古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第148話

 久し振りの魔法迷宮バンクの攻略、今回は四階層のボス狩りに挑戦した。

 新しいゴーレムの運用方法を試した、集団でのロングボゥによる中遠距離飽和攻撃。

 今は最大二十体だが明日は三十体にして制御内容を増やして経験を多く積む予定だ。

 だが大量のドロップアイテムの運搬に空間創造のギフト(祝福)は便利だ、今回はダガーとスタンダガーだけでも約三百本、これが鎧兜とか大きな物だったら一旦地上に戻るかしないと駄目だろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕方五時過ぎ、他の冒険者達も帰るのだろう行きは擦れ違わなかったが帰りは二組のパーティがモンスターと戦闘中なのを見掛けた。

 お陰で帰りはモンスターと遭遇せずに出口まで辿り着いた、地上に出てからゴーレムポーンを魔素に還す。

 流石に今日は疲れた、新しいゴーレムの制御に弓矢の錬金を繰り返したからな。

 冒険者ギルド出張所にも数組のパーティがドロップアイテム買い取りの為に並んでいる、大量のアイテムの買い取り状況を見られたくないので暫く待つ事にする。

 

「あら、久し振りね。ブレイクフリーの皆さん」

 

 背後から呼ばれたので振り替える、そこには笑顔で僕を見つめる『春風』のフレイナさん達が居た。ヒスの村の警備依頼は終わったのか……

 

「お久し振りです、フレイナさん達も元気そうですね?」

 

 特に何かされた訳でもないので、一応笑顔で挨拶を返す、だが正直関わり合いになりたくは無い。

 他のパーティに寄生すると聞いているが、何と無く勘が胡散臭いと感じている。

 

「バンクを攻略してたのね、私達は三階層付近で戦ってたけど、リーンハルトさん達は?」

 

 笑顔で会話を繋げて来た、ウチの女性陣は無表情で無言だ、この対応は結構居たたまれないだろう。

 

「四階層です」

 

「凄いわね、流石はデオドラ男爵様のお気に入りね。オーク討伐遠征の事を聞いたわ、大活躍だったみたいね」

 

 ポンっと胸の前で手を叩いて驚いた顔をする、本当に親しみ易い感じで距離を縮めてくるな。

 

「僕はデオドラ男爵の作戦に従いモンスターを倒しただけですよ、大した事はしてません」

 

「それでも一緒に成果を達成した訳じゃないですか!」

 

 ニコニコと嬉しそうに話すフレイナさんと後に並び同じ様に笑っている他の女性達、疑いを持つと凄く不自然なのだが本人達は気付いているのだろうか?

 

「その件についてはデオドラ男爵から正当な評価を頂いているので、僕が誇る事ではないのです。

あくまでもデオドラ男爵の下で指示を受けて結果をだした、分かりますよね?」

 

 冷めた目で言い含める、身分上位者の功績を自分の事の様に振る舞う愚かな行為をする事が、僕にどれだけ不利益をもたらすか理解してるのだろうか?

 理解して言っているなら最悪で理解してなければこの先報いが返ってくるだろう。

 

「ご、ごめんなさい。そんなつもりは……」

 

「身分上位者の功績を自分の事の様に振る舞えと唆す、貴女は少し貴族というモノを理解しないと自分が破滅しますよ。では失礼します」

 

 一礼してその場を離れる、丁度買い取りカウンターから人が居なくなったからタイミング的にも良かった。

 だが何も知らずに美人からフレンドリーに接しられたら普通はガードを下げるだろうな、僕は彼女達を全く信用してないから突き放すが普通は大なり小なり寄生され利用されるのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「いらっしゃい、久し振りですね」

 

「はい、ザルツ地方で異常発生したオークの討伐遠征にデオドラ男爵の配下として行ってました。買い取りをお願いしたいのですが、今日は数が多いです」

 

 パウエルさんと話す、イルメラ達が後に並び自然と周りからの視線を阻む。

 

「ほぅ?それは期待出来ますね、どれ位ですか?」

 

「先ずダガーとスタンダガーが三百本位ですね」

 

「ちょっと待って下さい」

 

 慌ててカウンターの下を片付けて空のトレイを幾つか用意してきた。

 

「先ずはスタンダガーからお願いします」

 

 カウンターに乗せられたトレイは縦60㎝横90㎝深さ5㎝程の大きさ、スタンダガーは柄を含めた長さが40㎝なのでピラミッド状に積んでいく。

 途中何度かトレイを交換して貰い全てを渡した。

 

「スタンダガーは全部で百五十八本、次にダガーが百三十二本です」

 

 新しく出されたトレイにダガーを乗せていく、スタンダガーより一回り短いのでトレイ三枚で置き切れた。

 

「最後に銀の指輪が五十一個です、ポーション類は最近消費が多いのでストックさせて下さい」

 

 ハイポーションやポーションは自分達で使うより譲る方が多い、だがストック場所には困らないし売るより持っていた方が良い。

 イルメラと別行動の時は回復はポーション頼りになるし……最後のトレイに銀の指輪を五十一個のせる、コレにはパウエルさんも喜んだ。

 

「銀の指輪ですね、万年品薄な商品なので嬉しいのですが……この内容だと四階層のボスを百八十回前後は狩り続けたんですか?」

 

 流石だ、ドロップアイテムから僕等の行動の内容、ボス戦の回数まで正確に予想してきた。確かに僕等はボス狩りを百七十回行った。

 

「はい、複数の敵を同時に対処する訓練を含めまして。明日も四階層でボス狩りを行い次は五階層に下りてみます」

 

「そうですか、銀の指輪は確かに品薄ですが冒険者ギルドとしても拘る事もないので自分達の力量に応じて魔法迷宮バンクを攻略して下さい。さて買い取り価格ですが……」

 

 パウエルさんが紙とペンを使い計算を始めた、確かに暗算では無理だよな。

 流石にイルメラ達が身体で隠していてくれても大量のスタンダガーとかは隠し切れなかった。

 またヒソヒソ話が始まるし『春風』のフレイナさん達も帰らずに残っている、まだ絡んで来るのだろうか?

 

「先ずはスタンダガーが百五十八本、一つ銀貨七枚なので金貨百十枚と銀貨六枚。

次にダガーが百三十二本、一つ銅貨五枚なので金貨六枚と銀貨六枚。

最後に銀の指輪が五十一個、一つ金貨五枚なので金貨二百五十五枚。合計で金貨三百七十一枚と銀貨が十二枚になります」

 

「有り難う御座います」

 

 

 百枚一束にされた金貨の束を三つとバラの金貨と銀貨を受け取る、流石に金貨百枚分の価値が有る白金貨は大口取引でもなければ出回らないか。

 金額を確認してから空間創造に収納した、前回のビックボア狩りも金貨二百枚を越えたが下層階に行く程買い取り価格も上がる。

 これはレアギフトによりドロップ率が他のパーティの十倍有るから可能な僕等だけの方法だが、金銭感覚が狂わない様に注意が必要だな。

 

 買い取りを終えてエレさんのギルドカードを更新、現在のパーティメンバーのレベルは僕が30、イルメラが29、ウィンディアが26、エレさんが22になった。

 ウィンディアも後少しでレベルアップしそうだし五階層に下りるのも時間の問題だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 乗り合い馬車の停留所に向かうとフレイナさん達が此方の様子を窺っている、特に実害が無いから強く拒絶も出来ない困ったお姉様方だ。

 だが此処で全金属製ゴーレム馬車の使用は悪戯に変な噂を増やすだけだから自重しないと……

 

「あら?今から帰り?」

 

 様子を窺っておいて今から帰りも無いと思う、彼女達はこれ程警戒されているのに寄生出来ると思っているのだろうか?それとも僕等の自意識過剰なのだろうか?

 

「はい、疲れたので馬車に揺られて寝ながら帰りますよ」

 

 馬車内は密室で王都迄は一時間は掛かる、話し掛けられない様に寝ながらと牽制する。

 出来れば知り合いと一緒に乗りたかったが『静寂の鐘』も『野に咲く薔薇』の人達も停留所の待合室には居ない。

 ゴーレムが居ないと僕等は少年と美少女三人で魔術師二人に僧侶に盗賊と戦闘職しか居ない連中にとっては垂涎の的だろう、数組のパーティが此方の様子を窺っているし……

 

「あらあら、無理は禁物よ」

 

 さり気なく僕等の後に並ぶ、次の馬車には乗れそうだが二十人乗りだから一緒になるな。

 他にも若い男五人、戦士四人に盗賊一人のパーティと中年の魔術師の男がリーダーっぽくて他のメンバーが若い戦士職の男二人と同じく軽戦士職の女二人の五人パーティが一緒の馬車になるだろう。

 到着した馬車に三組目として乗り込む、先の二パーティが奥に座ったので僕等は後ろでフレイナさん達と向かい合う様に座った。

 

 馬車はガタガタと揺れながら王都に向かっている、僕の両隣にイルメラとウィンディアがエレさんはウィンディアの隣に座っている。

 宣言通りイルメラとウィンディアは僕に寄り掛かって寝ていて、エレさんはウィンディアの膝に頭を乗せて寝ている。

 皆さんの視線が突き刺さる中、僕も下を向いて狸寝入りをしている、流石にこの状況で呑気に居眠りなんて無理だ。

 周りが話し掛けるタイミングを見計らっているのが分かる、特に奥に座る中年の魔術師は強力な魔力を全身に纏っている。

 彼のパーティメンバーの男女も中々のレベルだと思う、少なくてもバンクなら四階層以下に潜って攻略しているだろうな。

 若い男五人のパーティはレベルも装備品も低い、多分だが『ザルツの銀狐』さん達と同じ位かな、レベルは15前後だろう。

 薄目を開けて向かいの『春風』のメンバーを値踏みする、他人に寄生すると言われているが実力も装備品の質も高そうだ、少なくともレベルは20以上は有りそうだな。

 彼女達はランクDだが、もう直ぐランクCに上がれるだけのポイントは稼いでいると教えて貰った。

 実力は有れども他人を利用し、より安全にランクアップを狙っているのだろう……

 

「なぁ少年魔術師よ、少し話をしないか?ハリネズミみたいに周りを警戒するのも良いが、折角同じ馬車に乗り合ったのだ、情報交換でもしないか?」

 

 む、少年魔術師とは名指しで言われたのと同じか、声の方向から中年魔術師だと思うが……ハリネズミとは困ったな。

 敢えて寝ていた様に目を擦りながら顔を上げる、やはり中年魔術師が僕を見詰めている。

 

「いや、本当に疲れているんですが貴方は元気なのですね?」

 

「ふっ、身体や精神が疲れたら身に纏う魔力にも揺らぎが起こる、それだけ均一で力強い魔力を纏っていながら疲れたは無いだろ。

私はドレイヌ、君はリーンハルト殿で良いかな?息子のコレットから話は聞いているよ」

 

 コレット?あの美少女みたいな少年土属性魔術師か、花嫁行列の依頼で一緒だった……彼はコレットの父親か。

 

「コレットとは魔術談義で盛り上がった友人です、今彼は?」

 

 親子なら一緒のパーティを組むと思うが彼のパーティメンバーは若い男女が四人、だが家族や兄弟姉妹とは思えないな、全然似ていないし。

 

「息子は一人で冒険者として活動している、私がクランの若い子達の面倒を見てるので……ははは、息子とは少し距離が有りましてね」

 

 頭を掻いて笑っているが、親子の確執の話は聞いてないな、コレットは未だ十二歳位じゃなかったか?

 

「そうですか……彼もゴーレム四体を操る土属性魔術師、パーティは組まないと言ってましたが色々有るのですね」

 

「出来れば息子にもクランの手伝いをして欲しいのですが……未だ未熟な若い冒険者達が一人前になるにはクランに所属するのが一番安全だからね」

 

 ドレイヌさんが熱く語りだした、雲行きが怪しくなって来たぞ。

 

 確かに駆け出し冒険者は互助会みたいなクランに入るのは有効らしいが色々な義務が有るのも事実。

 一人で活動出来る力が有るなら父親の所属するクランに入らないのも選択肢の一つだろう、僕等みたいに他人を頼らずに活動出来るならクランはメリットよりデメリットの方が多い。

 

「自由な生き方が基本の冒険者ですから人それぞれの進み方が有ります。

僕等も誰にも干渉されずに自由に生きたい、その願いを込めて『ブレイクフリー』(自由への旅立ち)をパーティ名にしてます」

 

 ああ、出来れば自分のクランに勧誘したかったんだな、凄く残念そうな顔をしている。

 皆の為にクランに所属し活動するのは立派だが、悪いが僕等は自由に生きたいんだ。

 


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