古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第145話

 アーシャ嬢の依頼、それはビックビーの女王の結晶二つを中心にしたアクセサリーの製作。

 彼女は典型的なエムデン王国人の特徴を持つ金髪碧眼の儚い雰囲気を持つ美少女だ、黄金の髪に大理石みたいな白い肌。

 性格も大変大人しく従順な深窓の令嬢そのもの、そんな彼女は十六歳の誕生日を盛大に祝う事になった、婿候補への御披露目と言い変えても良いだろう。

 彼女の美しさを際ださせる為に考えていたアクセサリーは、ティアラとネックレスだ。

 衣裳合わせの時に見たドレスは淡いブルーで手首や足首まで隠すタイプのロングドレスだったが胸元は少し開いていた、当日の髪型はアップするので丁度良い。

 手首に関しては前回贈った鷹のブレスレットを付けてくれるそうだ、魔力石に素材はシルバーと豪華に着飾る今回には似合わないと思うのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 一番高級な応接室でアーシャ嬢とお付きのメイド三人と向かい合っている、芳醇な紅茶も品質と値段が上がっている気がして胃がシクシクと痛む。

 この好待遇は色々と辛い、特にデオドラ男爵がジゼル嬢の娘婿と公言してるのにアーシャ嬢と話してる時も同じ扱い。

 深読みはしたくない、だが彼女は純粋に好意を向けてくれているのは男女間の事に鈍い僕でも分かる。

 そして本来の婚約者であるジゼル嬢からは怖いと言われている、婚約者の変更は貴族の間では割と有る。

 僕は前に『好きでもない相手との婚姻による派閥取り込みは嫌だ』と言った、それは転生前に初めて政略結婚をした相手が初夜の翌日に自殺したから。

 

 自分の国を滅ぼした相手に身を任せる事の辛さ、恨み事を書き連ねた遺書を残して……

 

 だがアーシャ嬢については、この条件は適用されない。彼女は僕に純粋な好意を寄せてくれて僕も恋愛感情とは違うが悪くは思ってない。

 誕生日パーティで御披露目をすれば結婚の申込みが殺到するだろう、大人しく従順な彼女は親の決めた相手に嫌でも嫁ぐ。

 

「あの、黙って見詰められても困りますわ」

 

「すみません、アクセサリーのサイズ合わせについて考えてまして……先ずはティアラですが、此方になります」

 

 空間創造から作っておいたティアラを取り出し渡す、素早くメイドさん達が近寄りアーシャ嬢の髪型をセットしティアラを取り付ける。

 女王の結晶を中心に大粒のエメラルドを左右対称に配置した、地金はゴールドを使用し幾重にも固定化の魔法を掛けた。

 デザインはルトライン帝国時代に流行った物を流用した、王家献上の品々なので悪くは無い筈だ。

 因みにティアラは正装且つ身に付ける女性の身分や、その場の格式も考えなければならない。

 なので裏の部分を付け外しする事によりネックレスとブローチとしても使用出来る様にした。

 

「素晴らしく緻密な細工ですね、ですが下手に触ると壊れそうで怖いです」

 

 フレームに花模様を透かし彫りにして中に小さな宝石を配している、本来は彫金するのだが僕は錬金で作った。

 レベル30の恩恵は細かい制御も可能とした、後は第四段階まで解放された空間創造から素材や触媒を色々と取り出せたのが良かった。

 

「固定化という強度を増す魔法を幾重にも重ね掛けしたので頑丈に出来ています、因みに取り外し式でネックレスやブローチとしても使えます。

それと此方がネックレスになります」

 

 同じデザインと宝石を使ったネックレスを空間創造から取り出す、此方も中心に女王の結晶を配して左右対称にエメラルドを少しずつ小さくして連続で繋げている。

 全体のデザインは在り来たりだがチェーンに細かい細工を施した、近付かなければ分からない目立たない所にも拘ってみた。

 因みにネックレスとペンダントの違いは先端にペンダントトップと呼ばれる装飾品が付いているのがペンダント、首に巻く部分そのものが装飾になるものがネックレス。

 紐状で止め金の無いのがラリエットと呼ばれている、今回は首に巻く部分の細工にも拘ったのでネックレスだ。

 

「凄い繊細な細工ですわね、これはリーンハルト様がアーシャ様に着けてあげて下さい」

 

「え、僕がですか?」

 

 お付きのメイドさんからお願いされたが、装飾品を無闇に男性に着けさせても良いのか?

 アーシャ嬢も真っ赤になっているが後ろを向いてしまった、綺麗な項(うなじ)を見せてくれた。

 

「り、リーンハルト様、お願いしますわ」

 

「ささ、リーンハルト様、お願い致します」

 

 言われる儘にネックレスを受け取り細心の注意を払いながらアーシャ嬢に着ける、何故か留め金を閉める時に緊張したが何とか指一本肌に触れずに着ける事が出来た。

 

「ふむ、サイズも良さそうですね。特に問題は無さそうだ、大変良く似合ってますよ」

 

 僕が褒めるとメイドさん達も笑顔で追従する、何処からか鏡も持ってきてアーシャ嬢に確認して貰っているが笑顔を見れば満足してくれたのが分かる。

 

「リーンハルト様、有り難う御座います。これ程のアクセサリーを作って頂けるなんて、私……幸せです」

 

 アーシャ嬢が両手を胸の前で握り締めて祈る様に見上げてくる、瞳に涙を浮かべて……嬉し泣きなのは分かるが、僕は女性の涙には弱いんだ。

 

「泣かないで下さい、僕は貴女の涙には弱いのです。これで依頼は達成で宜しいですね?」

 

「はい、お父様には私から話しておきますわ」

 

 これで装飾品製作の依頼は達成、後はライル団長率いる聖騎士団本隊が帰ってきたらオークを渡して討伐遠征も一段落だ。

 少し冷めた紅茶を飲んで帰ろうと思ったが取り替えられてタイミングを逃してしまった、時事ネタを交えながらアーシャ嬢と会話を続ける。

 暫くしてルーテシア嬢とジゼル嬢が現れ、更にアーシャ嬢の母親まで挨拶に訪れて帰るタイミングを失ってしまう。

 アーシャ嬢の母親のジェニファー嬢とは討伐遠征を終えてデオドラ男爵の屋敷に凱旋した時に会ったが、未だ三十前半で娘と同様に深窓の若奥様然とした儚い感じの美女だ。

 割と好意的だったが、事前にデオドラ男爵が言い含めていたみたいで色々と質問攻めにあった、特に女性問題については細かく聞かれた……

 

 最後に「娘の事を宜しくお願いします」と丁寧に頭を下げられてしまったが、深読みさせる程の笑顔だったのが気になって仕方ない。

 

 流石に主不在で女性しかいない屋敷に遅くまで滞在するのは不味いので、デオドラ男爵には伝言を頼み帰る事にした。

 僕と違い王宮にも顔を出し領地経営までしているデオドラ男爵は多忙なので、直ぐに明日打合せとはいかないだろう。

 だがライル団長が凱旋帰国する迄は王都に留まらねばならない、そろそろバンク攻略を再開するか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 デオドラ男爵の屋敷から帰ると、ウィンディアがライル団長率いる聖騎士団の本隊は王都まで二日の距離まで来ていると聞いてきた。

 情報元は冒険者ギルド本部でオーク討伐を請けた冒険者パーティが続々と結果報告に来て推測したらしい、つまり明日は丸々予定は無い訳だ。

 オーク討伐遠征による疲労は無い、気苦労は増えたが今は問題じゃない。

 

 イルメラとウィンディアの手料理を食べて風呂に入り自室に戻る、流石に昨晩みたいに彼女達と一緒に寝る訳にはいかない。

 寝間着に着替えてベッドに倒れ込む……

 

「これで継続中の依頼はバンクのビッグボアの肝集めだけ、だが既にビッグボアは経験値的には美味しく無い。地下四階に降りるべきだろう……」

 

 ウィンディアが冒険者ギルドに行ったのはオールドマン代表から呼ばれたから、僕の冒険者ランクアップの為に冒険者ギルド本部に顔を出す様に言付かったから。

 そして本来の目的である魔法迷宮の攻略を再開して欲しいのだろう、ランクCともなれば冒険者ギルドも僕を支援してくれる。

 着実に実績とレベルアップをする為には下層階に下りる必要が有る。

 

「バンクの四階層は一度だけ様子見で下りたが、今のブレイクフリーでも十分に攻略可能だな」

 

 四階層に出現するモンスターはコボルドの他に最下級アンデットモンスターであるゾンビ、アンデットモンスターだが物理攻撃が効くので警戒するのは毒だけだ。

 迷宮でポップするモンスターは魔素の塊だが、ゾンビの元は人間、迷宮で力尽きた冒険者だと思うのだが……

 因みに四階層のボスはコボルドリーダーで配下のコボルドを率いて出現するらしい。

 

 現在の僕ならゴーレムポーンなら五十体以上を運用出来る、だが狭い迷宮内なら最大十体位が動かし易いかな。

 前衛に六体、後衛で女性陣の防御に四体配置すれば効率的だろう。

 

「しかし最大五十体で魔法迷宮に攻め込んだら?殆ど見えないから制御が間に合わないな、自動制御にしてもモンスターだけを敵と認識出来るかな?」

 

 他の冒険者とモンスターの区別程度はつけられるが、戦闘中だと乱入しての横取りと思われるよな。

 考えても意味は無いのだが、バンクの入口から最大制御可能数のゴーレムポーンを突撃させる、パーティ編成の恩恵で楽に経験値だけ貰える。

だがドロップアイテムは回収出来ず、他の冒険者パーティからは戦闘に割り込まれたと苦情が来る。

 

「残念だが意味は無いか……」

 

 明日は朝一で冒険者ギルド本部に顔を出して、その後でバンク四階層の攻略をしよう。

 レベルも順調に上がっているしボスであるコボルドリーダー狩りをしてドロップアイテムの検証をするか……

 

 明日の予定を考えていたら睡魔に襲われた、やはり大丈夫だと思っていても疲れが溜まってたのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、エレさんの自宅まで迎えに行って全員で冒険者ギルド本部を訪れた、時刻は朝の八時前で本日の依頼の手続きをする連中で溢れている。

 やはり少年と美少女三人の組合せは目立つみたいで、直ぐに指を差されたりヒソヒソ話をされたりするが慣れた。

 

『あれがブレイクフリーか、ハーレムパーティかよ!』

 

『只でさえ不足している魔術師と僧侶を抱え込みやがって』

 

『だがオーク討伐に参加して一日で群れを殲滅したらしいぜ?』

 

『ヒスの村の噂は本当なのか?』

 

 混雑していた受付と掲示板付近に居た数組の冒険者パーティが騒ぎだす、ヒスの村の件など最近なのに確り噂話は聞いてるらしい。

 やはり僕達の情報は出回っている、意図的に誰かが広めてないか?

 だがヒソヒソ話をする連中は低ランクの依頼掲示板付近に集まっている、年若い連中が殆どだが精々がランクE止まり。

 ランクC以上の連中は特に絡んでこない、ただ値踏みする様な視線を送ってくる位だが敵意は感じない、多分だが極力協力し合う事が暗黙の了解の所為かな?

 

「ブレイクフリーの皆さん、お待ちしておりました」

 

「クラークさん!」

 

 突然声を掛けられたが、ラコック村の件でお世話になった冒険者ギルド本部の幹部職員であるクラークさんだった。

 

「此方です、応接室の方へ来て下さい。リーンハルトさんのランクC昇格について説明が有ります」

 

 ちょ、その情報は此処で話すには不味いです、周りが更に騒ついて……

 

『二ヶ月でランクC昇格だと?』

 

『馬鹿な!私達なんて二年でランクDなのよ』

 

『嗚呼、憎しみで人が殺せたら……』

 

 ほら、もうヒソヒソ話ってレベルじゃなくなってしまった、普通に話してるし。

 

「構いませんよ、冒険者ギルドのランクCと言えば全体の10%、ランクAとBは合わせても3%しか居ない選ばれた存在なのです。

彼等は陰で不平不満を言うしか出来ません」

 

 クラークさんの周りに聞こえる様な説明に今まで騒いでいた連中が一斉に黙る、ランクC以上は冒険者ギルドから優遇されるのは周知の事実。

 下手に手を出せば制裁モノだから黙るしかない、そして僕は今まで以上に冒険者ギルドへ貢献しなければならない。

 

「クラークさん、手続きと説明は手短にお願いします。暫くはバンク攻略に専念しますので」

 

「それは冒険者ギルド本部としても嬉しいですね、では手短に済ませましょう」

 

 そう言って通された応接室には冒険者ギルド本部代表のオールドマンさんが既に待っていた、手短にはならないかも知れない。


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