古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1065話

 モア教の総本山に向かう。慶事故に大々的に国民に公表したのは、公にする事で大変珍しい事だけどモア教との関係に疚しい事が無いというアピールを含んでいる。

 聖戦の当事者でもないし、王族でもない臣下の貴族の結婚式にモア教の司祭でなく教皇自らが結婚式を執り行う事の異常さ。これを疑わない周辺諸国はいないだろうし、居たら居たで暢気すぎて問題だ。

 国政を担う立場になってから漸く分かるのかもしれないが、周辺諸国の動向に無関心とか興味が無いとかさ。もう駄目だと思うんだよね。どう見ても聞いても異常事態だよ。

 

 当事者が困惑しているのに、突っ込み満載の今回の件を何とか理由にして自国に有利な条件を飲ませる。これ位はやられたくはないが、やって欲しい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕はモア教とは関係が深い。イルメラは孤児でモア教の教会で育ち、母上が引き取ってバーレイ新男爵家にメイドとして仕える事になった。先輩が後輩の仕事の面倒を見る事は珍しくない。

 モア教の孤児院育ちは、成長して自活が出来るようになると、収入の一部を寄付として孤児院に送っている。感謝の気持ちと後輩達の生活レベル向上の為でもある。モア教は当然着服などしないから、安心して寄付出来る。

 旧バーリンゲン王国のモア教の教会は、この寄付の扱いに相当苦労したそうだ。連中は慈善事業などしないから、運営資金は殆どが持ち出し。保護した子供達も卒院後は連中の思想に染まって寄付もしなくなる。

 

 その癖、要求だけは際限なく要求してくる。災害時の復興支援や炊き出しも、外注すると中抜きが多くて酷いものだったらしい。他人の不幸も自分の金儲けの手段でしかない。

 だから、モア教は旧バーリンゲン王国から撤退を決定した。悪い言い方をすれば『見切りを付けた』とか『見捨てた』だろうな。信者が友愛という教義を軽んじるならば、破門も有り得た。公式に破門されないだけマシな対応だった筈だよ。

 

 まぁ友愛を教義とするモア教関係者が我慢の限界って凄い事だよ。

 

 そして一応の保険として、総本山に向かう時に案内役として……ニクラス司祭とシモンズ司祭の何方かに案内役を頼んだら、両方同行する事になった。何故だ?

 更にトラビスト修道院のマリア院長まで同行してくれるって何故だ?エムデン王国のモア教関係者の最上位の方々だぞ。それが全員同行するって、彼等が不在中のエムデン王国のモア教はどうなるの?責任者不在だよ?

 モア教は清貧を心掛けているので、派手な装飾の馬車の使用は控えて地味で家紋の無い馬車を利用している。車内には僕と彼等の四人だけ、聖職者に囲まれて総本山に連行?

 

 ははは、上位聖職者包囲網とか笑えない。

 

「リーンハルト様、呆けた顔をしてどうしましたか?何か心配事でも有るのでしょうか?」

 

 マリア院長に様付けされるのは……モア教の関係者ならば僕は只の信徒でしかなく、身分や爵位はモア教の中では関係無い。しかも全員に凄く世話になっている身なんだよな。特にニクラス司祭には本当に世話になっている。

 彼が居なければ、イルメラが僕の元に来てくれたか分からないので大恩人でも有る。故に、出来ればニクラス司祭に結婚式を執り行って欲しかったのだが……教皇から横槍が入るとは予想外だった。

 まぁ今更騒いでもどうにもならないし、かえって困らせてしまうので愚痴も言わない。モア教内でも、どうなっているのか分からないみたいだし突っ込むと藪蛇になりそうだし。

 

「マリア院長、様付けは止めて欲しいです。僕は敬遠なモア教の信徒、今日は教皇様に総本山に呼ばれているのです」

 

「貴方は本当に……自分を低く見るのは、貴方を慕っている人達に対する裏切りでもあるのです。複数の女性信者を救った事、あの娘達は貴女の助力により生きる希望を見出せたのです。他にもですね……」

 

「マリア、その辺にしておきなさい。私達はリーンハルト卿を困らせる為に同行してるのではありません。教皇様の考え次第では、争いも辞さない考えですが……先ずは話を聞きましょう。全てはそれからです」

 

「本当に何を考えているのでしょうか?前例無き行動は、リーンハルト卿にもエムデン王国にも影響が有るのです。それを教皇自らが軽率な行動をするとか……先ずは説明を聞いてからです。全てはそれからです」

 

 笑顔なのに、笑顔なのに言葉も丁寧なのに、内容が教皇への詰問になってないか?確かにニクラス司祭達はモア教でも重鎮で強い影響力を持ってる。それが三人も集まって、自身の所属する宗教の最上である教皇に詰問するの?

 僕だって今回の件について色々と聞きたいけど、質問出来る立場じゃないと半分諦めているのだけれど、この三人はガチで理由を聞き出そうとしているぞ。大丈夫なのだろうか?

 モア教だから不条理な事はしないと思うけど、降格とか移動とか最悪は破門とか……自分が原因でニクラス司祭達が不利益を受けるのは嫌なんだ。恩人に、恩を仇で返すような事はしたくないんだ。

 

「あの、穏便にですね?僕も何故、自分の結婚式を執り行ってくれるという行動になったかの真意は知りたいです。ですが、貴方達が不利益を強要されるような事態になったらですね」

 

 あまり興奮しては、高齢なのですから身体に悪影響がですね。全員が祖父・祖母世代なので無理はしないで欲しい。回復魔法も神の奇跡の御業もですね、寿命に絡む病気には効果が薄いのですから……

 興奮しすぎて、ポックリとか可能性は低くないのですから。笑顔なのに座っているだけなのに、何故に荒ぶっているのでしょうか?危険なので本当に落ち着いて欲しい。

 当事者として、罪悪感がムクムクと巨大化して心が締め付けられるみたいに苦しいです。

 

「構わない。そもそもエムデン王国の事は、私達に任されていたのに横紙破りも甚だしい」

 

「いや本当に、何を考えているのか問い質す必要が有りますわ」

 

「全くです。私達の内の誰かが結婚式を執り行うならば我慢が出来ました。ですが全く関係の無い、教皇がしゃしゃり出るのは納得できませんね」

 

 胃が、胃が締め付けられる様にキリキリと痛い。血を吐きそうなのだが、既に口の中にうっすらと鉄の味がするのだけど何とか飲み込んで我慢する。此処で倒れたらどんなに楽かもしれないが、後始末が大変過ぎる。

 同乗者にバレない等に自身にヒールを重ね掛けする。多分だけどストレス性の潰瘍だと思うけど、ニクラス司祭達に心配を掛ける事は絶対に出来ない。バレたら今後の予定とか完全無視で治療の為に王都に帰りそうだから……

 何とか笑顔を浮かべて世間話を振って話題をズラそうとするけど、直ぐに軌道修正させて元の話題に戻されてしまう。相当怒っているのは理解したけど、そろそろ怒りを納めて欲しい。

 

 何とも精神と肉体にダメージを強いる会話が終わったのは、休憩の為に立ち寄った街のモア教の教会に立ち寄れたから。そこで恥ずかしながら馬車酔いしてしまったのでと個室を用意して貰った。

 心配してくれた、ニクラス司祭達に申し訳ないと思いつつ、簡素なベッドにダイブする。それなりに高級品なのかクッションが利いていて飛び込んだ身体を柔らかく受け止めてくれる。

 

「嗚呼、三十分位は横になれるかな。少しでも体調を整えておかないと、この後の宿泊予定の村まで三時間位掛かる。あの馬車の中の環境をもう三時間耐えるのは、正直しんどい」

 

 ポーションを二本飲み干して横になり、腹の上の両手を組んで目を瞑る。少し休めば何とか胃も回復する筈だよ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僅かな休憩時間一杯に休んだので、胃の負担は大分収まったみたいで痛みは無いが、食欲も全く無い。ポーションの飲み過ぎでお腹がタプタプなのも原因だろうか?

 アレから痛みが引かず追いポーションを2本飲んで漸く痛みが和らいだんだ。中間管理職の連中がポーションを飲みながら仕事をしているのって、体力回復じゃなくて胃のストレス緩和だったのか?

 宮仕えの苦労の一端と闇を感じた。笑えない真実って奴だな。新たに開発したリジェネ効果の有る新型ポーションが正規兵や冒険者より官吏に飛ぶように売れるのって、こういう理由が有ったから?

 

「それで、結婚式について具体的な希望は有るのでしょうか?」

 

「事前に準備している条件を示さないと、勝手に話を進められるかも知れませんわ」

 

「司式者は譲るとしても、勝手に式場まで決められては困りますしね。総本山の大聖堂を使ってとか、言い出しそうです。あくまでもエムデン王国の王宮内にある大聖堂を使いましょう」

 

 え?総本山の大聖堂で?そんな可能性も有るの?それって国王クラスの結婚が使用可能なレベルの話じゃないの?僕も国家的な催しになるって聞いたので王宮内の大聖堂でって何となく思っていたけど……

 そんな提案が有れば全力で辞退しないと駄目だよ。各国からの招待客とか何人規模になるか分からないのに、総本山に全員ご招待とか笑えない。無理だよ、調整する担当者が過労死するレベルの無茶ぶりだって!

 折角納まっていた胃がシクシクと痛み始めてきた。総本山に招待客を招くとなると、日帰りは有り得ないから宿泊施設とか接待とか……機材や人材に物資、国家予算を使えるとは言え無駄使いだよ。

 

「総本山の大聖堂など恐れ多くて使えませんし、招待客の持て成しとか考えたら負担が現実的じゃないです。要人警護とか不慣れな場所では厳しいですし、エムデン王国の王宮内の大聖堂を使用したいです」

 

 エムデン王国の王都で行えば、エムデン王国の正規兵を動員出来る。そもそも警備体制を布くのも既に計画しているので部分変更で済む。知らない場所で一から警備体制の構築とか無理だよ。

 モア教は友愛が教義だし、対人警護とかそもそも考えても居ないと思う。他の宗教だと神殿騎士とか独自の防衛線力を持っているらしいけど、モア教には戦力になりそうな部署は無い。

 そして花婿の僕は蚊帳の外、計画には参加するだろうが、式が始まってしまえば干渉出来ない。守られる側に強制的にシフトされる。

 

「安全対策の意味からも、総本山の大聖堂の使用は拒否出来ますね」

 

「警備の問題ですか……モア教には、その様な武力は有りません。対策はエムデン王国にお願いする事になるとは思いますが、参加国も協力を申し出て来るでしょうし、収拾がつかなくないでしょうか?」

 

「総本山の神域は、私達でも入れない場所も有ります。他国の兵士を招き入れる事は、色々な意味で駄目でしょう」

 

 ゴーレム?ゴーレムの大量運用なら可能か?いやいやいや、そもそもモア教の総本山に兵力を大量に送り込む訳にはいかないよ。それこそ周辺諸国から反発される。なら他の国も人員をって話にはならない。

 

「うーん、打合せの前から想定で問題が一杯って……」

 

 僕の結婚に障害が山盛り過ぎるんだけど、無事に結婚出来るのか心配でしかない。

 

 

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