古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

20 / 1000
第20話

 『静寂の鐘』のメンバーと夕食を共にして、結果的に酔い潰れたお嬢様方の世話をする事となった。

 四人部屋にヒルダとポーラ、それとリプリーを寝かせてゴーレムナイトを二体召喚し護衛させる。青銅製ゴーレムだとレベル20以上の不埒者なら倒されてしまうから奮発した。

 

「僕とイルメラ以外の誰かが来たら無力化して捕縛しておくように……」

 

 ゴーレムナイトに命令しておいたので大丈夫だろう。部屋が隣同士ではないので苦肉の策だ。宿屋の人にもゴーレムで警戒させるから無闇に入るなと言っておいたので多分大丈夫だろう。

 二人部屋に入りイルメラをベッドに寝かせる、とても実年齢が18歳には思えないあどけない寝顔だ……

 

「ジョッキビールを三人で38杯も飲んだとは思えないんだけど。銅貨5枚のビールを38杯だぞ、酒代だけで金貨1枚と銀貨9枚。

料理と宿泊代を含めると金貨7枚と銀貨6枚……でも楽しかったから良いや」

 

 転生前は他人とこんな馬鹿騒ぎは出来なかった。

 僕は常に戦場の最前線に送り込まれたし、勝って戻っても周りからは腫れ物扱いだったからな……

 幸せそうに眠るイルメラに毛布を掛けて、護衛のゴーレムポーンを四体召喚する。

 扉と窓の前に二体ずつ配置してから自分もローブを脱いでベッドに潜り込む。

 こんなに楽しい夜を過ごせたのは思い出せない位前だな、我が師との修行時代以来かな……

 

「明日は迷宮探索は休むか……無理する必要もないし既にレベルは18だから、当初予定の20までもう少しだ。慌てる必要も無いだろう」

 

 薄暗い部屋の中で規則正しく聞こえるイルメラの寝息を子守歌代わりに深い眠りについた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「うー、頭が痛い……あれ?ここは何処よ?ヤバいわ、もしかしてお持ち帰りされちゃった?」

 

 ガバッて起き上がり周りを確認するとポーラもベッドで唸っている。まさか二人共お持ち帰りされてしまったか?

 窓から差し込む光で未だ明け方だと分かる、普通ならもう一眠りしたい。ああ、リプリーまで……幼い妹までお持ち帰りしやがるなんて、何処のエロ野郎だ?

 もしリプリーまで毒牙に掛けていたらブッ殺す!

 隣のベッドには頭までスッポリ毛布を被った妹の可愛い顔が見えた、それと……

 

「って、ゴーレム?ここって宿屋かな……」

 

 簡素な造りの部屋にはベッドが四つと鏡台しか置いてない。扉が二つ有るが一つはトイレか洗面所だろうか?

 

「五月蝿いわよ、ヒルダ……うー、頭が痛いわ。イルメラちゃんって相当な酒豪よね、結局飲み負けたんだよね?」

 

 向かいのベッドに寝ていたポーラの奴、呑気に頭を揉んでいるけど……もしかしたら私達、お持ち帰りされちゃったかも知れないのよ!

 

「呑気にしてる場合じゃないでしょ?私達、お持ち帰りされちゃったのよ!」

 

 両手を伸ばして口元も押さえずに欠伸して、少しは恥じらいを感じなさいよね全く。

 

「アンタ……本当に昨夜は無用心に酔い潰れてたの?リーンハルト君が二階の客室を取ってくれて私達をゴーレムに運ばせたのよ。

ほら、護衛に立派なゴーレムを二体も付けてね」

 

 そうよね、私達服も乱れてないし部屋も淫靡な匂いもしないし、ヤラれたら分かる下半身の痛みも無い。なんだ、リーンハルト君がお持ち帰りしてくれたのね。

 

「いや、私も起きてたわよ?本当に彼って義理堅いわね。うん、リーンハルト君凄いわ、格好良いわ。

でも私達に手は出さなかったのね、軟弱者!」

 

 きっと彼は私達が酔い潰れて困った事は容易に想像がつく。わざわざ護衛のゴーレムまで置いてくれたんだ、心配させ過ぎたのかしら?でも流石は貴族だけありフェミニストね。

 

「あれ?イルメラちゃんは?居ないわよ?」

 

 四人部屋の残り一つのベッドには使った形跡が無いわね。

 

「イルメラちゃんはリーンハルト君が連れていったわよ。多分二人部屋の方で寝てるんじゃない?」

 

 あらま……彼等が付き合ってるのって本当なのね。これはリプリーに付け入る隙は無いかしら?

 

「うーん、頭痛いです……あれ?お姉ちゃん、ポーラさん……ここは?」

 

 これだけ周りが騒いで漸く起きるとは、我が妹ながら豪気なのか何なのか……

 

「昨日のビアバーの二階の客室よ。リーンハルト君が運んでくれたわ」

 

 ポーラの奴、酔い潰れた振りをしたのね、彼女が男を信用するか判断するのに良く使う手だわ。もし酔い潰れたのを良い事に盗みやイヤらしい事をすれば、容赦無いお仕置きをするのだけれど……

 私達に触れずにゴーレムに運ばせるなんて、私って女としての魅力が無いのかしら?

 

「凄い……お姉ちゃん、このゴーレムって鋼鉄製よ。精密で機能的な構造、緻密な装飾、中の魔素の力強さ……こんなゴーレム見た事もないわ、凄い凄い凄い!」

 

 リプリーの病気が始まったわね、暫らくは話し掛けても無理かも……あんなに興奮する妹は久し振りに見るわ。

 

「ねぇヒルダ……リーンハルト君に入れ込むのさ、止めない?」

 

 思わず見返したポーラの表情は真剣だ、そこに冗談やからかう感じは全く無い。

 

「私は別に入れ込んでなんかいないわよ!」

 

 リプリーに気付かれない様に小さな声を出すのが大変だったが、その分低い声になってしまった。まるで本音を言い当てられて怒っている様な……

 

「あの子は私達凡人とは違うわ。あの子は私達を必要としていない、いや要る要らない以前の問題よ。

前から疑問だった事が有るのよ、あの子がバンクの罠について聞いて私が答えた事が有ったでしょ?」

 

 確か罠の存在、固定罠と宝箱に罠が有るのは三階層からだって……同意する為に頷いた。

 

「その後で対価としてリプリーの質問に答えてゴーレムまで見せてくれた。凄い大盤振る舞いなお礼だと思わない?リプリーは喜んだし、驚いていたわよね。

まるで師匠と同じくらいに強い魔力と制御力だって……」

 

 確かに少し調べれば直ぐに分かる内容だったけど、それは気前が良いって言うか善意だと思ったわ。年の近い魔術師が居ない状況でリプリーに初めて出来た知り合い、優しい魔術師の少年。

 

「あの子の師匠のバルバドス様と同じくらいって……まさかとは思ったけど?」

 

「リーンハルト君は多分凄い魔術師なんだわ。

あのリプリーが興奮しながら喜んで触っているゴーレムを見てどう思う?

私達だって何回か高レベルの魔術師のゴーレムを見た事が有るわよね。でも、どんなゴーレムより見事だわ。

彼は私達の安全の為にゴーレムに警護させてくれたけど、彼にとってあの程度のゴーレムは私達に見せても構わないレベルなのよ。

普段の青銅製ゴーレムもバンク程度の攻略には、アレで事足りるの余裕なの。

私の情報に大盤振る舞いをしたのも盗賊系のメンバーが居ないからバンクは取り敢えず二階層までしか攻略しないって判断材料になったのね」

 

 確かに私達なんか目じゃない程の天才魔術師の少年か……ポーラは年下の少年の才能に嫉妬を感じているのね?

 

「ポーラ、もう良いわ……」

 

「ねぇヒルダ?私達が初めてバンクの二階層に挑戦した時にさ、一日で幾ら稼げたか覚えてる?

五人で頑張って金貨三枚銀貨五枚よ。

リーンハルト君のアイテム買取現場をチラ見したけど金貨30枚以上は有ったわ。しかもレアな空間創造のギフト(祝福)持ちだわよ、硬貨を無造作に空中にしまったのよ。

分かった? 彼と関わるといずれ嫉妬で嫌な思いをするのは目に見えてるじゃない」

 一日で金貨30枚?それを二人で?頑張れば一月で金貨900枚、一年で10800枚……

 

「はぁ、天才どころの騒ぎじゃないわ。あの子、下手な冒険者が束になっても勝てない。

私達『静寂の鐘』も今だって五人で一日金貨15枚が精々よね。

でも私はリーンハルト君が好きよ、別に利用するつもりもないわ。リプリーと仲良くしてくれれば良いの」

 

 あの少年は最初の出会いでも分かったけど、他人に利用される事を極端に拒んだ。

 だから私は彼を利用しようとは思わない。ただ、今の時代には珍しく礼儀正しく才能豊かな少年と友達でいたいの。

 確かに打算も有る。リプリーと仲良くして欲しいし困った時には力を貸して欲しい。でも利用するだけじゃない何かでお礼もしたい。

 

「分かったわ、私だって嫌いじゃないわよ。強くてお金持ちで優しい男は貴重よね、でも年下……

彼は年下なのよ、私より10歳も年下」

 

 なに?ポーラって異性としてリーンハルト君を見てるの?それは無いわー、私でも引くわー、ショタって奴だっけ?

 

「なによ?変な目で私を見て?」

 

 まだ玉の輿とか白馬の王子様とか信じちゃう乙女なのね、ポーラ……

 

「いえ、年の差夫婦も珍しいけど頑張れば百万が一の確率で妾か側室になれるかも?

でも私はリプリーの味方だから依怙贔屓(えこひいき)はしないわよ。正々堂々、イルメラちゃんと戦ってね」

 

 そうよね、彼にはイルメラちゃんという可愛い彼女が既に居るのよね。確か既に一緒に住んでるんだし今更よね、全くさ。

 

「違うわよ! 確かに望まれれば考えるけど現実的には無理よ。リーンハルト君が必要としてるのは盗賊系の若くて才能の有る子だけよ。

その為に冒険者養成学校に行くんだと思うわ。

経験豊富な年上の新入りはリーダーとして指示する立場上都合が悪いし、何より彼は若いから時間が有るのよ。

だからリプリーも難しいわよ、彼に必要とされるのはさ……」

 

 てか、ポーラ……

 貴女、そんなにリーンハルト君の事を熱心に調べていたのね、彼にバレたら変態付きまといショタ女と思われるわよ。

 

「でも、確かにそうね、天才には凡人は必要無いのかしら?僧侶と魔術師、前衛はゴーレムが居るから戦士系は不要。あとは盗賊系だけ居ればバランスの取れたパーティになるわね」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝7時、何時もと同じ時間に目覚めた。窓から差し込む朝日が僕とイルメラを照らす。

 酔って寝苦しかったのだろうか、大胆に修道服を脱ぎ散らかしているイルメラから目を逸らす。

 

「む、意外に有るのだな。着痩せする質なのか?」

 

 何がとは言わないが、年齢平均より小さいのかと思ったが、立派な……布団を掛け直してから咳払いを一つ。

 

「コホン、イルメラ!朝だぞ、起きれるか?」

 

 さり気なさを装い声を掛けて起こす。僕の呼び掛けに直ぐに反応しムニャムニャと目を擦りだす。

 

「うーん、リーンハルトさまぁ……おはよう……ございます」

 

 半分以上寝呆けているが、何とかベッドの上で女の子座りをしたが……掛けた毛布がズリ落ちたぞ。

 

「ほら、年頃の女の子がはしたないぞ。洗面所に行って顔を洗ってくるんだ、着替えは用意しておくから……」

 

 布団を掛け直して洗面所に押し込む。着替えは空間創造の中から新しい修道服を取り出して持たせた。

 イルメラは僕に対して無防備過ぎるんだ。僕だって年頃だから性欲は人並みに有るんだぞ。

 

「煩悩退散!煩悩退散!彼女は大切な仲間、イヤらしい目で見てはならない……」

 

 まさか青春時代のような甘酸っぱい経験が出来るとは転生して良かったな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 洗面所から出てきたイルメラが輝く笑顔で挨拶をしてくれた。さっきは半分以上寝呆けてたからな。

 ざっと部屋を片付けてから『静寂の鐘』のメンバーが寝ている四人部屋に朝食の誘いに向かう。

 朝早い時間なのに何組かのパーティは出発していった。家を持たずに宿屋に拠点を構えて行動するパーティも居るんだな。

 扉をノックすると直ぐにヒルダさんが開けてくれた、どうやら不埒者は居なかったみたいだな……獲物が居なかったのが残念。

 

「よく眠れましたか?」

 

「ええ、よく眠れたわ。素敵な護衛のナイトも居たからね。でも何でリーンハルト君は私達に良くしてくれるのかしら?」

 

 む?これは下心が有るんじゃないかと疑われているのだろうか?

 ヒルダさんは笑顔だがポーラさんは疑わしそうな顔をしてるしリプリーは申し訳なさそうな顔だ……

 

「いや、その年上の女性には変な言い方かも知れませんが、僕は貴女方が嫌いじゃないから……でしょうか?」

 

 そう答えると何故かポーラさんが抱き付いてきて泣かれてしまった。

 

「ごめんなさい、本当にごめんなさい……」

 

 はて?僕は彼女に何かしたんだろうか?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。