古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第125話

 模擬戦とはいえ毎回攻め方を変えてくるとは、どれだけ戦闘のバリエーションが有るのだろうか?

 人馬兵、要は騎士団のランスアタックだ、強力な突進技をダメージ無視のゴーレムで運用出来るのは有効だな。

 重装備の騎士といえども敵と肉迫する戦い方は反撃を受ける事も有る、だがしかし……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「今回で模擬戦は止めさせた方が良いかもしれないですね」

 

「何故かしら?お父様も屋敷の皆も毎回楽しみにしてますわよ?」

 

 お父様自身が模擬戦を行うのは稀なのですが、リーンハルト様の相手は殆どご自身で行います。

 普通はお父様の一方的な勝利での終わり方になるのに、彼の場合は周りに魅せる戦いとなる、だから人気が有り皆が楽しみにしているのだけど……

 

 ですが二人の戦いを見るアルクレイドの表情は険しい、毎回違う戦い方を見せてくれるリーンハルト様はデオドラ男爵家の皆からも人気が高い。

 武を尊ぶ気質の有る連中は最強と謳われる当主と互角に近い戦いを繰り広げる彼に好意的になりやすい……

 だから模擬戦を止めさせるのは問題になると思うのだけれど?

 

「互いに手加減が出来なくなってきている、手を抜けない相手なのに手加減しなければならないジレンマにデオドラ男爵の理性が何時まで保つか分からない」

 

「手加減?あの戦いでですか?」

 

 どうみても本気で戦っているわ、最低限の怪我をさせない配慮だけして……お互い獰猛な笑みを浮かべてるし。

 リーンハルト様は気付いているのだろうか?普段は穏和なのに模擬戦の時の吊り上がる目と口元を。

 

「あの山嵐って魔法は本来は金属の刃を突き出す術だ、手加減して岩で作り先端を丸くしている。

デオドラ男爵も五月雨や五月雨二式を出しているが本来の威力の半分程度、お互いがお互いの限界を気にしながら手加減して戦っている。

だが忍耐力って意味ではリーンハルトの方が強い、デオドラ男爵が楽しくなりすぎて手加減を忘れたら殺試合(ころしあい)になるぞ」

 

「殺し合い……それは困ります、リーンハルト様を傷付けるなんて!」

 

 リーンハルト様が傷付く?あの毎回私を困らせ恐怖に陥れる彼が……

 

「今回は大丈夫そうですね、時間切れの引分けになりそうだ」

 

 目の前ではゴーレムナイトを使った円殺陣を捌いているお父様が、ゴーレムポーンと違い一撃で切り伏せられない為に苦戦しているわ。

 最初見た時よりも動きが鋭く連携も良くなっているのが武に関しては素人の私にも分かる、何て言う成長スピードなのだろうか……

 

「時間です、双方武器を収めて下さい!」

 

 審判役の執事が止めに入り漸く二人の動きが止まる、ですがお父様の顔は興奮が収まらないみたいで悔しそうに審判役を睨み付けている。

 ですがリーンハルト様は何時もの柔和な顔に戻られた、理性という枷の鍵は強固なのね。

 

「確かに次回は危険かも知れませんわ、ご自分で決めた五分のルールに文句が有りそうですもの」

 

「そうだな、毎回沸き上がった闘争心を鎮める為にボッカ殿達を扱いたり側室達の部屋を訪ねている。凄く野性的になるらしい……」

 

 まぁ?お母様達の部屋で野性的に?私達の弟か妹が増えるかもしれませんわね……

 

「んっんん、その件はアルクレイドからお父様に伝えて下さい。私はリーンハルト様に伝えますから……」

 

 お父様を本気にさせる程の彼の相手は、アーシャ姉様の手には余るかも知れない、でも私は、私は彼と添い遂げる事は怖くて嫌……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 興奮が収まらないデオドラ男爵が場を外しジゼル嬢がお茶会に招いてくれた、参加者はジゼル嬢とアーシャ嬢、後ろにはウィンディアが控えている。

 今日はルーテシア嬢は居ない、所用で出掛けているらしい。

 庭の一角の池の傍に設置された東屋でお茶をご馳走になる、茶請けは杏を乾燥させたお菓子だ。

 ウィンディアが普段の猫の様な雰囲気は鳴りを潜めて無表情だが洗練された所作でお茶を淹れてくれるが、違和感が凄いな。

 

「今回も引分けでしたが、模擬戦は終わりにする様にお父様と話します。大分手加減が出来なくなっているそうですし、お父様も興奮をおさめるのが大変らしいですわ」

 

 ポンポンと弟や妹が出来たりボッカ兄さんが怪我をしたりじゃ大変ですわ。

 

「それは有り難いのですが、大丈夫ですか?自分で言うのも何ですが模擬戦を楽しみにしていますよね?それを……」

 

「お父様は娘の私から言うのも何ですが自分の事になると我慢弱い所が有ります、特に自身が戦う事については抑えが効かないのでしょう。

あのまま模擬戦を続ければ何時か殺し合いにまで発展すると、アルクレイドが言っていました」

 

「アルクレイドさんがですか……それは信憑性が有りますね、付き合いの長さは一番でしょうし」

 

 毎回少しずつ笑いに狂喜が混じってたと思っていたが、間違いではなかったのか……

 黙って聞いているアーシャ嬢の手が震えてカップが小刻みに鳴っている、実の父親の狂気に驚いて怖くなったのだろうか?

 

「デオドラ男爵は狂人じゃないから大丈夫です、心配は無用ですから安心して下さい」

 

 震える彼女の手に自分の手を添えて微笑みながら目を合わせる、深窓の令嬢には厳しい内容だな。

 実の父親は興奮したら人を殺しかねないとかハード過ぎる内容だ……

 

「私、リーンハルト様が傷付く所を想像したら……その……凄く恐ろしくなってしまって……」

 

「例えデオドラ男爵が本気で殺しにきても防げる手立ては幾つか有りますから大丈夫です、心配しないで下さい」

 

 純粋な好意、何の含みも打算なく心配してくれる彼女を僕は嬉しく思う。軽く握ってから手を離す、他の女性陣からの視線が冷たくて気持ちが萎えるんだ。

 ジゼル嬢は僕とアーシャ嬢をくっ付け様としてるのに何故かコミュニケーションを咎める時が有るんだよな、ベタベタ触れる訳じゃないのだけれど……

 

 その後は当たり障りの無い時事ネタや趣味等を話して時間を潰した、デオドラ男爵から呼び出されたのはキッチリ二時間後だった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 デオドラ男爵の執務室に通される、既にアルクレイドさんも疲れた顔で椅子にもたれ掛かっている。

 デオドラ男爵はスッキリした顔だ、側室さんと宜しくヤッていたのだろう。

 もしかしたらジゼル嬢達の妹か弟が生まれるかもしれないな……

 

「待たせたな、どうもリーンハルト殿との模擬戦は気持ちが高ぶって仕方ないんだ。アルクレイドは今回で模擬戦を止めろと言うのだが……」

 

「そろそろ我慢が出来なくなってきた……でしょうか?前にも言いましたが屋敷の中庭では手狭になりましたし、暫く控えるのは僕も良いと思います」

 

 デオドラ男爵は戦いにのめり込むと周りが見えなくなりそうだ、剣激突破で娘達を巻き込みそうになったりしたし……

 凄く残念で悲しそうな顔をされても困ります、大人が子供に向ける顔じゃないですよ、ソレは。

 

「む、むむむ、暫らくは自重するか……

さて本題だ、知ってると思うがザルツ地方に異常繁殖したオークを討伐しに行く事になる。エムデン王国聖騎士団と冒険者ギルド本部、それに貴族枠の三部門合同作戦だ」

 

「はい、父上から聞いています。我が弟インゴも父上の後継者として聖騎士団枠で参加します。僕はデオドラ男爵家の家来としての参加ですね?」

 

 三部門合同と言っても聖騎士団は最前線のオーク本体を冒険者ギルドの参加者は周辺の露払い的な扱いだろう。

 貴族枠、これは難しい。騎士団は元々国を護る為に雇われている存在、冒険者達は依頼を請けている。

 だが貴族枠は違う、貴族の責務として自費で討伐に参加する連中だ。

 当然だが分かり易い見返りや成果が期待される、善意の無料参加など有り得ない、必ず何らかの結果を求められる。

 

「家来とは違う、リーンハルト殿には俺の補佐役として実質的には副官として参加して貰う事になる。

デオドラ男爵家一族からは俺とお前だけで、後は私兵が三十人だ。お前はジゼルの婚約者として一族になる予定だな、討伐遠征の結果によっては……と言う建前で参加になる」

 

 ちょっと待て、当主自らが参加となれば求める成果もデカいだろ!適当にオークを百匹や二百匹狩る程度じゃ釣り合わないぞ。

 

「デオドラ男爵が自らですか?武闘派の重鎮が自らの参加ともとなれば求められる結果は……今回の騒動の張本人の捕縛か討伐ですか?」

 

「そうだ、俺の周りには頭の回る奴が少ない。俺が参加すると言ったら、共にオークを殲滅しましょうとかお供しますとか物事を深く考えない兵隊の資質しか無い奴ばかりだ。

お前と同じ結論に辿り着いたのはアルクレイドとジゼル、それとルーテシアだけだった」

 

「ルーテシア様もですか?」

 

 少し、いや大分彼女を見直したぞ。戦闘絡みの事について彼女は脳筋じゃない、ちゃんと周りが見えているんだな。

 

「そうだ、我が子達で娘だけが俺の考えを理解出来る、息子共は兵隊としては一流だが指揮官として貴族として家を守る事は二流以下だ」

 

 深く深くため息をついたぞ、肺の中の空気を絞り出すみたいに……

 

 アルクレイドさんは従軍出来ない、デオドラ男爵が留守の間、家を守る必要が有る。

 残念ながら女性のルーテシア嬢も同行出来ない、そして家来のアルクレイドさんが対応出来ない事はジゼル嬢が補佐し彼女が対応する。

 女性とはいえデオドラ男爵の後継者に嫁ぐ直系だから、それなりの権限は持っているだろう。

 

「首謀者のコトプス帝国の残党やビーストティマーの存在を掴んでいるのですね?」

 

「ああ、掴んでいる。オーク以外にトロールやオーガー、それにワイバーンも確認されている。どうだ、お前は奴等と戦えるか?」

 

 トロールやオーガーなら問題無い、楽勝とは言わないが無茶しなければ今の僕なら勝てるだろう。

 問題はワイバーン、最強のモンスターであるドラゴンの亜種だが強力だ。ドラゴン程の体力や防御力は無いが飛ぶし炎も吐く強敵には違いないが……

 

「特に問題無いと思います。トロールやオーガーなら二十匹程度なら大丈夫ですし、ワイバーンは少し手強いですが基本的に体力と防御力が低い連中ですから何とかなるでしょう」

 

 空中高く飛ばれたら手は出せないが攻撃する為には接近して来るから迎撃出来る。ゴーレムによる投擲攻撃でも僕のアイアンランスでも倒せるかな。

 

「俺もだ、問題無いな。俺達は討伐遠征に参加したら真っ直ぐ敵の本体に向かう。

しかしアレだな、トロールやオーガーが問題無くでワイバーンが少し手強い程度か……」

 

「問題は案内人と移動手段ですね、資器材は僕の空間創造に全て収納出来ます。

出来れば騎兵で統一して素早く移動出来れば良いのですが、現実的には騎馬と馬車併用、街道を進めるまで進んで途中から徒歩ですね」

 

 敵地の街道を馬鹿正直に進むのは危険だ、必ず罠や待ち伏せが有るだろう。

 確かザルツ地方に向かう街道は三本、中央は騎士団が進軍し残り二本のどちらかを選ぶ訳だが……

 

「そうだな、地図を見ればルートは三本。中央は騎士団が進軍し敵の本体を引き付ける役目だ、激戦になるだろう。

残りは二本、山岳地帯か沿岸部だが敵の本拠地は山岳地帯の方だ」

 

 机に広げられた地図には三本のルートは赤く色付けされていて山岳地帯の一ヶ所に赤丸が付けられている、此処が目的地か……

 

「まぁそうでしょうね、山岳地帯に生息するオーク達を繁殖させているのですから……するとカフカの村まで急いで進軍し、此処から徒歩ですね」

 

「更に近いニレの街にしないのは?」

 

 カフカの村より更に10㎞先にニレの街が有るけど……

 

「近過ぎます、奴等の補給基地になってそうですし監視もされてるでしょう。

カフカの村は山岳地帯の寒村、村人への口止めも容易ですし直ぐに山道に入れます」

 

 ニレの街は街道沿いの盆地でこの地方の交通の要所だから必ず監視してる、そのまま細かい情報が敵に流れてしまうだろう。

 

「なる程、ジゼルと同じ作戦だな。採用だ」

 

 この時はそこまで深く考えなかった、デオドラ男爵の補佐としてなら手柄は全て彼の功績になるからだ。

 

 しかし実際は……このオーク討伐遠征が僕の将来を大きく変える事になる。

 

 

 

『ブレイクフリー』

 

前衛:ゴーレムポーン1~50体からゴーレムナイト1~20体まで、混成部隊も可能

 

後衛:リーンハルト レベル28(土属性魔術師)ゴーレム制御:ギフト(空間創造・レアドロップアイテム確率UP)

 

後衛:イルメラ レベル29(モア教僧侶)治癒・防御魔法:ギフト(回復魔法効果UP)

 

後衛:ウィンディア レベル26(風属性魔術師)攻撃・補助魔法:ギフト(消費魔力軽減)

 

後衛:エレ レベル20(盗賊)索敵・罠解除:ギフト(鷹の目)

 


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