古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1066話

 モア教の総本山、門前町は流石に清貧を重んじるモア教の総本山といえども賑わっている。多種多様な商店が整然と並んでいるのは圧巻だ。しかも繁華街でありながら治安も良く物価も安い。

 但し贅沢品や高級品は売ってないので転売は薄利多売をしないと無理だけど、そもそも大量の買い占めなど出来無いので問題は無いのだろう。店主達も暴利を貪る事はせずに清貧を心掛けた商売をしている。

 馬車の窓から見える範囲でも、店頭に並ぶパンや串焼き肉、麦粥などもエムデン王国の王都よりも三割位は安い。エムデン王国の王都も治安は良いけど物価はそれなりに高いからな。

 

 お土産屋に並ぶ商品は相応の値段だが、多分だけど護符とか小さい木彫りのモアの女神像とかは公式なモア教の商品なので、売り上げの殆どは寄付に回るのだろう。

 それが込みの価格だけど、購入者も知っているので文句を言わずに購入する。こういう売り上げの一部がモア教の運営費になっているのだろう。有力者の寄付だけでは賄えない程の慈善事業をしてるのだから…… 

 あと此処は許可を受けた者しか住めないし商いも出来ない。つまりモア教の関係者達が運営してる完全なる管理された聖地だな。モア教徒は、一生に一度は総本山に行くのが常識だし。

 

 僕も有る意味で願いが叶ったのだよな?出来ればモア教の総本山には、イルメラ達と一緒に観光しながら詣でたかったよ。

 

 参拝客は老若男女問わず沢山居るが、マナー良く商店を眺めている。ここで今迄貯めた貯金を寄付の名で散財する者も多いらしい。まぁプチ贅沢だろうが、酒や賭博で浪費するよりマシだろう。

 物価が安いので普段は出来ない腹一杯料理を食べるとか、心ゆくまでモア教の関連商品を買い漁るとか、健全な浪費だよ。僕も何か買いたいのだが無理だから、沢山寄付する準備はしている。

 慶事だし新郎だし、爵位や身分を考えて奮発して金貨5万枚。同じ金額がエムデン王国からも払われる。警備費その他の総額は、寄付金の合計以上になる。何倍になるのか予想も出来ない。膨大な国家予算を一臣下の結婚式に投入して良いの?普通に駄目じゃない?

 

 後から請求されない?これも胃が痛くなる案件だ。

 

 窓の外を何となく見ていると、若い夫婦と小さな男の子が土産物屋の前で木彫りのモアの女神像を楽しそうに選んでいる。微笑ましい光景だが、僕も結婚すれば子供を授かるのだろうか?

 今は後継者問題と相続の関係で控えているけど、結婚して正妻を迎え入れれば世継ぎ問題は重要案件。早い内に男の子を授かるのが望ましいって、周囲の圧も凄いだろう。十代半ばで子供を授かるのか?これが世間では一般的なのだが、僕に可能か?

 転生前は複数の女性と関係を持ったけど、最後まで子宝には恵まれなかった。この身体には子種は有るのだろうか?こればかりは実際に行動しないと分からないのだが、既に考え方が下種に近い。伴侶との愛の有る行動の結果だし、授かっても授からなくても受け入れるのが当然なのだから……

 

 子を成す行為は相手の女性に相当の負担を強いるし、生まれて来る子供の性別によっても圧が違うだろう。僕は親族は少ない方だが、父親や父方の親族も居る。

 幸い、僕よりも爵位や権力が強い者は居ないが、血族や親族の中で年長者には相応に敬意を払わねば駄目だし、貴族の一般常識的にも世継ぎは予備を含めて早く作るものなのだから……

 後は純粋に世継ぎを期待されてる。魔術師の後継者もそうだし、バーレイ伯爵家の後継者を期待されているんだ。英雄の影響力って後継者にまで関係するんだよな。

 

 結婚式の前に成人の儀があるのだが、これも国家的な行事?らしく詳細を本人が知らされていない。僕の人生のイベントはどういう扱いになっているのだろうか?

 

「うーん、自分の子供かぁ……全く実感がわかないよ。我が子、我が子かぁ……」

 

 前にイルメラとウィンディアに子供の話をした時に『未だ早いかもしれないけど絶対に欲しい、私達の赤ちゃん』とか陶酔していた事も有ったし、女性的には受け入れやすい話なのだろうか?この議題は帰国後に家族会議で話し合いだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大国の重鎮であり招待された側だからと言って、大陸最大の宗教である、モア教の教皇には簡単には会えない。まぁ指定日前に来て事前に謁見の申し込みをいれる。

 そして門前町の宿屋で待機して返答待ち。これが普通だし融通を利かせて早く会わせろ!とも言わない。友愛を教義とするモア教に対して高圧的な対応はマイナスでしかない。偉ぶっても意味無いし無駄だよ。

 そして当然だけど大使館など無いので、事前に一応は最上級の宿に宿泊の予約を入れている。まぁ嫌な言葉で言えば『防犯上の理由で貸切』だ。

 

 こういう信仰の聖地の宿は普通に何か月も前から予約が入っているが、今回は事前に連絡を入れて他の宿に此方の費用持ちで移って貰った。強権発動で解約はさせない。ほぼ満室だったので担当者は大変だっただろう。

 一番人気の宿の理由は、普通に料理自慢の宿だから。建物も歴史が有る古い建築様式で従業員の教育も行き届いているらしいが、宿泊費も相応に高い。だが相場に比べれば安い。あと女性従業員の制服が可愛い。普通に設備・料理・接客が高水準に纏まった良宿だね。

 だが防犯上の理由で貸切、料理や世話係も先行で準備していたエムデン王国が手配した人員が行っている。無いとは思うけど暗殺の定番は毒殺だから、毒見番とか居ないから仕方が無いね。

 

 最上階のスィートルームに一人泊だと、微妙に寂しい。とは言え爵位や役職の関係で同室者も無理、当然だが異性など連れ込まない。つまり健全な一人泊だ。

 

 部屋自体には手を加えず、ベッドなどの調度品を入れ替えている。此処までする必要が有るかと言えば、僕がアウレール王の凱旋帰国の時に前例を作ったのが仇になった。あれはアウレール王やニーレンス公爵達が居たから行った措置で、僕にも適用しなくて良いと思う。

 侯爵待遇の伯爵で宮廷魔術師第二席、英雄の称号を持つ軍事関連のTOPだった。まぁ今回は自分が手配していないので、仕方ないと諦めて飲み込もう。国家予算の圧迫だよ……

 

「前回の王命は色々と忙しかったけど、移動とかは自分で自由に手配出来たので楽しかったなぁ」

 

 する事も無いし、勝手に出歩けば警備に迷惑が掛かる。ゴロリとソファーに横になり何となく出入口の扉の方に視線を向ける。このフロアの宿泊は僕だけ。

 廊下と階段には警備の正規兵が立哨している。隣の部屋に世話係が居るが、テーブルの上に有るハンドベルを鳴らさない限り来ないので完全に一人だ。

 完全なVIP待遇、まぁ対外的にはそういう評価を受けているし待遇を疎かにしたら担当者が責任問題になる。黙って受け入れるのが正解なのは理解している。

 

「勝手に出歩いたら迷惑だけど、勝手に持ち込んだものを食べるのは迷惑じゃないよね?」

 

 夕食は美味しかったけど、流石に豪華絢爛なフルコースではなくモア教の教義に合せて清貧というか素材の美味しさを引き出した料理だった。僕好みの料理だが、珍しく空腹を感じている。体力的は殆ど消耗していないのに、気疲れが多かったから?

 普段の食事量を把握されているので適量で用意してくれたのだが、まさか気疲れで空腹感が増すとは思わなかったろう。自分でも驚いている。

 

「じゃ、夜食と洒落込むかって……」

 

 探査魔法に反応?壁の中?えっ?この宿屋って隠し通路が有る?壁の中を感知できる存在が居て、此方に歩行速度で近付いて来る。警備を呼び寄せた方が良いのか?

 だが、向こうは魔力を抑えずに感知されやすい状態で近付いて来ているし移動もゆっくりだ。襲撃者とも思えないが判断に迷う。事を荒立てるような手段を取るのは避けたいと考えているし何とか出来るという自信か慢心か?自分でも判断を下せずに驚いているが、取り合えずソファーから立ち上がり、空間創造からカッカラを取り出して構える。

 宝環のシャラシャラとした涼やかな金属音が気持ちを落ち着かせて冷静さを呼び戻す。さて、この様な手段で接触を図るのは一体誰だろう?

 

 壁の一部が横にスライドし隠し通路から法衣を纏った中年の女性が現れた。

 

「三百年ぶりですね。団長」

 

 軽い感じで手を上げて挨拶してきたけど、団長?三百年ぶり?

 

 はい?

 

「立ち話も何だし座りましょう。少し長い話になるかもしれないわよ」

 

 えっと、はい?

 

 割と強引な人なのかも知れないが、悪意は無さそうだ。年齢的には若返り前のザスキア公爵くらいだろうか?僧侶としての力量は、驚いたがイルメラと同程度だぞ。

 高レベルの僧侶とは、モンスターを大量に倒しているのだから油断はならない。イルメラだってネクタル確保の為の大量に経験値を貰えるモンスターを定期的に倒しているからだし、普通なら長時間の魔法迷宮攻略をしている筈だし。

 全く予想が付かない。まるで無警戒に近付いて来て、さっさとソファーに座った。うーん、何故だか分からないが此方も敵意が全く湧かない。警戒心も殆ど働かないのは何故だろう?

 

 こう、何と言うか……昔の知り合いというか……

 

 敵意も害意もなさそうなので、応接セットのソファーを勧める。法衣を着ているのだからモア教の関係者だろうし、門前町の高級宿屋の隠し通路を利用できるのだからモア教の中でも立場は上の方だろう。にこやかだが値踏みを含んだ視線、それと二つの不穏なキーワード。僕の最重要秘密の転生に繋がるキーワード。

 誰だ?事前に分かってはいたし警戒もしていた。親書の内容を読み解いたら過去に関係している誰かには間違いない筈だが、この中年の女性なのだろうか?

 魔力を感じるしレベルも高そうだし、高位の僧侶に間違いはない。持て成しをするには隣に控えている使用人を呼び寄せなくては駄目だし、空間創造から何か出すか?

 

「お構いなく。しかし隠し事とは酷いですよ、最初に言っておいて下さい。後から調べるのは大変だったんですよ!」

 

 母と子程度の年齢差の筈なのだが、何故か同世代の様な感じで気安く話を振られたのだが?

 

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