古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。


第1077話

 

 共犯者からの緊急の呼び出し、人払いを済ませた王宮内の執務室に呼ばれました。防諜対策を施し、物理的な人員までも配置した厳重な防諜体制。魔法的にも何かしらの対策が行われているでしょう。

 

 この執務室で行われた事は、例えアウレール王でも分からないでしょう。国家の運営に絡むべき話し合いの時にこそ必要な設備。ですが今回は全くの私事の話し合いの為に使用されます。

 私を亡き者にするのならば、及第点の状況ではあります。ですが私が此処に呼ばれた事は大勢の人達が知る事になるようにしているので、貴女でも人知れず処分は不可能よ。

 

 そもそも私には『魔法障壁の腕輪』と『毒完全無効の腕輪』を装備していますし、護衛で秘書のアインさんが同行しています。物理的な要因での排除は、殆ど不可能でしょう。

 セラス王女にさえ許可しなかった、ゴーレムクィーンの貸出。これだけで、私と貴女との立場の違いが明確なのです。私は手厚く守られて、貴女は自分で身を守るしかないのですわ。

 ゴーレムクィーンの長女である、アインさんに先導されて王宮内の通路を歩きます。普通に近衛騎士の方々や王宮に務めている女官や官吏達が道を譲り、しかも普通に挨拶をします。

 

 えっと、もしかしなくてもですね。私よりもゴーレムさんの方が王宮に馴染んでないですか?何故、誰も疑問に思わないのですか?古代の英知の結晶ですが、自律行動型のゴーレムさんですが?

 皆さん柔軟な思考の持ち主なのですわね。私も馴染んでいますし、不思議な事に身振り手振りで意思の疎通も出来ます。手話すらも出来るとは、ゴーレムの可能性って無限大?

 

「いえ、その様に不審者を見る目は止めて下さい。少し考え事をしていただけです。ええ、世間一般の常識について齟齬が有ると改めて感じただけです」

 

 立ち止まり、此方を向いて自分を指さして首を傾げるのも、人間臭いというか何と言うか……つまりアインさんは『自分が非常識な存在では無いです』と行動で問い掛けたわけです。

 どれだけの理解力が有るのでしょうか?しかも『私の方がおかしいのでは?』という意味も含めたあざとい仕草です。これが本当にゴーレム?中に誰か入っているのでは?と疑います。

 そうすると、アインさんは『イルメラさんの顔を模した』仮面を外し空っぽの中身を見せてくれましたが……貴女、もしかしなくても私と同じギフトを持ってないですか?

 

 その的確過ぎる対応は、洞察力が優れている程度では説明が付きませんわよ。

 

 ですが私のギフトは貴女には通用しません。そもそも人間では有りませんし生物でも有りません。動物にギフトを使用した事は有りますが、殆ど警戒心とか食欲とかの感情の動きくらいしか分かりませんでした。

 まぁ動物やモンスターと意思の疎通が出来るギフトも有るみたいですが、それはそれです。ティマー職の方は自分がティムしたモンスターと普通に意思の疎通が出来るそうです。

 命令通りに行動させるのですから当たり前ですよね。命令は口頭ですので、会話は出来なくても内容は理解している。そういう事なのでしょう。

 

「では明日の午後、第一練兵場でお願いします」

 

 今も私を放置して近衛騎士団員の方と模擬戦の約束を勝手にしていますが、貴女は私の護衛ですよね?勝手に模擬戦の約束などしないで下さいます?確かに私の予定も空いているので、同行しますが?

 ツヴァイさん達を代わりに護衛に付ける?それはそれとして、何故に誇り高い近衛騎士団員がゴーレムさんに普通に頼み事をするのか疑問です。しかも笑顔ですし、貴方もゴーレム好きの変態さんでしょうか?

 既に何度も模擬戦は行っていて、勝率は100%アインさんが勝ってます。近衛騎士団は全敗です。普通、ゴーレムさんに負けたらプライドの関係で何度も挑まないし友好的な態度など出来ないのでは?

 

 アインさんも『事後承諾ですが構いませんよね?』みたいな視線を向けないで下さい。一応、頷いて了承した事は伝えます。ですが、貴女は私の護衛ですからね。ジロリと睨み付ける。

 

「リゼル殿にも迷惑を掛けますが、近衛騎士団の戦力向上の為に宜しくお願いします」

 

 殿方に頭を下げさせてしまいました。これはバーリンゲン王国では有り得ない珍事ですし、エムデン王国でも珍しいのではないでしょうか。

 確かに私は新貴族男爵位を賜っていますし、王宮内での役職も戴いておりますが……年下の女性です。近衛騎士団はエリート中のエリート、幾ら騎士は紳士たれといえどもです。

 しかも一定以上の敬意すら感じます。ですが異性として好意が有るとかという感情は皆無、これって敬われているというのが正解に近いのでしょうか?

 

「いえいえ、お気になさらずとも大丈夫ですわ」

 

 綺麗な敬礼をして去って行きました。去り際に少しだけ思考を読みましょう。常日頃の情報収集が大切なのです。何でもないような情報に、思いがけない秘密が有ったりして少し楽しいのです。

 

『流石は王宮内女傑四人衆である『魔人リゼル殿』だな。圧というか存在感が凄い。思わず姿勢を正してしまう程だ。あと、アイン殿も相変わらず好ましい。いずれは勝ってみせる』

 

 はい?貞淑で嫋(たお)やかな淑女の鑑である私に対して魔人で威圧感が有ると?しかも生身の私よりも無機物のアインさんの方が女性として好ましいと?何という変態騎士なのでしょう!

 

『リーンハルト殿の嫁でもあるし、納得は出来る。自分としては魔王ザスキア公爵よりも魔人リゼル殿の方が、リーンハルト殿には相応しいと思う。流石に年上の公爵本人は……』

 

 はい。その通りですわね。貴方の変態騎士という評価は取り消します。そして思考を読むのを途中で止めました。ザスキア公爵には秘密にしておきます。

 そうしないと貴方がどうなってしまうか、私でも分かりません。年齢の事は触れてはいけないのです。ネクタル効果で私よりも若く見える様に若返りましたが……

 アレは絶対に年上と言うコンプレックスを感じている所為であり、触れると誰でも危険なのです。実年齢はリーンハルト様の約二ば……いえ、何でも有りませんわ。

 

 思わず背筋が寒くてゾッとしてしまいました。見られても聞かれてもいないのに、本能が危険を知らせてくれたのでしょうか?今は考察を止めて、気持ちを切り替えましょう。

 あの女、共犯者としては有能なのですが協力者としては信用度は高くありません。利害が一致している時は良いのですが、最後の詰めを誤るとどうなるか……

 共通の敵に対しては心強いのですが、共通の目標に対しては全く信用なりません。まぁそれは私も同じなので、同類という事でしょうね。

 

 ふふふ、魔王と魔人。確かに同類でしょう。

 

「アインさん。少し遅れてしまいましたので、急ぎましょう」

 

 予定よりも少し遅れてしまいましたが、近衛騎士団員の方々の中にも私の方がリーンハルト様の嫁に相応しいと思う方々が居る。コレは良い情報です。非常に良い情報ですね。

 相手は腐っても公爵本人、私は新貴族男爵。圧倒的な身分差が有り、この身分差を覆す事は不可能。ならば他の事で差を詰めるしか有りません。

 近衛騎士団員は軍事派閥の長である、リーンハルト様に近しい方々。この助力は大きな利点が有ります。内政や諜報に携わる、ザスキア公爵とは良好な関係とは言い難いです。

 

 まぁ内政と軍事は、相容れない関係なのは仕方ないですから……それは和解も出来ない永遠の課題。有事の際には連携や協力関係を結ぶ事は可能、リーンハルト様が実際に行いました。

 魔術師として完成されていて、軍属として有能な指揮官であり人外専門ですが外交も優秀。内政についても配下や協力者は居ますが一定以上の成果を挙げる事が出来ます。

 そして未だ若く……若過ぎるというか成人式も未だなのですが、どういう成長をしたのでしょうか?実はネクタル効果で見た目が若いだけで中身は中年と言われても信じてしまいます。

 

 実際は、幼少の頃から彼を知っている方々が多くいますので、間違いは無いのですが不思議です。不可思議です。

 マナーや宮廷内のしきたり、上級貴族の常識や所作も問題無く修めているのです。多分ですが、伯爵級の後継者教育と同等か、それ以上なのです。

 側室に迎えて貰いましたら、じっくりねっとり教えて貰うのも良いでしょう。夫婦とは隠し事の無い関係なのですから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「遅かったですわね」

 

 初っ端から嫌味を言うのは牽制ですか?お可愛い事ですが、私はその程度の嫌味では動じませんよ。逆に貴女の焦りを感じますが……焦り?いえ、違いますわね。怒り?それも微妙に違いますわ。

 自己嫌悪が一番近いと思いますが、貴女が自己嫌悪?その様な感情が有るとも思いませんでした。まぁ思考を読める相手と対峙しているのですからブラフでしょう。

 その程度の思考制御を行える事は理解しています。精神力と自制心が相当強いのでしょうね。そこは素直に賞賛いたしますわ。諜報機関の長なのですから、得意分野なのでしょうね。

 

 笑顔を添えて対峙しますが、未だ座りません。一応身分上位者ですから、貴族的マナーですね。座ったらマナー違反だと責めるとか?ふふふ、私は魔王と対峙する魔人ですからね。魔界決戦?

 少し、いえ結構楽しくなってきましたわ。アインさんが紅茶の用意を始めましたので『脅威は無い』と判断したのでしょう。一応警戒はしていましたので安心しました。

 一寸した言葉遊びなのかしら?未だ余裕が有ります。さり気無く、ザスキア公爵を観察すれば……また少し若返っていませんか?私も好奇心に負けて一本飲んでしまい、外見は十八歳程度ですが……

 

 貴女、既に十代半ばまで若返っていませんか?淑女というより少女という見た目ですが?何をしてますの?リーンハルト様と見た目だけでも同世代になりたかったとか?

 自分の思考が混乱するのが分かります。ニーレンス公爵とローラン公爵の本妻様方も少女になってましたし、エムデン王国の貴族は少女趣味なのでしょうか?

 リーンハルト様は幼女愛好家を変態と断じて蔑んでますが、ニーレンス公爵達には少女愛好家と非難はしていませんわね。やはり、この国の貴族は少女好き?私も若返った方が喜ばれますか?

 

 いえいえ、今の自分を愛でて欲しいので却下、却下です。二番煎じなどお断りです。

 

「近衛騎士団の方と、アインさんが模擬戦の件について話し合っていまして。話し合いが終わる迄、少し待たせて頂きました」

 

 ゴーレムクィーンと近衛騎士団員が話し合い?言葉にすると違和感が有るのですが、ザスキア公爵は薄く笑って頷き視線で向かい側のソファーに座る様に促しました。

 その時点で、アインさんが紅茶と焼き菓子を用意してくれましたが……どこから焼き菓子を取り出したのでしょうか?不思議ゴーレムさんですわね。

 先ずは落ち着くためにと、間を取りたいので紅茶を一口飲んで……

 

「ジゼルさんが、とっても羨ましくて堪らなく憎らしいのですわ。彼女をどうしたら良いと思います?」

 

 思わず噎せてしまい口に含んだ紅茶を吹き出しそうになりましたが、何とか堪えます。それでも少し気管に入り込んだのか咳込んでしまいました。アインさんが背中を擦ってくれたので少し落ち着きましたが……

 この女、なんて劇物を放り込んでくれやがりますのですか?ジロリと睨めば表情の抜け落ちた人形みたいな少女と目が合いました。ヤバい。この女、遂に本性に飲まれて暗黒化してしまったのでしょうか?

 アインさんが呑気にテーブルに零した紅茶を布巾で拭いていますが、今は結構緊迫した雰囲気では有りませんか?もしかしなくても、この女は病んでませんか?

 

 ゆっくりと立上り、窓際に移動します。自然にアインさんが付き添ってくれますが、最悪の場合……この窓を開けて外に飛び出す事にします。何か有っても、アインさんが助けてくれる筈です。

 高所から飛び降りる方が万倍もマシな状況かも知れません。ジゼルさんは表の私、私は裏の私。光と影、陰と陽。協力体制を結んでいるのですから、何としても半身は守る心算ですが……

 ゴクリと唾液を飲み込む音が、妙に大きく聞こえます。一心不乱に逃げるべきか、少しでも情報を得るべきか?正直逃げ出したい気持ちで一杯ですが、ここは踏ん張りどころでしょう。

 

 喉がカラカラに乾いていますが、何とか言葉を紡ぐ事が出来そうです。

 

「その様な分かり切った事を……」

 

 

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