古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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あけましておめでとうございます。
昨日まで連続一ヶ月更新をしておきながら今年も毎週木曜日更新なので連続更新です。
元旦はのんびりと自宅で過ごす寝正月です。
また今年も一年宜しくお願いします。


第163話

 冒険者ギルドから七件の指名依頼を斡旋された、どれも色々な思惑が絡み合ってる感じだ。

 ニーレンス公爵家絡みが二件、宮廷魔術師と魔術師ギルド絡みが一件、他にはデオドラ男爵とライル団長、冒険者ギルド絡みも二件有る。

 

 特にニーレンス公爵家絡みと魔術師ギルドの合計三件が問題になりそうだ、共に知り合いが絡んでいるので無下には出来ない。

 デオドラ男爵とバルバドス師と父上には各々相談に行かなければならないが、誰からにするか……それが問題だ。

 

 エルナ嬢のお茶会、それが一番の悩みっていうのもどうかとは思う、僕は魔術の事なら何とかなるのだが女性絡みの事は弱い、嫌になる程弱い。

 まぁ慣れろと言うのも変な感じだから徐々に学べば良いだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 色々な宿題を抱えて冒険者ギルド本部を後にした、後二日位は魔法迷宮バンクの攻略をして鋼鉄の槍を集めて、次に一日で終わるエルフの里とライル団長の騎士団との模擬戦。

 その後でアーシャ嬢の誕生日パーティに参加。

 バンク攻略を挟みながら、ニーレンス公爵家絡みの二件を終えてボーンタートル狩りに出発。

 最後に魔術師ギルド絡みの流れで老朽化した砦の解体と修復かな、これで一ヶ月以上の予定が埋まった。

 大筋を決めて冒険者ギルド本部を出て空を見上げる、すっかり日が暮れてしまって星が輝き始めているが今日は『火の鳥』みたいな酒場には寄らずに真っ直ぐ家に帰るぞ。

 未だ成人前なのに酒場に入り浸るのは確かに良くは無い、しかも酌婦と言うか女給さんが同席するのだからイルメラ達が嫌な思いをするのも当然だ。

 大通りを歩けば流石は冒険者ギルド本部の周辺、依頼を達成して生還した者達が生きている喜びを確かめる為に酒場に出入りをしている。

 僕等は一日で終わる場合が多いが、何日も命の危険と向き合わせで生き延びたんだ、飲んで騒いで明日からの活力を……

 

「あれ、リーンハルト君?」

 

 む、誰だ?

 

 呼ばれて振り返れば魔術師のフードを目深に羽織った小柄な女性?

 

「ああ、コレットじゃないか!久し振りだな、ライラックさんの時以来だね」

 

 単独で冒険者として活動する同じ土属性魔術師だ、見た目は美少女だが男なんだよね。

 本人は女の子に間違えられるのを凄く気にしている、だがフードから覗く顔だけを見れば相当な美少女だ。

 彼の父親と名乗るドレイヌさんから自身が率いるクラン『希望の光』に誘われたが胡散臭いから断った事を思い出した。

 

 未熟な若者達の為に力を貸して欲しいと言われたが、これからの事を考えれば自分の方が力を借りたい位だ。

 

 だが嬉しそうに走り寄ってくる姿は完全に女性で小柄な体型も合わせて端から見れば男には絶対に見えない。

 

「うん、聞いたよ。ランクC昇格おめでとう!凄い早かったね」

 

 嬉しそうに話すがローブの隙間から見える幼さを秘めた美貌に周りがソワソワし始めた、コレットは男なんだけど周りは絶対にそうは思わない。

 この境遇がコレットの心の闇の部分でもある、変な連中に絡まれない内に此処から離れた方が良いな……

 

「軽く夕飯でも食べないか?久々に色々と聞きたい事があるし……」

 

 魔術師ギルドの事や父上と名乗ったドレイヌさんの件とか、コレットなら変な含みなく教えてくれるだろう。

 

「うん、良いよ。僕も話したい事が有ったからね」

 

 弾んだ声で了承した事が更なる誤解を生んだ気がしたが手遅れか?

 

『美少女ハーレムパーティを築きながら更に新しい美少女と夕食を共にだと!』

 

『また魔術師かよ、何人魔術師や僧侶を抱え込めば良いんだ!しかも女ばかり……』

 

『僕っ娘美少女、何たる羨ましさ』

 

『嗚呼、憎しみで人が害せるなら……』

 

 普通は隔絶した力の差が有れば、こんな陰口なんて叩かれないのだが僕が子供だから舐められているのだろう。

 幸いコレットは何だか解らずにニコニコしているので気付かれない内に移動しよう、自分が女性扱いされてると知れば悲しむだろうし……

 此処で一番近くて騒がしくない店は、『シュタインハウス』が有ったな。

 宿屋兼ビアバーで前にイルメラと行った事が有るし『静寂の鐘』の皆とも行って飲んで騒いで結局泊まったんだ。

 

 そそくさと記憶に残る道順を進み目的地へと向かう、夜の時間帯に繁華街を歩く少年戦士と美少女魔術師のカップルは目立つが仕方ない。

 好奇心の篭った目で見られるだけで誰にも絡まれずに目的地へと到着した。

 

 早い時間なのに店は既に七割程の込み様で何とか一つのテーブルに二人で座る事が出来た、確か前は……

 

「お姉さん、前菜にオレンデーズソースを掛けたジャカイモとホワイトアスパラ、スープはアイントプフでメインにアイスバインね。パンはプレッツェルをお願い、あと白ワインをフルボトルで、銘柄は料理に合わせてお任せで」

 

 近くに居た女給さんを捕まえて昔イルメラが頼んだ料理と同じ物を注文した、違うのはビールか白ワインかだけだ。

 

「な、慣れてるんだね。僕は気後れしちゃって行き慣れた店ばっかりだよ」

 

 うん、何と無く分かるな。今のコレットは借りてきた猫みたいに大人しい。

 最初会った時は結構年下だと思ったが実は一つしか変わらない事を聞いて驚いたんだ。

 前菜と白ワインが運ばれて来たのでグラスに注ぐ、この状況で漸くコレットが被っていたフードを取った。

 

『あらあら、随分若いカップルね』

 

『魔術師の彼女か、羨ましいぞ』

 

『てかカップルは全員爆発すれば良いんだよ、むしろ爆発しろ!』

 

隣のテーブルに座る冒険者パーティから独り言という怨嗟の声が漏れてくる、駄々漏れだよ。

 

「久し振りの再会に乾杯!

コレットはあの後はどうしてた?僕はザルツ地方のオーク討伐遠征に参加してたんだ、後はバンクの攻略を五階層迄進めたよ」

 

 他にも色々有ったが主だった冒険者活動はそれ位かな、バルバドス師絡みの研究の手伝いやアンドレアル様との決闘とかを話してもコレットが混乱するだけだ。

 

「僕?冒険者ギルドの依頼を幾つか熟した位かな、後は自分のゴーレムの改良と研究」

 

「ほぅ?改良と研究ね……」

 

 コレットのゴーレムは鉄製で最大制御数は四体、武器を両手首に固定にし指先とか細かい制御が必要な部分を省いて簡略化する事で制御をし易くしていた。

 共に人型ゴーレムを運用するので僕は仲間意識を持っている。

 

「うん、前に言われた素材から炭素を取り出して鋼鉄を作れる様に研究してるけどイマイチなんだ。

だから僕も鉄製じゃなくて青銅製のゴーレムに変えて運用を始めたんだ、素材の青銅に色々な金属を混ぜては調べる事の繰り返しさ……」

 

 浮かべる表情からして改良は上手く行ってないのだろう、トライ&エラーは魔術の研究の基本で僕も転生前は色々と試行錯誤をして今のスタイルを確立した。

 転生後は既に確立していた技術や技法をレベルアップに合わせて解放されてる状態だ、だから周りから見ればレベルアップする度に新しい魔術を簡単に使い熟している様に感じているんだ。

 特に勘の良いジゼル嬢は薄々感づいているだろう、だから僕の異常性が怖いんだな。

 

「錬金は繰り返し体に覚えさせるのが基本だからね、日々の研鑽は必ず力になるさ」

 

 空いたグラスに白ワインを注ぐ、コレットは意外に飲める口だな、僕よりも早いペースだ。

 だが話に夢中で余り食べてはいない、酒ばかりは良くないので料理を勧める。

 

「この店はイルメラのお気に入りなんだ、料理もお勧めだから食べてくれ」

 

 前菜のジャガイモと白アスパラを小皿に取り分けて勧める、コレットの事だから僕に遠慮でもして食べないのだろう。

 此処は料理の量が半端無いんだ、遠慮してたらメインディッシュに辿り着けないぞ。

 

「悪いよ、取り分けて貰うなんて……」

 

「沢山食べて男らしくなるんだろ?」

 

 心の闇に触れる言葉だったかな、猛然とした勢いで食べ始めたが極端だな。

 口一杯に料理を詰め込むから頬がパンパンだぞ、愛らしい表情はエレさんを彷彿とさせる。

 

「ングッ、み……み、みじゅ……」

 

 喉に詰まらせたな!

 

 慌ててワイングラスを持たせると一気飲みをした、二杯飲んで落ち着いたが今度はアルコールの飲み過ぎで真っ赤になった、慌ただしい子だな。

 ワインボトルが空になったが追加はせず代わりに果汁水を頼む、少し酔いを醒まさないと帰りが大変だぞ。

 

「有り難う、でもリーンハルト君って落ち着いてるよね」

 

「魔術師は常に冷静であれ、だよ。特にパーティの司令塔を担うなら冷静に周りの状況を見定めなければ駄目だからね。熱くなるのも良いけどデメリットも多い」

 

 戦う駒として誰かの指令下に居るなら問題無いが、仲間を率いているならば歯を食い縛っても我慢すべき……なんだけど、僕も人に言える程我慢強く無い。

 

「流石は今話題の大型新人『ブレイクフリー』のリーダー、リーンハルト君だね。遂に二つ名が決まったんでしょ、ゴーレムマスターだったよね?」

 

 グハッ、輝く目で痛い二つ名を教えられた。バルバドス師はもしかしなくても意図的に広めてるな。

 暫くは話題を時事ネタに変えたりして食事を続けた、この子は素で沢山食べれるんだな、前はイルメラと二人で苦労して残したのだが既にサラダとアイントプフは完食。

 メインディッシュのアイスバインも半分以上はコレットの胃の中だ……

 

 僕はプレッツェルに付いた塩を払い落として一口大にちぎって口に入れて果汁水で流し込む。

 

「なぁコレットはさ、魔術師ギルドってどう思う?僕等も魔術師だし一応所属した方が良いかな?」

 

 さりげなさを装いながら一番聞きたかった質問をぶつけてみた、だが反応は薄いな。

 

「実は僕もゴーレム改良に行き詰まった時にね、魔術師ギルドを訪ねたんだ。

でも冒険者ギルドとは全然違くて最初に魔力測定をされて得意技を実演するとランクが割り振られるの、僕はランクEだった。

ちょっと悔しかった、自信は有ったんだけどさ」

 

 なる程、冒険者として一人で活動しているので自信が有ったのに砕けた訳か、実際に実力を計られて結果がランクEじゃな。

 相槌を打って先を促す、未だ話したそうだし。

 

「それでも一応は所属した訳だからさ、どんな事をするのか、どんな事が出来るのか調べたんだけど……」

 

「調べたんだけど?」

 

「魔術師ギルドは拘束が殆ど無い代わりに貢献しないと恩恵も殆ど無いんだ。

魔術について研究し結果をだせば内容により報奨金が貰えるし功績によっては研究室も用意される。

逆にお金を積めば色々と調べて貰ったりも出来るけど、僕は魔術師ギルドに所属はしたけど意味が有ったかは疑問なんだ……」

 

 そう言って寂しそうに笑うと肉の塊を口に放り込んで咀嚼し始めた、どうやら口一杯に頬張って食べるのは癖らしい。

 前にベリトリアさんが言っていた『完全にギブアンドテイクだけど、だからこそ見えてくる世界が有る』と……

 なる程ね、一筋縄ではいかない組織だが力を示せば見返りは大きい。

 だがベリトリアさんは『自分の研究室』に来ないかと誘って来た、つまり彼女は魔術師ギルドに所属していて結構な立場に居るんだな。

 

 さて、どうするか……僕は今は廃れた古代の魔術知識を持っている、小出しにしても魔術師ギルドは優遇してくれるだろう。

 

 だが物事には裏表が必ず有る、果たして素直に優遇だけしてくれるかは疑問だ。最悪は人質を取られての脅迫とか、あのビーストティマーみたく薬漬けにされて言う事を聞かせるとか考えられる。

 知識欲の酷い僕達魔術師は一般倫理とか関係無く暴走も有り得る、だが利用しないのも勿体無いな。

 今は失われていてもそこ迄重要じゃない呪文か何かを提供し、ソコソコの援助を受けるか?

 錬金術絡みなら今の僕が見つけ出したとしても不自然じゃ……

 

「リーンハルト君?僕を放置して考えに耽るってどうなの?」

 

「え?あっ、ああ悪かったよ。でも熟考は僕等魔術師の性(さが)みたいなモノだろ?でも有り難う、参考になったよ」

 

 魔術師ギルドか……折角指名依頼が来たんだ、色々と調べてから力を得る為に接触してみるかな。

 


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