古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第136話

 リーンハルトと別れて四日目の夜、約束の本拠地襲撃は明朝。だが俺達の方に敵の襲撃は一度も無かった。

 途中で食い散らかされた元人間は何回か見た、討伐に来た冒険者だろう。

 ラデンブルグ侯爵やニーレンス公爵の寄越した討伐隊じゃないのは残された装備品を見れば分かる。

 

「デオドラ男爵、リーンハルト殿は囮としての役割を存分に果たしているみたいですな」

 

「数日前には上空を旋回していたワイバーンも見なくなった、まさかとは思うが……」

 

 山間の街道を避けて獣道を慎重に進んでいる為に小声になってしまうが、ウォーレンもケンも奴の無事を疑ってない。

 しかし森の中だと草木は生えないんだな、歩き易いが見通しが良いから敵に見付かり易い、上空からは見え辛いからワイバーン対策にはなる。

 流石に俺もワイバーン三匹を一人で倒したとは思ってない、本拠地の直援に回したのだろう。

 

「ああ、もしかしたら敵の殆どを引き付けているのかもしれないな。こう敵の襲撃が無いと罠かと勘ぐってしまう……」

 

「ですがラデンブルグ侯爵とニーレンス公爵の討伐隊も居ます、渓谷は激戦かも知れませんな」

 

 そうだな……だが奴なら大丈夫だろうと予感が有る、暴れたい放題やれるたぁ羨まし、いや俺が代わりた、いやアレだ、任せられるって奴だな。

 思わずロングソードを握る手に力が入る、早く俺も暴れたい。

 

「明朝、日の出と共に襲撃だ!俺は我慢弱いんだ、早く戦わせろ!」

 

 ウォーレンとケンとグレッグが同時にため息をつきやがった、だが昂ぶった気持ちは抑えられないぜ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 デオドラ男爵と別れて四日目の昼、流石に連戦はキツかった……

 だがワイバーン二匹にオークの群れを三つ倒した事によりレベルが30に上がった、亜種でもドラゴンだから経験値が半端無かった。

 襲撃頻度も三日目以降は激減した、残りは本拠地の防衛に回ったのか?

 

 既に渓谷の手前まで到着、明朝日の出と共に渓谷に侵入しようとしたが討伐隊の生存者と遭遇した。

 僕の目の前にはオークの死体を山積みにして、その上に悠然と座る青年と睨み合っている。

 全身鎧を身に纏いハルバードを担ぐ鷹のような雰囲気、この男は強い。

 

「よう!お前もオークの討伐に来たのか?」

 

「ええ、貴方もですか?」

 

 僕のゴーレムポーン三十体に囲まれても微動だにしない胆力、先行する連中だとラデンブルグ侯爵かニーレンス公爵の関係者だと思うのだが……

 

「ああ、お前はリーンハルトだろ?メディアの嬢ちゃんのお気に入りの玩具って評判だぜ」

 

「つまり貴方はニーレンス公爵の関係者ですね?」

 

 カッカラを握り締める、ニーレンス公爵はデオドラ男爵に領地に入るなと釘を刺した、だが僕は堂々と街道を進んでいる。

 

「そう警戒しなさんな、俺はレディセンス」

 

 レディセンス?確かジゼル嬢から貰った資料に名前が載ってた、ニーレンス公爵の側室が生んだ七男だ。

 

「ニーレンス公爵の御子息が自ら討伐隊に参加とは驚きました、お一人ですか?」

 

「ふふん、余り外に名が知れてない俺の事まで知ってるか、メディアの嬢ちゃんが気に入る訳だ。お前等、出て来い。コイツは敵じゃない」

 

 顎をしゃくると近くの岩影から六人の男達が出て来た、お互いに肩を貸し合いながら……

 全員何処かしら傷付いているが命に別状はなさそうだな。

 

「レディセンス様、大丈夫なのですか?その少年はデオドラ男爵の……」

 

 互いに互いを警戒していた訳か、レディセンス様の苦笑いで大体の状況が分かった。

 彼等は負けて逃げてきた途中で敵対派閥の僕に出会って警戒してた訳か……

 

「わりぃな、ポーション余ってないか?」

 

 悪意の無い笑顔を浮かべている、目付きは鋭いが元は整っているし側室とはいえ公爵の息子だ、女性には人気が有る筈だが余り知られてない?

 

「余裕有りますが幾つ必要ですか?」

 

 大量に準備していただろう医薬品を切らす程の連戦だったのか?合計七人は少ない、何人か犠牲者が出たな。

 

「ハイポーション有るか?出来れば十個は譲って欲しい」

 

 ハイポーション十個か、確か空間創造の中にストックが有ったな。

 最近魔法迷宮で見付けたポーション類は売らずに残しているのが幸いしたか……

 空間創造から取り出して怪我をした六人に渡す、代わりに販売価格の料金を貰った、あの失礼なパーティみたいに買取価格じゃないのは流石?

 

「なぁ、リーンハルトはコレからどうすんだ?」

 

 何気ない様子で話し掛けて来たが迂闊な回答は出来ない、僕は表情を変えない様に注意をしながら答える。

 

「勿論、街道を進みます」

 

「一人でか?俺達は事前情報でお前さんがゴーレム使いなのを知ってるから不思議とは思わないが、普通は仲間を募るよな?」

 

 僕は曖昧な笑みを浮かべて喋らず言質を取られるのを避けた、デオドラ男爵の命令でニーレンス公爵領を通過し囮役を演じてるとは言えない。

 それが既に向こうにバレている簡単な嘘でも自ら話しては駄目だ。

 

「迂闊な事は喋らないってか?モノは相談だが俺達と共闘しないか?

俺も腕に自信は有るが何かを守りながらってのは苦手だ、だから仲間も半数以上やられてしまった。それでも逃げ帰る訳にはいかないんだよ、俺達はさ」

 

 ニヤリと笑い手に持つハルバードを片手で軽々と掲げる、相当の業物だが柄も金属だから重さは10㎏以上は有るだろう。

 特徴的な槍の穂先に斧頭、その反対側に突起(ピック)が付いているが鎌みたいに長い、装飾の無い無骨な造りが戦闘用だと分かる。

 ニーレンス公爵は確か裏切り者の調査と処理を行う為に精鋭を派遣したと聞く、確かにレディセンス様は強い、オーク程度じゃ何十匹居ても負けないだろう。

 財務系の貴族なのに息子が武闘派の重鎮デオドラ男爵並みに強いとは不思議だな、だがお付きの連中は……

 単体で強くても周りを守りながらは苦手か、オーク共も操られてる為か損害無視で包囲網を敷いて襲ってくる。

 何かを守りながらの戦いは個が強いデオドラ男爵やレディセンス様とは相性が悪いか?

 

「僕はゴーレムによる集団戦を得意とする土属性魔術師です、一人でも大丈夫なのでこの先に向かいます」

 

 レベル30を超えた事によりゴーレムポーンの制御数は百体、今ならゴーレムルーク二体か一体とゴーレムポーンを五十体を同時に制御出来る。

 トロール対策もバッチリだ、渓谷に行っても何とか戦えるだろう。

 トロールは身長4m、僕のゴーレムルークは6m、互いに動きは鈍いが防御力は桁違いだ。

 

「凄い自信だな、ゴーレム三十体を同時制御出来るならか……だが俺達も引けないんだ、嫌でも協力してもらうぜ」

 

 貴族としては先方が上位、口封じとかも考えたが其処までする必要は無い。

 僕は囮として敵戦力を引き付ければ良いのだから囮役が増えるのは望ましい、要は明日の朝方に敵本拠地近くの渓谷で暴れれば良いのだから……

 

「配下に組み込まれるのは御免ですが同行するのは構いません、僕はもう少し進んでから野営し体調を整えて早朝から渓谷に侵入します」

 

「そりゃ良いな!目的地は一緒だから仲良く行こうぜ。メディアの嬢ちゃんが親父に掛け合ってまで親書を書かせたお前を見極めさせて貰うぜ」

 

 オークの死体の山から起き上がって尻を叩いてから僕を見てニヤリとしているが、メディア嬢は僕の事を何て言ったのさ?

 絶対に貰った親書は使えない、コレを使ったら本当に派閥へ引き込まれるぞ。

 

「僕はメディア様とは何も……」

 

「嬢ちゃんの面子の為に現役宮廷魔術師の息子に喧嘩を吹っかけてボロクソにしたんだろ?『貴女に逆らう愚か者の末路を見て溜飲を下げて下さい』たぁ中々言えないぜ」

 

 さり気なく横に並ばれ背中をバンバンと叩かれたが、今はフルプレートを脱いで何時ものハーフプレートメイルにマントを羽織っているだけなので地味に痛い。

 衝撃を吸収してる筈なのに何故痛みを感じるんだろう?

 

「いえ、それは傍観すれば僕が……」

 

「美しき姫には何人ものナイトが居るんだってな?

メディアの嬢ちゃんは他の姉妹に自慢してたぜ、今まで嬢ちゃんの取り巻きはパッとしない奴等ばかりだったからな、有能な奴と知り合えて嬉しくて仕方ないって感じだったな。

親父も嬢ちゃんが気に入った玩具を調べ始めている、愛娘が恋愛要素が無くて有能な魔術師として褒める男が気になるってな」

 

 

 メディア嬢め、僕の勧誘は止めたって約束したのにニーレンス公爵本人に興味を持たれてしまってるぞ!

 しかも恋愛要素無しの玩具って完全に手駒として興味有りか……

 

 何と無く締まらない交渉により僕はニーレンス公爵家の討伐隊残党と行動する事になった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 暫く共に進軍していくが粗方狩り尽くしたのかオーク共の襲撃は無かった、だがレディセンス様達が倒したオーク共の死体が途中で何ヶ所か散乱している場所が有り撤退の壮絶さが分かる。

 

「これだけの死体がそのままの状態とは腹を減らしたオーク共は周辺には居ないのでしょうか?」

 

「ふむ、追ってきた奴等は粗方倒したと思うぞ。そう言えばリーンハルトは何匹倒したんだよ?」

 

 警戒すれども敵は無し、ぎこちないながらもレディセンス様と会話をしながら進んで行く、お供の方々は無言で後ろを付いてくる。

 

「大体二百匹でしょうか、全て空間創造に収納してますので地味にギルドポイントも貯まり助かります」

 

「一人で二百匹か!俺は百匹から数えて無いけど百五十匹は超えてないぜ」

 

 後ろから乾いた笑いが聞こえる、二人でオーク三百以上って異常だと思う。

 だがギルドランクB以上なら殆どの連中が可能なレベルだ、ランク上位の連中は国が絡む依頼は積極的には請けたがらないしオーク程度はCかDランクのモンスターだ。

 

「そう言えばワイバーン見ないな、三日前位は良く上空を旋回してたんだ。流石に亜種でもドラゴンだからな、俺でもコイツ等を守り切る自信は無いぜ」

 

 三匹襲って来たので全て倒して空間創造に収納してあります、部材として売れば一匹で金貨三百枚以上になるそうです。

 

「そうですね、飛べる相手に有効な攻撃手段は弓矢や投槍、それに魔法だけですし……」

 

「お前か?」

 

 ハイと言って良いのかな?ワイバーンを一人で倒せる奴なんて普通は……居たよ『豪槍のカディナ』って近年の大型新人の中にも。

 

「ええ、アイアンランスならワイバーンの固い皮も貫けますしブレスはアースウォールで防げますから……」

 

「淡々と言うねぇ、ワイバーンを倒せる少年か……カディナを思い出すな、ウチは引き抜き合戦に負けたんだよ。

やはり財務系貴族だと武闘派の地位が低いと思われてるのか勧誘が難しくてさ、何時も見込みの有る奴は他に行っちまう」

 

 そんな物欲しそうな目で見られても僕は既にデオドラ男爵の派閥に取り込まれてます。

 そう言えば大型新人って奴等は全員何処かしらの派閥に取り込まれたんだっけ?

 僕も一応は近年活躍中の大型新人だったっけ、変な二つ名が付く前に考えなければ不味いかな。

 

「その分謀略系の有能な者が集まるじゃないですか?適材適所、上手く扱える者の元に集まると思いますよ。さて、今日は此処で野営しようと思います」

 

 丁度良い街道の両脇が荒れ地で広い場所を見付けた、野営は目立つ場所で良い、目立つ程良い。

 後は明朝敵の本拠地へ向かうだけだ、今夜一晩過ごし易い様に簡易な防御陣地を作るか……

 

 大地に両手を付き自分の魔力と周囲の魔素を集めて先ずは堀を作る、削った土を手前に集めて土を迫り上げ塀を作る、堀の深さは1m塀の高さは2m、敵の初撃は防げる筈だ。

 

「簡単に防御陣地を作るなよな、塀を巡らして堀を作るか、呆れを通り越してどうでも良くなってきたぞ。便利だな、魔術ってさ」

 

 堀の周辺に等間隔で篝火を灯す、これで準備は万全だ。

 

「食事も提供しますよ、見た所荷物は殆ど無いみたいですし……味の保証は出来ませんが」

 

「此処までされちゃ俺達が見張りをするぜ、お前が居れば俺も安心して寝れそうだな」

 

 そう言って嬉しそうに笑うレディセンス様に、デオドラ男爵家自慢の野戦食を振る舞う事にした。


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