古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第184話

 魔術師ギルドの依頼でボルガ砦の修復に来た、この依頼は僕の能力調査だと踏んだのだが……想像以上にハードルを上げてくれた。

 先ずボルガ砦の責任者のコーラル男爵だが魔術師嫌いらしい、しかも無理難題を押し付ける。

 同じく魔術師ギルドから派遣された三人、責任者のロップスと助手のミリアン、それともう一人居るらしい。

 しかも僕等に与えられた宿舎は……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お待たせしました、此処が僕等の宿舎です」

 

「此処が、僕等の?」

 

 見上げる宿舎は、その……仮にも魔術師ギルドから派遣された人員だぞ。

 幾ら何でも周りに比べて古い建物過ぎないか、確かに雨風は凌げるけどさ。板張りの屋根には岩が乗り草が生えているぞ。

 

「さぁどうぞ。ロップスさん、魔術師ギルドから派遣されたリーンハルトさんです」

 

「ようこそ、リーンハルトさん。歓迎します」

 

 手を差し出してくるロップスさんは未だ二十代前半、僕とそんなに歳も離れてない。

 

「宜しくお願いします、ロップスさん」

 

 握手をした後に現状の確認をする、彼等がボルガ砦に来たのは一昨日の夜で昨日コーラル男爵に面会したそうだ。

 彼から言われたのは一週間以内に終わらせる事、追加で言われたのは明日中に正面口付近を終わらせる事。

 だが今日一日三人掛かりで終わらせたのは全体の一割未満、とても一週間では終わらない。

 

 僕等のスペックだが全員土属性魔術師だ、責任者のロップスさんはレベル22、助手のミリアンとマックスは共にレベル15と心許ない。

 部屋を見回せば奥に二段ベッドが二つ、真ん中にはテーブルと椅子、一応カマドが有り鉄鍋に湯が沸いている。

 床は板張りで照明は獣脂のランプ、一般的な警備兵と同じ扱いと思えば良いかな。

 夕食迄には暫く時間が有るので今後の方針だけでも決めておかないと駄目だな、先ずは魔法の明かりを点してテーブルに魔術師ギルドから貰ったボルガ砦の補修ヶ所を示した図面を広げる。

 

「いきなりで悪いが、コーラル男爵から明日中に正面口付近を全て直せって言われたんだけど大丈夫かな?」

 

 正面口周辺は一番被害が大きい、経年劣化ではなく野盗の逃走時に壊された感じだった。

 正面門の扉は焼かれ擁壁もヒビ割れ崩れている、矢倉が一つ無くなっているし激戦だったのが分かる。

 

「明日中に?無理だって!」

 

「正直僕等じゃ門扉と矢倉で精一杯だよ」

 

「僕等も先ずは目立つ正面口から手を付けるんだけど、流石に明日中には無理だろう」

 

 ふむ、図面によれば擁壁の修復は十七ヶ所で総面積は200㎡か、僕のノルマは450㎡だか二日弱と見積もっていたので何とかなるな。

 

「はい、白湯だけど」

 

「有り難う。うーん、どうするかな?」

 

 木椀に入れてくれた白湯を飲む、木の香りが口の中に残って素朴な味わいだ。

 ヒビ割れ部分は数は多いが深さは奥まで達してない、表層だけなら難しくないが大穴が四ヶ所開いているんだよな。でも貫通してないし大丈夫か?

 

「擁壁は僕が担当するよ、補修場所は多いけど朝から掛かれば夕方には何とかなると思う。

コーラル男爵の機嫌を損ねるのは不味い、確か大切な客が来るからと言った。恥をかかすと面倒臭い事になるのは確実だよ」

 

「なる程、流石はレベル30って事か。

それで頼むよ、僕等は門扉と矢倉を直して終わったら君を手伝う。この分なら一週間と掛からずに終えられる、早く補修を終わらせて王都に帰ろう」

 

 此処で改めて仲間の確認をする、ロップスさんは魔術師ギルドから責任者を任されている、二十四歳の癖毛の金髪を短くした髪型で筋肉質、灰色のローブに金属製のロッドを持っている。

 ロッドの先端には琥珀が嵌まっている、魔力をブーストする効果が有る。

 

 最初に案内してくれたミリアンは十六歳のサラサラな赤毛の長髪、痩せていて一番背が高い。

 黒色のローブに年季の入った樫の木のスタッフを持っている、父親から譲り受けたそうだ。

 

 最後にマックスだが最年少の十四歳、同い年だ。

 癖の無い金髪を短く刈り上げている、ローブは紺色で先端に金属製の髑髏を付けた木の杖を持っている。

 周りからも悪趣味だと言われているらしいが本人は気に入っているそうだ。

 機敏だが小太りで顔中にソバカスが有り、弟のインゴを思い出す。

 

 全員が平民だが裕福層で育ちが良くて身なりも悪くない、勿論魔術師ギルド所属だし収入は安定してるのだろう。

 

「話も纏まったし夕飯貰ってくるよ、マックス手伝ってくれ」

 

「分かった、でもまた豆のスープかな?毎回同じは飽きるよね」

 

 二人が食事を貰いに宿舎から出て行ったが賄い付きだったのか?てっきり自腹だと思いイルメラ達に三食五日分用意して貰ったんだけど……

 

「不思議かい?コーラル男爵も魔術師は嫌いでも差別はしないみたいでね。食事も三食出るし風呂は無理でも湯は貰える、最も砦勤めの兵士と同じ待遇だけどね」

 

「それは有り難いね、仕事の邪魔や妨害が無いのは助かるよ。後はコーラル男爵の気分が悪くならない内に砦の修復を終えて帰ろう」

 

 コーラル男爵は見掛けによらず武闘派の派閥なのかもしれないな、自分の鎧兜を飾ってたし。

 彼等武闘派と魔術師連中は不仲なのは公然の秘密だから説得力は有る。

 

 ミリアン達が持って来てくれた夕食は豆と雑穀のスープが大盛りに拳大の固焼きパンが一人二個、それにオレンジが一個とボリューム満点だ。

 流石は体力勝負の警備兵用の食事だが固焼きパンが食べ切れずマックスに一つあげたが、彼は完食しスープのお代わりを貰いに行っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、朝食も前日の夕食と全く同じメニューだった、お腹一杯食べれるだけでも贅沢なのだがロップスと僕は既に食べる量が減っている。

 ミリアンとマックスは僕等の分も食べれて御機嫌だ、やはりマックスとインゴが被る。

 食後は少し休んでから各々の分担に別れる、僕は擁壁の補修で彼等は門扉と矢倉の補修だ。

 

 先ずは正面口付近のヒビ割れと破壊された穴の補修だ、岩と土で固めて更に固定化の魔法を重ね掛けしてあるのに壊すとは……

 先ずはヒビ割れ部分だがこれは簡単だ、以前薬草採取で使った呪文の応用。

 ヒビ割れ部分を指でなぞり周辺を細かく砕いて砂状にしてから再度固める、その上から固定化の魔法を掛ければ完了。

 背の届く範囲の補修を終えたら次はゴーレムナイトを召喚して足場代わりにする、擁壁の高さは4mでゴーレムナイトの身長は2m、何とか届くし上の方には劣化や破損は少ない。

 最悪は擁壁の上に上り身を乗り出せば1m位の範囲なら手が届く。

 

 砦を通過する人達が物珍しそうに眺めている、確かに魔術師連中の補修作業など中々見られないから仕方ないか、それに動くゴーレムも不用意に街中では使えないし。

 

「あっ!お兄ちゃんだ」

 

「む?ああ、ポロフか」

 

 先日知り合った男の子が友達三人と共にゴーレムナイトの足元に集まって見上げている、おっかなびっくりゴーレムナイトを指で突いているが珍しいのだろう。

 

「友達かい?」

 

「うん、村の遊び友達なんだ」

 

「スゲー、これってゴーレムだろ?人が入ってないんだろ?」

 

「お父さんより大きいよ、凄いや」

 

 足元に纏わり付いては危なくてゴーレムナイトを動かせない、暫く休憩も兼ねてゴーレムナイトと遊ばせる、孤児院の子供達と遊ぶ要領で高い高いをしたりしていると村中の子供が集まり警備兵から叱られた。

 付近の村の子供達の殆どが集まっても十八人か、集落自体は全部で百人位らしい。

 近隣では唯一酒場が有るらしくボルガ砦の警備兵達の御用達みたいだ、まぁ行かないけどね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昼飯だ、久し振りに違う用法で魔法を行使していたので精神的に疲れた、だが予想以上に補修は捗り既に正面口周辺の十七ヶ所のヒビ割れ補修は完了。

 問題は大穴四ヶ所だが補修手順は考えて有るので大丈夫だな。

 

「昼飯持って来ました!何と豆と雑穀のスープに固焼きパンが二つ、それとオレンジですよ」

 

 ミリアンとマックスがトレイに乗せた料理を見せてくれる、朝食と全く同じだ。

 

「「またかい!」」

 

 ミリアンの言葉に僕とロップスさんが突っ込む、僕も既に三食同じだが彼等は二日以上同じ、つまり六食同じだ。

 だが出されるだけでも感謝しなければならないのだ、普通は自前で用意しなければ駄目だから……

 

「気分を変えて外で食べようか」

 

「そうだね、新鮮なオレンジまで毎回出るのは嬉しいよね」

 

 各々が擁壁に寄り掛かり座る、木の深皿に山盛りのスープだけでも満腹になりそうだが固焼きパンを一口大にちぎりスープに浸して食べる、濃い目の塩味が食欲を刺激する。

 肉の細切れを見付けると嬉しくなってしまうのは、大分豆と雑穀スープに毒されてるのか?

 男四人が無言で一列に座り黙々と食事をするのは端から見れば長閑なんだろうな……

 

「リーンハルトさんは既にヒビ割れ部分の補修を終えたんですね、どうやったんですか?」

 

 自分の二つを完食し僕の固焼きパンをちぎろうと悪戦苦闘中のマックスから質問が来た、だが口の中に食べ物を入れたままで喋るのはマナー違反だぞ。

 

「む、補修方法?ヒビ割れ部分を魔法で細かく砕いて再度固め直して固定化を重ね掛けだよ。

ヒビの幅が大きい部分はゴーレムを使い土を擦り込んでから同じ手順かな」

 

 実際に岩を砕くのと砂を固めて岩にする呪文の応用だ、理屈は簡単だが実は制御は難しい。

 ヒビに沿って5mm程の幅を砕いて再度周囲を接着する感じで固めるんだ、振動で正確な深さを探り的確な範囲を繋がないと表面だけ塞いでも中が空洞とか良くやる。

 

「凄いな、結構な高等テクニックなのにサラリと簡単に言ったよ、この人は!」

 

「そうかい、有り難う。そっちの進み具合はどうなんだい?」

 

 もうロップスさんは責任者じゃなくて突っ込み役でも良い位の鋭い突っ込みだ。

 

「矢倉は直した、午後から門扉だけど結構掛かるかな、一回外して補修して再度取付るんだ」

 

 それは大変だな、丸太組の門扉は外して金具は分解しないと丸太を交換出来ない、だが門扉は高さ3m幅2mと大きく重い。

 使用している丸太も直径20cm位の太さが有る丈夫で重い木材だ、多分だが杉だと思う。

 ロップスは3m級のクレイゴーレム(土人形)を四体使えるので魔術師だけでも力仕事が出来る、実際矢倉も倒して補修して建て直したんだ。

 

「大変だけどノルマは達成出来るね、僕も早く終わったら補修の続きをするよ。

僕だけ個人ノルマで450㎡有るんだよ、今日で200㎡達成出来るから明後日には確実に終わる。最も他の指名依頼も請けてるから明後日がリミットなんだ」

 

 ボーンタートル討伐は週末には王都を発たねば間に合わない、結構厳しいんだよな、天気が崩れたら補修出来ないし。

 

「そうだったね、後で補修完了部分を確認するよ。ノルマの確認は僕の仕事だった」

 

 笑っているがロップスさんは魔術師ギルドから信用されている、未だ若くレベルも低いけど真面目で責任感の有る組織人として優遇されるタイプだ。

 裏を返せば扱い易い人材なんだが突出した力が有っても言う事を聞かない連中など害悪でしかない。 組織とは人が歯車となり全体を動かすものだから。

 

「頼みますよ、ロップスさん。出来れば明日にはノルマを達成する予定ですから」

 

「それは大きく出ましたね」

 

「流石は二つ名有りの『ゴーレムマスター』ですね、王都で有名ですよ。僕の姉ちゃん達も騒いでた、逆玉だとか何とか……」

 

 逆玉って何だよ、姉ちゃん達って何だよ、マックスの家族には怖くて会いたくないな。

 

「これも知り合った縁だしウチに遊びに来てよ、姉ちゃん達も喜ぶよ!」

 

「そっ、そうだね、暇が有ればね、考えておくよ」

 

 キラキラした目で見上げられても困る、マックスは純粋でも姉ちゃん達は不純丸出しだ、逆玉狙いって話が僕に有るなんて信じられないな。

 何とか昼休み中に言質を取られる事無く午後の作業に移れた、マックスを傷付けない様に気を使って疲れたよ。

 


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