古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

115 / 999
第115話

 久し振りの全員での魔法迷宮バンク攻略は大成功だった、四階層まで下りたが十分に対応可能だ。

 残念ながら宝箱については毎度お馴染みのダガーだったが罠解除も解錠もエレさんが問題無く行えた。

 冒険者ギルドからの指名依頼のビッグボアのレアドロップアイテムである肝も指定の十個を納品しポイントも貰えたし換金も金貨七十枚以上になった。

 暫くはバンク攻略を続けるつもりだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バンク攻略を終えて帰宅した、夕食を終えて自室に籠もる、今夜はイルメラ達の防具を作成する。

 目の前に二つ並んだギャンベゾンを見詰める、イルメラとウィンディアの物を自立したハンガーに吊している……

 

「身体のライン通りに立体縫製して貰ったが、何て言うか照れくさいものだ」

 

 直接裸を見てる訳ではないが想像出来てしまうアイテムだからな、全く思春期の少年じゃあるまいし甘酸っぱい青春じゃないか……

 暫し転生の恩恵?を堪能してからギャンベゾンの出来栄えを確認する。

 

「リネンを四層に重ねてキルト状に丁寧に縫い合わせてあるな、ある程度の防刃と衝撃吸収も期待出来るだろう」

 

 ギャンベゾンの出来栄えは十分だ、此処から先は僕の仕事だろう。

 

 先ずは胸部と背部を守るキュイラスの作成だが、身体の側面湾曲面に合わせて折り曲げた鉄板を組み合わせて可動性を高めなければならない。

 素材は鋼鉄、戦士用よりも薄くし尚且つ軽量化と固定化の魔法で補強する。

 上級魔力石を核として魔力を込めて魔素を集め錬金を開始、パーツを一つずつ錬成して組み上げる。

 

「出来た、悪くない出来栄えだ……重量は軽量化の魔法を付加して4㎏、魔力補助無しの素材だけの重さなら10㎏って所か。

コレで胸部と背部の防御力は高くなったが、もう少し手を加えるかな」

 

 彼女達はゆったりした修道服とローブを着ている、だから肩と腰周りに装甲を追加してみるか。

 先ずは見えない腰の部分だが腰部を守るフォールドと吊り下げられた二枚一組の小板金のタセットに臀部を守るキュレットを錬成して取り付ける。

 

「うん、少し腰回りが太く見えるかな?でも安全重視で我慢して貰おう」

 

 流石にチェインメイルスカートに大腿部を守るキュイッスと膝を守るポレイン、脛を守るグリーブと足を守る鉄靴ソールレットまで作るとフルプレートメイルと変わらないな。

 これで総重量は5㎏位かな?

 同じ条件で二つ目も作り上げる、軽量化と固定化の魔法付加の他に衝撃緩和の魔法も付加し魔力供給元の上級魔力石を背中に二ヶ所追加する。

 

「性能的には完璧だ、後は装飾に拘ろう。ベースは銀色だから金で模様……魔力が枯渇しそうだ、久し振りに大量の魔力を消費したな」

 

 目眩にも似た疲労感、魔力枯渇の症状だ。回復しないと……

 ベッドに仰向けに倒れこみ暫く目を閉じて休んでから空間創造から上級魔力石を取り出して魔力を回復する、一個じゃ全然回復しない……どれだけ鎧制作に魔力を注ぎ込んだんだろう?

 仕方なく三個使用して漸く目眩が無くなった。

 

「さて、デザインだがどうしようかな?」

 

 金の唐草模様で縁取りを入れて、胸に鷹の紋様を……うむ、中々格好良いが隊長クラスの装飾になってしまったかな?

 もう一つの方はシンプルに金の縁取りだけにしてみる、落ち着いた感じだ。

 

「リーンハルト君、お風呂空いたよ!」

 

 ウィンディアがノック無く部屋に入って来た、夜に男の部屋に気安く入ってくるんじゃない!

 

「無断で扉は開けない、レディがはしたないぞ」

 

「うわぁ!コレ私達の鎧でしょ?凄い高そうだよ、それに重そうだし……使えるかな?」

 

 全金属製の殆どハーフプレートメイルと変わらないからな、肩当てと首周りの部材が無い位か……

 

「試しに持ってみれば良いよ、軽量化を付加してるから総重量は5㎏位だけど肩や腰周りの締め付けで掛かる重量を分散しているから思ったよりは重く感じないよ。

性能的にも悪くない、固定化を重ね掛けしてるし自動的に攻撃の衝撃も緩和してくれる」

 

 ニケさんに渡した鎧より出来は良い筈だ、いまの僕に作れる最高の品質と性能だと自信を持って言える。

 

「何か色々聞いちゃいけない内容が有ったと思う、私達の為だとしても他人に見せられないよ」

 

 急に真面目な顔をするウィンディア、何か不味かったか?

 

「ローブの下に着込めば問題無いだろ?リーダーとしてパーティメンバーの安全は最優先だ、勿論情報漏洩には注意するよ。

微調整するから別室でギャンベゾンを着て来てくれ、鎧を着るのは慣れてないだろ?」

 

 一旦鎧を分解しギャンベゾンをウィンディアに渡す、着るのは別室じゃないと問題が発生するからね。

 

「リーンハルト様、どうかしましたか?」

 

 イルメラも来たので二人にギャンベゾンを渡して着替える様に部屋から追い出す、遠慮がちな彼女達はある程度強制しないと駄目なんだよな。

 暫く待つとギャンベゾンに着替えた彼女達が現れた……

 

「不味い、身体にフィットしたギャンベゾンだが下半身部分はミニスカートだった。本来は上下シャツとズボンなのに丈の短いワンピースみたいだ」

 

 確かギャンベゾンを作る時にキュイラスを作るからと上半身から腰迄で良いって言った気がする。

 結果的に破壊力が有り過ぎるデザインになってしまった……

 しかも二人共着痩せするのか中々スタイルが良いし、赤くなって恥じらう姿が魅力を押し上げている、両手で裾を押さえる仕草とか破壊力抜群だ。

 

「あの、見詰められると恥ずかしいです」

 

「リーンハルト君、目が危険だよ」

 

 いかん、暴走する所だった落ち着け!

 

 視線を逸らして深呼吸を数回して心拍数を下げる、危うく当初の目的を忘れる所だった……反省。

 

「先ずはイルメラからだ、キツかったり当たって痛い所が有れば教えてくれ」

 

 一旦バラした鎧を装着させていく、基本的に一人で着れる構造と金具にしているが順番が有るので慣れる迄は補助が必要だ、因みにイルメラの鎧はデザインがシンプルな方だ。

 

「どうかな?」

 

「軽いです、動きも阻害されませんし音も静かですね、この上からイェニー様から頂いた修道服を着れば防御面では十分でしょう」

 

 両手を動かしたりクルクル回ったりして着心地を確かめているが、回るとだなタセットも一緒に捲れ……

 

「つ、次はウィンディアだ」

 

 精神力を振り絞り目線をウィンディアに向ける、危なく神秘のゾーンを見てしまう所だった。

 僕の目の前迄歩いてきて両手を水平に上げ鎧を装着させ易くしてくれる、流石はデオドラ男爵一族だけあり慣れているな。

 鎧のパーツを全て装着し金具も留める、完璧だ!

 

「どうかな?不具合は有るかな?」

 

 イルメラと同じ様に両手を振り回したりクルクル回ったりして着心地を確認しているが、さり気なく視線を逸らした……同じ間違いはしない。

 

「うん、凄く動きやすいよ。鎧を着てるなんて思えない程に……

だけど、この鎧って魔法迷宮の最深部で宝箱から見付かるかドワーフやエルフ謹製の最高級品質、誰かに知られたら大変だよ。

例えデオドラ男爵様にも教えちゃ駄目だと思う、だから使えないよ」

 

 何時になく真剣だが、今の魔法技術では作成不可能なのか?まだ性能向上は可能なのに、今はそこまで魔法技術が低いのか?

 

「そうですね、余計な目を引く事は無いです。これ程の防具が必要になる事は有りませんわ」

 

 む、確かに過剰な能力付加だったか?だがしかし安全を疎かにする訳にもいかない。

 不安そうに見詰める二人は本当に僕を心配してくれているのが分かる、ならばダウングレードで我慢するか……

 

「分かった、少しばかり性能が良過ぎたみたいだ。だからグレードを落として他の物もつくるよ、コレはもう少し難易度の高い依頼の時に装備しよう」

 

 材質を鉄にしてキュイラスだけにすれば問題無いだろう、固定化は重ね掛けすれば飛び道具は貫通しない強度は保てる。

 デザインは今風にして装飾は控えて通気性と消音性を高める構造は大丈夫な筈だ、あくまで付加魔法が問題なだけで。

 

「済みません、私達の為に作ってくれたのに……」

 

「でもバレたら周りが騒ぎ出すよ、下手したら王国がお抱え鍛冶師にとか嬉しくない未来が見えたもん!」

 

 二人並んで頭を下げてくれるが僕が迂闊なだけで彼女達が悪い訳じゃない。

 

「二人共心配してくれて有り難う」

 

 折角の力作だが暫くは空間創造にしまって危険度の高い依頼の時に着て貰おう。

 それとウィンディアに対しては感謝しなければならない、雇い主(デオドラ男爵)に秘密にするって言ってくれた事を……

 彼女はデオドラ男爵から派遣されている、その立場で雇い主より僕を優先してくれた、裏切りに近い行為だ。

 だが錬金についてデオドラ男爵やジゼル嬢達は僕がかなりのレベルである事も知っている、色々とやらかしたから……

 次にデオドラ男爵と会う時に、ウィンディアから頼まれたからとデオドラ男爵用に鎧を作って贈ろう。

 勿論、性能的には彼女達のダウングレード版と同等位にすれば良い、同じグレードの物をウィンディアが着ていても文句は出ないし怪しまれない。

 優先して少数をデオドラ男爵に渡せば周りにバレない様に配慮もしてくれるだろう、ジゼル嬢の苦労は増えるけど……

 鎧と言えばニケさんに渡したハーフプレートメイルだけど、使用頻度によっては魔力が減ってないかな?

 今度連絡してみるか、アフターケアも必要だし。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 パーティの防御力アップについては、やり過ぎてしまったので新しく作り直した。

 鉄製のシンプルなデザインのキュイラスだが固定化と軽量化を付加し背中に上級魔力石を付けてカバーで見えなくした。

 重量は4㎏、普通の物より強度は五割増し重量は三割減の性能だし見た目はゴーレムポーンと同じにした。

 これ位の性能のマジックアーマーは数は少ないが出回っているので何か言われても大丈夫だと思う。

 実際にバンク攻略で着て貰ったが服の下に着込んだら殆ど分からない、それこそ叩いて金属音がしない限りはバレない。

 鉄靴のソールレットを履いて貰い地味に防御力を上げたり五日間繰り返し調整し何とか彼女達専用のキュイラスとして満足に仕上がった。

 問題は慣れない鉄製鎧の為に昼の休憩の時に脱いで身体をマッサージし筋肉疲労を取り去る必要が有る事か……

 こればっかりは慣れと肉体的強化は必要だから仕方ないだろう、時間が解決してくれる。

 そして五日間毎日バンクを攻略し三階層のボスを倒し続けた事により、漸くエレさんがレベル20にウィンディアがレベル24にイルメラがレベル28になった。

 次回からは四階層を攻略する事にして今日は早めに上がり冒険者ギルドに寄って毒消しポーションを買い足しする事にする。

 新しい効率的な依頼が有るかも知れない、討伐数の見込める依頼はポイントが溜まり易いからビックビー討伐とか出てないかな?

 

 そう思って久し振りに王都にある冒険者ギルド本部に来た、毎回コソコソ陰口を言われるのだが今回もそうだ。

 数組のパーティが僕等を見ながら何かを話している、嫌な感じだ。

 受付カウンターに行ってギルドカードの更新をお願いする、流石に短期間でレベル28になった事には驚かれた。半月でどんな経験値稼ぎをしたんだみたいに?

 ギルドカードの更新を済ませてからランク別の依頼掲示板に向かう、見るのはDランクの依頼だ。

 午後三時過ぎと中途半端な時間の為が掲示板コーナーは空いている、討伐系の依頼を探すがオークの討伐依頼が幾つか有るな……

 ザルツ地方で異常繁殖して人里や街道まで下りてきているのか、異常繁殖って事はその前に多くの女性達が攫われていた筈だ。

 又は強力な個体が群を統合して数を増やしているか……

 どちらにしてもDランクの依頼としてはキツいと思ったが依頼書の最後の方にエムデン王国騎士団との共同作戦と書いて有った、バンクの受付に居た騎士団員の話した事を思い出す。

 

 騎士団との共同、国の紐付き依頼は遠慮した方が良さそうだな……




夏休み特集は終わりです。次回116話は8月21日(木)に掲載します。
来週8月18日からは、もう一つの連載「榎本心霊調査事務所」を1週間連続掲載します。
よければ其方も読んで頂けると幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。