古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第191話

 公爵家の家督争いに巻き込まれた、ボルガ砦の擁壁補修に来てみたが最終的には傭兵団赤月にハボック兄弟の撃破、賊共も二百人近く倒した。

 結構な頻度で問題事に絡まれる、またジゼル嬢に苦労を掛ける事になる。

 今回の騒動で良かった事は知り合いの仇を捕縛出来た事だ、だが今はその知り合いの迫力に飲まれている……

 

「リーンハルト君、ハボック兄弟は何処かな?逃がした?それとも未だ襲って来てない?」

 

 馬から飛び降りてゆっくりと近付いて来る、不眠不休で馬を飛ばして来たのだろう、目の下に隈が出来ている。

 

「ハボック兄弟は捕縛して眠らせています、あの宿舎の中に二人だけで居ます」

 

「そう、有り難う。御礼は後で嫌って程あげるわ」

 

 そのまま僕の脇を擦り抜ける、余りの迫力に周りの誰も声を掛けられない。

 

「ベリトリアさん」

 

「何かしら?」

 

 平坦な声、振り返りもしない、静かで激しい怒りを感じる。

 

「顔は判別出来る様に無傷でお願いします。黒焦げでは後で色々と不味いので。それ以外はお好きに」

 

 ハボック兄弟を倒したのもヘリウス様の地位向上の理由になる、黒焦げ死体が二つでは不味いんだ。

 

「何から何まで悪いわね。大丈夫よ、手足の先からじっくり燃やすから……」

 

 そのまま宿舎に入り少し後から男二人の絶叫が響き渡る、家族の敵討ちだから僕も誰にも邪魔はさせないさ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト殿、良いのですか?折角生かして捕らえたハボック兄弟ですよ」

 

 僕の周りにヘリウス様やロップスさんが集まってくる、宿舎から聞こえる悲鳴に誰もが不安になっているのか?

 

「あの女性は白炎のベリトリアさん、冒険者ギルドで最もAランクに近いと言われている才媛です。ハボック兄弟は彼女の家族の仇、だから僕は生かして彼女に引き渡したかった」

 

「彼女が噂の爆炎の魔女殿か……」

 

 あれ?『白炎』が二つ名だと思ったけど『爆炎の魔女』とも呼ばれてるのか、彼女のビックバンは確かに爆炎だな。

 

「しかし彼女程の魔術師が来てくれて助かりました、これで兵士達の救出に行けますね」

 

 望み得る最強の応援だな、彼女が居れば賊の百人位は雑魚でしかない。

 

「大丈夫ですか?リーンハルト殿が居なくなるのは不安です、聖騎士団にも何て言って良いかも……」

 

 ヘリウス様はすっかり弱気だ、相続争いを勝ち抜くには強気も必要だぞ。

 

「大丈夫です、ベリトリアさんは僕よりも強い。正面から戦えば僕の最大制御数のゴーレムで一斉攻撃をしても負けます、彼女が護衛してくれれば安心です」

 

 冒険者ランクBは伊達じゃない、ただ強いだけじゃないんだ。

 

 三十分程して悲鳴が止まった、彼女の怨みを考えれば早かったな、もっと時間を掛けると思ったが……

 宿舎の扉が開くと黒煙と異臭が付近に漂う、だが彼女の顔には暗い笑みが張り付いている。

 

「リーンハルト君、有り難う。何て言うか……うん、有り難うとしか言えないわ」

 

「いえ、彼等を捕らえたのは偶然です。攻めて来た、だから撃退しただけです」

 

 周りから注目を集めているのが居心地悪い、この後の相談も有るのでコーラル男爵の執務室に案内する。

 気持ちを落ち着ける為に紅茶を用意して振る舞う、メンバーは僕とベリトリアさんとヘリウス様だけだ。

 ヘリウス様はベリトリアさんが怖くて堪らないみたいで僕の隣に張り付いている、大分懐かれたな。

 

「ハボック兄弟の成れの果ては僕が引き取って良いですか?」

 

 アレは使い道が有るので流石に渡せない。

 

「勿論よ、奴等に懸かっている懸賞金はリーンハルト君の物だからね。生死を問わずだから平気よ、悪いけど手足と下半身は燃しちゃったわ」

 

 生きながら焼かれたのか、賊の末路は死罪だから自業自得と割り切ろう。

 

「顔が判別出来れば大丈夫ですよ」

 

 お互い悪い笑みだ、ヘリウス様は会話の内容にドン引きかな?まさかリーンハルト殿がそんな……とか呟いてるけど僕も結構中身は真っ黒なんですよ。

 

「そこの坊ちゃんはローラン公爵家の跡取り息子よね、また厄介事に巻き込まれた?」

 

 流石は冒険者ランクA直前、公爵家の跡取りを知っていて坊ちゃん呼ばわりとは凄いや。

 

「厄介事って言うか……

ボルガ砦の責任者のコーラル男爵が裏切り者で色々とヘリウス様を殺そうとして賊や傭兵団を集めた。それを全て返り討ちにしただけです。ですが……」

 

「黒幕が他に居る、しかも上級貴族でしょ?噂によれば身内で叔父辺りかしらね?」

 

 噂?何時も思うがベリトリアさんの情報は正確だな、不確かな噂とかじゃないだろう確かな情報網を持ってるな。

 

「はい、下手に逆恨みも面倒臭いので今回の件はヘリウス様が対処した事にして王都に凱旋しようかと。

そのままローラン公爵本人に報告して、後は家族の問題として解決して貰おうと考えてます」

 

 ヘリウス様に手出しが出来ない様にするのが優先だろう、生き証人の姉とコーラル男爵が居るが何処まで証言が通用するかは謎だ。

 下手したら権力で無かった事か彼等の単独犯行とか言われそうだし……

 

「まぁまぁね、凱旋は派手に王都中に広まる様にしましょう。

リーンハルト君のゴーレムを並べて私も同行してあげるわ、私達二人を従えて凱旋すれば噂は直ぐに広がるでしょう。

リーンハルト君と私が繋がっている事は相手への牽制にもなるわ、それと取り敢えず御礼にあげるわ」

 

 そう言うと『蛇骨の杖』を放り投げて来た、コレは当たるとランダムに二種類の毒を与える危険な杖なんだぞ!

 

「ちょ、危ないですって……」

 

 何とか当たらずに杖の柄を掴んだ、世界に数本しかないオリジナルなのに貰って良いのか?確か師匠から受け継いだとか言ってなかったかな?

 

「あの、話に全く付いていけないのですが、何故ベリトリア殿は僕の為に……」

 

「貴方の為じゃないわ、リーンハルト君の立場の為よ。恩には恩を仇には仇を。

貴方の敵がリーンハルト君に手を出し難くする為の布石よ。勿論、ローラン公爵家から報酬は貰うわよ」

 

 確かに有り難い、ベリトリアさんと友好関係が有るだけでも牽制になる。

 ヘリウス様も冒険者ランクBの『白炎のベリトリア』さんを配下に置いて戦ったとなれば評価は高い。

 しかも彼女もローラン公爵家と伝手が出来て報酬も貰える、大した提案だ。

 

「安心なさい、白炎のベリトリアとゴーレムマスターのリーンハルトの二人を従えての凱旋なんてデオドラ男爵でさえ無理よ。

後は先触れを放って王都に噂を広めましょう、本来なら時間が惜しいから直ぐに出発したいわ」

 

 確かにそうだ、時間が経つと証拠を隠滅されたり対策されたりする。

 あの時点で急いで王都に帰ると言い出したコーラル男爵を怪しいと睨んだが、ヘリウス様の立場で考えれば正しい行動だったんだ。

 彼が武闘派で護衛兵を二十人くらい付ければ賛成したな、安全さえ確保出来れば実行すべきだったのか……

 

「どうしたの、考え込んで?」

 

「いえ、結構綱渡りで幸運だったなって思いまして……」

 

 あの時もう少しコーラル男爵に論理的に説明されてたら僕は彼等を見送った、危なかった。

 

「今は慌てても仕方ないわ、聖騎士団が応援に来たら引き継ぎして帰りましょう。

リーンハルト君は少し休みなさい、後は私が代わるから。目の下の隈が凄いわよ、少しでも寝なさい」

 

 それはベリトリアさん、貴女もですよ。

 

「ですが兵士達の救出が……」

 

 生き埋めになってる二十人を救出しなければ駄目なんだ。

 

「聖騎士団が来たら任せれば良いわ、確かロップスも居たから彼に任せましょ。貴方には休養が必要、これから半日凱旋という名の強行軍なんだから」

 

 そのまま奥の寝室に押し込まれて寝かされた、二時間後に待望の聖騎士団が来たがローラン公爵家の応援が来ない。

 あのバッゾと呼ばれた騎士だが敵だったか途中で賊に捕まったかしたかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト殿か、無事だったみたいだな。まぁ当たり前か、お前が賊程度でやられるとは考えられない」

 

「ジョシー副団長、応援有り難う御座います」

 

 待望の聖騎士団の応援はジョシー副団長だった、模擬戦で相手をした騎士達も四人来ているし全員で三十人以上は居るな。

 知り合いで助かった、これで話はスムーズに進む。

 

「それでローラン公爵家の連中は無事か?ボルガ砦の責任者のコーラル男爵はどうした、怪我でもしたか?」

 

 そうか、ジョシー副団長は彼が裏切り者だと未だ知らないんだ。

 

「今回のヘリウス様襲撃の実行犯がコーラル男爵で捕らえてあります。ですが首謀者は他に居ます、詳細は此処では……」

 

「何だと!国防を司る我々から裏切り者が出ただと、信じたく無いが捕縛されてるなら信じるしかないか。

詳細を聞いたらライル団長に報告せねばならないな、コーラルの件は色々と問題になるだろう。爵位剥奪、国益を損ねた罪人には厳しい沙汰が出るだろうな」

 

 確かにそうだ、彼は破滅だろう。

 

 国防の要のボルガ砦の責任者が責務を放棄して上級貴族の子弟に危害を加えたのだ。

 しかもその為に自分の配下の正規兵を害している、情状酌量の余地は無い、爵位剥奪に家は断絶、三親等に及ぶ刑になるかもな。

 

「全ては欲に目が眩んだ自業自得、詳細を説明しますので執務室の方へ」

 

「分かった、後続で歩兵二個小隊が向かっている、彼等が到着すれば楽になるだろう」

 

 今は状況の説明、周辺の安全確保とボルガ砦の運用、洞窟に埋められた警備兵の救出、周辺の村の復興とジョシー副団長には色々とお願いしなければならない。

 だが二個小隊とは凄いな、エムデン王国の正規軍の部隊単位は分隊・小隊・中隊・大隊・連隊・旅団・師団・軍団となり小隊は三分隊に相当する。

 一分隊は十人構成だから二個小隊だと六十人だ、因みに一個中隊は四個小隊で百二十人、一個大隊は五個中隊だから六百人、連隊以上になると輸送部隊や施設部隊に補給や保安担当も同行するから千人以上になる。

 あくまで歩兵・槍兵・弓兵で構成される部隊で、聖騎士団や魔導師団は別枠で彼等の上位に当たる。

 連隊以上を動かすとなれば軍事行動、つまり戦争と言い換えてよい。

 

「かなりの人数ですが大丈夫なのですか?」

 

 聖騎士団の一個小隊に歩兵が二個小隊ともなれば王都の常備軍でもそれなりの人数だろう。

 

「問題無い、しかし当直が俺で良かった。リーンハルト殿には借りが有るから今回の件は配慮する」

 

 御息女のカーム嬢の件か、聖騎士団と魔導師団との軋轢が生じる程の問題行動だったものな、恩に感じてくれるのは嬉しいが父親としてもう少しだけ娘の躾をして欲しい。

 痴女みたいに破廉恥な服装の同性愛者でジゼル嬢を狙っている困ったお嬢様だが実力は中々だ、魔導師団員序列三席で二つ名は「毒霧」で文字通り毒特化の水属性魔術師。

 破廉恥な服はマジックアイテムで『海洋の魔女セイレーンの薄絹』だ、薄着になる程に耐魔法防御力が高まるが、僕に言わせれば失敗作だな。

 

「有り難う御座います」

 

 こうして事後処理を任せられるジョシー副団長のお陰で、僕等は王都に向かう事が出来る様になった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヘリウス様のお付きの騎士二人は先触れとして先行させた、ローラン公爵家から応援が来ないとなるとバッゾは王都に辿り付けなかったと割り切る。

 流石に賊共も街道を通過するジョシー副団長達や後続の歩兵小隊を見れば勝てないと諦めるだろう。

 後は堂々と王都に凱旋しヘリウス様をローラン公爵家に送り届ければ良い、幸いにして最強の火属性魔術師である白炎のベリトリアさんも同行してくれている。

 凱旋の布陣だが先頭は僕、次にゴーレムポーン三十体、ベリトリアさんの次にヘリウス様の乗る馬車、ジョシー副団長が貸してくれた聖騎士団四人。

 彼等のお陰でヘリウス様のお付きの騎士二人が先触れに行ってくれた、家付きの騎士とエムデン王国のエリート聖騎士団員とでは格が違う。

 その後にゴーレムポーンが二十体の隊列で王都まで凱旋する、完全武装ゴーレム五十体に魔術師二人に聖騎士四人とは目立つだろう。

 

 


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