古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第11話

 一時間程ボス部屋以外の部分を回ってみた。

 面白い事に一階層にも固定モンスターを倒す事で宝箱が現れる部屋が一ヶ所だけあった。そしてボス部屋と違い大人気で冒険者パーティが列をなしていた。

 

「大体一回に五分程度掛かってるね。僕等は四番目か……」

 

「宝箱の中身は大した事は有りませんが確実に換金出来るアイテムです。確率でドロップするモンスターよりは効率的です」

 

 扉に付いたプレートには「武器庫」と書かれており宝箱の中身も武器か防具で、運が悪いと最安値のダガー、運が良ければ稀に鎖帷子(くさりかたびら)が出るそうだ。

 前者の買取価格は銅貨五枚で後者は金貨三枚。

 もっとも大抵はショートソードとかレザーアーマーとかの買取価格が銀貨五枚前後の品物らしい。だが数をこなせば儲けはデカい。

  六人パーティで一人当たり金貨一枚稼ぐとして十二回繰り返せば良いのだから。

 部屋から出てきたパーティが列の後ろに並んだ、彼等の手に持つのはスモールシールド、買取価格は銀貨四枚か。

 ローカルルールなのかよく分からないが、待ってる間に他のパーティに話し掛ける連中は居なくて無言で待ってるだけだ。迷宮の中では、お互い詮索無用って事なのだろうか?

 

「やっと僕等の番だ、行くよ」

 

「はい、リーンハルト様」

 

 待つ事二十分、漸く僕等の番になった。扉を開けて先にゴーレム達を部屋に入れる。これには周りの連中もチラ見していた。情報収集の機会は逃さないのは流石だ。

 部屋に入ると既にゴブリンが六匹出現して僕等を見ると奇声を上げて威嚇してきた!

 

「ゴーレムよ、今度は多数との戦いだ、気を付けろ!前衛三体で押さえ込め、一体は防御、僕達に敵を近付けるな!」

 

 ゴーレムは無言だが即行動に移す事で命令伝達が適正である事を示す。うっかり攻防の悪い両手持ちの斧を装備させてしまったが問題無くゴブリン達を倒した。

 魔素となり消えゆく時にドロップアイテムを残す。今回はハイポーションが二個だ。

 そしてお目当ての宝箱が現れた……

 

「初めて見るが結構簡素な造りなんだな」

 

 カッカラで突っ付くが異常は無さそうだ、特に鍵らしき物も付いてない普通の木箱に見える……

 思い切って宝箱の蓋を開くと中にはダガーが一本入っていた。

 

「ダガーですね、外れですね」

 

「ああ、そうだね……最初から最安値とは泣ける。モンスターのレアドロップは二個も出たのにな。祝福(ギフト)は宝箱の中身には関係無いのが分かっただけでも良いや」

 

 次の順番待ちのパーティと代わる為に部屋を出る。順番待ちの連中から哀れみの籠もった視線を送られた事が辛くて、その場を足早に立ち去る……ちくしょう少しは期待してたのに泣けてくるぜ。

 

「イルメラ、武器庫にはもう行かないよ。僕等はボス狩りに専念しよう、木の指輪を十個手に入れる為に百連続ボス狩りだ!」

 

「分かりました、リーンハルト様のお言葉のままに……」

 

 イルメラの暖かい言葉と微笑みが胸に染みた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ボスの小部屋に戻ると誰も居なかった。途中ゴブリン達と三回戦闘になったがレアドロップアイテムは順調に集まった。

 やはりギフト(祝福)は宝箱の中身とは関係無いんだな、少しだけ残念に思う。

 どうやら『デクスター騎士団』の連中も移動したみたいだ。扉の把手を握って回してみたが……回るな。

 つまり中には誰も居ない。

 

「さて、検証の続きをやるよ。準備は良いかい?」

 

 イルメラは権杖を持ち上げる事で同意した。僕等は三十一回目のボス狩りを始めた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「合計六十回か、やはり十回毎に木の指輪をドロップするな。でも百連続は今日は無理だ、集中力が続かない」

 

 ゴーレム制御は大分昔の勘を取り戻してきたな。召喚数も二体なら鉄製のゴーレムを召喚出来るし、青銅なら最大六体まで大丈夫だ。

 

「今日は終わりにしましょう、又明日以降にしましょう」

 

 迷宮探索二日目の成果は上々だろう。

 僕のレベルは12になりイルメラは26になった、流石にボスを60匹倒してもレベルが一つしか上がらないのは……

 ドロップアイテムは沢山集まった。

 ボスのウッドゴーレムを60匹倒して集めた物は木の指輪が6個、木の腕輪は8個、木の盾が14個。

 ゴブリンを52匹倒してポーション11個にハイポーションが15個、それに宝箱からダガーを一本。

 そうダガーを一本だ!

 

「木の腕輪は四個、木の盾とポーション類とダガーは全てギルドに買取ってもらうか」

 

  生活費を稼ぐ、一家の大黒柱として大切な事だ。

 冒険者養成学校に入学すれば一日中迷宮探索をする訳にもいかないから、稼げる時に稼いでおこう。

 

「木の腕輪は予備を持たなくても平気ですか?」

 

 修道服の袖を捲って手首を露にすると木の腕輪と木の指輪が見える、装飾品としてのデザインはイマイチだ。

 

「明日も手に入るからな。一日や二日で壊れる物じゃないだろ?木の指輪については見付かると面倒だから、迷宮から出たら外してくれ」

 

 ギルドの連中に見付かると必ず聞かれるし僕達は一階層しか探索してないから疑われるのは確実。まだ連続討伐のボーナスアイテムについては秘密にしておきたいからね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンクから脱出したら、外は未だ明るい。時刻は午後三時過ぎだろうか? 先ずは管理小屋で手続きを行うが、昨日の口の悪いオッサンは居なかった。

 次は冒険者ギルドの出張所だが数組のパーティが居たので暫く待つ事にする。レアドロップアイテムを買取ってもらっているところは見せたくないから……

 待つ事少し出張所から冒険者が居なくなったのを見計らい、先ずはアイテムの買取カウンターへ向かう。

 良かった、コッチは昨日と同じ巌つい中年男性だ。

 

「アイテムの買取をお願いします」

 

「ああ、昨日のお客様ですね。今日もレアドロップアイテムが有るなら先に預かります」

 

 厳つい外見と言葉使いにギャップを感じるけど確かに何時他の冒険者が入ってくるか分からないからな、買取カウンターなんて……

 

「すみません。では最初はハイポーションを15個と木の腕輪が4個です」

 

「今日は一階層のボスも倒したのですね。ではハイポーション15個と木の腕輪4個、先に預かります」

 

 カウンターの下に急いで隠すように移動してくれた。これで誰かに見られても、後は普通のドロップアイテムだ。

 

「次はポーションが11個とダガー、それと木の盾が14枚です」

 

験を担ぐ為にも不吉なダガーは要らないんだ。次々と品物を並べていくと昨日と同じようにおどろいてくれた。

 

「今日も凄いですね……

先ずポーションは買取価格が1個銅貨5枚で11個ですから銀貨5枚と銅貨5枚。

ハイポーションは買取価格が1個銀貨5枚で15個ですから金貨7枚と銀貨5枚。

木の盾は買取価格が銀貨5枚で14個ですから金貨7枚。

木の腕輪は買取価格が金貨1枚銀貨5枚で4個ですから金貨6枚。

ダガーは銅貨5枚ですね。

合計で金貨21枚と銅貨5枚になります。お確かめ下さい」

 

 トレイに硬貨を綺麗に並べて差し出してくる、ちゃんと数え易いように10枚一組に積んで。

 

「有り難う御座います、またお願いします」

 

「此方こそ宜しくお願いします」

 

 見た目は巌ついが言葉遣いは丁寧だ。流石はギルド職員って感じだな。次に受付カウンターに向かいギルドカードの更新をお願いした。

 今日一日でレベルが三つ上がったがスパンが長くなってるから、明日は同じように頑張ってもレベルは上がっても一つくらいだろう。

 だけど木の指輪を十個集めるまでは頑張るつもりだ。

 残り十一日だが、このペースなら後三日は掛かるかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「パウエルさん、今の子達ですよね?期待の新人って。彼凄いですよ、未だ子供なのに今日だけでレベルを三つもあげてます」

 

 受付嬢のミリンダが報告してくれたが、幾らレベル9から12とは言え凄いハイペースだ。

 パーティメンバーが二人で一階層とは言え、ボスのウッドゴーレム狩りをしてるみたいだから納得はするんだが……

 

「ああ、買取品目で大体の行動は分かる。彼等は未だ一階層しか探索してないが、明らかに連続でボス狩りをしてやがる。

木の腕輪が4個に木の盾が14個だぞ。木の腕輪は多分だが自分達も装備してるから実際は8個以上だろうな。

普通のドロップ確率だったら50いや70回は倒している筈だ……」

 

「そんなに……」

 

 ミリンダの細い目が開く程の驚きも分かる。普通の新人パーティがボス狩りをするなんて聞いた事が無い。特定のアイテムが欲しくて頑張るのは分かるが、木の腕輪なんて貴重な装備品じゃないからな。

 だが金と経験値は効率的に稼げる……

 

「そうか、そういう事かよ。流石は子供でも魔術師なだけはあるな……」

 

「なんですか、パウエルさん?一人だけ笑い出して?」

 

「いやな、奴等の行動を考えたらな、偉く慎重かつ効率的だなって思ったんだ。あの魔術師の少年はレベルが15くらいまで一階層でボス狩りをすると思うぜ。

部屋に出入りするだけでウッドゴーレムが一体だけ現れるんだ。自分も青銅のゴーレムを四体召喚出来るそうだから、まず負けない。

ゴーレムの制御は経験が重要らしいからな、移動してモンスターのポップを待つより断然良いだろ」

 

 全く大した小僧だ、あの馬鹿貴族パーティに見習わせたいぜ。ギルドからBランクの冒険者を斡旋してもらい便乗して経験値稼ぎとはな。

 レベルは簡単に上がるが技術や技能は身に付かないんだぜ。

 

「ん、客か……コホン。いらっしゃいませ」

 

「パウエルさんの営業の言葉遣いって気持ち悪いですよ」

 

 笑いながら受付カウンターへ走っていくミリンダに中指をオッ立てる!

 俺だって気持ち悪いが、これがギルドの職務規定だから仕方なくやってんだ! お前だって猫被ってるだろうが!

 だがギルドの定期報告に『ブレイクフリー』の事は上げておこう。まだ未熟だが将来性は最近じゃ一番だ。

 変な連中に絡まれたり潰されたりしないように注意しておくか。

 奴等は必ず化ける、大化けするぜ、後は盗賊系のメンバーを入れれば安定する筈だ。俺が魔法迷宮バンクの最前線の出張所に居るのも、優秀な新人を見極める為にだ。

 育ち過ぎた連中よりもダイヤの原石みたいな連中を探す方が楽しいんだぜ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 帰りの乗合馬車は並んでいる連中を見極めてから列に入った。何と無くだがパーティメンバーに女性が居るとか身なりが良い連中とかの間に並んだ。

 行きの馬車は五月蝿い勧誘が多かったので疲れている帰りは静かにしてほしい。

 二番目の乗合馬車の最初に乗れた、他の乗客は小綺麗なハーフプレートを着込んだ三十代の男四人組と二十代男女半々の六人組だ。

 

 男女六人組の中にローブを深く被った魔術師がいる、顔は見えないが体型や見えている指などから若い女性だろう。

 感知する魔力量からして未だレベル20には達してなさそうだな。向こうも僕達をチラチラ観察しているが、僕の魔力量に驚きを隠せないみたいだ。

 別に偉そうに魔力を垂れ流している訳じゃなくて魔力制御が未熟なので隠し切れてないのだ、恥ずかしながら……

 ローブの女性が隣に座る女性戦士に耳打ちしている、多分だが僕達の事を教えているんだろう。

 面倒臭いから腕を組んで下を向き寝た振りをする、イルメラは既に僕に寄り掛かり熟睡中だ。

 暫くはガタガタと音と振動だけが馬車内に響く……

 

「ねぇ、若い魔術師君。少しお姉さんとお話ししない?」

 

 痺れを切らしたのか王都まで半分くらい来た時に話し掛けられた。

 

「何でしょうか?僕も連れも疲れています」

 

 軽く拒絶してみた。話し掛けてきた相手は僕よりもレベルは高いがイルメラと同じくらいだと感じる。

 

「そんなに警戒しないで、妹が珍しく貴男に興味を持ったみたいなのよ」

 

「申し訳ありません、既に彼女が居ますから無理です。ごめんなさい」

 

 勿論、色恋沙汰である事じゃない事は理解している。彼女は同じ魔術師として僕に興味が有るという分かり易い理由を付けただけだろう。

 

「いえ、そういう意味じゃないのよ。若い魔術師って少ないから、それでね。ほら、お互い中々同じクラスの人と話す機会が無いじゃない、だから……」

 

 ふむ、慌て振りからして彼女は悪い人では無さそうだ。


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