関しては王宮料理人顔負けの知識と技量を持っている。うん、普通じゃなかった。

 

「それで、僕が不在の時の話を教えてくれるのでしょうか?」

 

 ソファーに座り、オリビアが用意してくれた紅茶を飲んで焼き菓子を一枚食べて落ち着いてから聞いてみる。女性王族達とヘルカンプ殿下の動き、暗躍しただろうオルフェイス王女の企み。

 それに巻き込まれた、バニシード公爵の行動も知りたい。彼の場合は本当に巻き込まれただけで、本人も協力しないで本来は政敵の我々に助けを求めたみたいな感じだったが、どうだろうか?

 その辺は先程の感じから、ニーレンス公爵とローラン公爵の方が対応するのだろうか?同世代で少年時代からの付き合いというかライバル関係だったらしいし、僕の知らない繋がりもあるのだろうか?

 

「そうね。今回の件は、オルフェイス王女がヘルカンプ殿下に近付き甘言で他の女性王族を巻き込んだ。ヘルカンプ殿下は後見人である、バニシード公爵に複数の王族筋から助力依頼の圧を掛けたのよ」

 

 は?完全に隔離していた筈の亡国の女王や王女が、王宮内でエムデン王国の殿下や女性王族達と簡単に接触出来たの?監視や防諜対策とかザルじゃないか?そんな事が可能な訳が……

 

「彼女達は完全に隔離していた筈では?暗躍する手足も無くしたし、更に見張りも増員していた筈ですよね?」

 

 亡国の残党共と接触しないように、祖国の最後を知らさない為に、相応の防諜対策と強化を行った筈だぞ。彼女達が祖国の惨状を知れば、何かしらの行動を起こす可能性が有ったから。復興支援を要求したり、難民たちの受入を強要されるのが困るから。

 旧バーリンゲン王国の連中は粛々と滅んで欲しい。歴史からも地図からも、その痕跡を残さず『過去にエルフ族に最低の欲望をぶつけて滅んだ国が有った』程度の認識にするのが希望なんだ。

 もう最終段階まで進んでいるが、最後の最後でエルフ族に絡んで人類を一緒くたに滅亡とかは嫌なんだ。そういう最悪の手段を取れるのが、アレ等の凄い所だ。

 

 憧れもないし真似もしたくない。ただ単純に凄いとは思う。悪い方でだが……常に最悪の手段を連続で選択するって、ある意味で才能だよ。

 

「オルフェイス王女に懸想した、ヘルカンプ殿下が頑張ったのね。亡国の王女、白い結婚を強要され結婚式当日に新郎を処刑された悲しき未亡人幼女に不思議な魅力でも感じたのでしょうね」

 

 未亡人幼女?知らない言葉が聞こえたけど無視で良いよね?数回深呼吸を繰り返し息を吐き出す。溜息と共に下らない事実も無くなれば良いのに、あの幼女愛好家の殿下は下半身でしか行動しないの?周囲を見れないの?取り巻きに意見する良識派は居ないの?

 

「オルフェイス王女は、ヘルカンプ殿下の慈悲に感謝したのだけれど『自分は成長期だから直ぐに寵愛を無くしてしまうのが悲しい。なのでネクタルを頂ければ永遠の幼女として傍にお仕えする』とか言って唆したのね」

 

 永遠の幼女?聞きたくない言葉が聞こえたけど無視で良いよね?両手でこめかみをグリグリと揉む。酷い頭痛がしてきた。痛みと共に下らない事実も無くなれば良いのに、あの幼女愛好家の殿下は下半身でしか行動してない。自分の欲望一直線、バーリンゲン王国の連中と同じだぞ。

 

「でもヘルカンプ殿下は最初は私にネクタルを使って若返ってから付き合えって迫ってきたのよ。手厳しく断わられた事も考えて、私にネクタルを用立てろとは言えなかったのね。だからオルフェイス王女に助言を求め、他の女性王族を巻き込めと唆されたのよ。馬鹿よね、馬鹿ばっかりよね」

 

 下半身でしか思考できない愚物かと思っていたが想像以上に愚か者で馬鹿だった。そして甘言に乗った女性王族の方々も……その何と言うか、アレと言うか……言葉を濁すけど、思慮が不足していると言うか状況の把握がおざなりとか……うーん、この!

 

「女性王族達の不穏な動きを教えてくれたのは、セラス王女よ。彼女がリーンハルト様と懇意にしているのは周知の事実、深く物事を考えない高貴な女性達は、セラス王女に懇願したのよ。ネクタルを融通する様に要請しなさいってね」

 

「要請?アウレール王の実子であるセラス王女に、王族とは言え血の薄い血族達が?」

 

 マジックアイテム大好き王女だけど、ポーション類に興味は薄いよ。それに未だ老いを不安視する年齢でもないから危機感は薄い。必要になっても自分の分は、僕に頼めば相応の対価で貰えるとも思っているだろうし。

 でも無闇に複数を強請るような愚かさは無い。自分の母親の願いも何となく危険だからと助力しないのは、そういう危機回避の能力が有ると考えている。危険回避のセンスと言うかバランスが良いんだ。

 だから、セラス王女は親戚の女性達の懇願をマルっと無視してザスキア公爵に教えた。裏切りや密告じゃなく、本当に知らせた方が何となく良いと思ったのだろう。

 

 アウレール王も取り返しが付かなくなる前に情報を知れた事で処罰を『警告に留める』程度で押さえた。本来なら王族からの除籍、所謂『臣籍降下』だな。適当な家名と爵位を渡して放逐だ。

 今迄は王族として何不自由なく暮らしていたのに、年金のみの暮らしになる。大抵は騙されて惨めな最期を迎える事になるのだろう。世間知らずが国家の後見を剥奪されて普通に暮らせるかは疑問だしね。騙したり付け込む連中は居るだろう。

 まぁ真っ当な後見貴族が居れば何とかなると思うけど、そういう繋がりを持てる能力が有ればザスキア公爵に敵対するなんてしない。自殺行為だって理解出来るはずだよね。

 

「そんな馬鹿な企みに、セラス王女は乗せられないでしょう。リズリット王妃ならば、僅かながらにチャンスはあったかも知れませんが……誰が泥船に乗りたいなど思ったのか?」

 

「リズリット王妃とは既に行動を起こされて辛くも撃退したから、直ぐに再戦の誘いには乗らなかったのと勝てるメンバーでは無かったから相手にしなかったのね」

 

 辛くも撃退?一方的に手加減なく蹂躙したと聞いているけど、王妃と王族達絡みだから言葉を飾ったのかな?徹底的に遣り合ったって報告を受けているけど、忖度したのかな?

 リズリット王妃も、若い側室を多く受け入れた所為で危機感が有るのも事実。アウレール王はリズリット王妃に性欲を満たす事だけを求められていないのに、若返りに固執した。

 それは女性にしか分からない心理なのか男の僕には理解出来ないが、身の破滅のリスクを負ってもネクタルが欲しいのだろうか?欲しいんだろうな、元盗賊ギルド本部のオバルさんみたいにさ。

 

 彼女は若い時に仕事中心で青春を謳歌出来なかった事を相当悔やんでいた。今は若返って第二の人生を楽しんでいるのだろう。貴族以外でネクタルを飲めたのは、今の所彼女だけなのかな?

 

「隔離しても王位継承権第三位の殿下の威光ならば可能だった、そういう事ですか。しかし女性で身を持ち崩すとは、僕も気を付けなくては駄目なのでしょう」

 

 大切な人達の護衛体制の見直しと強化、もしもイルメラが危害を加えられたら……僕は加害者とその関係者達に自制出来る自信が無い。最悪の報復を安易に行う未来が見える。

 でもそれでは長い目で見たら駄目なんだ。先ず危害を加えられる前に防ぐ事が重要、それはアーシャ襲撃の件で学んだ筈だ。あの時はアインが実行者を倒したから何とか我慢したけどさ。

 逃げ出して命令した貴族の屋敷にでも逃げ込んだら、直ぐに襲撃して皆殺しくらいはおこなっただろう。そういうどうしようもない弱い自制心という自信は有るんだ。

 

「確かに最近のリーンハルト様の周囲には女性が、それも異種族の幼い女性と知り合う事が多過ぎますわ」

 

「全くです。次から次へと湧いて来る、お邪魔虫達をどうにかして下さい。カシンチ族連合の女性を紹介すると言った、あの女狐は分からせておきましたが油断がなりませんわ!」

 

 ザスキア公爵とリゼルがプリプリ仲良く怒っているけど、仲良しさんじゃないですか。あと、僕を幼女好きみたいな最低の風評被害は止めて欲しいし、しかも知らない間にルスが分からされているし。

 確かに彼女は自分の妹達を僕の寝所に押し込もうとしたけど断った筈だし。それをどこで知ったの?その場で窘めて終わった筈だよ。どこから突っ込めば良いのか分からないし、分かりたくない。

 オリビアが思考を放棄して無の境地で天井の隅を見詰めて微笑んでいる。イーリンとセシリアは頷いているけど、ザスキア公爵に同意しているとかですか?

 

 僕の専属侍女の筈なのに全て取り込まれているってどうなのよ!只でさえアウェーなのに味方が……

 

「私は何が有ってもご主人様の味方ですからね」

 

「私もですわ。東方の諺で『呉越同舟』で『死なば諸共』です」

 

 うん?ご主人様は違いますし、『呉越同舟』で『死なば諸共』って多分だけど良い意味じゃないよ。共に自滅まで一緒って嫌な感じがするけど?そもそも『死なば』ってなに?負け前提なの?

 

「そう?ありがとう。心強いよ」

 

 そう言ってソファーの背もたれに身体を預ける。知らない内に緊張していたのか、背骨がゴリゴリと音を立てた。余計な力が入っていたのだろうか?両肩を回してコリを解す。

 うーん、十代の身体を酷使している?回復は早いし、疲れにくいけど、限界は有るよね。ソファーから立ち上がり意味も無く窓際に歩いて外を見る。悔しい位に快晴になっている。

 眼下には……侍女達が数人で何かを収穫している。確か王宮内で果物とか色々と栽培して収穫し加工もしている。ナツハゼの実の果実酒とか、お裾分けが楽しみだよ。

 

 背後でなにか騒いでいるけど、僕は空を見上げて心を無にした。

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