古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1083話

 自分の屋敷での話し合いは微妙に疑われたが無事に解散となった。ザスキア公爵は当然だが、リゼルも少しはゴネたが今夜は泊まらずに帰宅して貰った。

 ザスキア公爵が嫌味を言って牽制したからか、少しごねて素直に帰った。まぁ『明日もお邪魔します』と言っていたので、ザスキア公爵と共に来るだろうな。

 明日も来るのかぁ……胃がシクシクと痛みだすのを気合で我慢する。仲間を疑う後ろめたさだけど、女神様達の助言が心に重く伸し掛かる。

 

 上位の存在に指摘されたのだから、根拠は不明だが信じないという選択肢は選べない。女神の直接の助言、聖職者なら垂涎モノだろう。

 

「存在自体が上位者の助言を無下に出来る訳が無いんだよ。しかもその隔絶した力を理解させられているのだから……」

 

 結構遅くまで話し合っていた為か、彼女達が帰ったのは、もう少しで日付が変わる時間帯だった。普通なら、こんな深夜の時間帯に淑女を帰すのは躊躇うのだが、泊まらせる方が大きな問題だから。

 僕は未婚で結婚式を控えているし、婚約者も同席していたし、同僚や腹心とはいえ自分の屋敷に泊まらせるという判断を下すのは駄目です。対外的にも駄目です。要らぬ噂が立つ事は極力控える必要が有るし……

 夜も遅いので就寝の為に寝室にと思ったが、僕の寝室のベッドはキングサイズで複数人と同衾が前提なので、一人で考えるには不向きだったのを思い出した。添い寝は日課だから、仕方ないね。

 

 故に少し考えたい事が有ると言って、一人の時間を貰った。決してマリッジブルーでは無い。いや、ある意味ではマリッジブルーか?自分の結婚に対して不安になるのだから……

 

「夜空が綺麗だな」

 

 屋敷の部屋の中で一人になる事も考えたが、僕の屋敷には何故か『一人になる時間も必要でしょう?』と庭の離れに立派な東屋があるんだ。

 当初は意味不明な隔離された時間の使い方と困惑した。趣味の錬金も控えて欲しいと言われたし……自分の屋敷で強制的に一人遊びみたいな?いや、やる事もないので瞑想でもしろと?

 でもまさか本当に、切実に必要になる時が来るとはね。流石はイルメラさん、これを予想していたのならば恐ろしい。

 

 まぁ実際は趣味でも仕事みたいな錬金も止めてゆっくりして欲しい。とか心配してくれたと思う。僕は色々と働き過ぎだと、心配させた前科が有るから余計にね。

 軍属だし宮廷魔術師という『国家の暴力装置』という役職だから、安全という言葉の対極の位置に居るんだよね。そういう意味では心配事は絶えないんだ。

 今は平時になりつつある。バーリンゲン王国の件が片付けば、この大陸に一時的な平和という戦争準備期間が訪れるだろう……束の間の平和、それは次の争いの準備期間でしかない。

 

 大陸を統一しない限り、いや統一しても他の大陸からの干渉は有るだろう。過去の偉人は『人が三人集まれば派閥と争いがおこる』と言ったけど、その通りだよな。

 権力争いに利権争い、誰だってより良い地位や収入に権力を握りたい。人として当然の要求だし、それが無かったり少なかったりする者は……聖人か悪く言えば精神異常だと思う。

 『欲がない』と言葉にすれば簡単だけど、我慢や諦めの感情が入っていると思うよ。基本的に生きるとは、欲望の行動の結果だよ。

 

 食欲、睡眠欲、性欲もまぁ一部では必要な欲なのは理解している。金銭欲や物欲、名誉欲とか承認欲求もそうかな?独占欲もか?英雄になりたい、とか何々になりたいもそうだ。

 

「人間って本当に欲望に忠実な種族だよ。生きるだけでも色々な欲望を満たす必要が有るし……」

 

 黒縄(こくじょう)を身体に巻き付けて空に登る。澄んだ空気を胸一杯に吸い込めば、冷気で思考が冴えてくる。非日常、この世界で同じ様な景色を見れる者は居ない。

 深夜なのに貴族の屋敷から明かりが絶える事は無い。警備上の問題も有るけど、見栄も有る。比重的には安全の維持と確保かな。

 比較的平和で治安の良いエムデン王国でも強盗傷害等の犯罪は多くは無いが有る。上級貴族の屋敷に押し入る賊は……限りなく低いけど前例は有るんだよな。

 

 政争の果てに政敵に刺客を送る。

 

 現状でも公爵四家の争いは、バニシード公爵が他の三家と敵対し衰退中。だが、アウレール王は彼に利用価値を見出しているらしく最悪の追い込みは許してない。

 そして公爵以下の貴族達、侯爵以下の連中だが派閥が細かく入り乱れて何処が何処と対立してるのか?刺客を差し向ける程の増悪を抱いているのか?

 派閥の意向に沿って行動できるか?単独で勝手にやらかすのか?程度が分からないんだよな……

 

 未だに、僕に突っ掛かって来る者達も居る。状況を考えずに感情的に反発する様な連中なら問題は少ない。貴族ならば一族に一定数は居る、選民思想に捕らわれた者達だ。

 大抵は爵位や血筋が全てと思っている、自身の能力は総じて低いので対応は手間は掛かるけど難しくはない。

 彼等にとって僕は『平民の血の混じった雑種』程度の認識で、伯爵位で宮廷魔術師第二席という肩書は関係無いのだろう。

 

 まぁ公式、非公式を問わずに実家にクレームを入れれば、親族が普通ならば即日対応してくれる。謝罪と本人の粛清がセットでだ。まぁ重くて勘当で軽くて謹慎だな。

 そして処罰が軽すぎると、親族や派閥関係者が巻き添えを嫌がり文句を言って考え直させる。まぁ小馬鹿にされた位で命まで要求しないけど、普通はその場で無礼打ちしても罪には問われない。

 身分差って怖いね。でも親や親族までも選民思想に囚われている場合、単純に噛み付くか一旦引いて裏で動くか……エムデン王国でも、どっちの場合も有るんだよ。

 

 バニシード公爵の派閥構成貴族の動きも看過出来ない。僕の所に派閥替えの要望も来ているけど、正直受け入れられない。

 フルフの街で、あれだけヤラかした連中の親族を受け入れなんて出来ないよ。しかも結構な上から目線での移籍願いじゃなくて要望?要求?

 あの三人、ダッヘル、ボーロ、ヨーグだっけ?彼等の親族からさ。『不忠者は処罰しました。これからは僕の派閥で力になります』とかさ。どれだけ面の皮が厚いの?

 

 普通に貴族の面子を潰した相手に、派閥に入れろ!とか要求する?常識的にしないよね?普通は敵対していない他の派閥に入って大人しくしてるよね?

 エムデン王国も引き締めはしたけれど、今回の聖戦で上級貴族から裏切り者を出してしまった。モンテローザ嬢に洗脳された連中も多いけど、普通に裏切り者も居た。

 今後の監視と警戒は必要って……違うよ。今考える事はそうじゃない。

 

 見下ろす貴族街の人工の灯かりを見て心を癒す。一際輝いているのはニーレンス公爵かな?見詰めていると光がうねって動きだした。

 確か馬車が通ると先導する様に庭園灯が光るんだったな。来客の喜ぶ良い演出だけど、こんな時間に来客?いや、余計な詮索はしない。

 今の僕には考えなければならない事が有るじゃないか。余計な事を考えるな。本題は……

 

「リーンハルトさまー」

 

 ん?

 

「リーンハルトさまー」

 

 あれ?誰かに呼ばれてる?下を向けば、メイド服姿のイルメラが手を振っている。何故、メイド服?話し合いの時は落ち着いたドレス姿だったよね?

 用事が有るから呼んだのだろうから、取り敢えず黒縄(こくじょう)を操作して下に降りると、輝く笑顔のイルメラさんが抱き着いて来た。

 

「えい!」

 

「え、ちょ?イルメラさん?」

 

 夜風に当たり少し冷えていた身体が、彼女の体温で温まる。そして少しお酒臭い。もしかしなくて、イルメラさんお酒飲んだ?

 

 彼女はお酒が好きで、しかも強い。冒険者に成り立ての頃は、外食の時に良くエールを飲んでいたのを思い出した。

 

 暫くは彼女の体温を堪能する。あと体臭も忘れずに肺一杯に吸い込むと、凄く安心して落ち着いた。凄いリラクゼーション効果だ。

 

「どうしたの?」

 

 抱き合って体臭を嗅ぐだけだと唯の異常性欲者だ。

 

「リーンハルト様が、何かに悩んでいましたので私に出来る事は無いかと思ったのです」

 

 嗚呼、打算の無い純粋な好意が、物凄く嬉しい。

 

 バーリンゲン王国の連中の相手をしていて病んだ心が癒されていく。あと女神様達の難題も含めてだけどね……

 

「何を悩んでいるのですか?」

 

 正面から見詰め合うけど、顔が近いです。イルメラさんの吐息を感じる位に、具体的にはお互いの鼻が付きそうです。

 

 ここは覚悟を決めて正直に話すしか無い。

 

「長い話しになるけどね。モアの女神様と……」

 

 モア教の総本山で二柱の女神様から言われた事を包み隠さずに話した。荒唐無稽で自意識過剰な自慢話みたいだけど、本当に有った事なんだ。

 

 話している最中に、イルメラさんは僕の頭を豊満な胸の中に抱き締めてくれた。優しい体臭に包まれて昇天しそうになる。

 

「そうですか、ザスキア公爵様とリゼルさんがですか……」

 

 胸に抱いた僕の頭を優しく撫でながら、赤子をあやす様にゆっくりと優しく話してくれる。母性って素晴らしいけど、ロンメール殿下の性癖は認めない。

 アレは母性でなく母親と息子の疑似プレイであって、母性では絶対にない。

 イルメラさんの胸の谷間に顔を押し付ける。彼女の回答が怖い気持ちと聞きたい気持ちがせめぎ合う。

 

「リゼルさんは大丈夫です。あの方は此方側ですし、リーンハルト様と結ばれるならば何も問題は無いでしょう。既に話し合いも済んでいますから」

 

 ん?今少し変な言葉が聞こえた。思わず胸の谷間に押し付けていた顔を上げると、慈愛に満ちた笑顔をドアップで見てしまい気恥かしくなり横を向く。

 えっと、事前に話し合いとは?いつの間に?それと、彼女を側室に迎える事は決定してるの?普通、側室が増えるのは嫌じゃない?

 僕の疑問を含んだ視線を感じても、特に慌てずに額に唇を寄せてくれる。柔らかな唇の感触が素晴らしいです。

 

「あの方は最初から私達側です。リゼルさんとジゼルさん。光と影とか表と裏とか恥ずかしい事を言っていましたが、関係有りませんし問題も有りません」

 

 リーンハルト様が男の甲斐性を見せるだけで解決ですよ。と囁かれた。甲斐性?つまり側室として娶れと言う事なの?

 いや、好ましく思ってますけど異性としてより仲間か友人としてなんですが……

 考えを読まれたのか、軽く脇腹を抓られた。

 

「リゼルさんの献身を認めてあげて下さい。打算無き献身ですよ。無碍に扱っては駄目です」

 

「うん、微妙に納得は出来ないけど分かったよ。時期を見て側室に迎える事にするけど、イルメラより後だよ」

 

 何となく分かっていた解決方法だったから、イルメラ達が嫌がらないなら構わない。今更な話だし、最初から彼女を逃がすつもりは無かったんだ。

 それにバーリンゲン王国から引き抜いて裏表に関わらず仕事を押し付けていたんだ。

 男の甲斐性よりは責任を取れ!かな?まぁ納得出来たし飲み込もう。

 

「ですが、ザスキア公爵様は……彼女は独占欲が強過ぎます。最初は私達と共存出来るでしょうが、何時か彼女の心が自身の幸せの歪みを感じてしまうでしょう」

 

 最初から共存関係なの?家族関係でなく?それに、心の

歪みって?

 

「あの方の闇は深く澱んでいます。私達が澱みを浄化出来るかは……」

 

 間近で見た、イルメラさんの顔は酷く歪んで……

 

 

 

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