古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第154話

 

 バルバドス師から国家的な秘密を暴露され、僕の立場が今以上に厳しくなる事を知らされた。

 エムデン王国は先の大戦のツケを精算する為にウルム王国に圧力を掛けて旧コトプス帝国の残党を引き渡す様に要求する、強く要求するだろう。

 相手の出方によってはウルム王国と開戦も止むなし、オークの異常発生の真相を知れば世論も後押しするだろうな。

 ウルム王国と比較しても戦力は回復した、周辺諸国を外交で押さえ込めば十分に勝てる。

 そんな秘密を教えてくれたバルバドス師と共に塾生達が居るサロンへと連行された、僕はバルバドス師の弟子だから塾生に教える義務が有るらしい。

 そう言えばメディア嬢とレティシアが来てるって警備の兵が教えてくれたな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バルバドス塾は二つ有り此方は貴族の子弟達が集まる、彼等は魔法を自分達のステータスとして捉えているのか向上心は少ない。

 今日は何時もより人数が多く二十人以上、だが半数はメディア嬢の取り巻きでセインやデスキャンサー君も居るな。

 各々が数人でテーブルを囲み話に華を咲かせている、塾というよりはサロンとして貴族間の情報や交流の方が主流か?

 

「あら、リーンハルト様。今日は中央広場の方に行かなくても宜しいのですか?」

 

「久しいな、リーンハルト」

 

 サロンに入るなりメディア嬢から質問が来たが、これは討伐遠征の影の功労者が此処に居ても良いのか?私は実情を知ってますよって事だな。

 

「ええ、お久し振りです。メディア様、レティシア様。

今回の功労者は聖騎士団のライル団長とデオドラ男爵の二人です、僕はデオドラ男爵の指示に従い行動しただけですので式典には不参加ですね」

 

「ふふふ、そう言う事にしておきますわ。今日は私達の指導をして下さるのでしょうか?」

 

 綺麗な微笑みを浮かべているので取り巻き達が見惚れている、大分邪気の無い笑顔を見せてくれる様になったな、最初はレティシア共々酷かった……

 

「バルバドス様?」

 

「ん?ああ、お前はメディア達の面倒を見てくれ。他の連中は俺の所に集まれ、先ずは……」

 

 ちょ?問題児をさり気なく押し付けられた?

 

 テーブルに座るメディア嬢とレティシアが目線で目の前に座れと圧力を掛けてくる、周りの取り巻きの怨嗟の視線が突き刺さる。

 勘違いしないで欲しいのだが僕はニーレンス公爵の派閥じゃないし彼女も勧誘を諦めている、僕等の間には恋愛感情は欠片も無い。

 

 なのに何故セインとデスキャンサー君は、そんな血涙が流れ出す程に睨み付けるんだ!

 

「な、何か聞きたい事が有りますか?魔法関連で、ですが……」

 

 笑顔の圧力に負けて椅子に座る、彼女だけ専用のメイドが同行し世話を焼く。つまり僕にも直ぐに紅茶を用意してくれる。

 

「塾生としてなら関係は無いのですが、先ずはお礼を……

有り難う御座いました、リーンハルト様のお陰で叔父様の命が救われ、お兄様と配下の者達も助かったそうですわね」

 

 椅子から立ち上がり軽く頭を下げた。

 

 上位貴族の令嬢が頭を下げた事に周りが騒ついた、かなり有り得ない事だぞ。

 最初の頃よりも大分イメージが違ってきた、高飛車で我が儘な感じだったのに今は僕に対してある程度の尊敬に近いモノを感じる。

 

「僕は大した事はしてません、レディセンス様には僕も助けられました」

 

 主に人質を助けてライル団長を待つ迄の間、我が儘一杯の貴女の叔父様を随分と抑えて頂きました。

 もう少しで我慢強くないデオドラ男爵が爆発する一歩手前まで追い込まれて……

 今思っても胃が痛い、特に新貴族の男爵の息子程度じゃニーレンス公爵の実弟には逆らえなかった。

 個室が欲しいとかトイレは水洗じゃなきゃ嫌だとか、最後はテラスが欲しいと命令された……

 

「当時を思い出したのですね、さぞ辛かったのでしょう」

 

「ええ、(ライル団長を)待つ事の辛さが身に染みました……」

 

 優しく微笑むメディア嬢と辛い顔をする僕を見て会話が聞こえない周りはどう思うのだろうか?

 レティシアは大して心配していない、僕の今の力を知っているので冷静に考えてもワイバーンやトロール程度じゃ負けはしない。

 

「そうだ、この親書はお返しします。助かりました、最後の保険が有る事は心の余裕に繋がりました」

 

 絶対使えない親書を持たされたプレッシャーは結構キツかったですが、メディア嬢の気持ちは嬉しかった。

 純粋にニーレンス公爵一族と僕とが揉めない為の親書だ、まぁ使えば問答無用で派閥移籍だったが……

 

「あら?ジゼルは握り潰さずにリーンハルト様にお渡ししたのね。感心したわ、おほほほほ……」

 

 わざとらしく右手で口を隠して笑った、でも目は笑ってない。

 

「ええ、僕の生還の確率を下げる事は出来ないからと……」

 

 切り返しに失敗したかも……メディア嬢の眉がピクリと動いて僅かながら視線がキツくなったぞ。

 

「何時までも何処までも仲が良ろしいのですね?あの毒舌女狐め!」

 

 暫くはジゼル嬢に対する愚痴と文句が続いたが酷い罵詈雑言ではないので、やはり何だかんだ言っても二人は喧嘩友達なんだろうな。

 美少女二人の口喧嘩など可愛いモノだ、微笑みながら話を聞いた。

 暫くしたら落ち着いたのだろう、優雅に紅茶を飲んで気持ちを切り替えて来た、殆ど右から左に聞き流したがジゼル嬢も大分自慢話をしたりとかお互い様な部分も有るな。

 私の婚約者自慢がメディア嬢の癪にさわるのだろう、てか君達定期的に会っているんだね?

 

「そうでした、お父様がお兄様と私が世話になったのでお礼がしたいと申してまして……今度私の屋敷に御招待しますわ」

 

 ついに本題が来たが、メディア嬢の屋敷に招待とは誰が待ち構えているか分からない。

 

「メディア様の、ですか?」

 

 本宅に呼ばれる訳は無いが女性であるメディア嬢の屋敷に呼ばれるのも微妙だぞ、てっきりレディセンス様の……

 

「はい、私は定期的にお友達を呼んでお茶会を開いてますので、御招待させて下さい」

 

 む、お茶会か……ニーレンス公爵家に縁(ゆかり)の有る者達が集まるのだろう、そこに僕が参加するのか。

 だが定期的に催されるお茶会にゲストとして参加なら対外的には問題は少ない、一人だけ呼ばれると色々と煩く騒ぐ連中も出るけど……

 まぁ何処に呼ばれても断る事は出来ないのが現実だ、歴然とした身分差は大きい。

 

「勿論喜んで参加させて頂きます」

 

「では後程、正式な招待状をお持ちしますわ」

 

 この笑顔を見れば彼女は純粋にお礼がしたいのだろう、他の連中の思惑は分からないが酷い事にはならないだろう。

 

 しかしお茶会か……

 

 エルナ嬢の催すお茶会にも参加しろと言われているのだが、此方は完全なお見合いなんだよな。

 彼女が厳選した側室と妾候補しか集まらない辛いセッティングなお茶会だ。

 

「何か心配事でも?大丈夫ですわ、私の主催のお茶会でリーンハルト様に不快な思いはさせませんから……」

 

 不安そうな顔をしていたのか、メディア嬢から気を使われてしまった。

 身分上位者主催のお茶会に呼ばれて不安になったのかと思われたのかな?

 まさか義理の母上が自分の為に集めた女性達とのお茶会に参加するのが嫌なんですとは言えない。

 

「いえ、そう言う意味では有りません。勘違いさせて申し訳無いです」

 

「ふふふ、何時も冷静沈着なリーンハルト様に困った顔を浮かばせる相手は誰なのでしょう?」

 

 貴女と貴女の悪友ですよ、だがニーレンス公爵家絡みの件はお茶会に参加すれば一段落だろう。

 

「僕程度では困る事など沢山有り過ぎて……日々忙しく過ごしてますから」

 

 真実は言えないので曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。

 

「私のナイト様は酷い謙遜をするのですね、それとも御自分に自信がお有りにならないのですか?

もっと自信を持って下さい、仮にもリーンハルト様は私が認めた私のナイト様なのですよ」

 

 その設定を未だ引き摺っていたのか!

 

 確かに自分で言った、美しき姫には何人ものナイトが居て、自分もその一人だからメディア嬢が欲しければ僕を倒せと……

 少し設定に酔い過ぎていて、今考えると恥ずかしい話だ。

 

「そうですね、以後気を付けます」

 

「全くいざという時は激しく好戦的なのに普段は謙虚で物静かなのですね」

 

 む、戦いの時、魔術師は冷静沈着であれと心掛けて来たが、メディア嬢から見て僕は激しく好戦的に見えたのか?

 僕もデオドラ男爵家の悪しき慣習に知らぬ間に影響を受けているのだろうか……

 

「我々魔術師は常に冷静沈着で周りの状況も理解し行動する、そう教えられ実践して来ました。ですが戦いに熱くなるのは良くないな、気を付けます」

 

 熱血は悪くはない、だが一点しか見えないのは指揮官としたら落第だ。

 僕は転生前は一千体のゴーレムナイトを操り戦場を支配していた、それは戦場全体を見渡して敵軍の動きを把握し対応してきたから。

 熱くなり全軍突撃とかした場合は大抵包囲され良い様に陣を分断され負けた……

 わざと突撃し包囲させてからゴーレムナイトを魔素に還し、逆に包囲した敵の周りに包囲し直すという悪意に満ちた戦法も使ったけどね。

 これは有効範囲内なら何処にでもゴーレムを錬成出来る僕だけの術だった、リトルキングダムは僕が絶対支配者の小さな小さな王国なんだ。

 

「私、百合の花が好きですの、ニーレンス公爵家の家紋にも使われております、清楚可憐な百合の花がとても好きです」

 

 唐突に話が切り替わったが、百合が好きと話すメディア嬢は自分の胸元に輝くブローチを弄っている。

 二本の百合が寄り添ったシンプルなデザイン、地金は白金で大粒のオパールがアクセントになって見事なものだな。

 

「リーンハルト、余り女性の胸を凝視するな!確かにメディアはデカい胸だが無礼だぞ」

 

「は?あっ、えっと、申し訳無いです。見事なブローチでしたので、さぞや名の有る方の作品なのでしょうね」

 

 レティシアに叱られた、指摘されれば確かにその通りだ、集中すると周りが見えなくなる癖は直さないと駄目だな……反省。

 

「レティシア、構いませんわ。リーンハルト様の視線には薄汚い欲望は微塵も有りませんでしたから。

女としては複雑ですが、リーンハルト様も素晴らしいアクセサリーを錬金出来ると聞いています」

 

 後半力が入っていたが、もしかして百合のデザインで何かアクセサリーを作って欲しいのか?

 無言で笑顔で見詰めてくるから間違い無さそうだが、不用意にアクセサリーを贈るのは危険な相手だ。

 

 百合、アクセサリー以外、僕が作れる物、鎧兜に武器は駄目だ、小物……手鏡とか?

 イメージを集中する、手鏡の大きさは10㎝、円形で貝の様に蓋が出来る、デザインの百合は彼女のブローチと全く同じ、だが地金は銀で縁を金にする。

 イメージは固まった、空間創造から上級魔力石を取り出して右手に乗せて左手で隠す。

 

「イメージはメディア様の様な清楚可憐な百合……出来ました、どうぞ非礼のお詫びに受け取って下さい」

 

 錬金仕立ての手鏡、所謂コンパクトミラーを差し出す、固定化の魔法も重ね掛けしたから落としても壊れない強度が有る、いやハンマーで叩いても一撃位なら耐えられるかな?

 

「これは、確かに百合ですがブローチと同じデザインね。

銀をベースに金の縁取り、賑やかしくない大人し目のデザインが逆に品を感じる。まぁ、開くと内側に鏡が仕込んであるのね。

有り難う御座います、敢えて普段使える手鏡を贈ってくるとはリーンハルト様も女心を理解してますわ」

 

 両手で握り締めて喜んでくれるのを見ると、僕も嬉しい、やはり土属性魔術師は作る喜びが段違いなんだよな。

 

「姫様、素敵な手鏡ですわ」

 

「本当に素晴らしい出来栄えです」

 

「ふむ、下手なアクセサリーは衣装を選ぶが手鏡は関係無く普段から使えるな、なる程贈り物としては中々だぞ」

 

 レティシアとメイドさん二人からも好評で良かった、ジゼル嬢が女性は贈られたアクセサリーは自慢し合うと聞いたからな、手鏡なら装飾品じゃないし周りにも見せないから安心だな。

 


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