古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第181話

 正直疲れた、しかし今回は適齢期の女性だったので生々しい話ばかりだったな。

 令嬢三人を見送ってから自室に戻りベッドにダイブする、不在であってもベッドメイキングは完璧でパリッとしたシーツが心地良い。

 あのナナル嬢だが何かしらの探索系ギフトを僕に対して何度か使っていたが何かは分からなかった、僕の知らない奴だ。

 だが驚いた顔をしていたのは印象に残っている、何か信じられないから何度も確かめるみたいな……

 アシュタル嬢とナナル嬢は裏で繋がっている、単に仲が良いのかも知れないが阿吽の呼吸の様な連携が気になるんだ。

 それとグレース嬢については相変わらずだ、本人に向かって幾ら稼いでいるかとか淑女の質問じゃない、金使いが荒い我が儘な女性だ。

 彼女を娶る相手は大変だろう、アレはお金が有れば有るだけ使うタイプだな。

 

 色々と考えていたら精神的な疲労が蓄積された為か寝入ってしまい、気が付いたら既に夕方で夕日が差し込み部屋が真っ赤で燃えているみたいだった。

 前にウィンディアが夕日を浴びる王城を燃えている(落城している)様だと比喩したが、この夕日に照らされていると自分にも火の粉(厄災)が降り掛かるみたいな気になる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食を共にと言われたが未だ早いのでと断り帰る事にした、父上とインゴは共に騎士団駐屯地で鍛練しているそうだ。

 父上はインゴがバーレイ男爵家を継ぐに相応しい男に育てる為に、隙を見付けては剣技を叩き込んでいる。

 我が弟に必要な事は騎士としての心構え、つまりは敵を倒し傷付ける覚悟を持たせる事だ。

 未だ幼く心優しいインゴには辛い事だが、父上の跡を継ぐ為には必須事項、先ずは身体を鍛える事から頑張るしかない。

 肉体を鍛え自信を持たせてから徐々にモンスターを倒す訓練をするしかないかな……

 

 そして僕の方にも避けては通れない問題が有った、バルバドス師が名付けてくれた『ゴーレムマスター』の二つ名、実は転生前の自分の事だ。

 まさか三百年も前の人物が今に伝わっているとは思わずに、ゴーレムをポーンやナイトと呼んだり同じ名前の技をはずかし気も無く使った。

 特にオーク討伐遠征で使用した『雷雨』や『リトルキングダム』とかは、端から見れば過去の偉人に憧れて真似をする微笑ましい子供に見えただろう、だから現代に転生前の自分がどんな風に伝わっているのかを調べたい。

 それも周りに知られずに一人でだ、もし僕が転生前の自分の事を調べているのを知られたら……

 

『憧れる余り同じ事をしたくなったのね?』

 

『憧れの人をもっと知りたいんだ?』

 

『もしかして真似っ子?』

 

 とか恥ずかしい思いをするのは嫌なんだ、だから転生前の自分がどう今に伝わっているかを正確に知る為には……

 

「吟遊詩人、彼等の詩を聞く必要が有る」

 

 しかし彼等の活動場所は殆どが夜の酒場であり何度か入った『シュタインハウス』には居なかった。

 だが『火の鳥』には居た、隅の方に椅子に座り手には楽器を持った青年が確かに居た。

 吟遊詩人という連中は詩曲を作り各地を訪れては歌い生活の糧を得ている、だから常に同じ場所や同じ店に居る訳じゃない。

 普通は騎士道精神から生み出された女性賛美の思想、英雄賛歌、恋愛や酒等の親しみやすい楽しさを謳歌する歌、そして戦争に関する歌が多く歌われる。

 

 自分の知らない遠い場所での出来事や過去の悲惨な戦争の話、有名な騎士の死に至るまでの一生とかが有名だ。

 例えば『あの騎士様は何処のお姫さまと恋に落ちたけど悲恋に終わったんだってよ』等の詩を音楽に合わせて歌う吟遊詩人は、庶民にとっての娯楽であり情報を得る手段でも有る。

 だから吟遊詩人達は一カ所に留まらずに街や村を巡り歩き歌うんだ。

 有名になれば貴族や裕福な商人達をパトロンに活動する事も有る、宮廷楽団に召されたバルバドール氏の出世伝説は有名だ、何たって存命中に自身の生涯を詩にして自ら歌う程に。

 

 そんな彼等と僕は接点が無く、唯一の手段は『火の鳥』に居たという情報だけ。

 

「行くしかないのか、あの店に僕一人で行くしか……」

 

 知り合いに知られたくないのだから誰かを誘う訳にはいかない、兄弟戦士が酔い潰れている時に聞くべきだったが後の祭りだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕方の繁華街を歩く、探索帰りの冒険者達で賑わっている、だが一人で歩く人も多い。

 一応目立たない様に着替えたので軽戦士の格好をしている、ハーフプレートメイルにマントを羽織って腰にはロングソードを吊した。

 左右を見ながら歩く、知り合いは居ないが他に吟遊詩人が居る店も分からない、勘で入る事には躊躇する、居なかった場合直ぐに退店出来るだろうか?

 

「あー!リーンハルト君だ、見付けたよ」

 

 周りを観察しながら歩いていると後ろから声を掛けられた、聞き覚えが有るぞ。

 

「え?ああ、ネーデさん。久し振りですね」

 

 最も会いたく無く、最も行きたい酒場の女の人と出会ってしまった。元気良く腕に抱き着いてくる、わざと胸を押し当てないで下さい。

 

「キョロキョロしながら歩いてるけど、誰か探しているの?」

 

 どうやら挙動が怪しい事はバレていたみたいだ、確かに子供が酒場が連なる道をキョロキョロしながら歩いていれば目立つ。

 僕みたいな子供が酒場近くにいて女性に絡まれていても、他の人達は注目も何もしない。

 同い年位の連中でも自己責任で飲酒は出来るので問題視する程でもないのかな?

 

「えっと、知り合いから聞いたのですが……その、今この付近の酒場に吟遊詩人が来ているとですね」

 

「来てる、来てるよ。ウチに来てるのよ、じゃ御案内致しまーす!」

 

 有無を言わさず腕を引っ張られて『火の鳥』に連れ込まれた、だが予定通りと割り切ろう。

 ネーデさんが気を利かせてくれたのか、案内された円卓の近くに椅子に座る吟遊詩人が居た。

 良く見れば三十代後半、頬がこけて立派な髭を蓄えている、手にはハープを持ち目を閉じて大人しくしている。

 

「ローレンスさん、お客様だよ!リーンハルト君、こちらが吟遊詩人のローレンスさん」

 

 閉じていた目を開いて見詰められた、何か心を覗かれた様な錯覚に陥るブラウンの瞳だ。

 吟遊詩人は知識層の人達しかなれない、膨大な詩を覚え時には自ら作る、元僧侶や魔術師も多いと聞く。

 

「これはこれは軽戦士を装う魔術師の少年、今話題のブレイクフリーのリーンハルト殿で良いかな?」

 

 バリトンの利いた渋い声で正体を当てられた、僅かに魔力を感じるから元魔術師のパターンかな?

 

「初めまして、ローレンスさん。推測の通り僕はリーンハルト・フォン・バーレイ、冒険者をしています」

 

「しがない吟遊詩人の僕に礼儀正しい挨拶は不要だよ、僕をと言うか吟遊詩人を探してたのかい?」

 

 ネーデさんの『お客様』って言葉だけで僕が吟遊詩人を探していたと予想を付けて来た、これは僕が前世の自分を調べている事の理由を考えないと痛くない腹を探られそうだ。

 

「はい、過去の偉人や英雄に興味が有りまして……ネーデさん、適当に酒と摘みをお願いします。ローレンスさんもどうですか?」

 

 未だ料金の払い方とか聞いてないが転生前だと、確かお酒を振る舞い歌の後にお金を払った。

 

「私にはエールをお願いします。さて過去の偉人や英雄と一口に言ってもキラ星の如く居ますよ、具体的に誰か聞きたい人物が居るのかな?」

 

 有り難い振りだ、此処は直球で言ってしまおう。

 

「では、ルトライン帝国魔導師団を率いていた魔術師ツアイツ卿について何か知りませんか?我が師から二つ名を貰いました、それがツアイツ卿の二つ名と同じ『ゴーレムマスター』なのです」

 

 間違った事は言ってない、本当は過去の自分を知る為にだ。

 

「ふむ、ゴーレムマスターのツアイツ卿ですか?

伝説のゴーレムマスターの名を貰えるとは貴方も有能な魔術師なのですね。かの英雄については幾つか伝わる詩が有ります、そうですね……

先ずは彼の最大の功績で有るバルマムッサ帝国攻略、初陣だったメッセル平原での攻防戦、それと亡国の美姫と後世に逸話も多いキャスカ姫との悲恋です」

 

 は?キャスカ姫が亡国の美姫だって?彼女は確かに自分の国を滅ぼした、だがそれはアマゾネスみたいなムキムキの将軍で突撃しかしない作戦だったからだ。

 どんなに精強な兵士を集めても突撃オンリーじゃ勝てない。

 

 バルマムッサ帝国攻略戦に僕は参加していない、その時は二方面作戦を強要されていて魔導師団だけでザイン王国を攻略していた。

 

 メッセル平原での戦いは確かに参加した、だが初陣どころか死ぬ直前での参戦だった。

 駄目だ、全く事実が伝わってない、どころか間違った話しか伝わってない。

 だが話の中に何かしらの情報が……

 

「それでは、バルマムッサ帝国攻略の話を」

 

「キャスカ姫との悲恋の話が良いな!」

 

「いや悲恋なんて話は、僕はですね、現代に伝わるツアイツ卿の情報が知りたいので」

 

 結局ネーデさんに押し切られた、もっともどれを選んでも関係無い位興味も失せたから何でも良かったのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 詩を選んだので後は席に戻り聞くだけだ、既にネーデさんとシーアさんが座っている。

 相変わらず海鮮料理がメインだな、今回はアサリのワイン蒸しにマグロのカルパッチョ、タコとトマトのサラダか。

 

「はい、リーンハルト君どうぞ」

 

「有り難う御座います」

 

 ワインを注いで貰い料理を取り分けて貰う、僕一人に女性が二人もついて周りからも注目される。

 ローレンスさんの楽器の調整が終わり纏う空気が変わる、頼んだ歌はアレだが彼は吟遊詩人としては凄いのかな?

 

『遥か昔、国々は互いに争い多くの王朝が生まれ廃れていった。

幾つもの国々が生まれ死んでいく、だがその中には一際輝く星達が存在していた。

国を導く名君、常に戦に勝利する将軍、数多の策を使い自軍を勝利に導く軍師、国政に携わる者の他に歴史を彩る者達も居た。

英雄と呼ばれし者達に寄り添う美姫も忘れてはならない。

メヒカリ王国に二つの宝有り、豊かな自然と美しきキャスカ姫の物語……』

 

 ローレンスさんの歌が始まると周りが集中して聞き始めた、朗々とした中に張りの有る声、強弱も付けて聞きやすい。

 だが歌の内容が大変宜しくない、キャスカ姫本人を知ってるだけに内容に付いて行けない。

 彼女の国とは確かに一時期同盟を組んでいた、だがルトライン帝国は父上は彼女の国を滅ぼした。

 自然豊かな立地条件でアマゾネスの女王だったのに平地で決戦に望んだんだよな、父上は精強なアマゾネス軍団を傘下に納める為に側室に迎えた。

 確か子供も作った筈だ、身長180cm腕が僕の腰程もある逞しい女性だった。

 アマゾネスは武力を尊ぶ連中で魔術師の僕は嫌われていた、戦に負けた原因が広域状態変化による全軍戦闘不能による負けだったし、なるべく殺さず配下に加えたいって条件だったし。

 

 十分程の長さだったが自分の事じゃないと思えば聞き応えは有った、だが脚色が酷くてツアイツ卿の人物像や魔法については全く分からない。

 

「有り難う御座います、大変面白く聞かせて貰いました」

 

 拍手で労をねぎらう、エンターテイメントとして思えば楽しめた、だが配役の違和感が酷かった。

 その後、残りの二つも歌って貰ったが大した情報は無かったな、本来戦いの歌ならば詳細が分かるかと思ったが人間関係や心の機微に重きを置いていた。

 だが幾つかの情報は知る事が出来た、僕の使っていた『落雷』や『リトルキングダム』の話が有った。

 だが『落雷』は火属性魔法と混じっていた、炎を纏ったゴーレムなんて作れない。

 それに『リトルキングダム』はエルフ族の精神操作系と擦り変わっていた、視界に収まる連中を強制的に配下に加えるって何だよ。

 

「楽しんでたかい?話の途中でクルクルと表情を変えていたよね、見ていて面白かったよ」

 

 ええ、余りにも現実から乖離された内容を聞かされた本人としては最後は苦笑いしか浮かべる事が出来なかったんですよ。

 


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