古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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リアル多忙とスランプにより更新速度が落ちてますが、エタらずに楽しめる範囲で執筆をしたいです。
今後も宜しくお願いします。


第1071話

 マリエッタがキレた、キレ散らかしている。周囲の警戒もおざなり過ぎるし、神聖魔法の私的制裁の乱発って教皇がやって良い事じゃない。

 テーブルの上の茶器類は吹っ飛ぶし、壁に掛かっていた絵画も外れて床に落ちた。風景画だと思ったが額も割れているし弁償だろうか?一応貴賓室だろうから、清貧が基本のモア教でも相応の値が張ると思う。

 肩を上下にして息を整えている、マリエッタの手には何時の間にか権杖が握られているけど……それってモア教の教皇が持ってるって事はさ。神聖な祭具扱いだよね?

 

 その神聖な祭具というか神々しい光を放っているから神具かもしれない権杖を頭の上で器用に回転させ始めた。不味い、これって回転させて威力を高めて振り下ろした時に効果を発動する奴だ。

 

「落ち着け、マリエッタ!流石にそれは洒落では済まないぞ!」

 

 両手を前に突き出して上下に動かす。こんなのは子供か動物を落ち着かせる為の仕草だよ。でも次の一撃は相当な威力の筈だから、魔法障壁にありったけの魔力を注ぎ込むけど……間に合うか?

 マリエッタの周辺に複数の光球が現れて漂っている。これ本命じゃなくて余波で出来たオマケみたいなモノみたいだけど、威力は普通にファイアボール位は有りそうだぞ。

 それが目測だけど二十個以上は有る。ファイアボール二十発って、確かエムデン王国の緩み切った火属性の宮廷魔術師団員達の集団攻撃魔法の……何だっけ?ああ、確か『豪火十連撃?』違ったっけ?

 

 大国のなんちゃってエリート魔術師の集団技くらいな威力が有りそうだ。つまり洒落にならない威力な訳です。

 

「お黙りなさい。唐変木の頓珍漢!洒落にならないのは、団長の考え方です!本当に貴方って人は、少しは改善されたかと思えば昔と全然変わっていないじゃないですかっ!」

 

 うわっ?周囲の光球を先に飛ばして来た。まぁ威力は防げるけど音は消せない。つまり連続した破裂音が鳴り響く。その防がれた様子に、マリエッタの表情が険しくなった。

 おぃおぃ、仮にも元上司に攻撃魔法の連続使用は駄目じゃないか?お前、それははっちゃけ過ぎだぞ。光球は凌ぎ切ったが、本命の攻撃はまだだ。保有魔力の二割以上を使ってなんとか凌いだが、本気の攻撃だった。

 室内は台風の直撃を食らったみたいに荒れ果てている。もう誤魔化しは利かない、何が有ったか説明が必要なのだが……『モア教の教皇と私闘になりました!』が通用するかな?

 

「落ち着こう。僕等には冷静になって、話し合う事が最重要だ」

 

「ふふふ、私は冷静沈着ですわよ」

 

 ははは、御冗談を言わないで下さい。この部屋の惨状を見ても同じことが言えますか?そういう意味を込めて室内を見回した。うん、再確認したけど酷い有様だぞ。周囲を見回してから目を合わす。

 その濁ってグルグルのお目目からは理性も知性も感じない。ただ感情に身を任せた狼藉者の荒んだ目だよ。『魔術師は冷静たれ』と常々言っていたよね。知性と理性が魔術師の平常運転だぞ。

 深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。少し埃っぽいし焦げ臭い?まさか火災にはなっていないよね?放火魔とか最悪なんですけど?万年第二席だった、マグネグロを思い出しちゃったぞ。

 

「いや嘘だね。じゃあ何で権杖を握る手に力が入ってプルプル震えてるのさ?」

 

 僕の冷静な指摘に一瞬真顔になり、その後に何かを決意したみたいなキメ顔をして……目が合って一呼吸おいてから、構えていた権杖を勢いよく振り下ろした。

 

「お黙り、女ったらしのニブチン野郎っ!」

 

 物理的な圧力を伴った、光の奔流が襲い掛かる。渦を巻いて迫りくる攻撃力を伴った光の帯、それが回転しながら迫って来る。

 

「おぃ、おま、ちょっと待ってっ!魔法障壁全開っ!」

 

 両手を突きだし、複数の魔法障壁を展開する。斜めにすると逸れて壁や天井に当たって破壊してしまうので、仕方なく正面から受ける。物理的な圧力を伴う光の……あれ?光量は凄いけど、攻撃力は殆ど無い?

 複層魔法障壁は押されたけど壊されずに済んだ。見た目は派手だったけど、威力は殆ど無かったのか?慌ててしまったけど、何とか室内も備品や内装が壊れた程度で済んで助かった。

 突き出していた両手を下し魔法障壁を解除する。体力も精神力も尽き果てた、思わずその場に座り込んでしまう。正直、死なないとは思ったが、怪我は覚悟していたが無傷で良かった。

 

「聖職者が信者に魔法を放ってはいけませんって、追撃するなよな」

 

 その権杖を振り回すのは危険だから止めなさいって!

 

「ふふふ、大した慌てようですね。少しは反省して下さいね」

 

 取り合えず倒れたソファーを起こして座る。貴賓室の惨状から目を背けたいけど、少なくとも明日の朝にはバレる。もう『暗殺者の襲撃が有ったけど撃退しました!』って言った方が周囲は納得するだろうな。

 襲った犯人がモア教の教皇ですって真実が知れ渡れば、エムデン王国とモア教の関係が微妙になるんですけど?そういう意思を込めて、マリエッタを睨んだけど鼻で笑われた。

 大国の重鎮に対して酷い扱いだけど、まぁ隠蔽工作に助力するのは吝かではない。責任の半分は有るし、こういうバカ騒ぎも昔を思い出して楽しかったからね。

 

 焦げ臭いし埃っぽいけど、悪くはない気分だ。いや、いっそ清々しいかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大騒ぎの後、モア教の僧侶達が大勢雪崩れ込んで来て後片付けを始めた。僕達は邪魔だからと、マリエッタと二人で別室に追いやられた。全てはマリエッタの計画の内だったのだろう。まぁ掌の上で踊らされた訳だ。

 暴れて少しは落ち着いたのだろうか?身嗜みを整えたが神々しい権杖は持ったままなのでしまって下さい。落ち着きません。何となくだけど、この部屋に神気が集まっているような気がしてきた。

 そう、妖狼族の崇める、女神ルナ様の降臨の前段階の感じがする。部屋の中を見回すけど、祭壇もなければお供え物もない。まさか、こんな状態で女神を降臨させないよね?

 

 そわそわしながら、マリエッタを見たらニタリと嗤いやがった。いやまさか、そんなに簡単に女神が降臨する訳が……無いですよね?

 

「え?この感覚って、女神ルナ様が降臨する時と同じ感じが……」

 

 イルメラが神威と表現した不思議な感覚。圧は感じるけど恐怖ではなく、何と言うかコレが神々しいとかいう感覚だろうか?それが僅かに感じたと思ったら徐々に大きくなってきた。

 

「モア教の女神様が御光臨なされます」

 

 物凄く軽く言い放った後に、部屋全体が目が開けられない程の光に包まれる。左手で目を庇うが、腕で防いでも瞼をキツく閉じても全てを防げず最期は顔を背けた。あと優しい暖かさが全身を包む。

 光が落ち着いてから両目を擦り、目を馴染ませてからゆっくりと床を見る。そして徐々に視線を上げていくと、光輝くほっそりとした足が見える。つまりモアの女神様が降臨しているんだな。

 膝をついて頭を下げる。まさか二人目の女神様の降臨に立ち会う事になるとは思わなかったが、一度経験しているので大丈夫。不敬な行動などしない。

 

 何となくイメージが潔白そうだし、女神ルナ様より圧倒的に信者数も多いからより高次元の存在なのだろう。女神ルナ様は自分達が存在する此処とは違う世界が有ると言っていたので、高次元の存在と思った方が良い。

 

「我が愛し子よ。そう畏まらなくても良いわ。私の愛は平等に、信じる者達に与えているのですから……」

 

 うん、当然だけど思考も読まれていると考えた方が良いな。僕ってモア教の信者だけど妖狼族の崇める女神ルナ様も広義な意味では信仰している事になっているけど良いのかな?

 定期的な貢ぎ物をピンポイントで贈っているし、なんなら自分の屋敷が半分女神ルナ様の神殿みたいな扱いだし?これって不味いのだろうか?

 モア教は他宗教にも寛容だけど、二股みたいな浮気者みたいに思われているのだろうか?うーん、貢ぎ物というか寄進の額は圧倒的にモアの女神の方が多いから大丈夫ですよね?

 

「有難う御座います」

 

 更に深く頭を下げる。視界の隅にモアの女神様の足が見えた。つまり近寄って来ているの?一見するとサンダルの様な見た目の履物だから、綺麗な足の指が見える。まぁ正直に言って神々しい。

 

「慣れ、とは恐ろしいものですわね。女神を目の前にして、寄進額で安寧を求めるとはいけませんわ。あとナチュラルに女性を褒めるのは良い心掛けですが、勘違いを生みやすいので自重なさい」

 

 えっと?叱られたのだろうか?いや疚しい気持ちなど1mmも無いし女神様相手に勘違いとか、モア教の信徒に全力で喧嘩を売るような真似はしません!

 

「申し訳御座いません」

 

 だが相手が不快に持ったのならば謝罪は必須。これ以上は物理的に頭を下げられないのでその姿勢を維持する。あの、直ぐ目の前まで近寄られても困ります。物凄く近いです。

 

「異性の足の指に性的興奮を覚えるのですか?人間とは摩訶不思議な性癖を持っているのですね?足の甲に口付けをする風習も有ると聞きましたが、貴方が望むのであれば許可しますわ」

 

 えっと、確かに足の甲に口付けをする事は有りますが……それって『全てを相手に委ねます』とか『完全服従します』とかの意味で、女神様への服従は信仰的な意味では正解だけど今回は駄目じゃない。

 どちらかと言うと、モアの女神様は性癖的な意味合いで捉えていますか?それは物凄く駄目じゃないでしょうか?駄目ですよね?必要だから二回思いました。

 あと、お腹を抱えて笑いを堪えている教皇様?モアの女神様の暴走を止めて貰えますか?信徒達に見られたら大騒ぎですよ。只でさえ神気が溢れていますから、絶対に降臨中なのはバレてます。

 

「この部屋は周囲と隔離していますから大丈夫ですわ。流石に女神が頻繁に下界に降臨するのは禁忌では有りませんが自重が必要ですからね」

 

 妙な圧を感じた。それって女神ルナ様への批判でしょうか?話によれば月一で僕の屋敷に降臨してるし、お供え物のリクエストや感想も聞かせてくれる程に関係は良くなっているし……

 

「そういう訳では有りませんが、貴方は私達と対等に近しい関係を築いている珍しい存在です。邪な思いや何かをして欲しいという個人的な願望が殆ど無いのは、とても珍しいのですわ」

 

「え?普通に信仰って捧げるだけで、何かを求めないものですが?まぁ雨乞いとか病気の平癒とか、公共的な意味でのお願いはしますが個人の願いって……まぁ僕も無いとは言えませんが、神頼みは何と言うか……」

 

 個人的な希望は自分で何とかするものじゃないかな?女神様に個人的な欲望の助力を願うって、信者としてどうだろうか?信奉する相手に何かを求めるって違くない?

 『困ったときの神頼み』とか『運を天に任せる』とかも言われるけど、本気で思ってはいない気休めみたいな軽いノリだよね。

 モア教以外の宗教って違うのかな?心の安寧を求めるのが宗教の本質で、信仰を対価に願いを叶えて貰うって宗教じゃなくて業務契約みたいな感じじゃない?『対価を貰い結果を出す』って仕事みたいだけど?

 

「その考え方が普通とは違うのです。信者は信仰を対価に神の奇跡を願うのです。貴方はルナに対して大量の貢ぎ物や眷属である妖狼族の面倒を見ているのに何も求めない。それは凄く珍しいのです」

 

 対価を求めない純粋な信仰心とも違いますが、欲が無さ過ぎるのも問題です。そう続けて言われたけど、妖狼族の繁栄をお願いしているので対価としては不足気味じゃないだろうか?

 それと小声で、ルナは貰うばかりで殆ど利益を与えていないのは怠慢です!とか言わないで下さい。知りたくないけど、もしかしなくても女神様の間で何か有るのだろうか?

 神の世界も、此方の世界と共通する事も多そうだな。そして、この話は長くなりそうだ。女神様の愚痴を聞くのも、信徒の役目なのだろうか?

 

 

 

 

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