古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第18話

 二階層のボス、オークは豚鼻が特徴の太ったモンスターだ、あのでっぷりとした腹には脂肪と筋肉が詰まっているのだろうが。

 コボルドは小さく技巧派だがオークは大きくて体力派だろうか?

 力強く耐久力の有る手強いモンスターには変わりないのでゴーレムの編成を攻撃四体、防御二体にする。

 ボス部屋の中に入ると中央の魔法陣が輝き出し魔素が集まりだした。

 魔素の集まり方からして出現数は三匹、攻撃のタイミングを見計らう……暫く待つとオークが実体化し叫び声を上げた。

 見事に膨らんだ腹、全体的に薄汚く臭そうな腰巻きだけの防具、涎を垂らして欲望の籠もった目で爛々とイルメラを見ている。

 

「不愉快だ、もの凄く不愉快だ!ゴーレムよ、敵を押し潰せ!」

 

 いやらしい目でイルメラを見られる事が不愉快で我慢出来ず攻撃の四体を突撃させ、何とか初撃を躱した一匹に更に控えの二体を突撃させる。

 既にレベル18になった為か、ゴーレムポーンと言えども既に全盛時の能力に近いし制御の勘も戻ってきたぞ。

 瞬く間にオーク三匹は倒され魔素となり消えて行った……

 

「呆気ないな……ドロップアイテムはハイポーションとアミュレットが一個ずつか」

 

 アミュレットを鑑定すると

 

『耐魔のアミュレット:魔法攻撃のダメージ3%減:重複装備不可』

 

 と出たが微妙な性能だ、重複装備も駄目か……確かに首から同じ物を沢山下げても無意味なのか?

 

「完全な換金アイテムだな。買取価格は金貨1枚と美味しいがそれだけだね。

一応は一つずつ装備しようか……」

 

 もっと効果の高いアイテムが見付かれば交換しようと思いイルメラの首に耐魔のアミュレットを掛ける。

 デザインも銀のチェーンに飾り気の無い台座に黒い魔石が填まってるだけで宝飾品としてもイマイチだ。向かい合ってアミュレットを首に掛ける時に彼女が真っ赤になっていたが連戦して暑いのかな?

 

「リーンハルト様、有り難う御座います。大切にします!」

 

「疲れたら言うんだよ、休憩するからさ……」

 

 イルメラは大喜びだが、早く効果の高い物を探そう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ボス部屋を出ると未だ『蒼き狼』のメンバーが通路に座り込んでいた、まだ体力が回復していないのか?

 

「未だ居たんですか?」

 

「早っ、早いよ。未だ五分も経ってないじゃん!」

 

 リーダーのフォルケンさんだっけ?が騒いでいるが、他の連中は僕等をチラ見するだけだな、やはり休憩中なのかな?

 

「まぁオークは手頃な獲物ですからね、もう一回オークに挑戦するなら代わりますよ?」

 

 二人も瀕死に追い込まれたのに又挑戦するのは馬鹿だと思うが、彼等は彼等なりの考えが有るのだから尊重するべきだよね。体をずらして開けた扉にスペースを作る。

 

「いや、もう俺達は今日は挑戦しないから……」

 

「そうですか?では僕等はボス狩りしますので、これで失礼します」

 

 ボス部屋の仕組みは一旦中に入るとボスを倒さないと扉は開かないが、倒した後なら扉は開くし一旦外に出なくても扉を閉めればボスは復活する。

 つまりボスを倒して扉を開けたら『蒼き狼』が居たけど、部屋を出なくても扉を閉めればボスは復活するんだ。

 何か言いたそうなフォルケンさんの目の前で扉をパタンと閉める。

 

「よし、耐魔のアミュレットを二個以上集めるまではボス狩りをするよ」

 

「分かりました、リーンハルト様。豚野郎をブチ殺して上げます!」

 

 そういえばオークって女性冒険者から目の敵にされてたっけ、確か野性のオークは牝(♀)が居なくて人間を攫って孕ませるんだっけ?

 殺される為にポップするオークに哀れみの視線を送る。

 実体化したと同時に二匹のオークに向かって六体のゴーレムが一斉に武器を振り下ろす!

 今回は叫び声も上げずに魔素へと還って行った……

 ふむ、今回はハイポーションが一個か、ドロップアイテムを広いボス部屋の扉を開く。

 

「アレ?未だ居たんですか?」

 

 扉を開けると未だ『蒼き狼』のメンバーが外に座り込んでいる。

 

「もしかして、ボスに挑戦したくなったんですか?」

 

「いや、その……そうじゃなくてね。あの、何だかな……えっと……」

 

「失礼します」

 

 要領を得ないが、要は勧誘かと思い扉を閉める。

 

「リーンハルト様、彼等は何て?」

 

「ん?勧誘だろ、全く助けたのに勧誘だなんて迷惑だな、今の僕達にはさ……」

 

 部屋の中央の魔法陣を油断無く見詰めながらイルメラと『蒼き狼』について相談する。

 

「次は扉を開けて直ぐに閉めましょうか?」

 

「うーん、『蒼き狼』以外にも人が居たら不味いから一応外は確認しよう。ボス部屋を独占とか悪い噂は嫌だしね、次は話を聞いてキッパリと断ろう」

 

 結論が出た所でオーク三匹が実体化した。

 ゴーレムをけしかけて瞬殺する、今回のドロップアイテムは耐魔のアミュレットが二個だった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 扉を開けると未だ『蒼き狼』のメンバーが座り込んでいる、今回はフォルケンさんが扉の前で跪いているが、何が有ったんだ?

 

「あの……僕達は暫くボス狩りしたいんですが、何か用が有るんですか?」

 

 部屋から出ずに開けた扉の隙間から話し掛ける、勧誘だったら断って扉を閉めるつもりだ。

 

「いや、その……アレだ!オーク狩りとか凄いんだな、君達二人はさ」

 

 明らかに時間稼ぎの会話だが、何を考えているんだ本当に?

 

「ええ、油断しなければ問題無い相手です。此処で経験値とハイポーションを稼ぐ予定です。それで、用が無ければ閉めますけど?」

 

 そう言って扉に手を掛ける。

 

「その……良かったら俺達の所属しているクラン『苛烈の若武者』に入らないか?」

 

「折角ですが、お断りします。僕達には僕達の予定が有りますので、ごめんなさい」

 

 パタンと扉を閉めるが、クランってなんだ?

 

「なぁイルメラ?クランってなんだ?あのフォルケンって男は僕達をどうしたいんだろう?」

 

「クランとはパーティが複数集まって出来た団体の事です、王都には幾つか有名なパーティを長としたクランが存在します。

例えばドラゴンスレイヤーの称号を持つ豪腕のドガッテイ率いる『竜殺し』とか有名ですよ。

『苛烈の若武者』は聞いた事が有りません。

もっともクランと言っても公式に認められた集団ではなく自称ですから、余程の功績が無いと……」

 

 複数のパーティの寄り集まり、つまり互助会みたいなものか? 高名なパーティの名の元に集まれば有利にはなるが、トップの意見には逆らえないだろう。

 つまり僕には無用な存在だな……

 僕は自由な生き方をしたいんだ、誰かに命令される立場には甘んじたくは無い!

 

「なら僕達には関係無い事だね。

誰かの下に付くつもりも無い、自由に生きるのが『ブレイクフリー』なのだから……」

 

 部屋の中央の魔方陣が輝き出して四回目のオークが実体化した、今回は一匹だけだ。

 群がるように四体のゴーレムが殺到して瞬殺するが、ドロップアイテムは何も無かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ボス部屋の扉を開けると『蒼き狼』のメンバーが未だ居た、いい加減にしつこいんだけど……

 

「未だ用が有るんですか?」

 

 もう膝を詰めて話さないと諦めないんじゃないかって程にフォルケンさんの顔は真剣だ。他のパーティメンバーは余り勧誘に乗り気じゃないみたいだが……

 

「やはり駄目か?せめて一度で良いからクランのリーダーに会って貰えないか?」

 

「ふぅ、何か疲れたから今日は帰ろうか。フォルケンさん、僕は来月から冒険者養成学校に行くんです。

だから今の内にと思い資金稼ぎの為にバンクに来ています。

不足のパーティメンバーはそこで探す予定ですし、在学中はギルドのランクを上げる為に討伐や素材採集の依頼を受ける予定なんですよ。

僕達は既に予定も目標も有るので勧誘はお断りなんです、誰かの下に付くつもりは有りません。

邪魔するなら実力で排除します!

ギルドで確認済みなんですよ、しつこい勧誘には武力行使もOKだってね」

 

 そう言ってその場を離れる。前後に三体ずつの青銅製ゴーレムを並べて歩かせているので『蒼き狼』では僕達に近付く事も出来ないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト様、『蒼き狼』とは変な連中でしたね」

 

 振り向けば20m程後方を歩いているが文句は言えないだろう、お互い出口に向かっているのだから。

 

「うん、リーダーのフォルケンさん以外は普通そうだったが、能力もレベルも普通だね。

オークに苦戦って事は精々レベルは15以下だろうな。

でも冒険者って自由なイメージが有ったが貴族社会にも似ているんだね」

 

 強い連中が幅を利かせているしクランと言う派閥みたいなモノも有る。『蒼き狼』の所属するクラン『苛烈の若武者』については調べておくか……

 

「力有る者が幅を利かすのは同じですが貴族が爵位を上げるよりは冒険者のランクを上げる方が楽ですわ」

 

 確かに冒険者ランクCまで上げれば一応冒険者ギルドから支援して貰える、自分の実力のみで成り上がれるのは冒険者ならではだろうな。

 

「おっと、前方に魔素が集まってるね。モンスターが出現するぞ。ゴーレムよ、四体で攻撃だ!

二体は後方を警戒、イルメラは魔法障壁の準備を……

コボルドが六匹か、攻撃開始だ!」

 

 ロングソード装備が四匹、スピア装備が二匹の構成のコボルドに襲い掛かる。

 前衛四匹がゴーレムと切り結んでいる間にスピアで攻撃をする連携は中々だが、痛みを感じないゴーレムには効かない。

 スピアの刺突を苦にせずロングソードを装備してるコボルドを倒していく。イルメラが魔法障壁を張ってくれたがゴーレムの壁を越えて僕達に攻撃は届かない。

 やはり飛び道具以外は大丈夫か?

 ドロップアイテムはダガー二本とスタンダガー一本だった。

 

「危なげない戦い方だな……レアドロップアイテムか、羨ましい」

 

「僕達を露払いか何かと勘違いしてませんか?」

 

 直ぐ後まで近付いてきた『蒼き狼』のメンバーに毒を吐く。レアドロップアイテムが頻繁にドロップしたら疑われるだろう。

 

「いや、まぁ楽なのは認めるよ。

ウチのパーティはボロボロだから今は戦闘は控えたいし……」

 

「まぁ良いですけどね……」

 

 見捨てるのも後味が悪いので迷宮の出口までは一緒に行動する事にした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何時もより少し遅い時間に外に出た。直ぐに管理小屋に顔を出して手続きを行う。受付の騎士は今日も違う人だが何人でローテーションしてるのだろうか?

 冒険者ギルドの出張所に顔を出すがレベルアップを隠す為に買取カウンターに向かう。先客が買取をしているので椅子に座って待つが、かなりの高レベルパーティだな。

 買取の品々が僕の知らない物ばかりだし、支払われた金貨も500枚以上は有りそうだ……

 戦士三人に盗賊・僧侶・魔術師が各一人と理想的なパーティ編成だな……彼等が立ち去ったのを見てから買取カウンターに向かう。

 

「買取をお願いします。今のパーティですが、かなりの高レベルなんですよね?

知らない物ばかりでした」

 

「ええ、『ブリザードランサー』はバンク最下層を攻略中のパーティです。

そういえば、何か迷宮内で変わった事は有りましたか?」

 

 レアドロップアイテムからカウンターに並べていくが初めて質問されたぞ……『デクスター騎士団』の件か?

 

「変なパーティにしつこく勧誘されて疲れました。『蒼き狼』って有名ですか? あと『苛烈の若武者』ってクランです」

 

 ハイポーション、木の腕輪、スタンダガー、耐魔のアミュレットと並べていく。

 

「おや、今日は二階層に降りたんですね? 『蒼き狼』も『苛烈の若武者』も最近バンクに来始めた若いパーティですね。

レベルも低いしクランとしても小規模ですかね……」

 

「興味無いし入る気も無いですけどね。今日は午後から二階層に降りました。

ウッドゴーレム狩りでは一体との戦いで楽でしたが、ゴーレム制御が慣れてきたので複数の敵との戦いに慣れる為に明日からは二階層のボスのオークを狩る予定です」

 

 ギルド職員に今日のアリバイを印象付ける会話を心掛ける。 僕達は午後は一階層には居なかった。

 だから『デクスター騎士団』とも会っていないし助けてもいない、僕達は何も知らずに二階層でコボルドとオークと戦っていたのだから……


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