古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第15話

『デクスター騎士団』の騒ぎを目撃した翌日、乗合馬車の停留所に向かうと『静寂の鐘』のメンバーが待っていた。

 どうやら行きは一緒に行くのが当たり前みたいになってきたな。

 

「おはようございます、『静寂の鐘』の皆さん。今日も待ち伏せ御苦労様です」

 

 少しだけ毒を吐きながら頭を下げて挨拶をする、イルメラも無表情だけど僕と合わせて会釈した。

 

「リーンハルト君、意外に毒舌だね。お姉さん悲しいわ」

 

「おはようございます。リーンハルトさん、イルメラさん」

 

 ヒルダとリプリー姉妹が同時に挨拶を返し残りの三人は苦笑いを浮かべている。

 僕は彼等が嫌いじゃないし『静寂の鐘』はバンクでは中堅パーティなので同行してる時にしつこい勧誘も無いので嬉しくもある。

 何時ものように一緒に馬車に乗り込み他愛ない話をしてバンクに向かう。

 

「そうだ、昨日だが『デクスター騎士団』の連中がギルド派遣のお守り達と言い争っていた。奴等はアレでもグリム子爵の息子と取り巻き貴族の四人組だ。

馬鹿な迷宮探索を必ずするから関わり合いにならないように注意が必要だよ。ギルド職員に確認したが奴等と揉めた場合、ほぼ100%実家の権力で押し潰されると思う。

対抗出来るのは同等以上の爵位が有るかギルドランクC以上だよ」

 

 ヒルダが額に手を当てているから、思い当たる節があるんだな。

 

「リーンハルトさんは大丈夫なんですか?」

 

 リプリーの大丈夫について考える、何をもって大丈夫なのか……

 

「ああ、そういう意味か……大丈夫じゃないな、僕も貴族だが実家は男爵でしかも新貴族だ。

彼等『デクスター騎士団』と揉めた場合、100%向こうが悪くても無理だ。

不条理だが仕方ないだろう、だから極力関わり合いにならない」

 

「リーンハルトさん、貴族様なんですね。お名前から、そうかなって思ってましたが……」

 

 食い付く所が違くない?リプリーの悲しそうな顔の意味が分からないのだが……

 

「貴族なんて縦社会の不条理な世界だからね。

僕も継承権問題で15歳で廃嫡される予定だ。下手に頑張ると暗殺されかねないのが御家騒動って奴さ。

だから来年は平民だけど、早く力を付けて理不尽な事を跳ね返したいんだ」

 

 その為には冒険者ギルド内で力を付けなくてはならないし、冒険者養成学校で人脈を作らなくてはならない。

 今の僕とイルメラは権力者にとっては手頃で美味しい餌でしかないからな……

 

「明確な将来設計が有るんだな。可愛い僧侶の彼女持ちだし俺等から見れば十分勝ち組だぞ坊主」

 

「全くだ、そこそこ名の知れた『静寂の鐘』の兄弟戦士の俺達がモテないのは何故だよ?」

 

 サラウンドで文句が来たが恋愛なんて本人が頑張らないと無理だろ?貴族みたいに奥さんや妾を宛がわれるものじゃないし……

 

「それは男の努力次第ですよ。

ヒルダさんとかポーラさんとか魅力的な適齢期の女性が近くに居るじゃないですか。リプリーは年齢的に未だ幼いですから駄目ですよ」

 

 ヒルダさんもポーラさんも外見は標準以上だと思う、中身は分からないが……

 

「コイツ等がか?坊主、観察眼を鍛えろよ」

 

 良い笑顔で完全拒否だが近しい異性は恋愛対象にはならないのか? 拒否された二人の表情が怖いくらいに変化してきたので目を逸らす。確か東洋では夜叉って言うんだっけ?

 

「うん、無理だ。それに俺は『ダリア』の看板娘のオリビアちゃんを狙ってるんだ」

 

「馬鹿野郎!オリビアちゃんは俺が狙ってんだぞ」

 

 呑気に女の取り合いをしているが、女性への配慮が足りないからモテないんだなと思った。彼女扱いのイルメラが笑顔で何も言わないが、僕は空気を読めるので何も言わない。

 リプリーも微妙な顔をしているが、姉や仲間の女性に魅力が無いと言われたのだから微妙なのも分かる。因みに乗合馬車を降りた途端に兄弟はシバかれていた。口は災いの元だし空気は読むべきだよね?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「面白いですね、『静寂の鐘』のメンバーの方々は……」

 

 魔法の明かりに照らされた迷宮内を並んで歩いていると、珍しくイルメラから話し掛けてきた。

 うん、確かに騒がしくて面白い連中だ。

 

「そうだな、子供の僕達に気を使ってくれるんだろうな。後は僧侶と魔術師の僕等と仲良くなっておきたい打算も有るだろ」

 

 打算が悪いとは言わない、ギブ&テイクも悪い関係じゃない。

 

「リーンハルト様は彼等との付き合いは有益と思ってますか?」

 

 僕を見る彼女の瞳からは何の感情も感じられないが『ブレイクフリー』は当分の間は二人きりで行動するって言ったからな。

 

「少なくとも乗合馬車の中で一緒なら五月蝿い勧誘は無いからな、それに同業の魔術師の話や盗賊の情報は助かる。

僕等もいずれは盗賊を仲間にしないと攻略に行き詰まるからね。未だ良いがギルドランクを上げるには討伐依頼や素材採集依頼を受けないと駄目だ。

早目にランクCまで上げないと……」

 

「そうですね、力を付ける事が必要……誰にも何も言わせないだけの力を」

 

 イルメラは恩師でも有る母上を下らない御家騒動で暗殺されているからな。権力者の理不尽な行いを憎悪している。

 それは当然だが僕も同じだ、仮初めとは言え僕を生んで育ててくれた両親には感謝しているのだから……

 暫くは出会ったゴブリンを倒しつつボス部屋に到着した。

 

「さぁ131回目からのボス狩りを始めるよ。出来れば今日で200回目まで終わらせて木の指輪を二人分20個手に入れたい」

 

「残り7個ですね、大変ですが頑張りましょう」

 

 カッカラを構えてボス部屋へと入る、午前中で35回倒せるかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「きゃ?危ない!」

 

 順調にボス狩りをしている途中にソレは起こった、ボス部屋の扉を開けて先に出たイルメラの悲鳴が聞こえた。

 視界から一瞬で消えた彼女を心配して外に出ると座り込んでいたので、誰かに突き飛ばされただけみたいだ。

 相手を確認しようと廊下の先を見れば走り去る奴はグリム子爵の息子みたいだ。

 あんな派手な金の掛かった悪趣味な鎧兜を着てる奴などバンクでは奴くらいだが、何故一人で逃げているんだ?

 

「大丈夫か、イルメラ?怪我は無いか?」

 

 右手を差出し倒れていた彼女を起こす。

 

「酷く怯えてました、私なんか見てなくて一目散に逃げてた感じでしたよ」

 

 修道服に付いた埃を払いながら彼女は関心無さそうに答える、だが……

 

「デクスター騎士団は四人組、昨日ギルドから派遣された連中と喧嘩別れしたから貴族の坊っちゃん嬢ちゃんだけで迷宮を探索中。

そこで一人だけ逃げて、今女性の悲鳴が聞こえた?」

 

 灯りの無い洞窟内に確かに女の悲鳴が響き渡った、目の前の真っ暗な洞窟の先で誰かが襲われているのは間違い無い。

 この状況で女性の悲鳴って事は、孤児院で会った彼女が危険に晒されているんだ!

 どうする?助けるのか?それとも見捨てるのか?

 イルメラを見ると泣きそうな顔で僕を見ている……最悪だ、どうする?イルメラを悲しませてでも身の安全を優先させるのか?

 貴族の柵(しがらみ)を考えると助けても素直に感謝されないし余計な苦労を背負い込むかも知れない、知れないけど……

 

「助けに行く。でも僕等にも危険が及ぶなら、その時は諦めてくれ……」

 

「はい!」

 

 第二の人生は貴族の柵(しがらみ)とかに関わらずに自由に生きると決めたのに、結局は転生しても生き方は変わらない。 

 思考を救出に切り替える。一階層のモンスター程度で奴が逃げ出す訳は無い。つまり相手は人間だ。

 アレだけ我が儘で生意気な奴だから誰かの恨み位は買ってるだろうな、だが助けると決めたからには見捨てる訳にはいかないか……

 

「ゴーレム四体を先行させる、イルメラは僕の後ろに控えてくれ。もしも相手が高レベルのパーティーだったら最悪は逃げるよ」

 

 ゴーレム四体を先行で走らせる、補助として魔法で作ったライトを一緒に飛ばす。30mも走れば直ぐに悲鳴を上げた女は見付かったが……

 

「馬鹿な!一階層なのにグレートデーモンだと?アレは九階層で現れるモンスターじゃないのか?」

 

 僕の目の前には褐色の筋肉質な肉体に角と羽を持つ悪魔の名を持つモンスターが二体居た……

 

「たっ、助けてくれ!仲間が傷付いて……私だけじゃ抑えられない」

 

 グレートデーモンをロングソードで牽制してるのは燃えるような赤い髪の彼女だ。兜も盾も無くしたのかボロボロのロングソードで辛うじてグレートデーモンの爪を払っている。

 彼女が庇っているのは魔術師の女だが腹から血を流して呻いている。危険な状態だ。

 

「助太刀する!ゴーレムよ、全員でグレートデーモンを押し戻せ!」

 

 金属の塊が洞窟内で横一列となりグレートデーモンに突撃し、そのまま奥へと押していく。僅かに出来た時間で倒れた女をイルメラに渡して治療を頼む。

 

「イルメラ、彼女の治療を頼む。赤い髪の戦士、一旦引いてくれ!ゴーレムの行動の邪魔だ!」

 

 折角彼女達からグレートデーモンを引き離したのに後を追い掛けてどうするんだよ?

 

「しかし、しかし!」

 

「しかしも案山子も無い!

奴等は仲間を呼んで増殖するんだ、一匹でも倒し損ねたら六匹に戻る。ゴーレム達よ、倒さずに傷付ける事を優先しろ!」

 

 僅かな時間で僕のゴーレムは二体が壊され、奴等は仲間を呼んで六匹に増えた。

 

「ああ、六匹に……

こうなったら玉砕してやる、我がデオドラ一族に敗走は無い!君達は逃げろ!」

 

 自己犠牲という悲壮な決意を滲ませた凛々しい表情を浮かべて両手でロングソードを握り締めてるが、玉砕されても僅かな時間じゃ僕等は逃げ切れないぞ。

 だけど自分を犠牲にしてでも僕等を逃がそうという気持ちは受け取った。人間は極限状態だと本性を現すという。自分を犠牲にしてでも僕達を守ろうとするならば……僕もその気持ちに応えなければならない。

 たとえ甘ちゃんと言われ様が愚かな行為だと馬鹿にされようが……

 

「邪魔だ、今は下がってろ。クリエイトゴーレム!ゴーレムよ、グレートデーモンを僕等に近付けるな!」

 

 ロングソードとラウンドシールドを装備させた青銅製ゴーレムを召喚してグレートデーモンに向かわせる、コイツ等を纏めて倒すには手順が要るんだ。

 

「リーンハルト様!治療は終わりましたが未だ意識が……」

 

 六体の青銅製ゴーレムで挑んでも同数じゃ勝てないか……だが後二匹を傷付けられれば。

 

「イルメラは下がれ!ブレスが来たら僕の治療を頼む。赤い髪の戦士、邪魔にならない様に自分の仲間を後ろに下げてくれ!」

 

「はい、ですが木の指輪を装備して下さい」

 

 ダメージ30%カットは有効だから助かる。イルメラから七個の木の指輪を受け取り指に嵌める。青銅製ゴーレムが二体まで減ったので更に四体を召喚して送り込む。

 無傷なのは残り一匹だ……これなら何とかなるか?

 カッカラを構えてゴーレムの制御に専念するが、グレートデーモンの攻撃を三回くらいまでしか受けられない。

 簡単に腕や頭がグレートデーモンの腕の一振りで潰れてしまう。

 

「しっ、しまった!」

 

 ゴーレムの隙間を縫って一匹のグレートデーモンが飛び掛かってきた。

 

「危ない、リーンハルト様!」

 

 イルメラの防御魔法が直前まで迫っていたグレートデーモンを跳ね飛ばす、危なかった、あと一秒遅れたら腹を貫かれていたぞ。

 

「イルメラ助かった、有り難う。

切り札の一枚目を切るぞ!クリエイトゴーレム、来たれゴーレムナイト!」

 

 青銅製ポーンでなくツヴァイヘンダーを装備した鋼鉄製のナイトを二体召喚する。今の僕が召喚出来る最強の大剣使いのゴーレムナイト!

 瞬く間に無傷だったグレートデーモンに手傷を負わせていく。

 これで保有魔力は二割を切ったが奴等を全滅させる準備が整ったぞ。

 回復の為に魔力石を五つ全て取り出し握り潰すようにすると魔力が漲る感じがした、残りの二枚目の切り札を切る為に精神を集中する。

 既に青銅製のゴーレムは全滅し鋼鉄製のゴーレムナイトも満身創痍、何時壊れても不思議じゃない。

 その時、一体のグレートデーモンが大きく息を吸い込んだ。

 

「イルメラ、ブレスが来るぞ!防御魔法を……」

 

「はい、リーンハルト様!」

 

 彼女の張った魔法障壁を突き抜けてグレートデーモンのブレスが僕等を襲う前に、何とかイルメラの前に移動してブレスを受ける。

 灼熱のブレスはローブと皮膚を容赦なく焦がしていくが詠唱中の口元を守る為に両手をクロスさせて防御する。

 

「コッチも準備出来たぞ。ポイズンミストよ、グレートデーモンを包み込め!」

 

 致死性の高い猛毒を含んだ霧が傷だらけのグレートデーモンに絡み付く。霧を操作し念入りに傷口や目や口を狙い毒を刷り込んでいく。

 口を塞いでのた打ち回るグレートデーモンも全部が動かなくなり、やがて魔素となり光の粒子となって消えて行った……

 

「ギリギリの勝利だったな、一手間違えれば死んでいた」

 

 僕はその場に両手を付いて座り込んだ、だが悪くは無い気分だ……




連載二週間が過ぎましたが再掲載作品にこれだけの評価とUAを有難う御座います。
修正作業は中々進まないので毎日1話掲載になってしまいますが32話以降は未公開分として一応下書きは順調に進んでいます。

感想やメッセージで問い合わせの有った「榎本心霊調査事務所」ですがデータを頂きましたので再開します。こちらも宜しくお願いします。

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