古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1080話

 心が休まる我が屋敷の筈なのだけど、屋敷の主である僕の精神がガリガリと削られている状況となっている。

 

 事前に女神様達から忠告されてしまい、僅かとは言え良くない先入観を持ってしまった協力者と腹心の二人。それに対峙する、救世主イルメラさんと婚約者であるジゼル嬢。

 何故か四人が半分に分かれて対峙しており、その真ん中に押し込まれた感じになってしまった。

 そして微妙にネクタル効果で若返っている二人、ザスキア公爵は……もう少女というより幼女に近くなっていないか?リゼルと並ぶと年齢の逆転した姉妹みたいだよ。

 

 イルメラさんが少し座る位置をズラし、ジゼル嬢との間にスペースを作ったけど……まさか、そこに座るの?躊躇していたら、手を握られ引っ張られたので逆らわずに座る。

 その時の横目で見た、イルメラさんの聖母みたいな笑みを見て女神様達の御神託が正しいと確信した。この話し合いのキーは、間違いなくイルメラさんなのだと。

 躊躇なく思考を読んで来る、ジゼル嬢とリゼルは物凄い微妙な顔をしたけどさ。僕って魔法には自信を持っているけど、日常的な事とかはさ。この程度の並みなのです。

 

 二人に分かり辛く溜息を吐かれたし、ザスキア公爵は扇子で顔を隠して薄笑いを浮かべた。どういう状況なのだろうか?

 

「その、少しというか幼い位に若返ってませんか?何か心境の変化でも?」

 

 取り合えず世間話というか、少し気になった部分を聞いて会話に繋げられればと思い話題を振ってみる。ネクタルを使わなければならない程の理由が有ったのか?

 貴重品のネクタルを浪費と取られても構わない程、使わなければならない理由とは?妖艶を武器として扱っていたのに、敢えて真逆の幼気(いたいけ)さを押し出す意味は?

 ザスキア公爵だけでなく、リゼルまで少し若返る意味は?王宮内は魔境だから、若さも過ぎれば侮られる材料にもなる。見た目は経験不足的な意味で……

 

 『この小娘がっ!』って感じでね。まぁ言われても百倍位は言い返すと思うし、本人を知っていれば絶対に言わないだろうけどね。

 でも王宮の内情に疎い人とか、そもそも高位貴族の顔を直接見て覚えている人も限られる。だから逆に格下の連中が知らなくて言ってしまう場合も考えられる。

 その場合は……何と言うか、死よりも恐ろしい事になりそうで怖い。絶対に恐ろしい事になるのが分かり切っている。

 

 ははは、ソレを何とかするのが仕事とか?嫌過ぎるよ。

 

「いえ、特になにも有りませんが?」

 

「私は、もともと若いのです。似非(えせ)でも偽(にせ)でもありません」

 

「あははは、そっそうですか。何と言って良いか分かりませんが、申し訳ないです」

 

 『私は』を強調しないでっ!もう一人が元は若くないとかいう意味に取られかねませんがっ!

 

 そしてバッサリ切られました。愛想笑いで誤魔化そうと思ったけど、異常に圧が強過ぎて謝罪してしまった。女性陣に年齢のネタ振りは危険だった、猛省が必要だ。

 緊張で乾いた喉を潤す為に紅茶を一口飲む?アレ?このお茶、今迄は緊張で気付かなかったけど青いぞ。インディゴブルーというか、鮮やかな藍色?

 何だろう?ストレートで飲むお茶みたいだけど珍しいな。僕は初めて飲んだけど、女性陣は誰も気にしていないのは……もしかして珍しくないのかな?

 

「この青色の茶って珍しいよね?」

 

 新しいネタを振る。本題に入る前に、少しでも気持ちを切り替えて軽くしないと無理だよ。胃の辺りで既にシクシクと鋭い痛みが襲ってきてます。

 珍しい青いお茶よりも胃に優しいミルク系の飲み物を人肌くらいの暖かさで飲みたい気分です。間違ってもワインは駄目だよね。

 お酒に逃げる気持ちが少し分かるけど、それは逃避であって全然解決しないし、なんなら悪化するかもしれない。

 

 『酒の上の過ち』ってさ。想像以上にやらかす場合が殆どだよ。自制心も判断力も低下しているから、当たり前と言われればそうだけど、大抵は最悪の状況に追い込まれる。

 『酒は飲んでも飲まれるな』僕はエムデン王国一番の酒豪と言われているから、自称酒豪達が挑んで来るけどさ。大抵は自滅するんだよ。しかもベロベロに酔っぱらう迄飲むからさ。

 上級貴族である、僕に絡んで来る場合が有る。大抵は轟沈して倒れて退場だけど、身分差を考えずに絡んで来る者も居るんだよな。周囲が止めても暴れるし、翌日素面になって大慌て。

 

 親族一同揃って謝罪とかも両手で足りない位の回数を経験したよ。子供相手の飲み比べの結果に、相手の親が出張って来るとかさ。お互い気まずいです。

 まぁ爵位の関係上の礼儀とか色々有るからね。下手をすれば親族派閥の当主まで出張って来る事が有る。僕と敵対する事のデメリットがデカ過ぎるからね。

 その場合は当事者を謹慎で済ませる程、甘い対応をしてこない。重くて爵位を剥奪して追放、軽くても領地に戻って王都には二度と来させない。社交界からの追放だね。

 

 そういう処罰をされた前例が居るのに、飲み比べを挑んで来る連中が絶えないのは何故だろうか?酒飲みの意地?年上の矜持?理解も出来ないし共感もしないよ。

 それを『酒の上の過ち』で済ますのって、当人が納得していればいいけどさ。大抵は納得なんて出来なくて物凄く後悔するんだよ。

 だから余程の悪い態度の場合以外は、数ヶ月後に和解を申し込んで処分を解かせる。有能な者は能力を惜しまれて復帰し、問題児は処分そのまま。

 

 まぁ相手も問題を起こして拗れた関係が戻るならば和解を受け入れる。でも社交界に復帰させるかは別問題、僕もそこまで追求しない。

 

「青茶というそうです。紅茶と同じ茶葉を使用しているそうですが、発酵度合いの違いにより五段階に色が変わるそうですわ。緑白青黄黒と五色です」

 

 イルメラさんから、補足で女神ルナ様への献上品の一つだと教えて貰った。世界中の珍しい果物やお酒、その他色々な食品を集めているので自分達も楽しめるのは嬉しい。

 女神ルナ様は献上品にも好みが有るらしく『これはもういい』とか『これは定期的に』とか『これはたまに』とか細かい注文が入る。

 御降臨の時に『直接口頭で』お願いされる。女神様の供物を指定されるって凄い。百パーセント間違い無く好みの品物を贈れる訳だから、悩まずに最適な供物を用意できる。

 

 まぁ普通だったら周囲から信用されないだろうな。似非宗教家とか、自分の好きな物とか金銭とか財宝とか要求してくるし。普通は何が欲しいかなど、確認のしようもないからね。

 今度はじっくりと味わいながら青茶を飲む。発酵度合いにより味も風味も変わるらしいが、正直良く分からない。うん、まぁ見た目も珍しいし美味しいんじゃないかな?

 ミルクは合わないと思う。砂糖やハチミツやレモンを入れれば飲み易くなるかな?僕はストレートで飲むのは少し苦手だな。胃に優しくはなさそうだ……

 

 まぁ貴族的には青は『高貴な色』だから、喜ぶ連中も多そうだな。珍しい希少品でもあるし、特別感が有って喜ぶ者は多いね。

 

「そろそろ本題に入りましょうか?」

 

 気持ちも落ち着いたし気分転換も出来た。あとは拗れる前に早く話し合いで対策を検討と言うか、方針を決めないと進まないだろうな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「モア教の教皇様との話し合いですが、結果はどうなりましたか?」

 

 当事者である、ジゼル嬢が質問して来た。このメンバーの場合、発言権はザスキア公爵が優先されるのだが、事前に誰が何を聞くか決めていたっぽいぞ。

 質疑が共通認識って事なのだろう。僕以外で……結構しんどい話し合いになりそうだが、隣に座るイルメラさんが優しく膝の上に置いていた手を握ってくれた。

 これだけで大分落ち着くのだが、これはこれで他の参加者への挑発行為にならないだろうか?ならないよね?

 

「えっと、僕達の結婚式はモア教の総本山の大聖堂で行う事になります。教皇様は結婚式を執り行なってくれるそうですので、大変に名誉な事だと思いますです。はい」

 

 決定事項を教える。この内容が覆る事は絶対に無いのだが、慣例無視の物凄く珍しいというか何と言うか、絶対に有り得なかった事が実現する事になる。

 

「エムデン王国の国王である、アウレール王の結婚でも有り得なかった事ですわね。それを伯爵である、リーンハルト様の結婚式で行うとは……意味深ですわね」

 

 ザスキア公爵から突っ込みが入ったけど、常識に照らし合わせたら疑問は間違いではない。モア教の教皇というか、マリエッタとモア教の女神様の暴走の結果だよね。

 これは素直に『使徒』の件を話すしかないな。マリエッタの件は、僕の転生絡みだから絶対に言えないし、言っても理解を得られないだろう。

 でも『使徒』の件ならば、インパクトも大きいし理由としても筋は通る。『使徒』は辞退して『守り手』だけど、殆ど『使徒』の件はモア教内では公式だからね。

 

「意味深というか、何と言うかですね。モア教の総本山で教皇様に拝謁を賜りましたが、驚くべき事に、総本山の大聖堂でなく宿泊用の施設に訪ねてこられました」

 

 この告白に、誰も驚かない。つまり僕の行動の大部分は調べられて報告されている。あの場所で『何か有った』事は知っているが『内容は』分からない。

 防諜対策は完全だった筈だが、老聖職者達への口止めは万全じゃない。何十年も信仰を捧げていた女神の御降臨に立会い『使徒任命』を直に見たのだから……

 しかも『神命』は達成済みとなれば、喜ぶ事でしかない。僕が『モアの女神の使徒』を辞退して『モア教の守り手』を要求した事など些細な事でしかない。

 

 モア教関係者の上位陣には情報共有がされている筈だから『使徒』でも『守り手』でも呼び名なんて関係無いだろう。多分だが、聖典に非公式だけど正式な記録として残すだろう。

 モア教の数百年の歴史上で初めての『使徒』であり『聖戦』の勝利。そして人類の滅亡を防いだ確かな実績が有るのだから。

 これからのモア教関係者は盛り上がるだろう。僕の結婚式をモア教の総本山の大聖堂で教皇が自ら執り行う理由としては十分なんだ。

 

「そして、その場にモア教の女神様が御降臨されました。僕は聖戦その他の功績で『モア教の使徒』として認められましたが、既に広まっている『モア教の守り手』でお願いしました」

 

 胃が痛い、シクシクと差し込む様に胃が痛い。

 

「故にモア教の教皇様が、その功績を称えて総本山の大聖堂で自らが結婚式を執り行うという事になったのです」

 

 微妙に違うけど、一応筋の通る理由を述べたのだが全員が微妙な顔をして見詰め返して来た。これって何か事前に知っているとか?それとも『使徒』の件が信用されてない?

 居たたまれない気持になる。ん?隣から物凄い威圧を感じます。そっと目を向けると、笑顔なんだけど目が笑ってなくて圧が物凄く強いイルメラさんがいます。

 えっと、モア教の僧侶としてモアの女神様の件を疑われた事に怒っているとかでしょうか?

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