古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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 今日から4月30日まで連続投稿予約しました。新年度の始まりですね、先週は送別会、今週は歓迎会が続きますが意外と書き溜めが溜まる不思議さ……
もしかしたらGW終わり位までは連続投稿出来るかも?


第202話

 アーシャ嬢にプロポーズし無事に了承して貰えた、我が家に来るのは花嫁修業を終えた来月になる。

 ヒルデガードさんがデオドラ男爵の執務室まで案内してくれる、流石に一人で屋敷内を歩き回るのは不味いだろう。

 

「リーンハルト様、プロポーズのお言葉は独創的で御座いますね。好きだ、愛してる等の直接的な表現が一切無かったですわ。

女性は直球の言葉が欲しい時が有ります、それと最後は抱擁の後に接吻の流れが満点でした」

 

「まさかの駄目出し?だが僕は衆人環視の中で色事に励む気は無いよ」

 

「メイドは空気と思って下さいませ」

 

 前を歩くヒルデガードさんの顔が見えないので表情は分からないが口調は責めてない、だが女性側から見た希望を教えてくれているのだろう。

 

「ふふふ、リーンハルト様は発情期の犬共とは違いますわね。

あのニールと言う女性に手を出さずにデオドラ男爵様に預けた誠意、でも時に奥手は問題です。

男女間の秘め事は花嫁修業中にしっかりとアーシャ様に教えておきますので、直ぐに子供をお作りになり私に抱かせて下さいませ」

 

 生々しい話だな、確かに側室を迎えたら早く子供を作るのが貴族としての常識だから間違いは無いのだが……

 

「こちらがデオドラ男爵様の執務室となります。リーンハルト様、今後は私共々アーシャ様を宜しくお願い致します」

 

 深々と一礼して立ち去って行った、中々しっかり者なんだな。

 だが僕もメイドとコックを探さなければ駄目なんだが無職で求職活動中のコックとか居るのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お待たせしました」

 

 執務室に入るとデオドラ男爵は不在でジゼル嬢だけが残っていた。

 

「お父様はバーナム伯爵に呼ばれて入れ違いましたわ、後は私だけでも実務の話なので大丈夫だと思います」

 

 ソファーの向かい側を勧められて座ると、ジゼル嬢自ら紅茶をカップに注いでくれる。

 

「アーシャ姉様へのプロポーズは成功みたいですわね、自然と笑みが零れてますわよ」

 

「ははは、アーシャ様付きのメイドに一言言われました。何でも女性は直球の言葉も欲しいそうで……」

 

 紅茶にレモンスライスを浮かべる、甘い言葉を吐いたので酸っぱい物が飲みたい。

 

「ヒルデガードね、あの娘もアーシャ姉様に甘いから……

どんなお言葉を掛けられたのかは後で良く聞いておきます、それで新居の従業員についてですが当ては有りますか?」

 

 流石はジゼル嬢、痒い所に手が届く一家に一人欲しい謀略系令嬢だ。

 

「執事は父上から若いですが有能な者を譲り受けました、タイラントと言うバーレイ本家からの付き合いのある男です。

メイドとコックは全く有りません、今迄はイルメラとウィンディアに両方共に任せ切りでして……」

 

 ジゼル嬢がコメカミを揉んでいる、やはり本業が僧侶と魔術師にメイドさせてちゃ駄目だったか?

 でもイルメラはバーレイ男爵家の僕付きのメイドだったし、ウィンディアは妙にメイド服が似合っていた。

 

「メイドは身元が確かではないと駄目なのです、他家から諜報として送り込まれている場合も有りますから。

コックは我が家からコック長の弟子が独り立ちしたので、見習いと二人でどうでしょうか?」

 

 やはり無職で求職活動中のコックなんて居ないよな、職人系は弟子入りから独立が基本だし任せるか。

 

「それで構いません、アーシャ様には二人専属メイドが一緒に来ますよね。僕にはイルメラが居るので、後は汎用メイドが二人で良いのかな?」

 

 イルメラは僕専用のメイドから外されると悲しい顔をするし、来年ジゼル嬢を本妻に迎えてから側室として娶るのが順番的に良いだろう。

 

「残りのメイドも私が身元を確認した者を送ります、後は屋敷の安全の為の護衛関係ですが……」

 

 少し怒ってるな、きっと非常識か無知だと思われてるのか?だが成人前に屋敷を構える事の準備など誰も教えてくれなかったぞ。

 

「よくぞ聞いてくれました、毎日通って色々と仕込みましたので聞いて下さい。

先ず屋敷の警備にはゴーレムポーンを四十体、ゴーレムナイトを十体、待機モードで配置して有ります。

完全な自立式拠点防御タイプなので僕が居なくても大丈夫、自慢のゴーレム達ですよ。

ゴーレムポーンは庭に埋めて有り敵の反応により動き出します、屋敷の人間には専用アクセサリーを付けて貰い敵か味方か判別すれば過って攻撃する問題も有りません。

何人かにはマスター権限を付けて、ある程度命令出来る様にすれば万全でしょう。

更に内蔵の魔力石を動力にするので僕からの魔力供給は不要、待機モードなら数年は持ちます。

屋敷の中も万全です、主要な出入口には全てゴーレムポーンを配置し各寝室にはゴーレムナイトを二体ずつ配置しました。

勿論ですが屋敷本体と外周の塀も僕が念入りに固定化の魔法を重ね掛けしたので、城塞並の強度を持っています。

完璧ですよ、我が屋敷は!」

 

 ここ数日の苦労を全て伝えたぞ、まさに難攻不落の屋敷だろう。む、ジゼル嬢が立ち上がりコチラに来たが……

 

「何故、僕の膝の上に座るのですか?」

 

「こうする為ですわ!

この口ですか?やり過ぎは駄目だと申したのに、王宮よりも厳重かつ魔導の奥義か禁術っぽい事を平気で幾つも言う口は?」

 

 擬音がムニッて聞こえる位に両の頬を摘んで引っ張られた、可愛いお仕置きだが地味に痛い。

 

「痛いです、ジゼル様止めて下さい」

 

 彼女の両脇に手を差し込み高い高いの要領で持ち上げると、漸く両頬を解放してくれた。

 しかし流石はドワーフ族謹製の『剛力の腕輪』だ、筋力UP大の効果は凄いな。

 

「聞いてはいけない言葉が幾つも有って目眩がしました!

貴方は何時も何時も私を驚かせて楽しいのですか?でもアーシャ姉様の安全の為には仕方ないのでしょう、バレない様に注意はして下さい。

確かに警備兵を常駐させられる貴族は領地持ちか伯爵以上ですわね、でも魔力石さえ有ればゴーレムを大量生産し制御出来る事は秘密にして下さいね。

くれぐれもですよ!」

 

 見惚れる笑顔だが額に青筋と口元の引き攣りに気付いてしまうと辛い、僕は情報の秘匿が甘いのでジゼル嬢が気を揉むのだろう。

 今思い付いたが魔力石を核として事前に用意すれば百体以上のゴーレムポーンによる大量運用が可能だな、資金と手間を掛ければゴーレム軍団を作れるぞ。

 

「分かりました、気を付けます」

 

「毎回ですわ、この口が言うんですわ。だから私が傍に付いてないと駄目なのです」

 

 また両頬を引っ張ろうとするので手首を軽く掴んで防止する、ジゼル嬢のスキンシップが増えたのは覚悟を決めたからか?

 

「その、ジゼル様が居てくれて本当に感謝しています、有り難う。僕は貴女が居なければ駄目な魔法馬鹿ですから……」

 

「未だ根に持たれていたのですか、全く周りからは頼れる魔術師殿と言われているのに、私に叱られてばかりじゃないですか?」

 

「全くその通りで、本当に申し訳ありません」

 

 これが世間一般的に言われる尻に敷かれるって奴だろうか?

 僕はゴーレムによる戦闘なら誰にも負けない自信は有るけど、一般的な事には疎い。

 そういう意味では尻に敷かれる位で丁度良いのだろう、ジゼル嬢は僕に不足している物を全て持っている。

 その後、ジゼル嬢とアーシャ嬢とルーテシア嬢と夕食を共にした。

 デオドラ男爵は夜遅くに帰宅したらしく、朝起こしに来てくれたメイドに教えて貰った。

 バーナム伯爵は武闘派を中心とした派閥の長、昨日呼ばれたのは間違い無く僕絡みだろうな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 デオドラ男爵の愛娘達と朝食を共にした後、僕だけデオドラ男爵の執務室に呼ばれた。

 時間が無かったのか食堂には来ずに此処でサンドイッチを食べている、大皿に山積みだが量は五人前位か?

 

「昨日バーナム伯爵に呼ばれた、来週お前の爵位を賜るのだが同じ派閥の連中に顔見せを兼ねてパーティーをやるのは聞いてるな?」

 

 黙って頷く、父上に動いて貰い返事が来た内容だ。

 

「お前の力量を疑う奴は居ない、俺と引き分けた事は有名だし騎士団との模擬戦は多くの者が見ている、お前は手加減して底は見せていないが実力は折り紙付きだ。問題は……女だ」

 

「女性、ですか?」

 

 まさかアーシャ嬢を側室に迎えるだけで一杯一杯なのに、もう他の女性?もう無理だ、要らないです。

 

「そうだ、お前はアーシャを嫁がせる事は決定しているがローラン公爵からニールを貰っているだろ?だからバーナム伯爵が気にしているのだ」

 

 ニールか、彼女の面倒は見るが、あくまでも自立する為にデオドラ男爵に預けている、僕は彼女に男の欲望をぶつける事は無い。

 

「そんな顔をするな、バーナム伯爵にはお前が女で靡く事は無いと言っておいた。

最初にジゼルをやると言ったのに愛無き政略結婚は嫌だと俺に言い放った男だと、ジゼルとアーシャは自らの意志と努力でお前に認められたのだ。

お仕着せのニールなど手も触れずに俺に預けてそのままだぞって説明したら呆れてたな」

 

「有り難う御座います、アーシャ様を迎えるだけでも手一杯なのに、何故女性を僕に宛がうのでしょうか?」

 

 それは貴族にとって血縁が強い絆と考えられているからだと諭されたが、好きでもない女性など気を使うだけで褒美にはならないと思うのは間違いだろうか?

 

「それでだ、バーナム伯爵がお前に秘蔵のマジックワンドを譲ろうと言っている、女が駄目なら品物でって話だ。知っているか、現存する古代のナンバーズワンドの事を」

 

 ナンバーズワンド?古代と言われると僕も戯れで作ったな、ワンドのエース(1)から始まるワンドの10迄の10本だが、アレは放浪の民であるジプシーの王に献上したと思ったけど違ったかな?

 

「えっと、ワンドのエースから始まる十本のマジックワンドの事ですか?」

 

「そうだ、その中でワンドの5を持っているぞ」

 

 ナンバーズワンド、エースが想像を超える力、つまり錬金術を指し、2が財産で3が交易、4が急速で5が競争、6が勝利で7が勇気、同様に8が素早さで9が警戒、最後の10が抑圧だ。

 どれも言葉の意味は有るが性能は全て同じ、魔力付加の内容って何だったけ?思い出せない、どうも自分に重要でない部分は記憶が曖昧だな。

 

「ワンドの5が意味する言葉は競争、それは派閥取り込みの競争を示してますか?

マジックアイテムとしての杖はアウレール王に『月桂樹の杖』をベリトリアさんに『蛇骨の杖』を貰ったし、自分のカッカラも強度だけなら一流です。

古代の品を頂くなど恐れ多いですよ」

 

 知的探求にはなるが実用で使えないのは研究材料くらいしか用途はないな。

 

「なんだ、知ってたのか?だが貰える物は貰っとけよ、俺達戦士系はマジックアイテムの武器は好きだが使えない杖に興味は薄いんだ」

 

 マジックアイテムの有効活用か、確かに興味も薄く実用性は無くても古代の品なら骨董品的な価値は有るだろう。

 まぁ自分の転生前の時代の品物なら興味は有る、まさか自分の作った物じゃないと思うけどね。

 

「分かりました、頂いたら大切に保管しておきます。調べれば何かの参考にはなるでしょう」

 

 む、ニヤリと笑ったが良くない笑みだ、この流れは……

 

「それとだ、派閥の懇親会の本命は模擬戦だ!酒や食い物よりも楽しいぞ、お前と戦いたいって奴が多くてな、総当たり戦か無差別戦のどっちが良い?」

 

 やっぱりだ!この戦闘狂の脳筋共め、僕は貴方達の共用語の肉体言語って奴は苦手なんだ。

 

「慎んで、御辞退致します」

 

 失礼にならない様に立ち上がり腰を90度曲げてお辞儀をする、デオドラ男爵一人でも大変なのにバーナム伯爵派閥の似た者集団の相手など無理だ。

 

「駄目だ、前回の騎士団との模擬戦、ライル団長ともレディセンスとも戦ったのに何故俺が、俺だけが我慢しなければ駄目なんだ?俺は我慢弱いんだ、もう待ち切れない!」

 

 最悪だ、バーナム伯爵の派閥は武闘派の集まり、デオドラ男爵を筆頭に全員似た様な連中ばかりだ。

 結局歓迎パーティーの後の余興として何人かの相手と模擬戦をする事になってしまった。

 


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