古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第128話

 ザルツ地方に異常繁殖したオークの討伐遠征、エムデン王国聖騎士団が出張る程の大討伐遠征作戦となってしまった。

 ザルツ地方に行くルートは三本、中央の一番広い街道は本隊の聖騎士団が既に進軍している。

 残りは山岳部か沿岸部で敵の本拠地に最短なのは前者だが、ザルツ地方を領地とするニーレンス公爵家から待ったが入った。

 どうやら敵国に通じる人物がニーレンス公爵家と関係がありそうで、きな臭い状況だ。

 ジゼル嬢とも打合せたが結果的には中央の街道を進み、ニーレンス公爵領からでなく敵国側から背後を突く事になった。

 

 問題は……現地に詳しい案内人を雇えないかもしれない事だ。

 僕等は地理に明るくない、この季節の山岳地帯は比較的進軍し易いが、如何に素早く目的地に辿り着けるかが問題だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「遅いぞ、リーンハルト殿!そんなに我が娘達と離れるのが寂しいのか?」

 

 中庭には既に全員が集まっていた、デオドラ男爵以下総勢三十人、僕を含めて三十二人の少数精鋭部隊だ。

 一斉に僕に注目しているが悪意有る視線が無いのが救いかな?

 

「お戯れを……ジゼル様と最終打合せを行っていました」

 

 使用人が僕用の軍馬を用意してくれたので鐙に足を掛けて乗り込む、かなり訓練された軍用馬だ。

 因みに僕はハーフプレートメイルを着込みロングソードを腰に吊りサーコートを羽織っている。

 

 魔術師なのに完全に騎士の格好だ……

 

 鎧兜はニケさん達と同等品、サーコートはデオドラ男爵から頂いた……デオドラ男爵家の家紋が刺繍された、ある意味重たいコートだが副官なので当然だそうだ。

 他には十人隊長二人に隊員二十人、残りの八人が雑役を行う従者達だ。

 彼等は物資と共に二台の馬車に分乗し残りは全員が騎兵、移動力重視の軽騎兵部隊だろう。

 

 もっともデオドラ男爵の戦闘力は重装騎兵だが……

 

「流石は俺の副官だ!アレと同じ作戦を考えられるなら俺も安心して任せられるぜ。先ずは聖騎士団本隊に追い付くぞ!」

 

「そうですね、先ずは本隊に合流して、その後に先行しましょう。歩兵を含む本隊になら二日程で追い付けますね」

 

 街道を進むとなれば前回依頼を請けたヒスの村が有り、その先にはループの街が有る。

 現在時刻は十時三十八分、今から頑張っても夕方迄にはヒスの村に着くかは微妙だ。

 逆に聖騎士団本隊は今日の午後にヒスの村に到着するだろうが滞在するには狭いので、その先の平原に野営だろうな。

 

「先ずは自己紹介だな、お前等良く聞け!

知ってると思うが、コイツはリーンハルト・フォン・バーレイ、ジゼルの婚約者で今回の討伐遠征では俺の副官だ。

十人隊長の二人はウォーレンとケン、荷駄隊の責任者はグレッグ、この三人だけ知ってれば良いだろ。

では出発するぞ!」

 

 一応名前を呼ばれた時に会釈してくれたから顔と名前は覚えたが簡略し過ぎじゃないですか?

 屋敷を出発する時にジゼル嬢とアーシャ嬢、それにルーテシア嬢が見送りをしてくれたので手を振っておいた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 デオドラ男爵の人気振りが街を歩く事で分かる、皆が此方に注目し手を振ったりと昨日の聖騎士団本隊と同じ様な対応をしてくれる。

 彼を先頭に次が僕、その後にウォーレン隊が二列で続き馬車が二台、最後尾をケン隊が二列で並ぶ。

 僕が二番手なのは貴族で副官だからだそうだ、実力は模擬戦で示しているので反発は無い。

 毎回の模擬戦の数少ないメリットだろうな。

 

 因みにウォーレン隊長は討伐遠征隊の中で最年長、筋肉質で全身に古傷を持つ寡黙な戦士、武器はアックス。

 ケン隊長は若手実力No.1の目が鋭く素早い動きが特徴、武器はレイピア二刀流。

 荷駄隊のグレッグさんは屋敷では執事として顔合せはしていたが、流石はデオドラ男爵家に仕えるだけあり弓を装備している。

 いや、荷駄隊は全員が弓兵で戦闘もサポート出来るのか……

 

 王都を出発し街道を隊列を組んで進んで行く、前日に七百人からの大部隊が進軍した為か踏み固められた土も少し乱れている。

 これから先、村や街で不足物資の買付けとかで品不足になる事を危惧して二ヶ月分の物資を僕の空間創造に収納している。

 二台の馬車には二週間分を積み込んだ、予定では最短二週間、最長で一ヶ月を見込んだ。

 暫くは無言で進んでいたが、一時間程するとデオドラ男爵が馬を寄せて来た。

 

「何か有りましたか?」

 

「少し戦力の把握をしておきたくてな。リーンハルト殿のゴーレムの同時最大制御数は何体だ?」

 

 自戦力の把握は大切だ、僕の事は逐一報告されていると思うが正直に応える事にする。

 

「ポーンなら五十体、ナイトなら二十四体です」

 

「お前、模擬戦で手を抜いたな?ナイトの制御数が倍じゃないか?」

 

 しまった、真面目に答え過ぎたか?

 横目で見るデオドラ男爵は不機嫌そうに睨んでいる、この人も意外と子供っぽくて怒りやすい、バルバドス師と似ているんだ。

 

「前回の模擬戦では三体一組で四組の同時制御でしたので数が半分だったのです。一部隊としての運用での最大数が二十四体です」

 

「色々と難しい制限が有るんだな、次の質問だがゴーレムは弓や投げ槍を使えるか?」

 

 何とか誤魔化した、しかし飛び道具の使用か……

 

「可能です、ポーン全員を弓兵として運用出来ます。勿論投げ槍も可能ですが有効射程距離は30mです、最大射程距離は50mですが命中率は悪いですね」

 

 馬上で器用に腕を組んで考え込んでいるが、何か作戦でも思い付いたのだろうか?五分程考え込んでいたデオドラ男爵だが、漸く腕を解いて僕を睨むのだが……

 

「何か考えつきましたか?」

 

「ああ、お前のゴーレムはデオドラ男爵家の精鋭であるコイツ等と同等戦力だ。つまり二方面作戦が可能だな……」

 

 二方面作戦?少ない戦力を分けるのは一般的には愚策だと思う、だが僕だけ別行動をさせる事は出来る。

 

「今回同行している方々は通常のデオドラ男爵家の精鋭部隊、つまり僕が増えただけ。

僕は一人でもゴーレム部隊を運用出来ますが、戦力の分散は効率が悪くないですか?

デオドラ男爵を中心にダメージ無視のゴーレム部隊で脇を固め突撃する事が最も効果的と思います」

 

 流石に愚策とは言えない、デオドラ男爵は僕よりも戦闘経験は豊富で戦場で過ごした時間も多いだろう。

 僕は18歳から27歳迄の九年間、戦場を転戦し続けたが彼は20年以上を戦場で過ごしている。

 彼の考えを尊重すべきだろう……

 

「ふむ、軍師には二通り有り常識的な策を効率的に用いる者と非常識な策を繰り出す者が居るそうだ。リーンハルト殿は前者だな」

 

「そうですね、僕には奇策を用いる能力は無いので、無難な策を多用します。

僕はゴーレムの数を揃えて正攻法での運用が得意ですから……デオドラ男爵、何か策を考え付きましたか?」

 

 ニヤリと凶悪な笑みを張り付けて僕を見る、良くない事を考えていないか?

 最近ストレスが溜まっているとジゼル嬢から聞いていたが、まさか危険な賭けに?

 

「今は特には無いが何時もの戦力が二倍になってるからな、それだけで戦略の幅が広まるって奴よ。

それにお前のゴーレム運用は全然正攻法じゃないぞ!円殺陣や影牢が普通な訳がないだろ?」

 

「そうですか?有り難う御座います」

 

 その後は無言で僅かな休憩を挟み進軍する事となった、昼食も馬上で移動しながら食べる強行軍だ。

 流石に行軍慣れした連中なので、日が傾く頃には前回のオーク討伐で夜営した場所まで到着してしまった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あと5㎞程でヒスの村ですが、野営するならこの場所が良い条件です。小川も近く低い丘も有りますから見張りも容易ですが……」

 

 前回も同じ場所で野営したが他にも焚き火の跡とか複数有ったから、定番の野営場所なのだろう。

 

「ヒスの村まで行くぞ。先発の聖騎士団本隊は大所帯だから村には入り切れない、その先で野営しているだろう。

この辺は未だラデンブルグ侯爵の領地だ、強行軍だがなるべく野営は控えて体力を回復するぞ」

 

 馬の速度を落とさずに街道を進む、残り5㎞なら一時間と掛からずにヒスの村には到着する。

 だが全員が泊まれる宿屋なんて村に有るのか?

 他人に寄生すると噂のパーティ『春風』の連中が料理の美味しい宿屋を紹介するとか言われたが、未だ十日経ってないなら居るだろうな……

 

「ヒスの村はそれ程大きく有りません、全員が宿泊出来る施設は無いかと思います。

確か冒険者ギルド本部が村の守りの為に常駐警備を依頼を出してました、何組かの冒険者パーティが滞在しています」

 

「ふむ、詳しいな。だが村長の家は広いから今夜は其処に泊まる、何度か世話になってるから大丈夫だ」

 

 村長の家は見てなかったな、広場でオークの死体の番をしてたから……

 だがデオドラ男爵は何度かヒスの村に滞在した事が有るんだな、ならば問題無いだろう。

 

「了解しました、ではヒスの村へ急ぎましょう」

 

 行軍中でも休める時は体力の回復を優先するんだな、結構な強行軍だがデオドラ男爵達にとっては毎回コレらしい。

 僕の方が先に参らない様に頑張らなねば……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 すっかり日も暮れた頃、漸くヒスの村に到着した。

 前回と同様に村の周りには馬防柵が配置され篝火が焚かれている、常駐警備に雇われた冒険者パーティが村の入口を警戒している。

 此方に気付いて警戒し始めた、二人程村の中に走って行ったな……

 武装集団が突然村に押し掛けたから仕方ないが、副官として僕が対応しなければならない。

 先行して単騎で彼等に近付く……

 

「僕達はオーク討伐遠征の為にデオドラ男爵本人が率いている部隊です。村長のセタンさんに取り次ぎをお願いします」

 

 5m程手前で用件を伝える、デオドラ男爵本人がの件(くだり)で彼等が緊張したのが分かる。何か無礼を働けば物理的に首が跳ぶからな……

 

「分かりました、取り次ぎますので暫くお待ち下さい……えっと、リーンハルト君?」

 

「はい、そうですが……ああ、『春風』のフレイナさんでしたか?」

 

 対応してくれたのは前回少しだけ関わった他のパーティに寄生すると噂の彼女達だった。

 だが他にも数組の冒険者パーティが居るのに代表者的な対応をするとは、人間関係の調整に長けた人なのかもしれない。

 彼女の指示で更に一人が村の中へと走っていったし入口を守る連中も警戒を解いた。

 

「なんだ、リーンハルト殿。知り合いか?」

 

 デオドラ男爵が近付いて来た、いきなりの大物にフレイナさんも緊張した面持ちだ……

 

「先日知り合いになりました、同じ冒険者ギルド所属の『春風』のリーダーであるフレイナさんです」

 

「初めてお目にかかります、フレイナです」

 

 ふんわりとした雰囲気を醸し出しながら丁寧に頭を下げて自己紹介をしたが、噂を知らなければ警戒心が緩くなる人だよな。

 

「リーンハルト殿、村長に会いに行くぞ」

 

 一瞥しただけで関心が薄れたみたいだ、彼女の脇を擦り抜けて村の中に入ってしまった。

 当然だが貴族で男爵である彼を妨げる事など出来ない、ウォーレンさん達もデオドラ男爵に続いて村の中に入る。

 

「フレイナさん悪いけど勝手に村長に会いに行くよ、知り合いみたいだから」

 

 呆然とする彼女に一声掛けてからデオドラ男爵を追い掛けた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「デオドラ男爵のお気に入りって噂は本当だったのね……」

 

 リーンハルト君、魔術師なのに騎士の格好をしてデオドラ男爵家の家紋の入ったサーコートを羽織っていた。

 殆どデオドラ男爵家の一族扱い、彼の愛娘であるジゼル様の婚約者ね。

 

「ふふふ、絡み甲斐のある男の子よね。お姉さん、本気で寄生しようかしら?」

 

「フレイナ、ヤバいって!手を引こうよ、利用するには危険過ぎるわ」

 

「そうだよ、癪だけど手出しは危険だわ」

 

「確かにね、幾らデオドラ男爵のお気に入りでも付け入る隙は有るわよ。逃すには大き過ぎる男の子よね?」

 

 でも条件的に手を引くには勿体ないのよね、今は未だランクも低いし手を出すなら今なのよ……


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