古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1067話

 門前町の借り上げた高級宿屋の隠し通路から現れた女性。法衣を纏っているのでモア教の関係者で高位の立場に居る者に間違いないだろう。レベルも相当高い実力者だ。

 親書を貰った時点で、教皇周辺に僕が転生した事を知っている者が居る事は予想していた。記録か口伝かは分からないが、相応の確信をもって親書を送ってきたのだろう。

 その目的を知る為に総本山に訪れたのだが、まさか到着当日に向こうから接触して来るとは思わなかった。にこやかに向かい側に座る女性に気付かれない様に溜息を吐く。予想の斜め上過ぎるよ。

 

『隠し事は酷いですし、最初に言っておいて下さい。後から調べるのは大変だったんですよ』

 

 隠し事って転生の秘密?いやいやいや、流石にそれは無いと思いたいし未だ誤魔化せる範疇だと思う。というか、正直に真実を告げても信用されないだろうし狂人と疑われそうだよな。

 まぁ誤魔化すと言うか気を逸らすというか、間を空ける為に視線を逸らして何もない壁を見る。序に周囲に意識を向けるけど、周辺に監視は居ないみたいだ。つまり、このご婦人は単独で来たって事か……

 うーん、いくら記憶を探っても会った事は無い筈だ。少なくとも、僕は対面で会った事は無い筈だが……向こうが一方的に知ってるだけの可能性の方が高い?

 

 僕は味方側からは英雄って呼ばれているけど周辺諸国からは悪名高い有名人だし、困った事に割と正確な人相書きも出回っているし。国家間指名手配みたいな扱いだよ。

 

「その、僕と何処かでお会いした事がありますでしょうか?」

 

 取り合えず答えてくれるかは分からないけど聞いてみよう。少しでも情報かヒントが欲しい。全く分からないだと行動のしようがない。敵意は全く感じないけど、安易に味方とも判断し辛い。

 そして初対面の筈なのに距離の詰め方が普通じゃない。モア教関係者が僕に好意的とかって感じでもない不思議な感覚。うーん、意識が覚醒する幼少期にでも会っているとか?

 それだと転生前だから、今の状況と関係性が噛み合わない。僕が転生した事を確信している前提で話が進んでいるのだから、覚醒前に会っていても意味は無い。

 

 うーん、悩ましい。単純に敵味方を割り切って行動出来無いから難しい。

 

「僕?ふふふ、精神は肉体に引っ張られるという事なのでしょうか?前は『我』が一人称でしたわ。それが僕とか違和感が凄いです」

 

 え?前に、レティシアにも言われた一人称の違いの指摘?なに、そのドヤ顔というか少し小馬鹿にしたような相手の無知に対して困った感じの表情は……転生前にも良く見た表情だぞ。

 

 親書の謎、僕なりの解析だと『1殿へ。238より300ぶりの再会を祝う』と考えたんだけど、魔導士団のナンバーだとしたら?団員番号238は……

 

 妹の様に接していた若く有能な女性魔導士団員、僕のかけがえのない過去の仲間だった……

 

「もしかしなくても、マリエッタか?」

 

 この言葉に満面の笑みを浮かべてくれた。記憶の中の顔とは全く別人なのだが、この時には過去と現在の人物の顔が重なった。

 

「はい、団長。三百年振りですね」

 

 にっこりと笑った彼女は、過去の記憶の中のマリエッタとは似ても似つかないのに今では分かる。何となく困らせた時に向けられた、呆れられた時の顔と同じと言うか重なった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「え?本当にマリエッタ?だって三百年も経っているんだぞ」

 

 えっといや別人だろ?いやいやいや、僕の転生の件も有るから無いとは言えないけど。マリエッタには転生の秘術は教えていない。でも感情が彼女が過去のマリエッタと同一人物だと訴えている。

 根拠も証拠も無いが、表情や仕草に共通点というか同じなんだ。そう、世間知らずの王族のボンボンに世間の常識を教えてくれた時の表情。今だから分かる、呆れ半分の表情だったんだね。

 親切に教えてくれていると思ったが、内心は『この世間知らず』とか『これだから温室育ちのボンボンは』とか思っていたのだろう。

 

 ソファーに背を預けて深く座る。懐かしき輝かしい思い出の中にしかないマリエッタの顔。だからそこに呆れは有っても蔑みは無かった。

 

「ええ、団長が捕縛されて処刑された後、私達はルトライン帝国に復讐を誓いました。貴方がわざと捕まって時間を稼ぎ、財貨が渡る手筈までするので本当に私達の為に死んだと思ってましたわ」

 

 ここで笑顔から少し怒った表情になった。あと両手が忙しく動いている。うーん、記憶の中の彼女は、もう少し落ち着きがあったと思うが?

 

 自分の死んだ後の事は知らなかったけどさ。アスカロン砦の遺構を調べた時に過去の記録を見付けて読んで色々と知ったよ。『アスカロン砦記録No.6』だったかな?僕の復讐の為に、周辺諸国に散らばって中央に食い込みルトライン帝国を攻めさせたんだよね?

 連合軍の総司令官としてルトライン帝国を攻めたマリエッタの事をアスカロン砦に逃げ込んだ王都守備隊の隊長はさ、『毒婦マリエッタ』や『厄災のマリエッタ』と呼んで恐れていたぞ。

 ふふふ、過去の仲間達が自分の為に動いてくれた事を知れて嬉しかったんだ。まさか祖国を滅ぼすまで怒ってくれたとは思わなかったよ。

 

 ルトライン帝国や周辺諸国からすれば、思いっきり迷惑だったと思うけど領地拡張路線の巨大帝国を周辺諸国が連合を組んで滅ぼしたのだから結果的には良かった筈だよ。

 あのままだったら大陸はルトライン帝国が統一し、周辺諸国は属国化されるか滅ぼさせて吸収されるかだったし。まぁその所為で魔術は衰退しちゃったけどね。良し悪しだね。

 当時の周辺諸国も危機感を感じていた筈だから、そこを上手く突いて連合を組ませて全方位から攻め込んだのか……複数の利害が絡むし調整は大変だったろう。

 

 その原動力が復讐だけど、僕は嬉しいと思ってる。

 

「肉親だと甘く見ていたのが駄目だった。自分を脅かす存在は血を分けた実の息子でも関係は無い。序に戦争で発生したヘイトを全て押し付けられるとはね。過去の自分を殴りたい気分だったよ」

 

 今は笑い話として話せるのは、それだけ余裕が出来たんだな。

 

 実の父王が自分の権力維持の為に、戦争でしか活躍出来ない不肖の息子に嫉妬して謀略を用いて殺そうなんて予想もしてなかった。権力の闇を甘く見過ぎていた。

 その結果が捕縛されての処刑、自死も認められず処刑。まぁその時には身体は抜け殻だったから、特に抵抗も文句も言わなかったので仕方ないのかな。

 戦後の為に全てのヘイトを被せるのに都合の良い活躍と地位を持っていたからな。『自分の息子でも悪事を働けば処刑する』そんな公平性でも証明したかったのかな?

 

 処刑された方が良い迷惑だったが、転生して今の幸せな生活が有るのだからね。感謝もしているよ。今生は幸せだし充実もしている。転生、万歳!

 

「私達に内緒の部分を反省して下さい。ルトライン帝国を滅ぼした後で、私の『星読み』で団長が転生の秘術を用いた事が分かったのです。しかも自分のギフトで迷宮を作って閉じ籠るとか、調べるのに凄い時間が掛かったのです」

 

 うん?空間創造のギフトを用いた迷宮については結構な労力を注ぎ込んで隠蔽したけど、まさか星読みのギフトでバレたとは驚いた。

 

「転生関連の資料とかは全く残していなかったけど、良く分かったね。星読みのギフトだって万能じゃないだろ?」

 

 もともと魔術の研究は一人でおこなっていたので、殆ど資料は作らなかった。自分の頭の中に有れば問題無かったし、知識の秘匿っていうか独占か。ああ、自分もっていうか当時の魔術師は大体そうだったよ。

 

「ええ、本当に困った団長殿ですわ!」

 

 あれ?これって何かの嫌な思い出を抉った感じ?東方の諺の『虎の尾を踏む』とか『竜の逆鱗に触れる』的な失言か?笑顔で立ち上がりにじり寄ってきたけど?右こぶしを振り上げたけど?

 

 僕は三百年ぶりに、マリエッタからガチ目の説教を食らった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕の魂が抜けた亡骸は処刑後に適当な墓に放り込まれて埋められたらしい。その亡骸の扱いも徹底してヘイトを稼ぐ方法として利用されたらしい。まぁ思う所はあるけど、今は正直どうでも良い。

 マリエッタはルトライン帝国を滅ぼし、その王宮を捜索し魔術的な資料を根こそぎかき集めて調べたそうだ。そして関係無い資料は直ぐに連合に引き渡したので、独占という反発は少なかったそうだ。

 土属性の錬金術を主体とした無機物に意識を写して宿主を探し、その子供として転生する。なんとも非効率で時間の掛かる転生方法だが、当時はそれが最良だと考えていたし実際に見事に成功した。

 

『分の悪い賭けは嫌いじゃない!』とかイキっていたのが恥ずかしい。

 

 マリエッタ達は『星読み』で転生の秘儀が既に行われていて秘密の魔法迷宮の中のマジックアイテムに意識を封じ込めている事は分かったが、何時転生するかは分からなかったらしい。

 流石に三百年後に魔法迷宮を攻略しに来た冒険者の息子として転生、などという不確定な未来情報は分からなかったのだろう。秘密の魔法迷宮を探し出して、転生を促す事も転生方法が理解出来なかったので実行不能。

 最悪の場合、転生の秘儀が失敗してお終い。という結果も十分に予想出来たので、仕方なく自然に転生を待つ事になったが……誰が待つかで揉めに揉めた。そもそも別の手段で転生しないと駄目だし同時期に転生出来るかも不明。

 

 前例の無い、別々の方法での転生時期合せ。相当の無理難題だし、当時の僕でも難しいというか無理じゃない。そんな運とか確率任せみたいな結果を導き出せる方法なんて無いぞ。

 

「あれ?それとモア教ってさ。どんな関係が有るの?」

 

 話が繋がらなくない?そういう疑問を込めた目で見た事と言葉が同じく嫌な思い出を抉ったらしい。無理やりの笑顔が引き攣って怖いのですが?

 

「貴方が隠し事をしたから、残された私達が苦労をしたのですわ!本当に、もう、もぅ!」

 

 本日二回目の、マリエッタからのガチ目の説教を食らった。

 

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