古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第160話

 昨日は偉い目にあった、偶然ヌボー&タップの兄弟戦士と会った為に酒場に行った事がバレたのだ。

 疚しい事は一切していない、だが彼女達にとっては僕が女性が給仕する夜の酒場に行くだけでも嫌なんだと感じた。

 直接的に嫌だとか行くなとかは言われてない、ただ黙って悲しい顔をされては反省するしかない。

 

 夜の酒場の女性の男を手玉に取るテクニックは怖いと思ったが、惚れた女性の表情一つで慌てるとは男って悲しい生き物だな。

 

 結局彼女達の機嫌を回復させる為に明日の昼間は一緒に買い物に出掛ける事になった、幸い資金だけは順調に貯まっているので何でも欲しい物はプレゼントするつもりだ。

 因みに兄弟戦士は成人前の少年を酒場に連れ込んだ罪によりヒルダさんとポーラさんにお仕置きされ、リプリーから白い目で見られていたが幸せそうだった。

 あの二人ならセインと友達になれるかもな、彼もメディア嬢に叱られて嬉しそうに興奮してたし……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、晴天だ……憎らしい位に澄み渡っている。

 

 僕は今中央広場の噴水に腰掛けて身体を退け反らせて空を見上げている、今日は本当に良い天気だな。

 時刻は午前十時少し前、既に周りには家族連れやカップル、露店を利用する人達で賑わっている。

 

 一緒にオペラを見て食事をして買い物をする予定なのだが、一緒に家を出ずに僕だけ先に家から出された。

 一緒に住んでいるのだが外で待ち合わせするのが今風らしい。

 

 今日は冒険者としてでなく個人的なお出掛けだから服装も貴族のでなく少し裕福な平民を意識した。

 

「リーンハルト様、お待たせ致しました」

 

「リーンハルト君、お待たせ」

 

 振り返ると綺麗に着飾った二人が立っていた、彼女達も商家のお嬢様風な感じだな。周りの男共がチラチラこちらを伺っている、早く移動した方が良いだろう。

 

「いや、僕も今来た所だよ?」

 

 自宅を三十分も前に出されて今来たも無いが、今風な返しらしい。

 先ずは人気のオペラを観る予定だ、貴族専用の王立オペラ劇場には入れないが平民用のオペラ劇場も有る。

 

「開演時間が近い、早く行こうか」

 

 美少女二人を左右に侍らす金持ちのボンボンが!みたいな視線を集めているが流石に冒険者ギルド関係の連中は少ないのだろう、一応有名人の僕を知っている人は居ないな。

 それだけでも気持ちが楽になる。

 

 大通りから一本脇道に入り少し歩くと平民用のオペラ劇場が有る、平民用とはいえ娯楽施設だから見れる連中も限られている。

 一般席でも金貨二枚、特別席なら金貨三枚銀貨五枚、特別室なら金貨二十枚と中々の値段だが躊躇無く特別室を頼む。

 

 受付嬢に特別室をと頼むと直ぐに別の案内人が現れ劇場二階に張り出した小部屋に通してくれた。

 3m四方の部屋には椅子が四つ有り隅には飲み物や軽食まで用意され、追加用のメニューまで置かれていた。

 

「リーンハルト様、良かったのでしょうか?」

 

「リーンハルト君も貴族の若様か、良く来るの?」

 

 遠慮しがちな二人に椅子を薦めて飲み物を用意する、お酒も有るがアイスティーをグラスに注いで……

 

「リーンハルト様、私がやりますから」

 

「今日は良いよ、何時も世話になってるからね」

 

 僕のメイドを自認するイルメラが世話をしたがるが、今日はお詫びを兼ねているのでホストに徹する事にする。

 

 しかしオペラか……

 

 転生前は腐っても王族、一般の観客と一緒でなく自分だけの為に催された事も有ったが基本的に好きになれなかった、必ずと言って良い程バッドエンドを迎えるんだよな。

 高名な演出家に聞いたがハッピーエンドはその場で盛り上がり気持ちが昇華して終わってしまう、ああ楽しかったと……

 だがバッドエンドは劇が終わった後も余韻を残し客が色々と考えるから良いそうだ。

 僕からすればモヤモヤが残るだけで面白くないのだが、裏切りや悲恋等の暗いテーマが主で主役達がアリア(独唱)で登場人物の感情を歌い上げるのがクライマックスだった。

 しかし三百年経っても廃れずに引き継がれてきたんだな。

 

「そろそろ始まるね、楽しみだ」

 

 劇場内に開演を知らせる鐘が鳴り響いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結果から言おう、僕の知ってたオペラじゃなかった。

 三百年前のオペラは舞台上の役者達が台詞の大半を歌手として歌唱で進められ伴奏楽器も管弦楽伴奏のみだった。

 歌唱部分も大半は会話的な抑揚で語る様に歌い、途中でアリア(独唱)やアンサンブル(重唱)で盛り上げてて各幕のフィナーレ(終曲)に繋げて行ったのだが今の時代のオペラは全然違う。

 先ず重点が置かれているのが主役の歌手の声や技巧で伴奏の楽団の規模も大きく効果音とかも充実している。

 その代わり話の筋は支離滅裂で珍妙な良く分からなくなっている、これは歌手の歌を聴きに来ている様だな。

 

 歌手の為のオペラ、そんな感じだ。

 

 ドラマとしての進行は余り考慮されてないが、女性陣は劇場の看板歌手の歌声に魅了されているみたいだ。

 確かに主役の男女の歌声は見事だが伴奏の楽団の規模も大きい、昔はアリア(独唱)の時の伴奏はチェンバロのみだったぞ。

 まぁ僕の覚えているオペラが三百年も前だから古典主義とか言われそうだな、オペラだって時代と共に求められる物が変わって来ているのだろう。

 今の時代は歌手による歌に重点が置かれている、そう理解して僕の知っているオペラと別物と考えれば楽しめるだろう。

 

 だがホストが興味無さそうにしては折角のオペラ観劇が失敗してしまう、幸い女性陣は楽しそうだから僕はオペラよりも彼女達の嬉しそうな顔を見て楽しむ事にした。

 だが各幕の終わりに十分程の休憩が入り色々と感想を聞かれるのだが、イルメラとウィンディアの嬉しそうな顔しか見てないので曖昧な応えしか出来なかった……反省。

 そして全三幕のオペラを見終わったら合計で四時間が過ぎていた、結局食事はオペラを見ながら別メニューで注文したが味はイマイチだった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト君、面白かったね!」

 

「本当に、あの主役の女優の歌声が凄く澄んでいるのに力強く響いて……」

 

 女性陣は興奮冷めやらぬ感じで歩きながらもオペラの話をしている、僕は殆ど記憶に無いから曖昧に笑みを浮かべて頷いている。

 左右から抱き着かれ両方から感想と質問攻めなのは辛い。

 

 次に僕等の向かう先はライラック商会、何か彼女達にプレゼントを贈るつもりだ。

 

「リーンハルト君、実はオペラに興味無かったでしょ?ずっと私達の事を横目で見てたし……」

 

「そうなんですか?」

 

「そうよ、ニコニコしながら私達を交互に見てたの」

 

 ヤバイ、ばれてたのか!

 

「いや、それは……アレだよ。イルメラとウィンディアを見ている方が楽しかったんだ」

 

「「そうなんだ(ですか?)」」

 

 まさか僕の知っているオペラじゃなかったとか本当の事は言えないだろう。

 何とか話を変えたりして目的地に到着した、ライラック商会は宝飾品から衣類まで何でも取り扱うが女性客が多い。

 半月振りに訪れたが凄い繁盛だな……

 

「いらっしゃいませ、リーンハルト様」

 

 暫し店の前で立ち尽くしていたら店員に声を掛けられてしまったが僕の名前を知っているのか?

 

「ああ、えっと……彼女達の服を見立てて欲しいのですが……」

 

 直ぐに店員達が二人程寄って来てイルメラ達を連れて行ってしまった、服の見立ては個室で持ち込まれる服を着て決めるから男は用無しだ。

 付き添いの男が着替える部屋に一緒に居るのは相当の勇気が要るし、お洒落のセンスも無いので僕は大人しくサロンでお茶でも飲んで待つか。

 気に入った服が有れば着ている所に呼ばれるから褒めれば良い。

 通された部屋には既に何人かの男だけが待たされている、状況は皆同じなのだろう。

 だが十代なのは僕だけで他は二十代後半の男と中年が二人の三人だけだ、お金が無いとこの店には来れないからそれなりに裕福な人達なんだろう。

 

「おや、若いね。十代半ば位だろ?誰かの付き添いかな?それともプレゼントかい?」

 

 隣に座っていた中年の男性から話し掛けられた、恰幅の良い優しそうな雰囲気を持つ人だ。身なりからして商人風だな。

 

「はい、お世話になった人に感謝の気持ちを込めてですね」

 

「ほぅ、何処かの商人の御子息かな?ライラック商会は品質の良さと同じく料金も高い、失礼だが君が稼いだ金でとは思えないのだが……」

 

 見た目や雰囲気と違い言葉は結構辛辣だな、親の金では感謝にならんとかか?

 他の二人はコチラを伺っているが特に話は絡まないみたいだな、単に場違いな子供が来てるのが気に入らないのだろう。

 

「貴方は商人ですか?人は見掛けだけでは分からないモノですよ」

 

「ほぅ、私はベルニー商会の代表でビヨンドと申します」

 

 子供の挑発に簡単に乗るなよな、だがベルニー商会は聞いた事が有る。

 確かDかEランクの依頼で商隊の警護が出てた、つまりは地方の特産品を取り扱う交易商人か。

 地方の街や村に伝手を持つ彼等を敵に回すのは良くないな、地方でどんな噂を広められるか分からない。

 少し得意気だけど残りの二人の様子を見ればそれなりの規模を持つ商会なのだろう。

 

「ご丁寧な挨拶、有り難う御座います。僕はリーンハルト・フォン・バーレイ、冒険者をしています」

 

 失礼にならない程度の挨拶を返す。

 

「リーンハルト?冒険者の少年……ああ、『ブレイクフリー』を率いる少年魔術師ですか?

つまりお世話になったとはパーティメンバーの女性陣ですね、いや羨ましいですな」

 

 僕の名乗りに一瞬でも動揺や考え込む事が無かった、つまり話し掛ける前から僕の正体を知っていたな。

 食えない中年だな、だが何故知らない振りをして絡んで来たのかが謎だ。何か思惑有りか、それとも偶然か好奇心か……

 

「はい、ビヨンドさんは奥様か娘さんにですか?」

 

 結婚してるのか娘さんが居るのか知らないが、まさかお妾さんじゃないだろう。

 

「ええ、娘がバーレイ男爵夫人のお茶会に呼ばれましてな、父親として最高に着飾らせて送り出したいと思いまして。

リーンハルト様、娘の事を宜しくお願いします」

 

 ちょ、それってエルナ嬢が僕の為に探し出した娘達の事だ!

 自分の愛娘を側室か妾に差し出す父親の苦悩と悔しさを滲ませた目で僕を見ないで下さい、もしかして両親は納得していないのか?

 

「エルナ様のお茶会はですね、その様な重たい話ではなくて……その、あくまでも顔合わせ程度の……」

 

「ウチの娘に不満が有ると?」

 

 

 もう僕にどうしろと?

 

 

 バーレイ男爵家に差し出したくはない、だが愛娘が選ばれないのは許さない親心とでも?

 

「ビヨンドさん、確かにエルナ様は色々な思惑を持ってお茶会に誘ったと思います。

僕も参加する様に言われ、その意味も理解していますが……

僕は未だ力不足の世間知らず、エルナ様の求める結果を受け入れられるか自信が有りません。そこだけは理解して下さい」

 

 深々と頭を下げる、エルナ嬢の思惑は知っているし面子を潰す訳にはいかないのも理解している。

 もうエルナ嬢のお茶会には参加しなければ駄目な程、周りに影響が出始めた。早々に参加し暫くは自重して貰う様に頼み込むしかないな。

 

「なる程、良く分かりました。出来れば今日娘のルカと会って頂きたいですな」

 

 ハッハッハ、とか笑っているがマズイ展開だぞ。

 

 今の段階でルカさんに会うとエルナ嬢のお茶会で揉める要因になりそうだ、僕は側室や妾は不要だがエルナ嬢の苦労を無下にするつもりはない。

 そのお茶会の参加者と事前に会って縁を持つのは良くないな。

 

「残念ですがエルナ様との関係も有りますし当日まで我慢します」

 

 丁度イルメラ達の着替えが終わったと呼びに来たので、丁寧に挨拶をして別れた。

 そのまま別室に移動し着替えた彼女達を褒め捲り、そのまま会計を済ませてライラック商会をあとにした。

 メディア嬢とエルナ嬢のお茶会か、頭が痛いが何とか乗り切らないと駄目だな、頑張るか……

 


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