古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第131話

 ループの街の最高級の宿、『緑の草原亭』にデオドラ男爵と二人で泊まった。

 ウォーレンさん達は他の中級の宿に泊まっているが、貴族だからこその見栄を張った。

 そこの部屋付きメイドさんが何故か僕の情報を知っていて不思議に思ったのだが、冒険者ギルドが絡んでいた。

 冒険者時代のデオドラ男爵のパーティメンバーの一人が冒険者ギルドの現代表のオールドマン氏であり、僕の情報は筒抜け。

 序でに『緑の草原亭』も冒険者ギルドと繋がっていたんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「冒険者ギルドから報告に来ました」

 

 部屋に招かれたのは冒険者ギルドの制服を着た若い男だった、柔和な笑顔を浮かべた掴み所の無い雰囲気。

 特徴もなく直ぐに忘れてしまいそうな……そう、記憶に残らない、何故だ?

 

「先ずはオーク共の動きからだ、この辺りまで出張ってるんだろ?」

 

 デオドラ男爵は普通に対応している、僕だけが疲労か何かで認識力が落ちてるのか?

 

「はい、先日リーンハルト様が倒した群れの他に……」

 

 名前も顔も覚えきれない彼の話を纏めると、この周辺で目撃し確認されているオークの群は二十六で殆どが三十匹前後の若い個体で形成されている。

 それでも合計だと七百匹を越えるので聖騎士団本隊でも正面から戦えば被害甚大、最悪負ける事になるだろう。

 だが敵はオーク共を連携させる事は出来ないみたいで、群単位でエムデン王国に侵入させている。

 各個撃破なら何とかなる数だ……

 

 問題はオーガーやトロールが確認されており、オーガーは二十匹でトロールは三匹。

 オーガーはオークよりも倍位強く武器防具を器用に使うが、それ程の脅威は無い。

 問題はトロールだ……コイツ等は身長3mを越える巨躯に相応の筋力と耐久力を持つ非常に強力なモンスターだ。

 ゴーレムポーンでは厳しくゴーレムナイトが複数で互角、状況によっては負ける可能性も高い。

 唯一の救いは知能が高くないので連携とかは出来ず本能のみで攻撃してくる、だからフェイントや罠に掛かり易い。

 それぞれの目撃位置を示した地図も貰った、間違いなく僕等の目的地(敵の本拠地)からエムデン王国に向かっている。

 

「噂ではワイバーンの目撃が確認されてますが?」

 

 空を飛ぶワイバーンは最強種ドラゴンの亜種だが、口からブレスを吐き強靱な肉体と耐久力を持つトロールが赤子に感じるモンスターだ。

 流石に僕のゴーレムは飛べないので迎撃するしかない、弓矢か投げ槍等の中遠距離攻撃でしか倒せない。

 

「その噂の裏は取れていません、可能性としては敵の本拠地に配備されてるかと……」

 

 質問に丁寧に答えてくれるが、どうしても認識が弱い……コレってギフトだろうか?等と考えていたら目の前からギルド職員が消えていた、馬鹿な?

 

「何時の間にか居ない、馬鹿な……僕の魔力感知網に引っ掛からないなんて……」

 

 エルフのレティシアだって接近されれば感知出来るのにまるで分からない、こんな人が暗殺者だったら……

 

「リーンハルト殿も感じたか、奴の不自然さを……

冒険者ギルドでも有名でな、調べられない事は無い、侵入出来ない場所は無いと言われてる奴だ。確か『無意識』と呼ばれているぞ」

 

 『無意識』か、確かに知らない内に居なくなるし必要な資料も知らない内に増えている。

 この地図は敵国の領地内を迂回するのに必要な情報が事細かく書かれている、コレさえ有れば何とかなるだろう。

 

「凄い人も居るものですね……世界は広い、僕はもう既に彼の顔を思い出せません」

 

「俺もだ、何度か依頼しているが毎回違う印象が残る。全く厄介だが有能では有るな」

 

 テーブルの上に置かれた地図や資料を見ないと本当に彼が居たのか分からなくなるのが怖い。

 

「凄いですね、山岳地帯の獣道まで書かれている。このままループの街を出て街道を直進、幾つかの街や村を抜けてルカムの村迄は馬で行けます。

その後は街道を外れて山に入るのが最短ですね、ルカムの村の手前からも山に入れますが軍馬をどうするか……」

 

「ルカムの村は国境に近い、監視も多いだろう。手前のローグの街で馬を預けて徒歩で行くか、又は馬車を用意するかだな」

 

 確かにルカムの街は敵国に近い、不用意に立ち寄ると目撃情報が直ぐに流れるだろう。不用意に国境の警備兵を刺激するのは不味いか……

 だが広域地図だから現地に行っても場所が分かるかが問題だ、深い森の中だと方向感覚も狂うから正しい道を辿れるか?

 

「やはり現地の地理に詳しい案内人が必要ですね……」

 

「確かにな、後は目的地近くの渓谷が問題だ。幅が狭く長い、追撃や挟撃をされたら厳しい戦いになるな」

 

 目的地周辺は樹木が少ない荒れ果てた土地で、エムデン王国側からは渓谷を通らないと辿り着けない。

 僕達は背後の森林地帯から攻めるので大丈夫だが、もしワイバーンが居るなら隠れ場所が無く道幅も狭い渓谷は空を飛ぶワイバーンに有利だ。

 

「かなり長い渓谷ですね……空から攻められたら隠れ場所が無い、なる程ワイバーンは敵の切り札かな。

大人数の聖騎士団本隊は渓谷を通るしかないが、道幅も狭いから密集して進むしかない。そこを攻められたら負けますね」

 

「ああ、負けるな」

 

 思った以上に堅牢な場所に本拠地を構えたな……

 狭い一本道の上り坂、オーク共が大群で駈け下りて来たら押し負ける、更に上空にはワイバーンも居る。

 

「ライル団長に教えますか?」

 

「奴も知っていると思うが念の為に知らせるか。しかし敵ながら嫌らしい場所に本拠地を構えたな、コトプス帝国の残党め、我々を脅かしやがって、見付け次第殲滅してやる!」

 

 デオドラ男爵は先のコトプス帝国との戦争の時に最前線で戦っている、思う事は多いのだろう。

 あの戦いは結構泥沼だったみたいだし、転生の仕込みをしていた僕は未だ母上のお腹の中だったから詳細は分からない。

 スカラベ・サクレの記憶継承も大まかな流れだけだったし……

 

「そうですね、父上から聞いていますが卑劣な連中だったとか。残党が盛り返さない様に徹底的に潰しましょう」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーマ卿、奴等が動きましたぞ」

 

「もう暫らく掛かるかと思ったが……ほぅ、聖騎士団団長自ら出陣とはな」

 

 男が差し出したメモ紙には一週間前に王都を出発した討伐遠征軍の詳細が書かれている。

 エムデン王国聖騎士団ライル団長以下、副団長が三人。

 その内には前大戦の英雄の一人、バーレイ男爵の名前も有り、更に別動隊としてデオドラ男爵も手勢を率いて此方に向かっている、これは非常に楽しみだ。

 

「アヤツの具合は?」

 

「あのビーストティマーか、投薬のし過ぎで能力は上がったが精神が壊れたな。もう正常には戻るまい」

 

 名前も覚える気にならない手駒に手駒扱いされているビーストティマーなど死んでも構わない。

 今回の計画は我等コトプス帝国の存在をエムデン王国に知らしめる為、奴等の戦力を削ぐ為。

 使い捨ての奴隷女共と狂ったビーストティマー一人と資金の犠牲で聖騎士団員にダメージを与えられれば良し、国力が削げれば尚良しの計画だ。

 聖騎士団がオーク程度に苦戦し壊滅すれば周辺諸国への軍事的圧力が低下する、我等が力を蓄えると同時に敵を弱体化させられる一石二鳥の作戦だ!

 

「所詮は捨て駒よ、死んでも構わない。この砦に攻め込ませてオーガーやトロール、ワイバーン共をけし掛けて共倒れになれば良いのだ。

我等は一兵も損なう事なくエムデン王国にダメージを与えられる」

 

「そうですか、我々の撤収準備を進めますぞ。もう奴には善悪も他人の区別もつかない、近付く者を敵として襲うしか出来ないのでな」

 

 そう言って部屋から出て行った、名前も知らない同志という名の捨て駒……

 

 部屋に備え付けられた窓に近付く、渓谷の最上部の岩山を刳り貫いて造ったオーク製造工場。

 偽装した窓から覗くと遠くエムデン王国領が見渡せる、我が国の犠牲の上に成り立っているのが忌々しい。

 地下からは今も捕らえられた女共が我々の尖兵を生み出し続けているが、そろそろ用済みだろう。

 

「長かった、あれから十五年……我等の悲願は後少し」

 

 地下から漏れる怨嗟の声も我等の高尚な目的達成の為には当然、寧ろ礎(いしずえ)になれた事を誇るべきだ。

 だが下等なモンスターを孕んだ汚らしき者達だからな、最後は浄化の炎に焼かれるが良い。

 

「後は人質達だが……」

 

 窓から離れ備え付けられたソファーに座る、安物しか用意出来なかったので座り心地は悪い。

 此処は最低限の設備しか用意しなかった、放棄する事が前提だから。

 

 周辺の貴族や権力者達の息子を人質として攫ってきた、前に繁殖用を兼ねて妻や娘を攫ったが脅迫材料にしようとしても簡単に切り捨ててきた。

 やはり女の価値は低い、だから跡取り息子を誘拐し幽閉している、勿論指一本触れずに最低限の世話しかしてないが関係無い。

 

「この拠点を放棄するなら人質は不要となる、なら女共と一緒に処分するか。

親達も誘拐と脅迫による裏切りがバレるよりも、知らぬ存ぜぬの方が家の為になる……フハハハハッ、優しいな俺様は!」

 

 さて、長居は無用。後は結果だけ報告を聞けば良い、自分で確認する為に留まるなど危険行為。

 

 さっさと引き揚げるとしようか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ライル団長率いる聖騎士団より早く出発する為に『緑の草原亭』を早朝六時過ぎに出発する。もう太陽は上っているので明るく、農民達は仕事の準備をしている。

 本隊より先行するって事はオークの群と遭遇する可能性が高い。勿論オーク程度では百匹居てもデオドラ男爵の足を止める事は難しい。

 広域殲滅技を持つ彼にとって集団戦は良いカモでしかない、だから問題は少ない。

 ループの街から街道を半日も歩けば周りに民家は無く擦れ違う旅人も居ない、殆ど貸切状態だ。

 

「デオドラ男爵、そろそろオークの目撃情報が複数回有る場所を通ります」

 

「ふむ、だがループの街に雇われた冒険者達が対応してる筈だ。ランクDのパーティが複数組で巡回し討伐していたな」

 

 オークの群は強力だが、ランクDクラスなら複数組で協力すれば十分に討伐出来るレベルだ。

 特に今回は若い個体ばかりだから同数なら戦い方次第で負けないだろう。

 

 警戒を高める、基本的に奴等は夜行性で人が寝静まった夜に街や村を襲うが街道を通る人を待ち伏せしたりもする。

 あの怪力で棍棒を投げ付けられて当たったら即死だ、最も僕は常時展開型の魔法障壁が有るから大丈夫なのだが……

 

「そうですね、それに強力な火属性魔術師アスファランス率いるランクCの『灼熱』が参加したそうです、この辺のオーク共は全滅でしょう」

 

「ああ、あの魔術師二人と戦士三人、盗賊一人のパーティか……確かに強さには定評が有るが安定が悪い、油断すれば全滅だぞ」

 

 火属性魔術師二人を擁する文字通りの火力特化パーティ、正面からでもオーク三十匹位なら殲滅出来るだろう。

 王都に近い街や村には多くの冒険者パーティが派遣されている、最悪は連携もするから問題は少ない。

 それにラデンブルグ侯爵も今回の騒動に多くの私設軍を投入した、本来なら自分の領地に国の軍隊を招く事は恥ずべき事。

 調査の結果、ウルム王国とコトプス帝国の残党が居るから介入を許したに過ぎない。

 本音は自分の手で何とかしたいだろうな、だが領民を守る為に私設軍の殆どを回している、だから少数精鋭の討伐隊を送り込んだらしい。

 侯爵ともなれば少数精鋭とはいえ相当高レベルの連中だろう、彼等を出し抜く様に敵を倒さなければならない。

 勿論、配下に裏切り疑惑のあるニーレンス公爵も討伐隊を送り込んでいる。

 

「ラデンブルグ侯爵もニーレンス公爵も精鋭部隊を送り込んでると冒険者ギルドから報告が有りました、僕達は急いで進まなければ出し抜かれますね」

 

「全くその通りだ、左右の森からの襲撃に注意しながら先を急ぐぞ」

 

 先行する討伐隊の連中を追い掛ける為に、少しスピードを上げる事にした……




来月の12月1日から12月31日まで「古代魔術師の第二の人生」を一年の感謝を籠めて毎日投稿します。
リアル生活の方に少し余裕が出来た事と、何より多くの読者に読んで貰っている感謝の気持ちで頑張ります。

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