古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

21 / 1000
第21話

 年上の女性に縋られて泣かれた。

 転生前を含めても初めての事態に気が動転してしまう、僕を恨んで怨嗟の涙を浮かべられた事はあるのだが、申し訳無さそうに泣かれたのは初めてだ…… 

 泣き縋るポーラさんの髪を撫でたらイルメラさんから冷たい視線を貰った、背中に氷柱を差し込まれた様だぞ。

 

「む、その理由が分からないのだが……僕は貴女を泣かせるような事をしましたか?」

 

 ブンブンと首を振るが理由は教えてはくれない……

 夕飯を奢って酔い潰れた彼女を触らずにゴーレムにお姫様抱っこをさせて部屋に連れていって寝かせた、そして起こしに来て今に至る……分からない、泣かせる理由が分からない。

 

「えっと、僕はポーラさんを怒ってませんよ?何か僕にしたんですか?」

 

 力弱く首を振る彼女を引き離す訳にもいかず、イルメラに視線だけで助けを求める。この手の女性問題には僕は無力だ、元宮廷魔術師筆頭の肩書きなど泣き縋る女性には無意味だ……

 

「ポーラさん、リーンハルト様から離れて下さい。ほら、離れないと権杖で頭カチ割りますよ?」

 

 氷点下の声にポーラさんが僕から離れてヒルダさんの背中に隠れる。それはそれは凄い速さだった。

 

「その、朝食をご一緒しませんか?僕達は今日は迷宮探索は休みますから……」

 

 気の利いた事すら言えない僕は所詮は14歳の子供でしかないのだ。だから泣いた女性や子供にどうしたら良いかなど知らない。

 

「そうね、ポーラを落ち着かせたら一階の食堂に行くから先に行っててくれるかしら?」

 

 ヒルダさんの言葉に乗っかるように、そそくさと食堂へ向かう。

 イルメラさんの張り付いた笑みが恐ろしい。グレートデーモンと再戦した方が遥かにマシだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「どうしたのよ、ポーラ?起きてから貴女らしくないわよ、リーンハルト君に抱き着いて泣くなんて……」

 

 ベッドに座らせて濡れタオルを渡して顔を拭かせる、涙と鼻水で年頃の女性として問題有る事になってるわよ。コラ、タオルで鼻をかまない……

 

「ん、ごめんなさい……自己嫌悪で情けなくなっちゃって。リーンハルト君、私達の事を嫌いじゃないって言ったでしょ?

私、自分が後で嫉妬で嫌な思いをしたくないのを前提で彼を見てた。

でも彼は単純に好き嫌いで面倒を見てくれた、私(達)が好きだから親切にしてくれた。

そう思ったら泣けてきちゃった……」

 

 あー、自分勝手な思いをぶつけた相手から純粋な好意を返されたら恥ずかしくて情けなくなったのね。分かるけど私じゃなくて私達じゃないかしら?

 多分だけどリーンハルト君の好意は私が一番で次がリプリー、貴女は最後だと思うわ。

 『静寂の鐘』のリーダーとして空気が読める私はパーティ内の不和を招かない為に黙ったままですけどね。

 

「さぁ二人を待たせちゃダメだから早く食堂へ行くわよ……」

 

 照れ臭そうな笑顔を見せるポーラが少しだけ羨ましい、この変態ショタ女が!

 私は……流石に彼と男女の関係になるのは嫌かな、年も一回り違うし。どちらかと言えば出来の良い弟かな、リプリーと結ばれたら義弟になるからね。

 リプリーも少しだけ不機嫌なのは、やはりリーンハルト君が気になって仕方ない?

 

「ふふふふ、イルメラちゃんも大変ね。

リーンハルト君にはコレから大量の女性が色々な思惑で近付いてくるわよ。ああ、そのドタバタが楽しみだわ……」

 

 一流の冒険者は男女共に良くモテるから今の内が狙い目だけどね。でも私から見ても魔術師としては天才少年でも、男女関係については素人以下ね……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日の朝食は微妙な緊張感を伴っていた。

 メニューは大麦をミルクで煮込んだミルク粥とステック状の堅焼きパン、野菜サラダにフルーツと言う女性向けなヘルシーな食事だった。

 

「その、イルメラ……近くないか?」

 

 ピッタリと肩が触れ合うくらいの距離に座る彼女は不思議なプレッシャーを発している……。

 

「普通です、何時も通りです、リーンハルト様のお世話は私の役目です」

 

 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのは嬉しいが、メニューがコレでは特に世話も無いのだが……

 

「ふーん、イルメラちゃんて独占欲が強いタイプなんだ?男って束縛が強いと逃げ出す生き物よ」

 

 何故か隣に座るポーラさんが、オレンジの皮を剥いては僕の皿に置いてくれる。彼女はいきなり泣き出したり抱き着いたり情緒不安定なのだろうか?

 

「誤解を招く言い方は止めて下さい。それよりも三階層の罠について教えて下さい。固定罠はマップが有るので迂回出来ますが、宝箱の罠はどんな種類が有るんですか?

あと宝箱の中身って貴重な品物が入っていますか?」

 

 罠については内容によっては二階層止まりか三階層に行くかの判断材料にさせて貰う。

 

「宝箱の中身は普通の武器や防具でマジックアイテムは無いわ。

でも、ロングソードやラージシールドが出れば買取価格は金貨10枚にはなるわね。大抵の中身は一階層の武器庫と同じかしら……

罠は警報・毒・麻痺・仕掛け矢位ね、最後の仕掛け矢は毒矢の場合も有るし運が悪ければ即死よ。

盗賊系なら低レベルでも確率90%以上で解除出来るわ」

 

 ふむ、流石にロングソードクラスになると買取価格も金貨10枚と高いな。だがモンスターのポップ場所は完全ランダムだし、警戒して歩き回るのは効率が悪い。

 オークのドロップアイテムはハイポーションと耐魔のアミュレット、銀貨5枚と金貨1枚と換金率は悪くない。

 

「有り難う御座います。

やはり盗賊系が居ないので二階層でボス狩りした方が効率的ですね。ボス狩りなら一時間で10回は戦えますから」

 

「「「いや、ボス狩りとか1時間で10回とか普通無理だから!」」」

 

 『静寂の鐘』メンバーから総突っ込みが入りましたが、効率を考えたらボス狩りが有効だ。

 それに連続10回目で何か特別なアイテムがドロップするかも知れない。

 ウッドゴーレムは木の盾、木の腕輪ときて10回毎に木の指輪と関連性が有ったが、オークはハイポーション、耐魔のアミュレットと関連性が無い。検証するのが楽しみだ……

 

「リーンハルト様、笑みが暗いですわ。『静寂の鐘』の方々がドン引きしてますよ」

 

 ん?そんなに暗い笑みを浮かべてたか?冒険者的好奇心で連続ボス狩りのドロップアイテムが何かが気になっただけなのだが……

 イルメラとポーラさんが皮を剥いてくれたオレンジをフォークに刺して食べる。

 ムグムグと咀嚼するが、タップリの果汁と酸味と甘味がマッチして凄く美味い。

 

「ねぇ、リーンハルト君。

良ければ盗賊ギルドから若くて素質溢れるレベルの低い子を紹介して貰う?必要でしょ?」

 

 自分がじゃなくて何故他人を紹介しようとする?しかも有能な若い、レベルの低い子とは僕の希望通りだ。だからこそ、冒険者養成学校に入る連中の中から探そうと思っていたのだが……

 

「有り難う御座います。

もし冒険者養成学校で希望の子に会えなければ、ポーラさんに紹介をお願いするかも知れません。

勿論、相応のお礼はします」

 

 ポーラさんは僕のパーティ構想を理解している、あとは盗賊系の同い年くらいの子を勧誘して『ブレイクフリー』を鍛え上げる予定だったんだ。

 盗賊系は討伐コースと素材採取コースの依頼に必須であり、冒険者ランクを上げる為には多くの依頼をこなさなければ駄目なんだ。

 迷宮探索コースでは経験値やお金は貯まっても冒険者ランクは絶対に上がらない……

 

「あら、残念。

でも冒険者養成学校に入ったらパーティに入れ・入れてくれって勧誘が凄いわよ。

リーンハルト君は既に魔法迷宮を探索出来る強さを持ち、パーティメンバーに僧侶まで居るのだから戦士系も盗賊系も共に仲間になりたがるわ」

 

 そんな時の為に冒険者養成学校のOGである『野に咲く薔薇』の名前が役に立つかも……

 だが名前を使うと後が怖い気もする、利用したなら対価は必ず発生する。

 彼女達もそれを承知して名前を使って良いと言ったんだ。OBやOGの扱いについては慎重に調べてからだろう。

 粗方の料理を食べ終わったので、そろそろお開きだな。

 

「ポーラさん、色々教えて貰い有り難う御座いました。何かお礼を……」

 

「駄目よ、貰えないわ!

昨日の夕食も奢って貰って宿代まで払って貰ったんだから、せめて情報提供と朝食代は私達が払うわ」

 

 同伴の女性に支払わせるのは貴族として恥ずかしい行為なんです。

 

「では皆さんにコレを一個ずつプレゼントします」

 

 そう言ってデモンリングを手に入れたので重複装備が出来ない木の指輪を三個テーブルの上に置いて席を立つ。

 

「では、また会いましょう」

 

 隣でペコリと頭を下げたイルメラの表情は少しだけ怒っているみたいだが、不要とは言えレアアイテムをあげたのは駄目だったかな?

 無言で三歩後ろを歩くイルメラから言いようの無いプレッシャーを感じながら家へと向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ふーん、ポーラの予想した通りね。リーンハルト君には盗賊の若い女の子しか必要じゃないのか……」

 

「ヒルダ……若い子って言ったけど女の子なんて一言も言ってないわよ」

 

 曲解って怖いわ、アレじゃ若い娘に嫉妬する年増女じゃない。でもオークが経験値とアイテム稼ぎ用のモンスターにしか見えてないって凄いわね。

 一時間で10回、平均2匹として20匹、六時間頑張って120匹でハイポーションのドロップ確率が30%としても36個で買取総額が金貨18枚か、昨日の稼ぎとしては少なくないかしら?

 レアドロップアイテムを入れても金貨20枚が精々よね。

 二階層で金貨30枚以上の稼ぎって不思議だけど、リーンハルト君なら可能なのかな?

 仮に金貨20枚としても1ヶ月で600枚、1年で7200枚、イルメラちゃんと折半しても3600枚か……

 

「あー玉の輿なのに、何ともならないのが腹が立つ!」

 

「ポーラ、貴女やっぱりショタ女なの?幾らなんでも24歳と14歳のカップルは無いわよ。

男女逆なら有り得るけど……」

 

「ポーラさん、リーンハルトさんの事が……すっ、すすす、好きなんですか?」

 

 ああ、この面倒臭い姉妹め!

 好きか嫌いか聞かれれば好きだけどね、流石に男女の関係には進まないと思うわ。

 リーンハルト君、何となくだけど奥手そうだからイルメラちゃんみたいに好き好きオーラを常に発してないと気付いてもくれないかも……

 

「はいはい、好きですよ、好き好き。

さぁ、リーンハルト君に負けない為にも馬鹿二人を捕まえて迷宮に行くわよ」

 

 せめてレベルだけは簡単に抜かされないように頑張らないとね。取り敢えずヒルダとリプリーと同じように木の指輪を左手の薬指に嵌めてみた。

 うん、マジックアイテムの装飾品を貰ったの初めてかも……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 時刻は朝の九時前だろうか?

 既に商魂逞しい商人達は働き出す人達相手に朝食やお昼の弁当を売る屋台が並んでいる。

 他にも普通に日用品や生活雑貨、採れたて新鮮な野菜や魚類と統一性の無い店の並びとなっていた。

 暫くは無言で商業区を歩くが、ある店の前に並べられた物に目を奪われた……

 

「これは、綺麗な魚だな。イルメラ、君はこの魚が何だか知ってるかい?」

 

 人の頭程の大きさのガラスの器に並々と注がれた水、その中をスイスイと泳ぐ金色の小さな魚。

 

「確か極東の島国から伝わったゴールドフィッシュ(金魚)だと思いますわ」

 

 ゴールドフィッシュ、つまり金の魚か……確かに日の光を鱗が反射して金色に輝いている、凄く綺麗で小さな魚……

 

「お客さん、そのゴールドフィッシュが気に入りましたか?綺麗でしょう、コイツは意外に長生きでしかも大きくなるんですぜ。

良かったらどうですか?今ならガラスの器も込みで金貨1枚です」

 

 金色の魚なのに金貨1枚なんだ、お前安くないか?

 指でガラスの器の表面を軽くなぞると、指を追ってくる仕草が何とも可愛い。

 

「よし、この子を買います」

 

「毎度あり!」

 

 ガラスの器に荒縄を巻いて縛り持ち易いようにしてくれたが、僕には空間創造が有るので水が零れないように慎重にしまった。

 

「ふふふ、リーンハルト様ったら子供みたいにはしゃいでましたよ。

全く複数の女性に指輪を贈ったと思えばペットにゴールドフィッシュが欲しいなんて……

子供らしい部分が有るのですね?」

 

 どうやらイルメラは未だ怒っていたらしい、僕が木の指輪を『静寂の鐘』のメンバーに贈った事を……

 だがゴールドフィッシュを飼うって子供らしいところを見せたから、不純異性交遊じゃないと安心したのかな?

 別にヒルダさんやポーラさん、勿論リプリーも恋愛としては対象外なのだが?




何時もこの作品を読んで頂き有難う御座います、そしてメリークリスマスです。

自分はクリスマス?なにそれって感じで仕事ですが、お陰で執筆は進んでいます。

これからも宜しくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。