古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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昨日予約投稿間違えて第238話を投稿して申し訳ないです、結構なネタバレが……


第212話

 魔法迷宮バンク七階層、此処からはモンスターの強さが段違いだと言われています。

 実際にエレベーターから下りたら直ぐに大きな空間が広がり『無限増殖の毒蜘蛛の巣』と言う罠が仕掛けられていたのですが……

 

「十体五組のゴーレムポーンさん達がジャイアントスパイダーを蹂躙してます、五十体なら普通のパーティ十組分ですから負けないでしょう、流石はリーンハルト様です」

 

「イルメラさん、感激してないで……そろそろマジックアイテムの収納袋が一杯だよ。エレちゃんのと交換する」

 

 大体四体前後でポップするジャイアントスパイダーですが、ドロップアイテムはノーマルが『蜘蛛の卵』でレアが『蜘蛛の糸』、このレアアイテムは丈夫で防毒効果が高いので布に加工すれば強力な防具の素材になります。

 一着作るのに百個は必要な高級素材アイテムが既に二十三個も……

 ノーマルの『蜘蛛の卵』は素材アイテムですが大きさ30cm近く有り、私では使い道が分かりませんが絶対に食べません。

 

「レベル上がった!」

 

「私もレベルアップしたわ」

 

 効率的ですが秘匿が難しいです、そろそろ止めさせるべきでしょうか?

 でもリーンハルト様は最大五十体のゴーレムポーンさんの制御に集中してます、凄く楽しそうに薄笑いを浮かべて……

 私としてはギリギリまで戦わせてあげるべきか悩みます。

 

「エレベーターが上がって行った」

 

 誰か他のパーティがエレベーターを使用する、この階に下りるかは分からないけど注意が必要ですね。

 

「リーンハルト様、誰かエレベーターを使って下りて来ます!」

 

 慌ててリーンハルト様の腕に抱き着く、役得ですがこうでもしないと私達に意識を向けてくれませんので、恥ずかしいですが胸を押し付けます。

 

「ん?ああ、イルメラって。その、腕にだな」

 

 漸く気付いてくれました、少し顔が赤いのは私を意識してくれたのですね?

 

「エレベーターに乗って誰か来ます、早く移動しましょう」

 

「いちゃついてないで早く!リーンハルト君こっち、この通路に移動する」

 

 エレさんが護衛のゴーレムナイトさん達と右側中程の通路の前で手招きをしています、そちらに移動しましょう。

 

「分かった。ゴーレムポーンよ、ジャイアントスパイダーを倒したらドロップアイテムを拾って移動しろ」

 

 素早く通路に移動する、ゴーレムポーンさん達もモンスターを倒してドロップアイテムを拾って移動して来ます。

 最後の一組が戻って来た時にエレベーターが止まりました、下りてくるパーティを見る前に通路の奥へと移動したので見られてないです。

 三十分位の戦闘でしたが最大五十体のゴーレムポーンさん達が集めたドロップアイテムは、『蜘蛛の卵』が丁度三十個で『蜘蛛の糸』が二十五個。

 ウィンディアとエレさんのレベルも上がったのですが、ジャイアントスパイダーは少なくとも百五十体は倒したと思います。

 

「危なかった、調子に乗り過ぎたね」

 

 爽やかに微笑まれても困ります。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 気を取り直してボス部屋に向かう、七階層に現れるモンスターはマップに書かれた参考によればジャイアントスパイダーとアーマースコーピオン、それとモーブキャタピラー。

 

 蜘蛛に蠍に芋虫と巨大昆虫ばかりだがボスはポイズンスネーク、大蛇だ!

 

 ジャイアントスパイダーのドロップアイテムは、ノーマルが『毒蜘蛛の卵』でレアが『蜘蛛の糸』。

 アーマースコーピオンのドロップアイテムは、ノーマルが『外骨格』でレアが『スコーピオンレイピア』。

 モーブキャタピラーのドロップアイテムは、ノーマルが『丈夫な紐』でレアが『蛹(さなぎ)』。

 

 この階層からは素材アイテムが多くドロップする、蜘蛛の卵は毒耐性が有り他の素材と組合せると色々な効果を生み出す。

 外骨格は防具に、丈夫な紐は防刃効果が有り縛る相手に弱い麻痺効果を発動するので捕縛に便利。

 因みに蛹(さなぎ)は高級珍味であり滋養強壮と精力増進に効果が有る。

 

 ボスであるポイズンスネークは、ノーマルが『鱗の盾』でレアが『スケイルメイル』だ。

 レアのスケイルメイルには効果小から中の魔力付加が必ず付いている、確実に全身鎧が手に入るし冒険者ギルドでの買取価格は金貨百五十枚+魔力付加の内容次第。

 ノーマルの『鱗の盾』は魔力付加は無いが性能は良いので買取価格は金貨十枚、木の盾より軽くて丈夫で人気が高い。

 

「このフロアにも武器庫の他に宝物庫も有るね、モンスターを倒すと宝箱も出現する筈だがジャイアントスパイダーは沢山倒しても出なかったのは『無限増殖の毒蜘蛛の巣』って罠だからかな?」

 

「冒険者ギルドの情報によれば武器庫は魔力付加は無いがソコソコ高価な武器や防具が出る。

宝物庫の方はマジックアイテムが出る、外れはポーション当たりは魔力付加の付いた腕輪とかの装飾品」

 

 エレさんが答えてくれたがマップに書かれた以上の情報が有ったので独自に調べてくれたのだろう。

 

 しかしマジックアイテムか、ならば混んでるだろうな……

 エレさんが広げているマップを覗き込む、やはり色々と手書きで書き加えられている。

 問題のボス部屋は武器庫と宝物庫の両方と離れているし人気は宝物庫だろう。

 外れがポーションでも七階層に来るパーティは強力だ、待ち時間が長くても休憩として考えれば苦じゃないから並んででも挑戦するだろう。

 

「試しに武器庫と宝物庫に行ってみる?」

 

「うーん、効率悪いよね、装飾品は自分で作れるし武器庫はダガーしか出した事が無いからボス部屋に行きたいな」

 

 未だ自作の方が効果的な装飾品を作れる、余裕が有れば宝物庫なら一回位は挑戦しても良い、僕は武器庫とは相性が悪い。

 

「そうですね、リーンハルト様の言う通りにボス部屋に行きましょう」

 

「そうね、順番待ちしてると他のパーティから絡まれるし、最近クランの勧誘が多いよね」

 

「クランは互助会に近いからね、例えレベルが高く強力なパーティでも新参者扱いだから後から強いパーティを入れたいんだ」

 

 ただでさえ貴族の柵(しがらみ)が増えたのにクランに入って新たな派閥争いや柵を増やしてどうする、僕の胃にストレスで穴が開くよ!

 

「破裂の若武者?アイギーナの瞳と希望の光、アルゼンハンマーと何だったかな?結構誘われたな」

 

「希望の光ってコレットさんの父親がクラン長でしたか?我が子さえ入るのを嫌がるのって問題が有りませんか?」

 

 ボス部屋に向かいながらクランについて考える、だが後からクランに入っても貴族で爵位持ちの僕だと扱い辛いだろうな。

 周囲を警戒しながらとは言え雑談に近い事を話ながら歩けるのは、前後にゴーレムナイトを六体ずつ配置してるからだ。

 七階層は通路の天井や壁自体が淡く光っている、周囲に光球を浮かべて更に明るくしてるので警戒はしやすい。

 それに先頭のエレさんは本職の盗賊職だから安心して任せられる、ブレイクフリーは適材適所の理想的パーティだな。

 

「この先で他のパーティが戦ってる、迂回する?」

 

 前方20m先でモーブキャタピラー三体と戦っているパーティが見えるが苦戦中だ、増殖して六体に増えた。

 彼等は戦士職四人が全員ロングソードを使っているのでダメージが通り難い、盗賊職はショートボゥだが威力が足りないか矢不足か?

 モーブキャタピラーの身体は弾力性が有るので打撃や斬撃より突き刺す攻撃が有効、剣やメイスより槍や斧なんだよな。

 

「リーンハルト様、パーティの方々が私達の方に逃げて来ました」

 

 何だって?何故僕等の方に走って来るんだ、応援して欲しいのか?

 

 ゴーレムナイトに取り敢えず攻撃しない様に指示し前方に広がり僕等に近付け過ぎない配置にした。

 

「手前の扉に逃げ込んだ、これは『擦り付け』だ!」

 

 モンスターとの戦いを文字通り他のパーティに擦り付けて逃げる、冒険者として最も忌み嫌う行為の一つだ。

 モーブキャタピラーは僕等を敵と認識して襲って来る、最大六体で時間が掛かれば仲間を呼んで増殖する。

 

「ゴーレムナイト、ロングソードで突け!」

 

 本来は叩き切る武器だが真っ直ぐに身体ごと突撃して突き刺す、モンスターと接近し過ぎるので人間では出来ない戦法だ。

 だがダメージ無視のゴーレムには関係無い、八体のゴーレムナイトが鋼鉄の暴力となり蹂躙する。

 

「ドロップアイテムはレアとノーマルが一つずつか……」

 

 モーブキャタピラーが魔素となり光の粒子が大気中に溶け混んで行く、初めて見たぞ高級食材の蛹。

 ウィンディアが恐る恐る摘んで渡してくれたが女性として虫を食べるのは嫌だろうな、僕も遠慮したいが売値は金貨十枚だ。

 

 逃げ出したパーティが戦っていた場所にはドロップアイテムの丈夫な紐が七個落ちていた、ドロップ率を考えれば二十体以上は倒したのか。

 

「待ってくれ!それは俺達が倒したモーブキャタピラーのドロップアイテムだ」

 

「逃げ出して擦り付けたのにですか?」

 

 気配は感じていたので後方にもゴーレムナイトは六体展開させている、流石に不意打ちせずに声を掛けて来たか。

 改めて相手パーティを見ればリーダーと思われるのは盗賊職だ、金属で補強した皮鎧に鱗の盾を持ち武器はショートスピア。

 三十前の男性、額の切り傷が右頬にまで伸びている。

 

 戦士職は四人、全員男で硬化のプレートメイルを装備している、六階層で頑張ったか?

 フェイスガードを下ろしているので鼻から上が見れないが年齢は二十代後半、最後の一人の盗賊職はリーダーに背負われているが多分女性だな。

 

「ちっ違う、擦り付けなんかしてない!

最初からヤバくなったら逃げて時間を潰して戻る予定だった、モーブキャタピラーは扉を開けれないから部屋に逃げ込めば安全なんだ」

 

 理屈は分かるが状況は擦り付けと一緒、一声も掛けずに自分達だけ小部屋に逃げ込んだんだ。

 慌て振りからも命大事に逃げ出したので余裕が無かったと見るべきか、だが悪いとは思ってもドロップアイテムは取られたくないと……

 

「貴方のお名前は?一応冒険者ギルドには報告します」

 

 別に大した事ではないが名前を聞いて牽制位はしておくか、早くボス狩りをしたいが舐められた対応は出来ない。

 

「ぐっ、俺達は『トライアル6』でリーダーの俺はガスペンだ。モリアーデ男爵に世話になっている、丈夫な紐の収集が与えられた急ぎの依頼なんだ」

 

 モリアーデ男爵の名前を出したのは牽制だとは思うが知らない名前だ、最近色々とエムデン王国内の貴族については学んでいる。ジゼル嬢の絡むと危険なリストにも無かったと思う。

 

「僕等は『ブレイクフリー』で、僕がリーダーのリーンハルト・フォン・バーレイ男爵です」

 

 名乗った瞬間に相手が固まった、牽制の為にモリアーデ男爵の名前をだしたのに相手が同じ男爵じゃ立場が弱いからな。

 

「バーレイ男爵?貴方が?」

 

「ええ、成り立て新貴族男爵位ですがね」

 

 膝から崩れ落ちた、てか背負ってる人も落としたけど大丈夫なのか?

 

「申し訳ありません、許して下さい」

 

 そのまま土下座みたいに謝られた、選民意識が有れば貴族様最高って喜ぶのだろうが僕としては嫌な感じだ。

 リーダーの土下座に他の連中も倣うな、落とされた人が復活したみたいだ。

 

「兄さん、何してるの?何で土下座なの?貴方、兄さんに何したのよ?って、痛たた……」

 

 妹さんか、目覚めたら仲間全員が土下座してれば混乱するよな、それに頭から血が出てるじゃないか。

 側頭部を押さえた手から血が流れている、頭部へのダメージは後遺症が怖いんだ、適切な応急処置が大事なんだぞ。

 

「イルメラ、彼女の治療をお願いします。ガスペンさん、妹さんに免じて許しますが本来擦り付け行為は忌むべき行為です。今後は気を付けて下さい」

 

 あからさまにホッとした表情だが怪我人が居るのに無茶はさせられない、早急に治療し休ませるべきだ。

 

「分かった、もうしない気を付ける、申し訳なかった」

 

 イルメラが妹さんを横にして回復魔法を掛けているが長い、ダメージが深いみたいだが大丈夫なのか?

 


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