古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第142話

 オーク討伐遠征から王都に帰還しデオドラ男爵に晩餐に招かれ必然的に泊まる事となった。

 デオドラ男爵は早々に本妻と側室の方々と奥へ行ってしまい、僕は強制的に風呂に入らされ隅々まで洗われてしまった。

 そしてデオドラ男爵の娘達に歓待されているのだが、どうにも勝手が分からない。

 ルーテシア嬢は直ぐに席を外した、彼女の立場上必要以上に男性との同席は出来ない。

 僕の労を労(ねぎら)ってくれて、ウィンディアと退出して行った。

 残されたのは僕と対外的には婚約者のジゼル嬢、それにアーシャ嬢だ。

 だがアーシャ嬢に泣かれてしまった、原因はデオドラ男爵と僕が無事に帰って来てくれて嬉しいとの事だが……

 

 泣いた女性を宥めるスキルは僕には無く、仕方ないので得意の土魔術で小さな動物のゴーレムを作り彼女達の周りに侍らしている。

 犬や猫、小鳥等の可愛い系を重点に何匹も作ってご機嫌伺いをしている最中です……

 

「子犬と子猫です、どうですか?」

 

 七匹の犬猫ゴーレムを作り彼女達の膝や足元に侍らせてみる、金属製の小動物はキラキラ輝いて可愛くは無いな……

 だが最近修得した牡牛や蟹では可愛くなく女性受けしないのは理解している、セインと……誰だっけ、デスキャンサーの彼は?

 

「美術品としてのブロンズ像の犬や猫が動く感覚でしょうか?凄いですし嬉しいのですが、可愛いかと言われると微妙ですわ」

 

「技術的な凄さは感じますが小動物的な可愛さは少ないですわね、流石に毛並みは再現出来ないでしょうし……」

 

 膝の上に乗せている子犬ゴーレムを撫でているが、感触は金属だから仕方ないか。

 試しに材質を変えて子猫ゴーレムを錬成してみる、木材・石材と作ってみたが美術品系の木像と石像が出来ただけだった……

 

「む、子猫だから可愛さを求められるんだ。大型肉食系猫科なら或いは違う評価になるか?」

 

 両手を前に突き出し大気中の魔素を大量に集める、イメージを固めて一気に錬成してみたが……

 

「戦闘系ゴーレムだな、鋭い牙に爪、これはこれで使えるだろうか?」

 

「リーンハルト様、少し怖いです」

 

 アーシャ嬢に抱き付かれてしまった、軽く右腕を抱えられただけだが深窓の令嬢に戦闘系ゴーレムは無粋だったか?

 

「すみません、少し怖かったですかね?」

 

 左手を一振りして大型猫科ゴーレムを魔素に還す、評価はイマイチで実用性も微妙だ。

 確かに牙や爪は鋭いがリーチも短いので槍や剣を使わせた人型ゴーレムの方が汎用性が高い、用途としては野外で葦などの背の高い植物が生い茂った場所なら敵に気取られず攻撃出来る。

 または銅像や石像として擬態させておいて、不用意に近付いた敵を……

 

「リーンハルト様?」

 

「すみません、この子達の運用方法について少し考え事をしてしまいました」

 

 またやってしまった、この思考癖は直さないと駄目かもしれないな、女性陣の僕を見る目が痛々しいです。

 

「私達を前にして他の事を考える殿方など普通は居ませんわ、そんなに私達には魅力が有りませんか?」

 

「女として自信が無くなりますわ」

 

 不味い、ジゼル嬢は恨めしそうにアーシャ嬢は悲しそうに僕を見ている、毎回だが助けてくれ兄弟戦士!

 何だと?『それじゃ君達の魅力を再確認させてくれと抱き締めろだと?』何故色事に走るんだ、他の対処方法を提示してくれ!

 

 何だと?『自業自得だと』知ってるから助言を求めてるんだ!もはや正直に全てを話すしかないのか……

 

「降参です、勘弁して下さい」

 

 両手を上げて全面降伏する、もはや僕に打つ手は無い。

 

「あらあら、もう少し抵抗して頂かないと面白く有りませんわ」

 

「ジゼル、これ以上リーンハルト様を苛めるのは止めましょう」

 

 晩餐まで後三時間、長い戦いになりそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 窓から差し込む柔らかい朝日を浴びて目が覚める、身体全体が沈み込みつつ包み込む様に支えるベッドは討伐遠征の疲れを十分に癒してくれる。

 

「む?もう朝か……」

 

 身体は癒されたが精神的には回復が間に合わない、お茶会ではデオドラ男爵の令嬢二人に弄られ捲り、晩餐ではデオドラ男爵の本妻であるラザレル夫人に側室の方々も一緒だった。

 会話は殆ど無し、敵意は薄いが値踏みされる視線に曝され続けた。

 ジゼル嬢の母である、シール夫人とアーシャ嬢の母であるジェニファー夫人は比較的優しい対応をしてくれたが、共に娘を頼みますと重たい言葉を貰った。

 だがデオドラ男爵は少し疲労気味で夫人方は艶々だったのは、遠征で構ってなかった分を纏めて頑張ったみたいだ。

 

「起きるか、二度寝したら起きられそうにない」

 

 ベッドから起き上がりサイドテーブルに置いてある呼び鈴を鳴らせば、直ぐにメイドが現れて身支度を整えてくれる。

 時刻は朝の六時半、朝食は七時だから丁度良かった、顔を洗い着替えて髪を整えて貰うとメイド達は退出していった、後で迎えがくるそうだ。

 備え付けのテーブルで待つ事少し、朝からバッチリ正装のジゼル嬢が迎えに来てくれた。

 柔らかく微笑んでくれるのだが昨日は散々弄られたからギャップが凄い、だが黙って微笑んでいれば相当な美少女だよな。

 これで謀略においてはデオドラ男爵が重用してるのだから驚きだ。

 

「おはようございます、リーンハルト様。良く寝られましたか?」

 

「おはようございます、ジゼル様。良く寝れました、遠征の疲れも癒えました」

 

「朝食はテラスに用意してあります、お父様と私と三人だけですが……どうぞ、此方へ」

 

「王宮への報告の件でしょうか?」

 

 歩きながら話すのは貴族的マナーとしては微妙だ、そして擦れ違う使用人達がその場に立ち止まり深くお辞儀をしてくれる。

 昨晩だが、部屋付きのメイドにデオドラ男爵家における僕の扱いを聞いたが当主自らが娘婿と言い捲ってますと……

 

 駄目だ、流され捲ってる気がする。

 

「お待たせして申し訳ありません」

 

「ん?構わんぞ。良く寝れたか?適当なメイドを部屋に引っ張り込んでも良かったのだが、相変わらず真面目だな」

 

 朝から下ネタを真面目な顔で言われた、デオドラ男爵の娘の婚約者が彼の屋敷で使用人に不埒な真似をする……最悪だと思うが?

 

 メイドが椅子を引いてくれたので席に座る、デオドラ男爵家名物の朝から大量の料理が……

 ジゼル嬢はサラダと飲み物だけだが、男性陣の前には分厚い肉を挟んだパンが四切れに深皿のスープは具沢山、サラダはボールに山盛りだ。

 

「立場上、僕はジゼル様の婚約者。他の女性に手を出す事は有りません」

 

「なら私に手を出せば良いのではないでしょうか?」

 

 ジゼル嬢の言葉に思わず彼女を見詰めてしまう、彼女は僕に苦手意識を持ってたしアーシャ嬢を勧めていた筈だ。

 真面目な顔をしている彼女と目が合ってしまったが中々逸らさない、方針を変えたのか?

 

「当初の約束通り僕の婚約者としての立場は有象無象の言い寄る連中の排除の為の一時的な処置、僕はその対価にデオドラ男爵家に利する行動をし成果を示して来た筈ですが?」

 

 何と無くデオドラ男爵家に婿入りも仕方無し的な流れになっていたので、仕切り直しに当初の立ち位置に戻ってみた。

 デオドラ男爵はニヤニヤと朝からワインを飲んで、ジゼル嬢は膨れっ面をした……年相応の可愛い仕草だな。

 

「つまり私は偽物の婚約者ですから欲情一つしない訳ですわね?」

 

「その切り返しは卑怯です、ジゼル様は凄く魅力的ですが婚約者というよりは仲間です。仲間に情欲を寄せるのはどうかと思いませんか?」

 

「仲が良いのは結構だがな、リーンハルト殿の立場は微妙だぞ。

現役宮廷魔術師達からも推薦の話が出てるならば、既に国王にも報告が行っている筈だ。

そんな状況で討伐遠征での活躍もある程度はバレてるのだ、俺と懇意と思わせないと色々と不味いだろ?

俺とて武闘派の重鎮と言われても男爵でしかない、娘婿くらいの関係がないと干渉出来ないぞ」

 

 そうだった、バルバドス師に話しに行かなければ駄目だったんだ。デオドラ男爵には頭が下がる思いだ、そこまで考えてくれていたとは……

 

「廃嫡されるまで残り七ヶ月、それ迄に足元を固めなければなりませんわ。

リーンハルト様はデオドラ男爵家としても大切なお方、私かアーシャ姉様と結婚するのが最善なのですわ」

 

「俺はどっちでも良いぞ、なんなら二人とも貰うか?」

 

 はははって豪快に笑ってますが貴方の愛娘を二人も貰うとか不可能です、だがデオドラ男爵の力を頼りにするならば娘婿になるのが最善なのは分かる。

 だが僕は愛無き結婚は嫌だと決めた、転生してまで繰り返すのは……

 

「アーシャ姉様はリーンハルト様の事を愛していますわ、あの大人しく従順な姉様が自己主張までするのです。

それに貴方の得体の知れない力を知っても関係無いそうです、私は怖いのですが……」

 

 得体の知れないと言われたか、転生したので300年前の魔術知識や技能を知ってますとは言えない、現代では何故か廃れているモノが多過ぎるから。

 僕の知っている知識や空間創造に入っている道具を公開したら、この世界はどうなるのだろう?碌でもない結果しか思い浮かばないな……

 

「もう少し時間を下さい」

 

「来月にはアーシャ姉様の誕生日でお披露目パーティーが有ります、社交界にデビューと同じですから結婚の申し込みも増えます。

リーンハルト様と同じくアーシャ姉様にも時間が有りません、良く考えて下さい」

 

 重たい課題を受けてしまった、この解答は有るのだろうか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 重たい話で終わった朝食の後、身支度を整えてからデオドラ男爵家の家紋入りの馬車に揺られて王宮に向かっている。

 デオドラ男爵は鎧兜を着込みサーコートを羽織っている、完全武装で王宮に出入り出来るのだ。

 僕はデオドラ男爵のお供だが名指しで呼ばれたらしいので同じく鎧兜を着込み魔術師のローブを羽織っている、僕が土属性魔術師なのは知られているだろうし……

 

 王宮の正門を通過する時に護衛騎士が馬車の中も確認した、同乗する僕に鋭い視線を向けたが何も言わなかった。

 その後、馬車寄せに周り馬車から降りると待機していた護衛騎士の方々から簡単なボディチェックを受けて武器を預けた。

 長く広い通路を六人の護衛騎士に囲まれながら進むと見事な装飾が施された両開きの扉が見えて来た、あの先が王の間だろうか?

 

「暫し待たれよ」

 

 案内係の護衛騎士が扉を守る護衛騎士に何やら耳打ちすると重厚な音を立てて扉が開いた。

 案内係の護衛騎士達は此処までらしい、扉を守っていた護衛騎士の後に続き奥へと進む、未だ王の間では無かったみたいだ。

 

 暫く進むと更に立派な両開き扉の前に到着、此処からは近衛騎士団が警護してるらしく先程の護衛騎士と鎧兜の衣装も大分違う、そして感じる強さも相当なモノだ。

 転生前の近衛騎士団の上級騎士に等しい感じがする、流石は国王直属って事だな。

 

「ついて参られよ」

 

 近衛騎士団員二人に先導され更に奥へと進む、途中で探査系ギフトに調べられた気がしたがデオドラ男爵が気にしてないので大丈夫と割り切る。

 手に武器は持ってないが、僕は空間創造の中に沢山入ってる、此処で武器を取出したら……

 ああ、僕は魔術師だった、武器なんて関係無かった。

 

 王宮襲撃犯の撃退プランを考えていたら漸く王の間に辿り着いたみたいだ、中から相当数の威圧感を感じる。

 更に大きな扉を潜ると漸く王座が見えた、だが国王は座っていない。

 常に王座に座ってる訳もないので必要な時以外は別室にいるのが普通か……

 

「国王の御前である、控えろ」

 

 高圧的な物言いだが逆らう気は更々無いのでデオドラ男爵に倣い頭を下げる、暫くそのままの姿勢で待っていると人が近付く気配を感じ、その後で椅子に座る服擦れの音が聞こえた。

 

「エムデン王国国王、アウレール様の御前である。面を上げよ」

 

 一呼吸置いてから顔を上げる、初めて見るエムデン王国の国王は未だ四十代前後の美丈夫だった。

 


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