『デクスター騎士団』全滅の冤罪回避の為に色々とアリバイ工作をしてきた。
その集大成がギルド職員に僕達のアリバイを明確に覚えさせる事だ、僕達は午後は二階層に居て一階層には居なかった。
こう思わせる事が出来ればテレポートした『デクスター騎士団』とは接触しなかった事になる。グリム子爵は分からないがデオドラ男爵は愛娘の恩人を探すだろう。
そして問合せ先は冒険者ギルドで、ギルドはバンクの出張所に聞くだろう。
すると彼は当日にバンクに入った冒険者パーティの中から該当しそうな連中を幾つか教える筈だ。
バンク攻略数日の僕達に疑いがかかるなんて自意識過剰かも知れないが、逆に怪しいと罰せられる可能性も有るから用心は必要だ。
実際に僕達はルーテシアとウィンディアを助けて身元も知られている。ウィンディアは別としてもルーテシアが周りを騙し続けられるかが疑問だ。
彼女は脳味噌筋肉と幼馴染みに評価される位に真っ直ぐな性格の娘だからな……
◇◇◇◇◇◇
「ハイポーションが2個、木の腕輪が7個、スタンダガー29本、耐魔のアミュレットが1個ですね。
今日も大漁ですね」
前の高レベルパーティの後だと凄いと思えないですが?カウンターの下にレアアイテムをしまったのを見てから、今度はノーマルアイテムを並べる。
「木の盾が10個にダガー28本ですね。では合計が……
先ずハイポーションは買取価格が1個銀貨5枚で2個ですから金貨1枚。
木の盾は買取価格が銀貨5枚で10個ですから金貨5枚。
木の腕輪は買取価格が金貨1枚銀貨5枚で7個ですから金貨10枚と銀貨5枚。
ダガーは買取価格が銅貨5枚で28本ですから金貨1枚と銀貨4枚。
スタンダガーは買取価格が銀貨7枚で29本ですから金貨20枚と銀貨3枚。
耐魔のアミュレットは買取価格が金貨1枚で1個ですから金貨1枚。
合計で金貨39枚と銀貨2枚になります、お確かめ下さい」
カウンターに並べられた硬貨を受け取り空間創造の中に放り込む。流石は魔法迷宮、一階層降りただけで稼ぎに差がでるな。
「確かに、有り難う御座います。それで先程の迷宮内で変わった事とはなんですか?気になるんですが……」
さり気なさを装いながら聞き返してみる。
回答によってはグリム子爵かデオドラ男爵のドチラが有利か分かるかも知れない。
「んー、内緒って訳じゃないんですがね。知ってます『デクスター騎士団』って?」
いきなり核心を直球で来たので少しだけ動揺した……
「ええ、僕も貴族の端くれですからグリム子爵の御子息率いるパーティの事は知ってますよ。
彼等が何か問題でも起こしましたか?昨日も帰り掛けにギルド派遣の冒険者達と揉めてましたね……」
疑われないように事実だけを話す。
「彼等が昼過ぎに全滅しました……」
思わず口を開けてポカンとしてしまう。『デクスター騎士団』は全滅した事になってるのか、彼女達は口封じされたのか?
驚くべき情報を淡々と語るギルド職員に、もしかしてパーティー全滅って珍しくないのかと錯覚してしまう。
「全滅?何で?いや全滅したって誰かが見てたんですか?
不味いですよ、あのパーティにはデオドラ男爵の御息女も居た筈だ。父上に知らせないと、バーナム伯爵の動きによっては……」
実際に派閥内の貴族に不祥事が有った場合、そこを更に突いて蹴落とすのが貴族という生き物だ。
だから僕の呟きは間違ってはいない、実際には父上に報告しないけど。
「いえいえ、そんなに大事じゃないんです。パーティメンバーの皆さんは全員無事ですよ、怪我は負ったみたいですけどね。
でも下層階のワープトラップに引っ掛かり、モンスターと共に一階層に転送されちゃって大騒ぎだったんです。アレだけの騒ぎを引き起こしたので『デクスター騎士団』は全滅扱いです。
でもモンスターは討伐しましたから安心ですよ」
情報操作だな、でも全員無事って事は未だ誰が悪いとかじゃない。だからグリム子爵とデオドラ男爵のドチラが有利なのか分からないな……
「なんだ、全滅じゃなくて解散じゃないですか……脅かさないで下さいよ。
まぁ問題の多い連中でしたし、グリム子爵の御子息もバンク攻略という実績作りが出来たから箔を付けてパーティ活動はお終いですね。
良かった、僕の実家は派閥の下の方なんで彼等には余り関わり合いになりたくなかったんですよ」
にっこり笑って本当に安心したような態度を心掛ける。
「ええ、二度と彼等はバンクには来ないですよ。二度とね……」
ギルド職員の含み有る笑顔を不思議そうに見つめる演技も忘れない。
つまり表立っては無かった事にするのだろう。『デクスター騎士団』の面々は解散して行方は各家の方針によるみたいな?
謹慎か田舎に隠居か最悪は病死も有り得るな……いや実際に一人死んでるから何処かで病死か事故死かを捏造するだろう、名誉を損わない方法で。
「もうモンスターは居ないんですよね?
今の僕達じゃ下層階のモンスターには太刀打ち出来ないから心配なんですけど……」
「ええ、大丈夫ですよ。
冒険者ギルドから高レベルのパーティに巡回依頼を出しましたから安心して下さい」
それじゃ大丈夫ですね、と笑って買取カウンターから離れる。
つまり証拠探しの人材をギルドが派遣したって事だな……僅か半日でこの状態になったって事はグリム子爵もデオドラ男爵も動いてると思っていた方が良い。
心配と悩みで重い足を引き摺って乗合馬車の停留場へ向かう。どうやら雨も降ってきたみたいだ、見上げる空はドンヨリと雲が渦巻いていた……
◇◇◇◇◇◇
「お疲れ様です。毎回待ってなくても良いんですよ、ヒルダさん?」
何時もの『静寂の鐘』のメンバーが停留場で待っていた。今日は何時もより一時間くらい遅かったんだが……
普通に待合室の椅子に座って待ってましたよ。
「あら、リーンハルト君は女心が分からないのかしら?」
「そうよ、女の子が三人も貴方を待ってるのに酷い男よね」
ヒルダ&ポーラのお姉さんコンビに絡まれたが、今日は色々有って疲れたんだよね……
グレートデーモンを倒せた事が、時間を置いて考え直せば直すほど運が良かったと思えるんだ。五分五分で勝てたに過ぎない、詰めを一手間違えれば死んでいただろう。
「今日は二階層まで降りてコボルド狩りをしたんですが、ウッドゴーレムと違い複数で多種多様な武器を使うからゴーレム制御が大変だったんです。疲れたので早く帰って休みたい」
「そうなんです。
他にも『蒼き狼』とかいう幼女愛好家がリーダーの変態パーティに付き纏われるし、『苛烈の若武者』とかいうクランに勧誘されるし最悪でした。
最後は汚らしいオークに舐めるような嫌な目で見られるし……
勿論、リーンハルト様が私を見るオークのいやらしい視線が気に入らないとゴーレム達で虐殺したので気は晴れましたが……」
思わずイルメラの顔を見る! 何故見るのか不思議そうにしているが、明日はオーク狩りしたかったけど嫌なのかな?
「イルメラ?明日はオーク狩りの予定だけど嫌なら止めるよ」
「いえ、大丈夫です。オークは種を滅ぼした方が皆が幸せになるんですよ」
愛を説くモア教の僧侶なのに輝くばかりの笑顔で種を滅ぼせとか言ったぞ。
「オーク?その通りよ。アイツ等の汚らしい視線には反吐が出るわね!」
「ふふふ、奴等には手加減は要らないよね。私は何時も汚らしい股間を切り裂いてるわ!」
「オーク……いやらしいから燃しちゃう」
女性陣の呟きに根の深い恨みが有る事を理解した……
「乗合馬車に乗りましょう。イルメラ、今日は外食して帰ろう。夕食の支度は大変だろ?」
家事全般をメイドだからと押し付けているのだが、疲れているのは二人一緒の筈だ。
「大丈夫ですが……もし宜しければ『シュタインハウス』へ行きませんか?」
「決定!
夕食は『シュタインハウス』で食べましょう。お姉さんが奢ってあげるわ」
いえ、別に『静寂の鐘』のメンバーと夕食を一緒に食べる意味が分からない。
「いえ、結構です。自分で払います、そもそもヒルダさんより稼ぎは良いですから。僕達は山分けですが、ヒルダさんは五分の一でしょ?」
言ってから後悔した、ヒルダさんの泣きそうな表情を見てしまったから。資金が潤沢なパーティなんて少ないんだよね。
◇◇◇◇◇◇
『シュタインハウス』は初めてイルメラと外食したビアバーだ。庶民向けのボリュームたっぷりの料理とジョッキで飲むビールがお勧めなんだけどさ。
『そして大人達は今日を生き長らえた事を感謝して、ハメを外し……魔宴が始まった』
「14歳の子供には大人の醜態ってキツいんだけど……
確かに生き長らえた喜びは分かるけどさ(それはグレートデーモンを倒した僕とイルメラなら分かるんだが……)」
折角のイルメラお勧めの料理だったが、目の前の光景が酷すぎて胸焼けしてしまった……
牛肉にパン粉をまぶして油でカラっと揚げたシュニッツェルやヴルストと呼ばれる腸詰肉、裏ごししたジャガイモを丸めて油で揚げたクネーデル、美味しい料理だが全て脂っこいので余計に胸焼けが酷い。
「ごめんなさい、普段は此処までハメは外さないのに……今夜は絶好調みたい」
目の前ではイルメラを中心に左右にヒルダさんとポーラさんが座ってビールの飲み比べをしている、あの温いジョッキビールを淡々と飲み干すイルメラ。
笑いながら飲むヒルダさんとブツブツ独り言のように愚痴を言うポーラさん。
ヌボーとタップの男二人は夕食もソコソコに狙った女性の居る店に飲みに行ってしまった、賢明な判断だな。
イルメラには苦労を掛けているし今夜くらいは好きに飲ませる事にする。
「すみませーん、ビールジョッキで六杯お願いします」
飲むスピードを見極めて追加のビールを注文する、持ってくるまでのタイムラグも考えて一人二杯ずつだ。唯一の男としてホストに徹する事にする。
「あの、飲ませ過ぎじゃないかな?」
女性陣で唯一素面のリプリーが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫だと思う。もし酔い過ぎても水の魔法で治せるから。要は体からアルコール分を抜けば良いんだよ」
昔、戦時中に恐怖に耐え切れずにアルコールに逃げる新兵が沢山居た。
彼等は人を殺す罪悪感と殺されるかもしれない恐怖感で大量のアルコールを飲んで体を壊す者が続出した。その時に開発された魔法だ。
「そんな魔法が有るんだ……ってリーンハルトさん、土と水の属性持ちなんですね?」
ああ、内緒にしていたんだが教えてしまったか、彼女達には大分警戒心が緩んでるな……しっかりしないと駄目だぞ。
「リプリーも火と土の属性持ちだろ?二つの属性持ちは珍しくはないが無闇に他人に教える必要は無いよ」
リプリーは火力特化の魔術師が表の顔で、裏で土属性のゴーレムを何とか実用化しようと頑張っている。
僕はゴーレム特化の魔術師が表の顔で、裏では水属性の治療を……更に秘密だが毒特化の邪悪な魔術師なのだ!
「うん、リーンハルトさんって先生みたい。もう魔力制御も完璧なんだね、前と違って今は私と同じくらいの魔力しか感じないよ」
妙に艶の有る目で僕を見てるかと思えば、何時の間にかワイングラス持ってるし……
「ん、上手く抑えられてるかい?良かった、魔力ダダ漏れは未熟な魔術師って言ってるだけだからね」
店の人に果汁入りの水を二つ追加オーダーする。既に酔っ払い共はツマミを必要とせず、僕とリプリーもお腹は一杯だ。
「リーンハルトさんは凄い早さでレベルが上がってるのが分かる。いえ、レベルアップじゃ納得出来ない程に強く……強くなって……まるで私の師匠よりも……強く……」
リプリーはブツブツと何か言いながら机に突っ伏した、酔いが回ったのか?目の前の三人もイルメラを残して机に突っ伏している。
『静寂の鐘』VS『ブレイクフリー』は僕達『ブレイクフリー』の圧勝で幕を閉じた……
「さて、この酔っ払い娘達をどうしようかな?」
『静寂の鐘』の三人は熟睡中だし、イルメラも船を漕ぎ出した……もうオネムだな。
僕の家に連れ込むと色々と面倒臭い事になりそうだし、そもそも客間なんて用意してないし寝具の予備もない。
「仕方ないな、此処に泊まるか……」
幸い部屋に空きが有ったので四人部屋と二人部屋を借りる事が出来た。
「クリエイトゴーレム!ゴーレム達よ、彼女達を大事に抱き上げろ」
青銅製のゴーレムを四体召喚し彼女達をお姫様抱っこさせる、此方をニヤニヤ窺っていた男共も呆気に取られたみたいだ。
これは夜這い防止に護衛ゴーレムが必要か?
皆が僕等に注目している中、女性陣をお姫様抱っこしたゴーレムを引き連れて二階の客間へと向かった。