古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第183話

 初めて魔術師ギルドに行ったが探索系魔法を掛け捲られた、強制的に査定されずにレジスト出来たので良しとしよう。

 仕事を請ける為には強制的に魔術師ギルドに所属しろとか無理も言われず、コレットみたいに魔力測定や得意技の実演とかも見せずに済んだ。

 指名依頼に関する細かい内容も詰められたので満足だ、彼等も僕の能力調査が目的であり仕事の邪魔はしないだろう。

 あとは現地で比較的難易度の高い部分を修復しノルマを達成すれば良い、実地評価は上手く行く自信は有る。

 単身赴任な依頼はこれで終了、来週末からはパーティでのボーンタートル討伐だ、その時に野外でのゴーレムによるロングボゥと投げ槍の最大射程距離とかも調べるか。

 

 先に楽しみが待っていると思えば単身赴任な依頼にもヤル気が出るものだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔術師ギルドに行った翌日、王都を発ち目的地であるカール地方のボルガ砦を目指す。

 指定された乗合馬車は定期航路便であり他にも乗客が居る、因みに往復の運賃は成功報酬に含まれるので未達成だと赤字だ。

 

「少年でも魔術師様が同乗してるなら安心だな」

 

「お兄ちゃん魔術師さまなんだ、すごいね」

 

「王都に近い街道沿いは騎士団が定期巡回してるから安心だよ」

 

「でもカール地方には王都から追われた犯罪者達が逃げ込んでいるらしいぜ。砦の破壊も大規模な犯罪者グループが逃走する時に……」

 

 馬車の中は賑やかだ、僕も話し掛けられたら答えるが暇な為に世間話に花が咲く、子供連れの夫婦に商人、冒険者風の連中は全員が戦士で男五人と女一人、バラバラに座ってるから仲間には見えない。

 

 だが暇潰しの世間話の中にも色々と有益な情報が有った。

 どうやらこれから向かうカール地方には王都から逃げ出した野盗共が多く潜伏しているらしい、確かに噂では聞いていた。

 だが砦を破壊して逃げ出す程の戦力を持っているのは問題だ、それは小規模の軍隊並の戦力だし魔術師が居るのは確実だな。

 堅牢な砦を壊せるとなれば火属性魔術師の爆発特化型か土属性魔術師の大型ゴーレムか、敵には攻城戦が可能な奴が居る。

 

 王都の北西部に位置するカール地方はグレートディバイス山脈を国境としてバーリンゲン王国との国境となる。

 だが実際に国境迄は未だ相当の距離が有り、幾つもの砦や軍事拠点が有る。

 ボルガ砦は王都を守る最終防衛線だ、だがバーリンゲン王国は周辺国の中では一番国力が弱かった。

 仮想敵国としての順位は低く砦の整備が遅くなったのは仕方ない、今回は第十四次国土防衛計画に含まれる。

 予算の関係上、敵国に近い外周から整備するのは仕方ない、父上から聞いた中長期計画によれば今年で国土防衛計画は完了。

 ウルム王国と事を構えても万全だからこそ、国王は旧コトプス帝国の残党の引き渡しを強く迫っているんだ。

 

 今は外交交渉中らしいが旧コトプス帝国の残党共は、ウルム王国の中枢に食い込んでいるらしい。

 彼等を切り捨てられなければ開戦も仕方ないのだが、ウルム王国の国王は噂によれば優柔不断。側近や取り巻き次第では戦争になるぞ。

 

 開戦に踏み切る確率は低くない、今回のボルガ砦修復は良い機会かもしれないな。

 魔術師ギルドに、更にはユリエル様達宮廷魔術師に僕の実力と実績を示す事が出来る。

 

 思わず笑いが込み上げて来た、前は宮廷魔術師なんかにならないで自由に生きたいと考えていた、なるだけ権利者側には近付かないと。

 だが自由に生きる為には相応の力が要る事も学んだ、考えが甘かったんだ。

 

 突出し過ぎず有能で有る事を示せば事は有利に運ぶだろう、だが余りに能力を示し過ぎると出る杭の如く打たれる。

 亡国の危機でも自己優先の馬鹿共は必ず居る、だからこそ付け入る隙が有り大国でも滅ぶんだ、国力は上でも油断は大敵だぞ。

 

「一時間ほど休憩します」

 

 暇に任せて色々と考え事をしていたら昼の休憩時間だ、座りっぱなしだからお腹は空いてない。

 だが馬車を引く馬を休ませる為にも長めの休憩が必要、御者に馬車から外され餌と水を与えられてブラッシングをされて気持ち良さそうだ。

 

 乗客達も各々が自由に昼飯を食べる。

 休憩場所は見晴らしの良い丘の中腹でモンスターや野盗共の襲撃は直ぐに察知出来る、定期航路の休憩場所だから簡素なテーブルや椅子も用意されている。

 石で組んだカマドも幾つか有り夫婦連れが鍋を用意している、温かい食べ物は体力や気力を回復するから。

 風も雲も無い穏やかな天気だ、狭い馬車の中が少し暑いくらいだった。

 

「む、身体が固くなったか?」

 

 王都から休み無しで四時間近くも固い木のベンチに座りっぱなしだったので腰が痛い、軽く柔軟運動をして身体を解す。

 十分に身体が解れたら空いている切り株に座り腰に吊したマジックアイテムの収納袋から昼飯を取り出す、空間創造を使わないのは警戒の為。

 メニューはウィンディアが作ったサンドイッチ、具材は卵にハムとレタス、それとイルメラが作った熱々のミネストローネだ。

 

「ほぅ?熱々な料理が食べれるとは良いですね」

 

 僕の様子を窺っていた何人かの内、最初に声を掛けて来たのは商人だった、確か雑談の中で聞いた情報だと薬売りだったかな?

 

「その場で調理する料理も美味しいのですが手間が掛かるので、つい道具(マジックアイテム)に頼ってしまいますね」

 

 当たり障りの無い応えを返す、人の良さそうな笑顔を浮かべた未だ二十代半ば位の男だが細い目が時々キツくなる。

 

「旅が基本の商人にとってマジックアイテムの収納袋は垂涎の的ですよ。私はルファム、旅の薬売りです」

 

 握手を求めてきたので握り返す、若いがゴツゴツしていて働く人の手だ。

 

「僕はリーンハルト、魔術師ギルドの仕事でボルガ砦の修復に向かってます。既に仲間が三人行ってますので応援です」

 

 ルファムさんの弁当は蒸したジャガ芋と干肉、それとワインだ、腹持ちの良い物だが肩から提げた鞄から取り出したので冷めている。

 

「ほぅ、魔術師ギルドの……」

 

 勘違いさせるつもりはないが、依頼を仕事と先行の連中を仲間と言い換えた。何と無くだがルファムさんって胡散臭いんだ、何か勘に引っ掛かる。

 

「ええ、(魔術師ギルドは)エムデン王国からの国土防衛計画の一環で王都周辺の砦の修復をしています」

 

「そうですか、大変なんですね。噂ではウルム王国が旧コトプス帝国の残党の引き渡しを渋っているとか……また戦争になるんですかね?」

 

 糸みたいに細めた目を一瞬開いた、だが警戒する事もなさそうだ、僕を魔術師ギルド所属と思ってくれれば良い。余り正体を知られて騒がれるのも面倒臭いし……

 

「お兄ちゃん、ぼくと一緒にご飯たべようよ!」

 

「え?ああ、えっと……」

 

 話し込んでいたら男の子が膝に抱き着いて来た、確か向かい側で料理していた夫婦連れの子供だよな。

 

「すっ、すいません。ポロフ、駄目よ。お兄ちゃん達はお話し中でしょ」

 

 母親が慌ててポロフと呼ばれた男の子の両脇に手を入れて持ち上げて父親に渡す、二人共若いな……ルファムさんと同い年位だがそんなに危険人物と思われたのか?

 

「ああ、構いませんよ。私はコレで」

 

 ルファムさんが会釈して席を離れたので、なし崩し的にポロフと呼ばれた男の子の両親と共に昼飯を食べる事になった。

 サンドイッチと交換で温かい串焼き肉を貰えたのが嬉しかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お兄ちゃんがボルガの砦を直すの?」

 

 何と無くポロフと並んで座る事になった、両親は恐縮してるが子供には魔術師とかは関係無いのだろうな。

 

「ああ、そうだよ。僕は魔術師ギルドから派遣された土属性魔術師だからね、砦の補強や修復は僕等の仕事だ」

 

 子供の好奇心は凄い、周りから浮いていた僕に関係無く話し掛けてくる、両親はヒヤヒヤしてるのが気になる。

 幾ら数が少なく強力な力を持つ魔術師とはいえ、そこまで警戒されるのは何故だ?

 

「ぼくの家はボルガ砦の近くなんだよ、こないだ悪い人たちが逃げ出す時に砦をこわしたんだ」

 

 身振り手振りで教えてくれる、ボルガ砦の近くなら野盗共の襲撃も身近だったのだろう。

 

「へぇ悪い人、野盗かな?でもボルガ砦の警備兵が追い払ったんだろ?」

 

「たくさん逃がしちゃったんだ、だからお父さん達も捜すのを手伝わされて大変なの」

 

 大規模な山狩り、つまり野盗共は近くに潜伏している、だが何故逃げ出さない?

 考えられるのは近くに拠点が有り旅人を襲うのだろう、必ず立ち寄るボルガ砦を見張れば獲物を見付けやすい。

 後を付けて人気の無い所で襲えば……

 

「そうか、それは大変だね」

 

 ポロフの頭を撫でる、色々と怪しい事になっているな。簡単に砦を修復して依頼達成なら良いのだが怪しくなって来たぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ポロフ達とはボルガ砦手前の集落で別れた、乗客の半数以上は降りたが徒歩でも十分と離れてない。

 逆にボルガ砦で降りたのは僕だけだ、警備兵に魔術師ギルドからの依頼書を見せるとボルガ砦の責任者の所に行けと言われた。

 結構横柄な感じだ、言われた順路の通りに砦内を歩くと他より少しだけ立派な建物が見えた。

 他は丸太と木板で出来た簡素な建物だが目の前の建物は石積みで手が込んでいる。

 

「失礼します、魔術師ギルドからボルガ砦の補修に派遣されました、リーンハルトです」

 

 見張りも居ないのでノックしてから声を掛ける。

 

「入れ、開いているぞ」

 

 妙に甲高い声が聞こえたがボルガ砦の責任者は若いのかな?

 前線と違い最後尾のボルガ砦みたいな場所の責任者は名誉職が多いと聞くが、此処の責任者はどうだろうか?

 

「失礼します」

 

 部屋の中は無駄に装飾が施されて立派な執務机に座る男は病的に痩せているが良く手入れをされた髭が目立つ三十代の男だ。

 執務机の後ろには立派な全身鎧と武器が飾られているが体力無さそうだが着れるのか?

 

「ふーん、お前が噂のリーンハルトか。

明後日に大切な客が来る、正面口周辺は明日中に直せ。後は魔術師ギルドから来たロップスに聞け、下がってよし」

 

 一方的に言われて追い出された、事前に調べたがボルガ砦の責任者は従来貴族のコーラル男爵だったな。

 派閥が違うので人となりは知らなかったが少し話した感じから推測するに神経質で横柄な感じだ、だがロップスさんは何処に居るのか位は教えて欲しかった。

 石積みの小屋を出て取り敢えずは補修する外壁を確認する事にした、確か正面口の周りを明日中に直せって言ってたな。

 

 ボルガ砦は石積みと丸太による二種類の材料で擁壁を造っている、石積み部分は天然の地形を利用し見張り台や出入口は丸太で造られているな。

 その土台となる石積み部分が大分劣化している、それとヒビ割れが酷いがコレは魔法による爆発痕だな。

 壊れた部分をなぞる、錬金で直した後に固定化すれば石積み部分は大丈夫だろう。

 丸太の部分は少し難しいな、いっそ錬金で石積みに変えた方が楽かも知れない。

 

「すみません、魔術師ギルドから派遣された方ですか?」

 

 暫くボルガ砦の中を探索し損傷具合を調べていたら声を掛けられた、僕と同じ土属性魔術師だが若い、同い年位じゃないのか?

 

「はい、そうですが貴方は?」

 

「僕はミリアン、魔術師ギルド所属の土属性魔術師です。僕等の宿舎に案内します、そろそろ日が暮れますよ」

 

 見回すと確かに太陽が西の山に半分隠れている、一時間位見回っていたのかな。

 

「すみません、宿舎の場所が分からず探してました」

 

「コーラル男爵様は余り僕達が好きではないみたいなので会話も一方的だったでしょ?コチラです、ロップスさんの所に案内します」

 

「僕達を?それは魔術師が嫌いって事?」

 

 おぃおぃ、国防に携わる者が好き嫌いって何だよ。

 

「ええ、私達も何の説明も無くただ早く砦を直せと言われて途方に暮れてたんです。でも応援が来てくれて助かりました」

 

 なる程ね、魔術師ギルドは僕の能力調査の為に色々と仕込んでくれた訳だな。

 


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