古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1074話

 流石は大陸最大級の宗教であるモア教の総本山、モアの女神様本人が気安く御降臨するのだろう?高齢の高位聖職者達が平伏する姿を見て、何となく納得した。此処は別世界なんだな。

 マリエッタも慣れた様子だったし、女神ルナ様も僕の屋敷に定期的に御降臨するし、驚くべき程でも無いって事なのだろうか?そう考えないと、頭の中が混乱してしまうし……

 だから女神様本人に『よし、勘違いです。モアの女神様もお帰りになって下さい。後日、マリエッタから報告させますので……有難う御座いました!』と言っても仕方ないよね。

 

 『リーンハルトは混乱した!』って奴です。

 

「だだだ、駄目に決まっているでしょう!モアの女神様に帰ってくれとか、罰当たりも過ぎます」

 

「この神威、そしてモアの女神像そのままの御容姿。嗚呼、モアの女神様の御尊顔を天に召される前に見る事を許されるなんて……長き信仰の末に、こんな嬉しい事が……」

 

「私は、この日の事を生涯忘れません。嗚呼、もう天に召されても構いません。私の生涯に一片の悔いも有りません」

 

 ニクラス司祭達も混乱している。そんな様子を慈愛の籠った目で見る、モアの女神様ですが……そもそも気安く御降臨し過ぎでは?

 

『私の愛おしい子供達、顔をお上げなさい。私は、私の愛は貴方達と共に有ります。我が子達よ、そんなに畏まらなくても大丈夫です。モアの愛は平等に、全ての子等に等しく注がれるのです』

 

 微妙に会話の意味が通じない御言葉を頂きましたが、聖職者が崇める女神様に『愛しい我が子』と言われれば、感激で他に何も考えられないだろうし、正常な精神も保てないだろうし。

 ああ、しまった。ニクラス司祭達の前で、マリエッタの名前をだしちゃったけど興奮状態だから気にしてないかな?あとで上手く誤魔化しておこう。教皇の名前がマリエッタと同じか聞いてないし。

 そもそも、教皇を名前で呼ぶ事自体が大問題だった。モアの女神様のインパクトが大き過ぎて、周囲の警戒と気遣いが雑過ぎたよ。

 

 気が緩み過ぎ、反省だ……

 

 信奉する女神を前に、挙動不審気味な老聖職者達を視界の隅に置いてモアの女神様に向き合う。想像以上に神威の圧が強いが、害する感じは皆無なので慣れれば耐えられる。

 基本的に存在感が段違いだから感じる圧なだけで、モアの女神様は普段通りだと思う。敵視や危害を加えようとする意志が有れば、人間など直ぐに発狂してしまう。そういう差が有る。

 まぁ信仰する宗教の女神様だから、言葉以上の感情も複雑に絡んでいるのだろうな。

 

 あれ?大して影響のないのって、僕は実は信仰心が薄いのか?

 

『二分の一?』

 

 あざとく小首を傾げて何を言い出すのですか?月の女神様とモアの女神様の二股信仰とか言わないで下さい。

 

「いえいえいえ、等しく信仰しています」

 

 お布施的な意味では、モアの女神様の方が、手間も金額も圧倒的に多い筈です。あれ?自身の手間という分では、月の女神様の方に労力を割いている?

 

『リーンハルト、貴方はモアの女神の使徒なのです。過去にも使徒と呼ばれし人間は何人か居ましたが、私が公式に認めた者は居ません。あくまで他薦か自称でしたが……貴方は違いますよ』

 

 いえ、辞退でお願いします。女神の使徒とか恐れ多いです。何故、僕なのでしょうか?マリエッタ絡み?それとも今後、何かモア教に苦難が生じるとか?

 

「おお、リーンハルト殿はモアの女神の公認の使徒様なのですね」

 

「私の生きている時代に、モアの女神様の公認の使徒が生まれるとは……感無量です」

 

「モアの女神様に栄光あれ!」

 

 盛り上がるニクラス司祭達、盛り下がる自分。いやいやいや、『モア教の守り手』だけで称号としては十分です。使徒とか恐れ多くて無理です。辞退です。

 そういう意思を視線に込めて、モアの女神様を見詰める。普通に心を読めるのだから、僕の切実な願いを叶えて欲しいのです。

 この時代の、この時期に使徒認定は危険すぎます。国内外が麻の様に乱れます。宗教戦争の勃発ですから、『モア教の守り手』で妥協して下さい。

 

 そう心に強く願って頭を下げる。もう僕の結婚式の事前協議の話など、木っ端微塵に吹っ飛んだぞ。

 

『誰彼に広める事はないのです。そもそも神の使徒とは使命が有るのですが、貴方は既に人類の危機を乗り越えました。エルフ族との調整は、多くのモア教の信徒達を助けたに値します』

 

 利害の一致、国家の方針に沿って行動した結果です。確かにバーリンゲン王国の連中と同一視されて、一緒くたに処分される可能性は有りました。人間がエルフ族に敵う訳も無いので、ある意味では世界を救った?

 そう言われれば、確かに人類の世界を救ったと言えるのかな?まぁルーツィア殿一人だけでも、全力で掛かって来られたら、エムデン王国も無事では済まなかっただろう。

 それは一時期、旅の同行をしていたので理解出来る。絶対に勝てない相手、精霊魔法と言う非常識。最悪の未来は、エムデン王国もバーリンゲン王国みたいに森に飲まれるだろう。

 

『 『モアの女神の使徒』が嫌ならば『人類の守護者』でも構いません』 

 

「モア教の守り手だけで良いです。他には望みません。友愛を是とし清貧を心掛けるという教義に則り、自分には恐れ多い『モアの女神の使徒』や『人類の守護者』は辞退します」

 

 『分不相応』とか『身の丈に合わない』とか言うと、解釈によっては相手を不快にさせてしまうから言葉に気を使う。自分には『使徒』の称号も足りないとか思われても困る。

 地位も名誉も権力も財力も十分過ぎる程、手に入れる事が出来た。これ以上望むのは異常だって!もう十分満足しています。コレ以上は不要というか困ります。大満足です、満腹です。

 人の欲望は無限大?いえいえ、それこそ『身の程を知れ!』という奴です。

 

『謙虚は必ずしも美徳では有りませんが、モア教の教えを説かれては仕方ないでしょう。貴方は私の『守り手』という事で納得しますが、女神に妥協を強いる殿方は初めてです。でも強欲よりは好ましく思います』

 

 何とか妥協案を飲んで貰ったけど、これは本来の目的じゃないんだろうな。他にして欲しい目的が有る為の前段取りの手段の一つ、僕に何をして欲しいのか?本命の要求は何なのか?

 

『四の五の考えずに、早くイルメラちゃんを嫁に迎えなさい!人間社会の貴族という階級制度の柵(しがらみ)は理解しましょう。本妻を娶った後に、さっさとイルメラちゃんを娶りなさい』

 

 え?イルメラを早く娶る?いや、元々その心算だけど、結婚式を挙げて直ぐに側室を迎える訳には貴族と言うか普通に常識として駄目な部類じゃないでしょうか?そんな多情な事は、新婦に対してもマイナス評価で……

 

『本妻さんでは、強大な女性二人を抑え切れないでしょう。イルメラちゃんの存在が、貴方の危機を救う唯一の手段なのです。早く娶って、彼女の地位を明確にしなさい』

 

 えっと?強大な女性二人って、もしかしなくてもザスキア公爵とリゼルの事でしょうか?モアの女神様に質問して良いのか分からないが、マリエッタの心配事の件と絡んでいるんだよな?

 

『教祖に魔王、どうやったら、あの様な存在を同時に射止める事が出来たのか?天界の多情神でも不可能ですよ。まぁ一概に貴方が悪い訳でも有りませんが、責任の一端は有ります。優柔不断とも言えませんが、運が悪かったのでしょうか?』

 

 驚き過ぎてだろうか?跪いて一心不乱に祈る三人を見て、この会話の内容が完全には伝わってない事に安心する。僕は言葉にせずに思うだけで、モアの女神様が話し掛けているだけの状況だからね。

 異常と言えば異常だが、まだ内容的に具体的な相手の名前が出ていないからセーフ、圧倒的セーフ!これが名前を言われたら、御神託的に、ニクラス司祭達は行動しちゃうから危なかった。

 未だ大丈夫、でもそろそろ女神様の力で解決策を授けて欲しい。これが御神託というか女神頼りだろうか?何という圧倒的な無駄使い、だが知りたい。女神様の英知を授けて欲しいのです!

 

「あの?具体的にはどうしたら?」

 

『イルメラちゃんに助力を願いなさい。後は貴方の誠意を込めた行動で全てが解決する筈です。浮気症でもなく多情でもないのに修羅場って、人間とは不思議な存在ですね?』

 

 いえ、それは解答になっていませんが?イルメラさん頼りって事ですか?もしかして、使徒の件を断った事が駄目だったのですか?この難題を解決する為には『女神の使徒』という称号が必要だった?

 

『頑張りなさい。貴方の幸せを願っています』

 

「違う、そうじゃない!」

 

 いや還らないで下さい。未だ肝心なところを聞いていませんが?本当に還らないで、僕に神託を授けて下さい。貴女の守り手が困惑していますので、何卒救いの手を差し伸べて下さい。

 

『友愛が全てを解決します』

 

「違う、そうでもない!嗚呼、還らないで下さい」

 

 一際輝いた後、何事も無かった様に静寂が戻ったが、僕の心の中は暗雲が立ち込め捲っている。ザスキア公爵とリゼル、それに対抗するイルメラさんの存在。

 幸せな祝福されし結婚の筈が、早くイルメラさんを側室を娶れとモアの女神様に念押しされるという珍事。しかも目撃者は高位の司祭達、言い逃れや誤魔化しは厳しい。

 マリエッタの心配事に対して、モアの女神様が念押しをした。つまり確定的な波乱万丈な未来?ええ、どうしたら良いのですか?

 

 最後に見せた、モアの女神様の困惑した表情が事の重大性を思い至らせる。

 

 先ず帰ったら、ザスキア公爵とリゼルに会って話を聞くしかないけど……イルメラさんに同席して貰った方が良いのか?つまり自分の屋敷に二人同時に呼んだ方が?

 口の中に鉄の味が広まる。胃の辺りがシクシクと痛くなってきたし、ストレス性の潰瘍だろうか?空間創造よりハイポーションを取り出して一気飲みする。

 

 先ず最初に行う事は、ニクラス司祭達に状況説明と相談だろう。流石に不審な表情で見詰めてるし、事実を全て言えないけど、ある程度の納得する情報は明かさないと駄目だろうな……

 

 

 

 

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