古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1085話

 イルメラと夜空の下で二人きりで相談をする事で、悩みの一部が解消し覚悟が決まった。流石はイルメラさん、僕の悩み事の半分位は解消したけど微妙にモヤモヤは残っている。

 だが先ずはリゼル嬢との結婚式を問題無く終わらせる事。そして前例は殆ど無いし、貴族的にも宜しくない本妻を迎えて直ぐに側室を迎えるという最低浮気野郎みたいな事をする。

 先にイルメラを側室に迎えて、その後でジゼル嬢と挙式という順番を逆にする事も考えたが……公式に本妻を迎えると発表した後で、先に他の女性を迎える方が醜聞だそうだ。

 

 まぁ本妻予定の令嬢からすれば、堂々と浮気宣言された様なものだよね。

 

 まぁ見境が無いというか多情というか、世間に認められ難い事は理解している。『英雄色を好む?』とか悪行とまではいかないけど、普通に歓迎はされないよな。反省しよう。

 只でさえ清廉潔白とか慈悲深いとか公明正大とかさ。本人の事実と異なる噂が広まっているし……そんなの、どこの聖人様だよ。聖母イルメラさんだけでお腹一杯です。

 ウィンディアとニールも側室に迎える約束というか、彼女達で最後だ。もうお腹一杯というか、それ以上は増えても無理だよ。身が持たないと言うか、嫁が複数とかハードルが高すぎる。

 

 僕は自覚が有るけど、恋愛弱者の雑魚初心者なので無理なものは無理。直ぐに破綻してどうにもならない事になる確信が有る。得手不得手って自覚してると、場合によっては悲しくなるよね。

 そんな事をベッドの中で考えていると起きる時間となり、意識がハッキリしてくると部屋の外に気配を感じた。カーテンの隙間から差し込む光をみれば、八時過ぎ位かな?

 昨夜は遅くに寝室に戻り、先に寝ていた彼女達の隙間に潜り込んで眠りについたけど既に誰も居ない。皆が仕事を受け持っているので、のんびり寝てられるのは僕くらいか……

 

 起き上がるタイミングで、アーシャがトレイを押しながら寝室に入ってきた。僕の身支度の準備と、アーリーモーニングティーを用意してくれたみたいだ。

 ベッドの上で紅茶を飲み、今日一日の活力を生み出す。贅沢極まりない貴族の特権だろうか?まぁ愛情の確認も含まれているのだろうが、ベッドの上で飲食ってマナー的にはどうなの?

 既に起きてはいるが、起こしに来てくれた彼女の為に寝た振りをする。折角起こしに来てくれたのだから、起きてましたじゃ申し訳無いからね。様式美だね。

 

「リーンハルト様、起きて下さい。リーンハルト様……」

 

 優しく声を掛けて身体を軽く揺すってくれる。心地良い声と優しく身体を揺すってくれれば、普通に二度寝に誘われると思うんだ。まぁ今日は予定も有るし、二度寝は出来無いけどね。

 

「うーん……おはよう、アーシャ」

 

 今起きました!とゆっくりと目を擦り起き上がる。アーシャのお日様みたいな笑顔を朝一番で見られる幸せを噛み締める。本当に贅沢な生活を送れている。

 仕事は困難で忙しいが、十分な見返りを貰っている。転生前に比べたら、天と地ほどの差が有るね。僕は『勝ち組』で間違い無い。ふふふ、自然と笑みが浮かぶよ。

 ゆっくりと彼女の身体を抱き締める。朝一番に嗅ぐ異性の匂いを胸一杯に吸い込む。彼女も抱擁に応えてくれて優しく背中に両手を回し、ポンポンと軽く叩いてくれる。

 

「おはようございます。リーンハルト様は、朝から甘えん坊ですね」

 

 彼女の首筋に触れるだけのキスをしてから、名残惜しそうに身体を離す。そして近距離でアーシャと視線を合わせると……あれ?アーシャの服装が見慣れたクラシカルなメイド服だけど?

 ウチのメイド達の正式なメイド服じゃなくて、イルメラさんとウィンディアに着て貰っている僕のお気に入りメイド服だよ。彼女達から借りたのか、新しく用意したのか?

 疑問は尽きないけど、好きな女性にお気に入りの服を着て貰っていると考えれば歓迎すべきだろうか?朝からご褒美を貰えた気分です。

 

「アーシャさん?何でメイド服着ているの?似合っているけど、どうしたの?」

 

 取り合えずそう聞くと、少し離れて微笑んでからクルリと身体を一回転させてからスカートを詰まんで軽く持ち上げながらお辞儀をした。正直、似合っているし凄く可愛い。もう一度思うけど、凄く可愛い。

 

「おはようございます。旦那様」

 

「ああ、おはよう」

 

 朝から眼福だけど、立場上は宜しくなくない?アーシャは現状唯一の側室で、この屋敷の女主人なんだけど……まぁ信頼出来る使用人しか居ないし、来客も居ないから大丈夫か。

 情報が洩れなければ、どうとでもなる。その辺は権力と財力、爵位に武力と色々と営業力が有るから騒がれても何とかなる。まぁ憶測や嘘の場会は、もっとやりようがある。

 その辺は、ザスキア公爵やイーリン達から教わったし実践もした。情報戦って単純な力比べよりも高度で複雑であり、併用すれば効果は何倍にも跳ね上がる。

 

 だからこそ、僕とザスキア公爵が、これ以上親密になる事が危険視される訳だよね。武力・諜報力・財力・英雄の看板、どれも無視出来無い『裏と表を混ぜるな危険』の力だから……

 

「イルメラさんからお願いされたのですわ。今日から忙しくなりますので、気分転換の為にと彼女のメイド服を貸して貰いました」

 

 そう言って恥ずかしそうに微笑まれると、世間体などどうでも良くなってしまうのは……惚れた弱味だな。彼女達の好意を受け入れるのも男の甲斐性?度量?どっちでも良いや。

 それと、イルメラがお気に入りのメイド服を貸す程アーシャの事を気に入っているんだな。家庭円満って事ですね。ウチは家族や仲間の結束が固いのが良いね。

 普通だと他家からの諜報が入り込んだり、情報を流したりする使用人も居るみたいだけどね。ジゼル嬢とリゼルが居るから、それは不可能なんだよね。

 

「それでは、旦那様のお世話をさせて頂きますわ。先ずは身嗜みから整えて頂きます」

 

 甲斐甲斐しくお世話をしてくれる美少女メイドがさ。実は僕の奥さんなんです。しかもこれから増えるんです。それは凄い事だと思うんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王命を達成し王都に戻って来れたので、通常の勤務形態に戻る。長期の出張から日常業務に戻る感じだろうか?上級貴族と言えども勤め人には変わらず王宮に出勤する。

 ある程度の時間的自由は有るけれど、基本は朝九時には自分の執務室に入る。終わりは午後五時、昼食と十時と三時に三十分程の休憩を挟む。

 基本土日は休みにしたが、僕の所に配属される前は酷い勤務形態だったそうだ。統一の就業規則が無いので、上司の考え方で変わってしまうって最悪だぞ。

 

 上級貴族からすれば下級貴族に人権など無い!みたいな連中も過去には居たらしい。

 

 ある程度自由に決められるのだから、健全な勤務形態を設定しても文句は言われない。与えられた業務が滞らなければという条件は有るけど、其処まで難しくない。

 上司の無茶振りや仕事の押し付けが無くて、工程と納期を調整すれば普通は問題が無い筈なのだが……

 久し振りの王宮勤務、自分の執務机にうず高く積まれた承認待ちに書類。最後に回してくれているが、僕が確認しないと決裁に回らないという悪循環。

 

 そして久し振りのデスクワークは、結構しんどいです。

 

 無心で書類に目を通し問題が無ければ決済印を押して決裁済みの箱へ、疑問点が有れば付箋を貼って未決済の箱に入れる。

 未決済書類は有る程度溜まると、アインが回収し担当部署に持って行く。暫くすれば担当者が未決済書類を持って説明に来る。そして納得すれば決済印を押す。

 そんな事を午前中一杯行ったが、未処理の書類の山は半分も減らない。半年近く不在だったので仕方無いとは思うけど……僕が不在でも代理決裁出来る人は居ないの?

 

 内政関係なら、ニーレンス公爵。軍事関係ならローラン公爵とかさ?

 

「そろそろ昼食にしようか?偶には皆で食べよう」

 

 黙々と仕事をする連中に声を掛ける。嫌々じゃない事は雰囲気で分かるけど、根を詰めて仕事をする程には追い込まれてない筈だが?僕の把握していない業務でもあるのだろうか ?

声を掛けないと延々と仕事をする連中が多くて困る。上司が率先して休みを取らないと部下が取り辛いって良く言われるけどさ。ウチの部署はそんなにブラック待遇じゃない筈だよ?

 聞取り調査も兼ねて、全員で昼食を取ろう。幸いというか、拡張された執務室は広く職員全員が打合せ可能な会議室も併設されている。

 

 オリビアに全員分の昼食を会議室で食べる事を伝えれば、直ぐに厨房に連絡をしにいってくれた。オリビアは王宮の料理人達から絶大な信頼を得ているので、凄く融通が利くんだ。

 惜しむらくは、今日は予定が有るとリゼルが不在な事だろうか。彼女がいれば、彼等の本心が丸分かりなのだが……それは失礼に当たるから駄目だな。

 罪人でもないし敵対もしていない部下の本心を勝手にギフトで暴くとか、上司としては失格だよ。反省します。

 

 ちゃんと話し合いで確認しないと駄目だよ。僕はこの辺の、コミュニケーション能力が低いんだよな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 オリビアのお蔭で、殆ど待たされる事も無く出来立ての料理が運ばれてきた。メニューはメインは焼いたソーセージのブラートヴルストにポテトサラダ添え。

 それとシュペッツレと呼ばれるチーズとベーコンがたっぷりのパスタ。パンは薔薇の形をした小ぶりなローゼンヴェッケン、これは見た目重視なのだろうか?

 飲み物は、ワインに果汁水の両方が用意されている。午後も仕事だけど普通にワインが供されるって、しかもフルボトルでだよ。これも貴族の特権だろうか?

 

 全員に料理と飲み物が行き渡った事を確認してから、ワイングラスを軽く持ち上げる。普段はモア教の教義に則って『食材や料理人に感謝』をする。

 貴族的マナーだと、一番身分の上の者が音頭を取って食事を始める。僕はワイングラスを掲げるが、他には単純に『頂こう』と言う場合もあればモアの神に祈りを捧げる場合も有る。

 こういう挨拶や仕草一つも噂として広まる事も多々あり、僕はエムデン王国一番の酒豪という嬉しくない綽名もあるので、それに関連して外ではグラスを掲げる事にしている。

 

 ウチでは?イルメラさんも居ますし、敬虔なモア教の信徒としてモアの女神様に感謝の祈りを捧げています。

 

 まぁ降臨して直接お会いできる事も増えたので、少し感謝の気持ちが微妙に変化しているのは内緒ですが……それはそれです。

 

「食べながらで構わないが聞いてくれ。僕が不在の時に、何か変わった事や困った事は有るかな?」

 

 皆が八割以上食べた頃を見計らって声を掛ける。最初に仕事関連の話を振ると、内容によっては食欲が無くなる事も有るかもしれない。でも食べ終わってからだと手持ち無沙汰になるかの知れないし……

 全員の顔を見渡すが、特に下を向いたり目を逸らしたり挙動不審な者は居ないぞ。アレ?もしかして僕の勘違いだった?心配し過ぎだった?

 表立って敵対している連中は減ったけど、裏で隠れて嫌がらせをする連中が全く居ない訳でもない。僕の不在時に色々と大なり小なり嫌がらせをされたかと思っていたのだけど……

 

「特に問題事は有りませんが……敢えて言えば、そうですね。ハニートラップが増えている事ですかね。主に女性王族に仕える者達からですかね。ははは、無駄な事をしますね」

 

 ロイス殿がナプキンで口元を拭って答えてくれたけど、それって結構な大事だよ。ネクタル絡みの問題が、僕の配下に直接干渉してきてるって事じゃないか?

 笑顔で無駄無駄無駄ぁって笑っているロイス殿達を見て、早い段階でアウレール王に相談する必要性を感じた。その際に、リズリット王妃が同席しない配慮も必要だ。

 ザスキア公爵に相談出来れば……いや、藪蛇?いやいやいや、相談しない方が不自然か?どうしたら良い?ニーレンス公爵やローラン公爵も巻き込んだ方が良いか?

 

 無言で皿に残った、シュペッツレをかき込む。マナーなど構ってられない。嗚呼、君達は僕の行動を真似しなくて良いからね。

 別に早く食べて仕事を再開したい訳じゃないから、勘違いしないでゆっくり食べてくれ!




取り敢えず間に合いましたので投稿します。
次話は少し時間が掛かります。
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