古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1072話

 

 下界に降臨したモアの女神様の前で跪いて、愚痴を聞かされるという不思気な体験をしている。その後ろでニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる、マリエッタに非難の視線を向ける。

 

 僕にどうしろと?

 

 モアの女神様は、妖狼族が崇める女神ルナ様に対しての信仰心は薄いのだが貢ぎ物や眷属への厚遇に対して、もっと見返りを求めろ!と言うのだろうか?

 

「そもそも、妖狼族は最初の出会いはアレでしたが、今は配下として有能ですし正直助かっています。貢ぎ物も果物系ですので金銀財宝を捧げることに比べたら微々たるものです」

 

 この回答は、お気に召さなかったみたいで分かり易い不機嫌な顔をした。これって間違いなく不敬案件だろうか?信仰する女神に不敬とか、破門とか言わないで下さい。

 エムデン王国でモア教から破門されたら生き辛くなります。バーリンゲン王国と同列視されるなんて絶対に嫌です。未だに各国に潜んでいる残党連中が擦り寄って来る程の不名誉ですから……

 そういう思考をして、意味を込めた視線をマリエッタに向ける。元配下のよしみで何とかして下さい。元団長が困っています。

 

「貴方は私が認め、モア教が公式に発表した『我等が守り手』です」

 

 心の声の回答は、マリエッタではなくモアの女神様から頂きました。へぇ、守り手ってモアの女神様の公認だったんだ、驚いた。モア教の使徒とか呼ばれてしまうのだろうか?

 

「えっと、はい。モアの女神様から公認を頂けるとは感謝しきれません」

 

 感謝というか困惑で頭と心の中が一杯です。情報量が多過ぎて、何から対応すれば良いのだろうか?女神ルナ様からは『妖狼族を率いる者』と、モアの女神様からは『我等が守り手』と評価を受けた。

 それって二人の女神様から使命を受けたって事だよな。神命?王命よりも重くない?世界の危機とか、魔王が現れたとかさ。創作の物語の主人公の扱いだよ。吟遊詩人達が最も好む題材だよ。

 もしかしなくても、僕は物語の主人公らしく『新しい旅立ち』とかしないと駄目なのだろうか?『神の使徒として世界を守る旅に出る』とか?

 

 いやいやいや、僕は結婚式の段取りの為に呼ばれたんであって、世界を救う旅には出ないぞ。

 

「ええ、自慢しなさい。ルナには私から話を通しておきます」

 

 え、怖い。何の?

 

 女神様の世界でも根回しって必要なのですね?二人の女神様の使徒で双方の信者扱いになるの?使徒扱いになるの?僕の立場って特殊過ぎませんか?

 胃がシクシクと痛みだした。水属性魔法で治療を試みるけど効果が薄いし、何となく口の中に薄い血の味を感じる。お腹に手を当てて、治療の効果を増す為に魔力を

増やして痛みを和らげようとしていたら……

 モアの女神様が僕の頭に手を翳すと、ほんのりと光の粒子が舞って直ぐに胃の痛みが引いた。あの、恐れ多いです。

 

「これが女神様の奇跡?」

 

 痛みもそうだけど、何となく感じていた精神的な疲労も何もかも綺麗さっぱりなくなって爽快な気持ちになった。ヤバい、違法なポーションをキメたみたいにハイテンションって奴だぞ!

 

「望むなら不老も不死も可能ですが、この世では生き辛いですよ。マリエッタからも『転生の方が都合が良いから不要です!』と直ぐに断られましたので間違いではないのでしょう」

 

「不老も不死も厄介事でしかないから嫌です。若返りも微妙なのですが、世論の根回しによってギリギリ、本当にギリギリ世界に受け入れられる土壌は出来ました」

 

 え?不死?ネクタル効果で永年の若さは可能だけど不死は無理だ。エリクサーだって治せない傷や病気は有る。不死って事は人間を止める。それこそ神か悪魔にでもならないと無理だろうな。

 前は分の悪い賭けみたいな転生に成功したが、イルメラ達と出会えた事で今生を生き抜いて人生を終わらせる予定なんだ。彼女達と幸せな生涯を送り、一緒の墓に入る。

 再度の転生や、それこそ不死となり永遠に生きるとかの選択肢は無い。無いったら無いのです!

 

「モア教の関係者達に一斉に通達しておきます。故に結婚式は盛大に行います。この総本山の最奥の神殿で行いますから感謝して下さい。私が降臨して祝福を与えましょう。女神の祝福、盛り上がりますよ」

 

「止めて下さい。教皇たる私の存在が薄くなるでしょう。誓いの言葉を言った後に女神像を光らせる位にして下さい。御自身が目立つなど、迷惑以外のなにものでもないですわ。結婚式の主役は、あくまでも新郎新婦です」

 

 あれ?僕が決意を固めている間に、面白い方向に話が勝手に進んでないかな。個人の結婚式に女神が降臨して祝福?各国の重鎮が集まる、何故かエムデン王国が主体で催す臣下の結婚式に女神が降臨して祝福?

 

「申し訳有りませんが、絶対に止めて下さい。世界が荒れ狂います」

 

 信仰はあれども女神様が存在するかどうか、半信半疑な信徒も多く存在する。それは過去に神様や女神様が降臨したという言い伝えしか残ってなかったから。それがモア教の総本山の教会に女神降臨?

 モア教と近しいエムデン王国が、聖戦の後に関係者の結婚式に女神降臨?絶対に駄目寄りの駄目だよ。モア教とエムデン王国の関係性を邪推されて、最悪の場合は反エムデン王国連合とかできちゃう。

 だって多くの国で信仰されているモア教がエムデン王国に思いっ切り依怙贔屓というか超優遇しているというか……敵愾心とか危機感とか煽り捲りです。

 

 『女神が祝福した新婚カップル』とか炎上の火種以外の何物でもないです。

 

 多くの国で信仰されている神や女神が一国を超優遇すれば、危機感を抱く。神や女神の後ろ盾を得た国が、どういう行動を起こしても反発すれば神罰対象。滅ぼされる未来しか浮かばない。

 故に一国では力不足ならば周囲を巻き込んで勝てると思える戦力を揃えるしかない。待ちや様子見は滅びを待つだけの悪手、早々に動く事を考える。やられる前に『戦力を用意してヤレ』だよ。

 僕の結婚式は地味で良い。地味が良いのです。目立つ事は極力避けたい。本妻のジゼル嬢は本来は男爵令嬢、そういう意味でも悪目立ちは嫌なのです。

 

「ですが、ルナも同じ様な事を企んでいますわ。彼女も自分の眷属が繁栄し多くの信仰心を集められる様になり力が増しました。そのお礼をしないなど、女神の沽券に関わるからと意気込んで言ってましたわ」

 

 『女神の沽券』とは?知らない言葉です。それと『女神が企む』とか言っては駄目です。

 

 思わずソファーに倒れ込む様に横になる。流石に不敬と思い直ぐに起き上がったが、二人から生暖かい目を向けられてしまった。もうどう収拾したら良いかも分からない。

 

「取り合えず、温かく見守って下さい。静観で宜しくお願いします」

 

 そう言って深々と頭を下げる。何か特別な事をして欲しい訳じゃないので、現状維持でお願いします。本当にお願いします!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 モアの女神様に『見守るだけで何もしないで下さい!』と納得をして貰って天界に帰って頂いた。全然納得していない感じだけど、女神様に個人的な見返りなど求めないです。

 疲れ果ててぐったりとソファーに座り込む。もうお腹一杯で何も話したくないのだが、マリエッタは話し足りないみたいで帰ってくれない。今夜は終わりにしようよ。

 そういう希望的目線を送ったら、黙って権杖を向けられたけど……もうそれは良いからね。

 

「危機感ゼロのボケ野郎に言いますけどね。ジゼル嬢を本妻に迎えて、イルメラちゃんや他の二人も側室に迎えてお仕舞い!とか考えているなら甘いですからね。ゲロ甘ですからね」

 

 危ないから権杖を向けないで下さい。先端を輝かせるな!

 

「イルメラの後に時期を見て、ウィンディアとニールを迎えて終わりですが?」

 

「リゼルとザスキア公爵が黙っている訳がないでしょう!あの二人、同じ位に腹黒くて有能で病んで淀んで爛れてますからね。放置しても大丈夫とかゲロ甘ですからっ!」

 

 いやいやいや、リゼルは側室になりたいとか責任を取れとか言っているけど冗談ですって。大切な仲間には間違いないけど仕事の仲間の括りだし、ザスキア公爵も同じ。

 二人とも男女間で同志と言って良いか迷うけど、結婚したいとかじゃないです。まぁ二人とも家族認定というか既に身内ですけど……

 そもそも、公爵と伯爵では婚姻関係は無理でしょう。リゼルは新貴族男爵だから、まぁ身分差的には可能だけどさ。

 

「お・馬·鹿、もう本当に大馬鹿っ!傍から見てもリゼルさんは、貴方に本気で惚れているのが丸分かりです。素直という意味ではザスキア公爵よりも微笑ましいですが……」

 

 内面は何方も『どす黒く渦巻いて』いますからね。同性ならでは分かるのではなく、ある程度調べれば誰でも同じ結論に至ります。って言われた。

 

「そんな事は……」

 

「無いとは言わせませんよ。貴方はサリアリス様が引退すれば、宮廷魔術師筆頭です。そして政務関連でも結果を残した事で、宰相になる可能性が高い。この二つが成されれば、侯爵に叙されるでしょう。身分差など無くなります。そして、アウレール王は間違いなく、貴方を宰相にします」

 

 え?宮廷魔術師筆頭は受け入れている。サリアリス様の寿命の関連で、余生を楽しんでもらう為にも一年以内に引退して貰う予定だ。でも僕は軍属で政務の兼任は権力の一点集中になるから無理というか駄目だ。

 国が割れる原因の殆どが派閥争いで、軍事と内政のTOPを兼任するとか周囲が黙っていない。そして僕の適性は魔術師、内政は手伝い程度だよ。

 ニーレンス公爵と派閥構成貴族達と政争とか嫌だ。折角得意分野を分けて連携しているのだから、その二股は有り得ない。

 

 内乱とか絶対に嫌だ。それならイルメラ達を連れて出奔した方が、丸く収まるよ。絶対に嫌だし、自分も仕事が増えるのは負担が大きいから嫌だ。

 

「国が荒れて最悪は内乱ですよ。軍事と政務のTOPを兼ねるなんて、どこの独裁国家ですか?」

 

「そんな常識で押さえられる女じゃないわよ。リゼルは公でも内々でも、自分が側室に迎えられれば満足するでしょう。ですが、ザスキア公爵は……あの女は違うわ」

 

 その次の言葉は聞きたくなかった。また胃がシクシクと……

 

「それは」

 

 その沈黙と重苦しさに我慢出来ずに言葉を濁してしまったが、強い視線を向けられて言葉が詰まった。

 

「彼女は良妻賢母にも良き同僚にも……魔王にもなれるしなるわ。ジゼルさんを本妻に迎える事になった場合、彼女の心はどうなってしまうか?それは私にも分からない。我慢出来るのか、出来無いのか?理性が持つか欲望が勝るのか?それは彼女自身でも、今は分からないでしょうね」

 

「力を付けなさい。何か有れば助力は惜しみませんが、最悪は二人の女神様に縋る事になるかもしれないわ。だから、説明をしたかったのよ。団長の置かれた状況をね。ではまた明日ね」

 

 そう言って、マリエッタは部屋を後にした。

 

「ザスキア公爵が、魔王になるかもって……そんな馬鹿な事が……」

 

 自分でも良く分からないが、不安で胸が押し潰れされそうになる。同志と慕う彼女が、男女・の事など微塵も匂わせてない彼女が?いや、そんな事が有る・が……

 

 ない。とは言い切れないモヤモヤとした気持ちが一杯になった。今夜は眠れそうにない。

 




リアルが忙しく更新頻度は落ちます。
年末までは変わらず不定期になりそうです。
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