古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1076話

 モア教の総本山への訪問は、色々な問題を解決せずに終わってしまったが収穫は有った。二人の女神様の降臨に立ち会えるという奇跡を体験したが、個人的には全く嬉しくない。

 気疲れしかしなかったが、収穫は大きかった。信じたくは無いのだが、大切な協力者と腹心に絡む騒動の兆し。それを防止する為の対策を教えて貰えたのだが……正直な所は、半信半疑だ。

 彼女達の事は十分に理解しているつもりだったけど、心の底に秘めている事は分からない。それこそ心を読めるギフトでもなければ、想像する事しか出来ないだろう。

 

 老聖職者達は総本山に残り、教皇というかマリエッタと最終的な詰めの話をするという事で先に帰らされる事になった。目がマジで寒気がしたが、彼等は良く分からないやる気に満ちていたな。

 

「長閑な田園風景、整備された街道。バーリンゲン王国とは大違いの恵まれた国力、この大陸で最も治安が良く文明が発展し暮らし易いという自負は有る」

 

 エムデン王国はアウレール王の治世の間は発展し続けるだろう。後任のグーデリアル殿下も有能で人格者だが、アウレール王が発展させた国を維持する事を期待している。

 急激な領土拡張と、それに伴う新たに支配下に置いた領地と領民。望まなかった領土の拡張には、膨大な時間と予算を掛けて取り込む必要が有る。

 エムデン王国は戦勝国なのだからと、新しく加わった者達を下に見る連中も少なからず居る。まぁ苦渋を飲まされ続けていたのだから、感情は理解出来る。

 

 だが施政者として国民に差を付ける事は、長い目で見ればマイナス面が大きい。同じ国なのに地域によって差別が有る。使い方次第で良くも悪くもなり、僕は悪い方が大きいと考えている。

 別に博愛主義とか平等の精神とかじゃなくて、差別は受ける方が何時か爆発して反発する。どこかで融和政策に切り替える必要が有り、モア教を頼る事になるだろう。

 『友愛』が教義だから、活動がそのまま原因の解消になる。モア教が各国家に受け入れられる理由の大きな一つだろうね。これさえも、マリエッタの仕込みかな?

 

 周辺諸国の政治形態に沿った宗教。そう考えられる要素も多いが、基本の教義の友愛ってさ。ある意味で宗教には必要な包容力というか何と言うか……まぁ良く考えられている。

 

「こういう穿った考え方が、人として駄目なんだろうな。僕は体面を気にするけど、基本は自分と仲間重視だから……」

 

 窓の外に目を向ければ、行きと違い静かな馬車の中で考える事は、ザスキア公爵とリゼルの事だ。大切な協力者と信頼している腹心、新教祖の魔王と腹心の魔人。何方の顔が本当の彼女達なのだろうか?

 複雑で当たり前、単純だけじゃ魑魅魍魎が溢れかえる王宮では生き抜けない。二人とも、国は違えど国家の中枢で生き抜いて来たんだ。特にリゼルは、屑国家の命運を握る鍵だった。

 彼女を引き抜けた事が、あの国の崩壊の諸々の要因だったと言っても良い位だよ。引抜に失敗した場合、最悪の想定だと属国化が続いている最中にエルフ族と問題を起こして……

 

 一緒くたに処分された未来も有ったと思う。妖狼族を保護した事と、魔牛族とも友好的な関係を築いたからエルフ族の対応が変わったんだ。僕とレティシアとの友好関係も多少は影響していても……

 大多数のエルフ族は、人間を良く思っていない。200歳以下の連中の態度を見れば、どう思われているのか想像は出来る。エルフ族の王との関係も、レティシアのお蔭で悪くは無かった。

 全てが良い方向に纏まったからこその成果、自分だけで何とか出来た訳でもない。バーリンゲン王国の連中と完全に縁が切れて、存在自体が無くなったのが最高の結果だ。

 

「結果的には国益に叶ったか……」

 

 腕を組んで目を瞑る。帰国までの僅かな時間に身体を休ませないと、帰国後は女神様達から助言された通りに、イルメラさんと相談してザスキア公爵とリゼルへの対応を考える必要が有る。

 僕個人の結婚式が国家的な催しとなり、結果的に大切な協力者と信頼する腹心との関係が悪化するってなんだよ。成人式も延ばされたし、僕は王族じゃないんだから自由にしたかった。

 これも権利に対する義務って割り切るしかないのか……悩み事が大きくて重くて、中々眠気が訪れないや。

 

「はぁ溜息を吐くと幸せが逃げるっていうけどさ。吐き出した溜息と共に問題事も吐き出せないかな?無理か?無理だよな……」

 

 平坦に整備された街道でも多少の振動は有るが、僕謹製の馬車のサスペンションは高性能なので馬車内の居住空間は快適。悩み事は一旦忘れて束の間の休息を楽しむ事にする。

 空間創造からワインを取り出し一杯だけ飲む。アルコール依存症ではないけど、適量のアルコールは眠気を誘うので効果は高い。決して、バーナム伯爵の脳筋派閥に毒されている訳じゃない。

 王都に戻ると謎の『成人式記念武闘会』とやらを義父達が催すらしいのだが、僕は参加を自粛しようと思っている。何でも宴会と模擬戦に繋げるのはね。

 

 少しは自重して欲しいと思うのは、間違いでは無いと思うんだよね。まぁ舞踏会も気疲れが多くて嫌なんだけど、どっちがマシかと思えば……アレ?武闘会の方?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王宮内の人払いを済ませた私の執務室のソファーに横座りになりながら考える。幾ら考えても腹立たしい。自分でもどうする事も出来ない事が余計に腹立たしく忌々しい。

 扇を握った手に力が入る。肉体は若返り、それに伴い適度な運動をして相応の筋力を鍛えましたが見た目通りの力しかないので握った扇はミシミシという音を立てるだけね。

 代わりに手がプルプルと震えて来ましたわ。所詮は少女の身体能力しか無い、そういう事なのね。ネクタルの過信は厳禁、あくまでも過去の自分の身体に若返る(戻す)だけなのかしら?

 

 しかし、この私がっ!こんなにも感情の制御が出来ないなんて信じられない自分と、もっと心を荒ぶらせるべきだと煽る自分が居るのが分かる。

 

 善と悪の良心に象徴とか、陳腐な表現ではない、原初の感情。そう、怒りと嫉妬、妬(ねた)みと僻(ひが)み。

 人間の誰もが平等に持つ感情、その制御がおざなりになっているわね。全く驚きだわ。とっくの昔に掠れた感情だと思っていましたわ。

 魔王とか稀代の悪女とか、新しき世界の教祖とか言われていても、私もか弱い一人の少女なのね。ふふふ、外見に精神が引っ張られるのかしら?

 

 それとも、もともと乙女だったのかしら?乙女なのよね。

 

 リーンハルト様が、ジゼルさんを本妻に迎えるのを色々と工作をして延ばしていた結婚式を……遂に挙げる事になったわ。

 

 モア教の教皇様自らが結婚式を執り行うと言い出しては、もう止められない。エムデン王国の王宮内の大聖堂を使用するという案は、私も知らない内に立ち消えたのかしら?

 しかも総本山の大聖堂で結婚式を挙げると非公式にですが匂わせているのは非常に腹立たしいわね。エムデン王国の公式な許可を得る前から、まるで暴走しているような動きですし……

 でも少し不可解なのよね。確かに聖戦の時にはモア教の『守り手』として公式に認め、助力は惜しまなかったりと、普段とは少し違う対応だったわね。

 

 モア教の教皇様は公式の場に殆ど現れないので、私でも殆ど情報を掴んでいない。ですが、女性で中年以上なのは把握しています。リーンハルト様との接点は皆無の筈、なら何故?

 もう少し工作する時間が欲しかったのに、駄目だったわ。私が本妻に成り得る未来は潰えましたが、リーンハルト様と添い遂げる術が無くなった訳では有りません。

 モア教の教皇様が執り行う結婚式で祝福されたとなれば……離婚は殆ど不可能よね。まぁリーンハルト様の性格を考えれば、不義理な離婚などしないでしょう。

 

 それこそ相手の方に重大な問題や瑕疵が無ければ……例えば浮気とかの裏切り行為?捏造は難しいでしょうね。リゼルさんが居れば、真偽など直ぐに分かるのだし。

 

「まぁジゼルさんを排除する事は、頭の中で考えるだけに留めます。実際に排除してしまえば、彼の心がどうなってしまうか分からないのだから……」

 

 心の傷が癒えるまで、優しく親身に寄り添う?

 

 うふふ、無理ね。リーンハルト様は絶対に犯人を捜すでしょうし、その邪魔をする相手にも敵意を抱いてしまうでしょうね。彼の愛情の深さを考えれば分かるわ。

 身内に甘く、それ以外には関心が薄いか、常識的な対応に留める。彼の大事な者の括りの中に入るまでが大変なのよ。入ってしまえば、彼は見捨てないし切り捨てもしない。

 そういう優しさと甘さとが有るの。少なからず、そこに惹かれた自覚も有ります。こんな真っ黒な謀略女を大切に思える程、彼の優しさは本物で特別、それを受けられる幸せ。

 

 だからこそ、自分の大切な者の括りの中に居る相手に危害を加えられたら、黙って悲しみに浸るなんて事はしない。危害を加えた相手を地獄の底まで追い詰めて屠る。

 そういった激情を内に秘めているのよ。普段は隠しているけれども、内に秘めた獣性は……私をも凌ぐかもしれない。

 当然よね。敵兵を数千人単位で滅ぼすのですから、どこか常人とは善悪の境界線が違うのよ。狂っていると言い換えても良いのかも知れないわね。

 

「私と同じ狂人、深く淀んで病んでいる。そう、私達は同類なの……」

 

 ジゼルさんでは闇が足りない。その点、リゼルさんは闇も病も十分に基準値を超えているわ。だから、リゼルさんとは同盟を組んで協力体制を敷いた筈なのに……

 裏切りというか抜け駆けが酷過ぎますわ。あの女、自分の腹心という立場を利用してやりたい放題ですし。どこかで一度、絞めないと駄目なのよね。

 いえ、早急に話し合いの場を設ける必要が有りますわ。私とリゼルさんならば、私達に有利な条件でジゼルさんを何とか誘導出来るでしょう。

 

「ですが、イルメラさんの存在が不気味なのですわ」

 

 モア教の僧侶であり、リーンハルト様の専属メイド。冒険者パーティ『ブレイクフリー』のサブリーダーでもあり、陰からリーンハルト様を支えている。

 その存在は、孤児院出身の平民であり控え目な性格も相まって殆ど表に出て来ないのですが……リーンハルト様第一主義の強者(つわもの)です。

 もしかしなくても、モア教の異常な行動の原因の一旦を担っていないかしら?彼女が教皇を動かした?

 

「いえいえ、流石にそれは飛躍し過ぎよね」

 

 ですが、私が、私達が結ばれる為の最大の障害には間違いないのです。

 

 その為に、リゼルさんとの連携は不可避ですが……お互いがお互いを信じ合っていない。仲間ではない協力者、隙あらば抜け駆け上等の歪な関係。でも助力無しでは行き詰まるのは明白。

 

 他に取り込んで利用価値の有る者は……ウィンディアさん?悪くは無いのですがイマイチね。そもそも、ジゼルさんと繋がりが有るのですし、裏切り者にはならないでしょう。

 

「他に誰か……幼女?いえいえ、何故それを思い浮かべたのかしら?妖狼族の巫女であるユエさん?魔牛族の幼女達?何方も接点も無いし、信用も信頼も築けていないし無理だわ」

 

私、少し疲れているのかしら?

 




お久しぶりです。今年の後半は私事で色々有り、不定期連載が続いて申し訳ない気持ちで一杯です。
執筆時間も少なく、少しだけブラック企業に勤める社畜の気持ちを味わいました。まぁ残業代は貰えるので不満は無いです。
来年は三月一杯忙しく不定期連載になりそうですが、年末年始休暇で書き溜める予定です!
今年も恒例のアレをやります。

『来年こそは完結!』

完結するする詐欺にならない様に、頑張ります。
趣味全開の誰得小説ですが、読者の方々に支えられて続ける事が出来ています。

今年はお世話になりました。来年も宜しくお願いします。
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