古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第113話

 ウィンディアから恐るべき情報を仕入れた、イルメラの愛読書についてだ。

 

 タイトルは『御主人様とメイドの午後』しかもシリーズ物。

 

 ウィンディア曰く「公爵家の若き当主と新人メイドの純愛小説」らしいが子供が読んではいけない内容で溢れている。

 

 主人公が仕える御主人様は彼女に色々な無理難題を吹っ掛けては失敗するとお仕置きをするのがパターン。なになに……

 

『このドジっ子メイドめ、何度教えれば美味しい紅茶を淹れられるんだ』

 

『申し訳ありません、御主人様。ですが……』

 

『口答えは許さん、お仕置きだ!今日はこの羽根ペンで……』

 

 パタリと本を閉じて無言でウィンディアに差し出す。

 

「リーンハルト君も興味有るかな?良かったら全巻貸すよ、最初の一巻から読まないと駄目だよね」

 

 純粋に楽しいから読むかって聞いてくるが、僕はイルメラを正式にメイドとして雇っている主人なのだ。

 

「ウィンディア、イルメラに僕がこの本を見た事は秘密にするんだ。じゃないと顔を合わせ辛くなる、頼んだぞ」

 

「二人だけの秘密が増えるね!」

 

 嬉しそうにエプロンドレスのポケットに小説をしまい微笑む彼女の肩をそっと叩いて自室に戻る。

 

「イルメラも思春期か……」

 

 だが僕に小説の主人公みたいな変態行為をして欲しい訳じゃないよな?信じても良いよな?僕はこの後どんな顔をして彼女に会ったら良いんだ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りに早朝から魔法迷宮バンクに行く為に乗り合い馬車の停留場に向かう、エレさんとは停留場で待ち合わせだ。

 生憎と天気は曇りだが両脇に居る女性陣は明るく話し掛けて来る、久し振りに『ブレイクフリー』全員での迷宮攻略だからかな?

 

「リーンハルト様、今回はハーフプレートメイルを装備してるんですね」

 

「ロングソードにラウンドシールドまで装備して、完全に戦士職だね」

 

 レベルが28になった事と『剛力の腕輪』の恩恵で筋力と体力が大幅に上がったので重い鎧も装備出来る様になった。

 

「レベルアップの恩恵とヴァン殿から貰った『剛力の腕輪』の効果だね、重装備でも大丈夫だ」

 

 話ながら停留場に到着したが先に着いたみたいでエレさんは未だ居ない。待合室には数組のパーティが既に馬車を待っている。

 空いていた椅子に座りエレさんを待ちながら周りの連中を確認する、見知った顔は居ないな。

 見た目は戦士に僧侶と魔術師だからチラチラと注目されている、久々だな値踏みされるのは……

 

「リーンハルト君、お待たせ」

 

 エレさんが小走りに近付いてきて挨拶をしてくれる、更に周りが騒つく。戦士・盗賊・僧侶・魔術師と四業種が揃ったパーティは少ない、しかも少年と美少女ばかり。

 

『リーンハルトって、奴等がブレイクフリーか?』

 

『魔術師の癖に戦士、魔法戦士って噂は本当だったのか?』

 

『畜生、餓鬼の癖にハーレムかよ!ああ、憎しみで人が害せるなら……』

 

 魔法戦士?いや、僕は防御の高い装備を身に付けてるだけで戦士職の様に直接攻撃はしないぞ。

 ヒソヒソ話を無視していると順次乗り合い馬車が到着し方々へ散って行った、今回は特に絡まれなかったか……

 

「リーンハルト君の二つ名に『魔法戦士』って良くないかな?」

 

 魔法迷宮バンク行きの馬車に乗り込んだら左隣に座っていたウィンディアが変な事を言い出した。

 

「魔法戦士は複合職だ、僕は魔術師としては自信が有るが戦士としてはどうだろうか?本来は魔術を併用した武器による戦いを得意とする連中の事だから……」

 

「デオドラ男爵に手解きを受けてみたら?」

 

 ウィンディアがもっと変な事を言い出した、あの戦鬼(オーガー)に手解きをだと?

 

「嫌だ!未だ父上を頼って騎士団の合同演習にでも参加した方がマシだ」

 

「リーンハルト様はディルク様と共に騎士団の練習に参加された事も有ります。

ディルク様の評価は人並み程度の素質有りでしたから、直接武器を振り回して前線に出るのはお止めになった方が……」

 

 右隣に座ったイルメラから冷静なご意見を頂きましたが、僕だって転生前はポイズンダガーを操り接近戦もこなしていたのですよ。

 転生後も基礎鍛練は続けているので並の戦士には負けないと自負している。

 ゴーレムによる集団戦を指揮する事に特化している事も理解しているから、指揮せず前線に出ても効率が悪いだけだけどさ。

 

「リーンハルト君が前線で戦う事になれば私達は全滅寸前……」

 

「そうですね、ゴーレムさん達が全部やられてしまった訳ですものね」

 

 確かに後衛職の僕が前線で直接攻撃など魔力切れの状態位だろうな……

 

「そろそろバンクに着くよ、準備しよう」

 

 エレさんの意見にイルメラが同意して話は終わりとなった。でも魔力切れ対策は練っておく必要が有るな、幾ら魔力保有量が多いと言っても無限じゃないからな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 騎士団の出張所に行って名簿に記入する、知り合いは……『マップス』と『野に咲く薔薇』の名前が有った。朝早くから頑張っているんだな……

 

「今日は四人か」

 

「はい、久し振りにパーティ全員で一日頑張ります」

 

 派遣されている騎士団員にも顔見知りが多く挨拶や雑談位はする様になってきた。

 

「まだ子供なのに大変だな、近々騎士団主催の大規模討伐が有る。ディルク殿も参加するそうだ」

 

「父上が?騎士団が出張るとなればオークですか?」

 

 エムデン王国は定期的に冒険者ギルドに依頼を出す他に騎士団によるモンスター討伐も行っている。

 これは訓練も兼ねているが強力なモンスターには純粋な戦闘集団である騎士団の方が効果的だからだ。

 だから大規模な群れになってしまった場合は騎士団が出張ってくるし、宮廷魔術師やモア教会からも人員が派遣される。

 高ランクの冒険者達なら対応可能だが、彼等はより高度な依頼を請けているので単純なモンスター討伐は余り請けない。

 中堅以下の冒険者達では数を集めないとオークには勝てない。ラコック村の悲劇が良い例だろう……

 

「そうだ、ザルツ地方で複数のオークの群れが確認されている。

範囲が広いから冒険者ギルドと連携になるかも知れない。それと騎士団の子弟達が何人か参加するみたいだ」

 

「後継者の顔見せですか?」

 

 世襲制の貴族の騎士団員は事前に顔見せの為に討伐や演習に自分の後継者を参加させる事が有る、手柄を立てれば上司の覚えも良くなるし慣例みたいな物だ。

 何れはインゴも父上と共に参加する事になるだろう。

 

「ああ、成人したら騎士団入りの連中だな。お前も頑張れよ!」

 

 肩を強く叩かれたが、僕はバーレイ男爵家は継げませんから頑張りませんよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 迷宮に入る前にゴーレムポーンを六体錬成する、装備はロングソードとラウンドシールドだ。

 同じ馬車には他に二組のパーティが居たが騎士団員と話し込んでいる内に先に迷宮に入って行った。

 先頭に四体、後方に二体の配置でバンクに入り魔法の灯りを周辺に八個浮かべる。

 

「今日もビッグボア狩り?」

 

「うん、もう一回ギルドの指名依頼を達成しよう。それから午後は様子見で四階層に降りる、罠が有るからエレさんの出番だね」

 

 四階層からは罠が有るが低レベルの盗賊でも九割近い解除率らしいから、レベル18のエレさんなら問題無いだろう。

 四階層のボスはコボルドリーダーで配下のコボルドと一緒に出現する。

 ドロップアイテムはハイポーション、レアは銀の指輪で効果は毒回避10%と微妙だが買取値は金貨5枚と高額だ。

 これは冒険者だけでなく一般の女性にも贈ると喜ばれるから常に品薄のマジックアイテムだからかな。

 兄弟戦士の情報によると結婚を申し込む時に渡すと喜ばれて成功率が上がるらしい……本当かな?

 

「む、前方に魔素が集まっている。ゴーレムポーンよ、実体化と共に攻撃、ウィンディアとエレさんは討ち洩らしを警戒、イルメラは魔法障壁の準備を……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 三階層のボス部屋に辿り付く迄に四回戦程こなした、パーティの役割分担は上手く行っている。

 ボス部屋に到着したが珍しく先客が戦っているらしく扉が開かなかった。

 

「珍しいな、ビッグボアは何度も戦っているが他のパーティと遭遇したのは『マップス』位だったのに……」

 

「周囲を警戒しながら暫く待ちましょう」

 

 扉から5m程離れて前後にゴーレムポーンを四体配置して待つ事にする。

 扉の中は大分苦戦しているみたいで僅かにだが怒鳴り声が聞こえて来る……長いな。

 既に10分は過ぎているが未だ僅かに声と音が聞こえるのは苦戦して長期戦に縺れ混んだか?

 

「全く魔力切れかよ、回復が間に合わなくて死にそうになったぞ」

 

「お前が早く倒さないからだろ?こちとら魔力も切れて武器も防具も貧弱なんだ、死ぬかと思ったぜ」

 

「未だ早かったんだよ、地道に経験値を貯めてレベルアップしようよ」

 

 漸く中から冒険者パーティが出て来たが大分苦戦したらしいな、あちこちボロボロの傷だらけだが全員無事みたいだ。

 

「うぉ?人数多いな、二組待ちだったか?」

 

「いや一組だ、八体はゴーレムだよ。お疲れ様、苦戦してたみたいだな」

 

 十代後半だろうか?部分的に金属で補強した革鎧を着た男を先頭に四人の男達がボス部屋から出て来た。

 残りは同じ戦士職が一人と盗賊職と僧侶が各一人ずつ、バランス型だな。

 

「ふーん、ソッチの彼女が魔術師でゴーレム使いか。戦士に僧侶、それに盗賊とは豪華メンバーだな」

 

 魔術師姿のウィンディアをゴーレム使いと勘違いしたのか羨ましそうに見詰めている、思わずウィンディアが僕の背中に隠れる。

 

「勧誘はするなよ、大切なパーティメンバーなんだからな」

 

 彼等のパーティに魔術師が加われば理想的だろう、しかもゴーレム使いはダメージ無視の前衛が可能だ。

 

「数少ない僧侶と魔術師を抱え込むとは贅沢なパーティだな。俺達は『ワイルドカード』だ、悪いけどポーション譲ってくれない?ウチの馬鹿僧侶が魔力切れなんだ」

 

 致命傷こそ無いがボロボロだから仕方ないか……

 

「幾つ欲しいんだ、余裕は有るぞ」

 

 予備用のストックの他に今日のドロップも有るから十個位なら平気かな。

 

「悪いがギルドの買取値で良いか?余裕が無くてさ。出来れば五個欲しい」

 

 普通のパーティなら資金繰りで大変だからな、なるだけ節約したいか。

 

「まぁ良いか、一個銅貨五枚だから五個で銀貨二枚銅貨五枚だな」

 

 腰に吊した革袋からキッチリ硬貨を出して数えてから手渡してくる。替わりにマジックアイテムの革袋からポーションを五個手渡した。

 

「悪いな、感謝する。それと……そっちの魔術師の彼女の名前は?」

 

 品物を貰ってから勧誘を始めるとはな、中々嫌な連中じゃないか。

 

「嫌よ、感じ悪い。何より私は引き抜きなんて応じないわよ、諦めてね」

 

 僕の両肩に手を乗せて顔だけ出して断りを入れている彼女に合わせてゴーレムポーンを動かす。

 左右から挟み撃ちをする様に距離を詰めると慌てて手を振って本気じゃないアピールをしてきた。

 

「違うって、好みのタイプだから名前を聞いただけだって!」

 

 苦しい言い訳だがパーティの女性が褒められているのでゴーレムポーンを少し下げる、警戒は解かないけどね。

 

「じゃ余計無理よ。私はリーンハルト君の物だから諦めてね」

 

「ちょ、誤解を……」

 

「何だよ、恋人同士かよ。じゃな、ポーションありがとよ」

 

 諦めて出口に向かって歩いていく連中を見えなくなるまで見ていた、これからも勧誘は多いだろうな。

 名前は売れ始めたが顔と一致するのは難しい、僕等は少年と美少女だけだから上手く騙せば……

 

「何時までリーンハルト様の影に隠れているのですか?」

 

「仕方ないじゃない、嫌らしい目で見られてたんだから……」

 

 確かにあの男達の目は嫌だったな、何て言うか……これはアレを作って渡すしかないか、レベルも上がったし今の僕なら作れるだろう。

 


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