古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1068話

 ルトライン帝国時代の魔導師団の配下であった、マリエッタも転生していた。僕以外の方法で転生したらしいが、色々と方法が有るんだな。魔法とは奥が深い、未だ深淵を覗ききれていないのだ。

 僕はマジックアイテムに意識を写して、他人に憑依し子供として転生する方法をとった。分の悪い賭けみたいな方法と確率だが、良くもまぁ転生出来たものだ。二度目は成功しないだろう。

 まぁ二度目はしない。今生をイルメラ達と生き抜いたら、転生せずに人生を終えるつもりだ。今は満足出来る生き方をしているので、多分だが未練は残らないだろうし残らない生き方をしたい。

 

 『人生は常に後悔ばかり』と言った偉人もいるが、後悔したから人生のやり直しは……僕が言えた義理は無いけど、考えさせられるよ。

 

「大体ですね。魔術師は守秘義務がどうとか、知識は独占し共有はしないとか、そんな事だから魔法技術は衰退したんですよ!」

 

 プンスコ怒られた。当時は今よりも知識は丁寧に教えて貰うよりも見て覚える方が常識だった。丁寧な教育など知識を継承する後継者くらいだよ。それも晩年になって死期を感じる頃に……とか。

 自分勝手な時代だった事は感じているけどね。それだけ魔法は『絶対的な力の象徴』だったし、強力な魔術師は国家の格を決める重要なファクターだった。

 まぁ強力な力を持ったからこそ、実の父親に危険視されて排除された愚か者は、自分だけどさ。後悔をしていないのは、転生後が予想以上に幸せだからだろうな。

 

「うん、反省しているけどさ。むやみやたらな情報公開も問題だと思うんだ。既得権とか独占欲とかは、無くは無いけどね」

 

 耳に痛いが、何かが気に入らずに飛び火して説教が始まったみたいだ。まぁ転生前は今よりも魔法知識を秘匿していたのは事実だし、転生関連の知識は実行前に全て消した。意識だけでも生き残っているのがバレるのが嫌だったから。

 しかも禁呪に近い秘術だし、後世に残してたら絶対に王族連中は実行しただろう。権力と財産を持つ連中が一度きりの人生を悔いなく過ごせる訳が無い。それは自分が身をもって熟知しているからね。

 寿命を延ばせるなら絶対に行うし、延命は無理でも若返りだけでも可能ならば実行するだろう。そういう欲望は程度の差が有れども権力者は誰でも持っている筈だ。知識や財産を引き継いで第二の人生、最高だろう。

 

 その気持ちは過去の自分も持っていたし、実際に実行した。自分の技術も秘匿傾向に有ったし、認めよう。僕は相当な自己中だったよ。

 

「私は自分の子孫に低確率で魂を移す事が出来る秘術を編み出しました」

 

「それは凄いね。家さえ存続出来れば成功率が高いし、知らない家庭に生まれるより親族に生まれ変わる方が安心で安全だね」

 

 今の両親には感謝しているし得難い人達だと思っている。実母の記憶は曖昧だけど、周囲からは『救国の聖母』とか凄い慕われているし……僕の知らない何が有ったのだろうか?

 

「そうでも有りません。子孫繁栄、言うは簡単ですが実際に何代も勢力を保って生き続ける事は難しいのです。特に、あの時代は強力な国家でさえ簡単に滅ぶ時代でした」

 

 まぁそうだな。強力な力を持った魔導師団の連中でも、今の時代に生き残った者は殆ど居ない。自分の子孫限定の転生だと、子孫が居なければ転生出来ない。

 血が途絶えれば、それで終わり。二度と転生は出来ないか……権力者は味方も居るが敵も多い。何時滅んでも滅ぼさせても可笑しくは無いし、そう考えると万全な方法でも無いのか?

 自分が生きている範囲の五十年位ならなんとかなるかも知れない。だが転生準備の間は子孫任せの状態、有能な者が居れば良いけど無能な者が当主だったりしたら……直ぐに衰退する。

 

 うーん、自分で巨大帝国を築いても子孫が無能ならば絶対では無い。毎回有能な者が王位に就いている訳もなく、有能であっても外的要因……周辺諸国が強くなれば、負ける可能性もゼロじゃない。

 今も昔も、そういう時代だからね。百パーセント確定は無理、運の要素が絡んでしまうのは仕方ない。自分が干渉できないのだから、運任せは当然で避けられないか。

 この考えは終わりにしよう。どうにもならない事で悩んでも、考えるだけ無駄でしかない。

 

「衰退や没落。自分の不在時に家が無くなってしまう事も十分に考えられました。栄枯盛衰、栄えたり衰えたりでは困るのです。一定の権力と勢力を維持する必要が有り……モア教を生み出しました」

 

「はい?」

 

 モア教を生み出した?不穏な言葉を吐いた、マリエッタは優雅に足を組み換えて紅茶を飲んでいる。色仕掛けじゃないのは分かるが、素を知っている自分からすると滑稽に見える。

 あのマリエッタが色仕掛け?ないない、全く無いよ。僕の勘違いだな。ははは、自分でも有り得ない考えに腹の底から笑いが込み上げて来たけど我慢だ。

 気付かれない様に太腿を抓ったり下唇を噛んだりして笑いを堪える。そうか、あのマリエッタが……成長した我が子を見る様な感情が湧き上がるのが不思議だな。

 

「何ですか?その生暖かい目は?結構な問題発言をしたのですが?」

 

「いや、でもモア教ってさ。僕達の転生前にも無かったかな?勘違いか記憶違いかな?」

 

 多くの宗教も同じく消えて無くなったものも多い。本物の神を祭らずに偽物を崇めたり、自分の都合の良い偶像の偽神を作り出したり。信仰は力だけど、根本に力が無ければね。

 

「時に、団長は神の存在を信じますか?」

 

 『貴方は神を信じますか?』いきなり有名なアレな台詞を言われたが、いや信じると言うか知ってるというか、妖狼族の女神ルナ様とは何度も会った事が有るよ。

 僕の屋敷に普通に降臨するし、神々の住まう世界の事も聞いた。その時に、モアの女神も居るのか?と聞いたら肯定された。つまり、モア教には正式な女神が居るんだよ。

 因みにだが、人間至上主義者が奉る神は居ないそうだ。信者の信仰心は神の供物として力の源だけど、邪な信仰心は神の神秘性を損ねる害悪でしかなく関わりたくないとか何とか……

 

 まぁ自分達に都合の良い存在を神と設定して、その教義も同じく自分優位な内容だしね。一応、神に歯向かうつもりは無いので、それとなく確認したけどさ。

 

「急に胡散臭い話になったぞ。まぁ良いけどさ。僕は神の存在を信じているよ」

 

「そうですか。女神ルナ様から凡その事は聞いているのですね?私もモアの女神様から聞きました。世界とは神秘と不思議の寄せ集めで構成されています」

 

 神秘と不思議か……言い得て妙だね。僕等の世界と繋がる、神という上位種族の住まう世界が有る。そして彼等は、僕等の世界に干渉する。

 そういう上位種族の住まう世界でも、この世界のお酒やフルーツが好まれるのも考えれば不思議だ。もっと美味しいお酒や食べ物が有りそうだけどな。

 神秘の塊の女神ルナ様が、お酒とフルーツ大好きという不思議も内包している。僕は親しみ易いと思うのだが、妖狼族からすれば恐れ多いらしい。この辺は感覚とか感性の問題だろうか?

 

「私は宗教の力を使って転生後の子孫達の繁栄を確定的なものに出来ないかを考えている最中に、モアの女神から神託を授かりました。彼女もこの世界の手駒を欲していたので、相互に利の有る関係を結びたかったのでしょう」

 

 左手の親指と人差し指を使って丸い形を作って、嫌らしい笑みを浮かべた。下世話な話だが、双方に利の有る関係って事だよな。と言うか、モアの女神様の行動力が凄い。

 

「欲望に塗れた信仰心を捧げられるのは嫌なので、清らかな信仰心を捧げられたい。そうなればモアの女神の力は増すのでしょう。私も権力者の一員では有りますが、色と欲塗れの連中を纏め上げるのは嫌ですよ」

 

「モアの女神からの勧誘かぁ……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 モア教の創設の謎を知る事になった。マリエッタの話を纏めると、国家権力を背景とする貴族では未来永劫に渡り隆盛を極める事は限り無く不可能だが、信仰が力の源の宗教ならばどうか?

 教皇職は世襲制らしいが教皇を多く輩出する家ならば激動の時代を生き残れるのではないか?しかも信奉するモアの女神との直接的な遣り取り、御神託も可能な家となれば生き残る確率は高い。

 信仰に国境は無く、何処かの国が滅んでも信者が居る限りモア教は不滅。だが信仰が途切れれば全てを失う。故に『友愛』を教義として清貧を尊ぶ宗教が生まれた訳か……

 

「女神様の後ろ盾が有っても武力で恭順を迫る国もあったし、身内からも権力欲に取り付かれた奴が強引に教皇になりたがったりとかね。清く正しい宗教を続けるには色々な苦労が有ったのよ」

 

 深々と溜息を吐いたけど、相当嫌な思い出が有るのだろうな。落ち着こうと紅茶を飲もうとしてもカップの取っ手を持つ指に相当の力が入ってるのか、プルプル震えているし。

 ああ、零しそうになってテーブルにカップを慎重に置いたよ。そして両手で膝を力一杯叩き出した。おぃおぃ、何度も叩いている。相当腹が立つ事が……

 

「メルギドの糞野郎がぁ!」

 

 どうやら、メルギドという人物に嫌な思い出が有るらしい。マリエッタの異常行動を暫く見詰めるが、少し落ち着いたのか膝を叩くのを止めて肩を上下させながら深呼吸を始めた。

 

「申し訳有りません。取り乱してしまいまして……私、転生は四回目なんですけどね。三回目の転生の時に、メルギドの愚か者が、モア教の存続が危ぶまれる程の裏切り行為をしまして……」

 

 今思い出しても腹が立ちます!ってプリプリしている。成程、モア教は何度か他宗教との宗教間戦争を起こしている。その殆どが信徒が自主的に敵対宗教を叩きのめして傘下に加えるという荒業だが、実情は少し違うのか?

 敵対宗教も敵性国家の後ろ盾を得た、その国に都合の良い教義。例えば『人間至上主義』で他種族を下に置いて支配を目論むとか『極端な男尊女卑』で男性優位な世の中を作るとか。

 分かり易いのが、皇帝を神の生まれ変わりや代弁者として国家の頂点に位置させて、他の者は支配される側だと決め付けたりとかね。そんな似非宗教とガチでぶつかり合って、信者が自主的に組織的に敵対者を滅ぼす流れ。

 

 その時は、モア教を国教と定めた国家も支援はしてくれた筈だけど、殆どが信者の暴走に近い組織的抵抗で勝利を収めている。

 

「その、メルギドという奴は何をしたのです?」

 

「モアの女神の伴侶神を勝手に捏造して夫婦神とし男性神を主神として奉るという暴挙に出たのです。教皇や司祭は男性のみとし、男尊女卑も組み込みましたね。しかも同調したモア教の男性聖職者も多くて……」

 

 え?そんな話は知らないけど、内々で済ませるには大事みたいな感じだけど。物凄く気になるんですけど!

 

「モアの女神は清らかな乙女神、それを勝手に既婚神に貶めるなんて!更に女性聖職者や女性信者を男尊女卑思想で、男性より下に位置付けて奉仕だ何だと欲望全開の性獣みたいな男でした」

 

「うん、それは宗教の乗っ取りだね。モアの女神も激怒したんじゃない。勝手に旦那神を祭るって、最悪の背信行為ですよね」

 

 その質問には答えてくれなかったが、物凄く凄惨な笑みを浮かべた。うん、モア教の暗黒時代と……その結果は何と言うか恐ろしい終わり方をしたのだろう。

 

 僕はゴクリと生唾を飲み込んで好奇心を抑えた。結果は聞かない方が良い。そう理性が訴えたから……

 

 

 

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