古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第159話

 

 

「リーンハルト君、誰かに見張られている気配がする」

 

 ボス狩りを初めて四回目のボスであるリザードマンを倒した後にエレさんから告げられた。

 

「見張られてる?」

 

 コクリと頷く彼女を見て考える、僕等のボス狩り状況を調べて得をする人物を……

 

「多分だけど昨日の『リトルガーデン』の連中、気配が同じ」

 

「ああ、彼女達か。特に不審な感じもしなかったし、お互いパーティメンバーも揃っていた。揉めてもないし今更勧誘も無いだろうし何故だろう?」

 

 最悪ボス狩りは見られても問題無い、危険なのはレアアイテムが頻繁にドロップする事を知られる事だ。

 つまり一緒に迷宮内を徘徊してモンスターを倒すのは避けたい、一緒に攻略しましょうとか同行する事は駄目なんだ。

 

「次に外を確認する時は余計に周りに注意してる振りをしてくれるかな、何かを感じて警戒してる様に。それで姿を表すか逃げるかで判断しようか」

 

「分かった、見てみる」

 

 そう言って扉を開けて左右を確認、暫く右側を凝視してるが隠れている方向か……気配察知か、僕も魔力感知なら調べられるな。

 エレさんの頭の上から外を覗き込み周辺の魔力を探すと、右側通路曲がり角の奥に確かに微弱な魔力を感知したが向こうも同時に探られた事に気付いた。

 

「ゆっくり遠ざかっている」

 

「ああ、僕の魔力感知網に引っ掛かり向こうも気付いたね。確かにうろ覚えだがチロルとか言う魔術師だと思うな。

逃げたけど向こうは自分達の素性がバレたかは微妙だと思ってるだろう、暫く泳がすか」

 

 このまま走って行って彼女達を見付けても見張っていた証拠にはならない、偶然歩いていたと言われたら実害も無いからそれ以上の追求も無理だ。

 

「急に周りが慌ただしくなってきましたね、それだけ私達が有名になったからですね」

 

「でも警戒は必要だよ、あの『リトルガーデン』ってパトロンが居るのよ。今思い出したけど、確かニーレンス公爵家だったわ」

 

 ニーレンス公爵家か、レディセンス様とメディア嬢、二人と知り合ったが関係は悪くは無い筈だ。改めて調べるとなればレディセンス様か?

 メディア嬢とはお茶会に招かれているから今更な感じだし、後はニーレンス公爵本人だが一介の冒険者を公爵自らは調べないだろう。

 勧誘絡みでレディセンス様か濃厚だな、メディア嬢にそれとなく伝えておくか。

 

「居なくなったね、ボス狩りを続けよう」

 

 彼女を後ろから覆い被さるみたいな体勢だった為かエレさんが真っ赤になっていた、反省。

 振り返ると直ぐ後にイルメラとウィンディアも笑顔を浮かべて並んでいたのが怖かった。

 

「あの、何か?」

 

「「いえ、何でも有りません」」

 

「そう?じゃあ扉閉めるよ」

 

 可愛い嫉妬は嬉しいのだが、最近二人の息がピッタリ合い過ぎじゃないだろうか?

 扉を閉めると部屋の中央に魔素が集まり始めた十体二列の合計二十体のゴーレムポーンに投げ槍を構えさせる、魔素の集まり具合で実体化する六匹の位置を大体予測し実体化と同時に槍を投げる!

 

「グガァ!」

 

 実体化と同時に身体に突き刺さる無数の槍、大分制御も慣れたので外す事は少ない。

 

「生き残り、止めを刺す!」

 

 致命傷を与えられず生き残ったリザードマンにエレさんがクロスボゥを射つ、矢は首を貫きリザードマンは魔素へと還った。

 エレさんの射撃精度はどんどん高くなっている、素質が開花しているんだ。彼女専用の弓を造ってみるか……

 

 殆ど無抵抗で倒されたモンスター達は魔素へと還りドロップアイテムとして鋼鉄の槍を二本残した、経験値と資金稼ぎは順調だ。

 

「さぁ次は六回目だ、二十五回で休憩、五十回で昼食にしよう。エレさん、外を見る時は彼女達が戻って来てないか確認してくれる?」

 

「分かった」

 

 前よりも注意深く外の様子を伺っていた彼女が誰も近くに居ないのを確認して扉を閉めた。

 意識を戦いに集中させる為に魔素の輝きを見詰めてゴーレムポーンの操作に集中する。

 実体化した瞬間にゴーレムポーンの攻撃目標を割り振り一斉六匹に投擲する、今回は一回で全滅させる事が出来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 丸一日五階層のボス狩りに費やした、あの後は見張られてもいないしボスに挑戦に来た冒険者パーティも居ない。

 やはりボス戦は負ければ逃げられず全滅というリスクが大き過ぎるので、普通の冒険者パーティにとってはイベント戦なんだろう。

 

 今日は百回、合計で二百回戦ったボス部屋を後にする。

 成果は大きい、迷宮内ならどんな場所からでも一階層出口にテレポート出来る『帰還のタリスマン』が二十個手に入れた。

 後は鱗の盾が百五十七枚と鋼鉄の槍が昨日のと合わせて二百七十三本、今日の分は鑑定していないので今晩してみるか。

 昨日の分で魔力付加された鋼鉄の槍は五本、今日の分は何本有るか楽しみだ。

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様はそちらでしょうに、買い取りですか?」

 

 冒険者ギルド出張所に顔を出す、所長のパウエルさんの厳つい顔に丁寧な口調のギャップは相変わらず凄い。

 

「はい、昨日と同じです。鱗の盾だけ買い取りをお願いします」

 

 鱗の盾は大きいのでカウンターに置いて互いに数を確認し直ぐに下に下ろす、だが数が百五十七枚だから時間が掛かる、何組かの冒険者パーティが僕等を伺っているが隠し通すのも無理だから諦めた。

 レアドロップアイテムだけ注意すれば良い。

 

「今日も大量ですね、この分だと百回位ですか?」

 

「ええ、二日間で合計二百回です。次は六階層に下りようと思います」

 

 パウエルさんが冒険者ギルドの人間だから僕のレアギフトも知っている、だから迷宮攻略について相談しても大丈夫だ。

 

「因みに鋼鉄の槍は何本手に入れましたか?」

 

「合計で二百七十三本、内昨日の分は鑑定しましたが魔力付加は五本でした」

 

 む、パウエルさんが考え込んでいるな……何か問題発言は有ったか?自分達で鑑定しては駄目だったのか?

 

「バンクは初級迷宮、効果中以上の魔力付加の有るドロップアイテムは下層でも少ないのです。

ベースが鋼鉄の槍なので武器としての使用は威力が中レベルで高レベルの冒険者は使わない、だけど中堅パーティでは主力の戦士職が装備すると生存率が上がるのです。

装備品の良し悪しはパーティの死活問題に直結する重大な事ですから……

それを二日間で最低五本以上ともなれば私が指名依頼書を作成しておきます、明日以降冒険者ギルド本部を訪ねたら先ずは受付で依頼を受けて下さい。

そうですね、三本でパーティ全員に1ポイントにしておきます」

 

 おお、それは有り難い、上手くすれば一日に1ポイントは手に入る計算になるな。

 イルメラ達はランクDでランクアップに必要なポイントは百五十、僕は双方の思惑が一致したので特例に近い形でランクCに上がったが彼女達は違う、本来は数年単位の地道なポイント稼ぎが必要だ。

 その中で必要な経験を積むのだが、僕は促成栽培に近いだろう、だがランクCからランクBに上がるには二百ポイントが必要だ。

 此処から必要な経験を積めば良い、幸い転生前に戦争という戦闘経験だけは対人・対モンスター共に十分過ぎる程積んでいるのだから……

 

「有り難う御座います、場合によってはリザードマン狩りを続けます」

 

 リザードマンは未だ経験値的にも美味しい、これで資金もギルドポイントも貯まるなら暫くは続けても良いかな。

 

「因みに六階層のボスは徘徊する鎧兜です、これは迷宮内でもポップしますがボス部屋に現れる連中は必ず魔力付加された武器をドロップします。

ノーマルがロングソードやショートソード、メイスやアックス等で効果が低い魔力付加品でレアが同じく効果が低い魔力付加品ですが防具類が出ます。

魔力の付加された防具が必ず出るので、ある程度鋼鉄の槍を集めたら切り替えて貰っても構いません。魔力付加された防具類なら同じ様に何でも五点でギルドポイントを差し上げましょう」

 

 ふむ、ノーマルの武器類は鋼鉄の槍より重要度は低いが入手が困難な防具類が必ず手に入るのは効果的だな。

 前に盗賊ギルドのオークションで硬化のハーフプレートメイルが金貨二百枚で落札されてたな。

 確か前に聞いたが六階層の徘徊する鎧兜のドロップアイテムを売って装備を整えるのが普通だとか……

 その階層のボスのレアドロップアイテムが魔力付加された防具類とは意味深じゃないか?

 

「有り難う御座います、経験値的に物足りなくなったら六階層に下りてみます」

 

 パウエルさんに御礼を言って代金を受け取る、鱗の盾だけでも金貨百五十七枚の収入だ。

 笑顔が嘘臭い受付嬢の所に行ってギルドカードの更新を頼む、僕を除く三人がそれぞれレベルアップした。

 これでイルメラが僕と同じレベル30、ウィンディアがレベル28、エレさんが当初目標のレベル25となった、初級魔法迷宮バンクならば最下層に挑戦出来るが未だしない。

 だが六階層のボス狩りをすれば魔法の付加された武器や防具が手に入る、つまり自作の武器や防具が見られても言い逃れが出来る理由にはなるな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王都に向かう乗合馬車の停留所に向かう、昨日と同じ位の混み様だ、他の冒険者パーティも夕方には帰りたいんだな。

 幸い待合室の椅子が空いていたので並んで座る、何時も僕の両隣にイルメラとウィンディア、エレさんはイルメラの隣に座り膝枕で寝ている。

 この子は一日に何時間寝れるのだろうか?

 

「リーンハルト君、久し振りだね。連続してバンクに来てるのは知ってたけど擦れ違いだったよ」

 

「ポーラさん、お久し振りです。それにヒルダさんにリプリー、兄弟戦士も」

 

 兄弟戦士のヌボーさんとタップさんは先日会ったが酷い結果だったよな。

 

「先日は奢って貰ってすまないな、二人して記憶が飛んでてよ」

 

「ああ、そうだな。『火の鳥』で寝てたんだが支払いは済んでるってさ。あのネーデちゃんとシーアちゃんは色っぽかったな」

 

 だらし無い顔で笑う二人と何故か僕まで女性陣から白い目で見られた、リプリーなど信じられない的な表情で両手で口を隠している。

 

「リーンハルト君?確か『火の鳥』って酒場はさ、若い女の子がテーブルに同席してお酌とかする大人の酒場よ。

何でリーンハルト君がウチの馬鹿兄弟戦士と一緒に行ったのかしら?」

 

「リーンハルト君、お姉さん達とお酒が飲みたいなら私達に声を掛ければ良いのに、何故そんなお店に行ったのかしら?」

 

「リーンハルト君、不潔……」

 

 グハッ……純真無垢なリプリーの一言がクリティカルに心を貫いた。両隣のイルメラとウィンディアが下を向いて黙ってるのが怖い、怖いんだ。

 

「何を言ってるんですか!あの店に引っ張り込んだのはヌボーさん達ですよ。

しかもオリビアと言う女性に振られたから慰めろって強引に店に連れ込んで、最初から最後まで愚痴を言うからお店の女性達も呆れてましたよ。

僕も翌日デオドラ男爵に呼ばれてたから早々に会計だけして帰りました」

 

 僕は間違った事は言ってない、真実を全部言わないだけで……

 

「確かに大通りで出会って酒場に連れ込んだけど、その後の記憶が無いんだ」

 

「ネーデちゃんが優しく起こしてくれてよ、是非また三人で来て下さい!約束ですよって抱き着いてくれたんだぜ」

 

「俺はシーアちゃんとさ、必ず三人で来てねって指切りしたんだぜ」

 

 女って怖い、どうみても僕を引きずり込む為に二人に色仕掛けしてんじゃん!

 ネーデさん、助けた恩を返すつもりかも知れないけど成人前の僕を男を使って酒場に呼び込まないで欲しい。

 

「「今夜三人で行こうぜ!」」

 

「嫌です、僕は行きませんよ」

 

 両隣に柔らかい感触がする、二人が抱き着いてきたのか。だが力が入り過ぎてないかな?

 

「リーンハルト君?ギルティだよ!」

 

「リーンハルト様、そのネーデと言う女性ですがお二方を操りリーンハルト様を呼び出そうとしていますよね?」

 

 顔を上げてくれた二人共の顔は笑顔で怒るという器用な事をしている、何とか言い訳を……

 


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