古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第214話

 七階層のボス部屋に漸く到着した、やはり『武器庫』や『宝物庫』の方が人気なのだろう誰も待ってはいない。

 苦労して倒してもアイテムがドロップしない場合も有るボス戦より必ず武器や防具、または装飾品がドロップする方が効率的だ。

 

 ボス部屋に入る、地下空間に50m四方の大空間が有るのが不思議だ、柱とか無いけど構造体の強度とか大丈夫なのだろうか?

 

「広いな、そして薄暗い。ポイズンスネークは今迄で最大級のボスだから気を引き締めて挑もう」

 

 ゴーレムポーンの大量運用で少し迷宮攻略が簡単になり過ぎている、注意と引き締めが必要だ。

 慣れに油断は付き物、一寸した隙が死を招く。先ずは空間全体を明るくする為にライティングを唱えて光球を十個作り出して浮かべる。

 

「冒険者ギルドのマップには素早い動きに注意しろって書いて有る」

 

「素早い動きか、確かに蛇って身体をくねらせて不思議な動きをするよね。

素早い動きに対応するのは飛び道具だな、だが鱗の防御力が分からない。ロングボゥより槍の投擲で行くか、接近されても槍なら対応可能だし」

 

 自分の前に十五体二列、合計三十体の鉄の槍を二本装備したゴーレムポーンを錬成する。

 

「イルメラは防御魔法の準備をしてくれ、ウィンディアとエレさんにはクロスボゥを渡しておく。

最悪接近されたらイルメラと僕が魔法障壁で防いでゴーレムポーンで接近戦だ、用意が出来たら扉を閉めてくれ」

 

 七階層はエレベーターを下りた瞬間から悪趣味な罠が仕掛けて有った、通路にポップするモンスター達も仲間を呼ぶとか地味に強くなっている。

 ならば七階層で一番強いボスも何かしらの秘密が有る筈だ。

 

「弓矢のセットが終わった、扉を閉める」

 

「了解、七階層最初のボス狩りだ!」

 

 エレさんが扉を閉めると同時に三ヶ所に魔素が集まり出す、しかも各々微妙に距離が離れている。

 

「不味いな、今迄みたいに一ヶ所に固まってなくてバラバラだ」

 

 正面と左右、綺麗に三角形を成している。魔素が大蛇の形を作り出し段々と実態化してきた。

 

「今だ、中央のポイズンスネークに前列一斉投擲!」

 

 鎌首を持ち上げた正面10m先のポイズンスネークに十五本の槍が一斉に投擲される、丈夫と思った鱗も易々と貫通したが命中率は悪い。

 

「リーンハルト様、左右から一斉に襲って来ます」

 

 身体をくねらせて二匹の大蛇が左右から迫る、大きく開いた口には毒を滴らせた二本の牙が見える。

 

「ゴーレムポーンよ、右側のポイズンスネークに一斉投擲!イルメラ、魔法障壁で左側の奴を止めてくれ」

 

 飛び掛かって来た二匹のポイズンスネークの右側の奴に槍を投擲、討ち漏らしを警戒し魔法障壁を準備し左側はイルメラに任せる。

 胴体が太いとはいえ直径は30cm程度、十五本の槍も半分しか当たらない。

 最後にイルメラが防いでくれたポイズンスネークに最初のゴーレムポーン十五体が槍を持って突撃、エレさんが矢を右目に当てた!

 ウィンディアの矢も当たったが胴体に刺さったので致命傷じゃない。

 

「最初のポイズンスネークが魔素に還らない、未だ生きてるぞ」

 

 急いで待機していたゴーレムポーン十五体を向かわせるが尻尾を水平に振り回して二体を弾きとばした、尻尾が当たった胴体が凹んだぞ。

 数の暴力で押し切り何とかポイズンスネーク三体を倒せた……

 

「強い、そして耐久力も強いな。槍が八本も刺さっても生きていた」

 

 三体が魔素に還りポツンと『鱗の盾』が一枚落ちていた。

 

「はい、リーンハルト君。意外と軽いんだね」

 

 ウィンディアが拾ってくれた『鱗の盾』だが確かに軽い、木の盾よりも薄く軽いが表面に貼られた鱗が薄く軽く丈夫なんだ。

 僧侶や魔術師でも装備出来る中々高品質な盾だ、全ての盾の中でも中級クラスの性能だな。

 

「良い品質の盾だ、後で固定化の魔法を重ね掛けして皆に渡すよ」

 

 涙形のお洒落な形と良い後衛職の女性陣には最適の装備だ、万年品薄なのも分かる。

 

「ある程度は迷宮内で手に入れた装備を持ってないと怪しまれますし良いと思います」

 

「そうだね、でも杖装備の私達は両手が塞がってるからエレさんだけだね」

 

 む、僧侶と魔術師には盾は不評だったか?

 

「ゴーレムの編成を変えるよ、ポーンからナイトへ、十体三組にして武器を投げ槍とロングソードに。

最初に槍を投擲しロングソードで接近戦を挑む事にする」

 

「エレベーター前のジャイアントスパイダーと同じだね、イルメラさんは防御魔法に専念、私も風属性魔法のウィンドカッターで攻撃するわ、エレさんはクロスボゥだね」

 

 ウィンディア、どうしたんだ?今日は冴えてるぞ。

 

「それで行こう、エレさん外を確認してくれる?」

 

 機敏に扉に近付いて僅かに開けて左右を確認している、『リトルガーデン』みたいな連中が居るか警戒しているんだな。

 

「大丈夫、誰も居ない」

 

 エレさんが扉を閉めると前とは違う位置に三ヶ所魔素が集まる、やはり各々距離が有るな。

 

「良し、二回目のボス狩りだ!気を引き締めていくぞ」

 

 十体三組のゴーレムナイトを三ヶ所に向けて移動させる、実体化したら直ぐに槍を投擲し接近戦だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お楽しみの連続十回撃破ボーナス、今回はポーションか……」

 

 綺麗なレモン色のポーションがスケイルメイルと一緒に床に落ちていた。

 

「リーンハルト様どうぞ」

 

「うん、有り難う。鑑定してみるよ」

 

 流石に全身鎧のスケイルメイルは持てないのでポーションだけ拾って渡してくれた。

 

『エリクサー:体力及び状態異常完全回復』

 

「これがエリクサーか……体力完全回復は、いざって時に役立つね。市販で手に入る体力回復はハイポーションが最高だから助かる」

 

「本来エリクサーは他の魔法迷宮から稀にドロップするアイテムですしオークションでしか手に入れられません。

あらゆる難病をも治すと言われる奇跡のポーションで、大体落札価格は金貨五百枚前後です」

 

 状態異常も回復となれば毒もそうだ、つまり毒を喰らっても生きてる内に飲めば助かる、だが麻痺系で身体が動かせなければ誰かが側に居ないと無理……

 高価なポーションを日常から身に付けてはいないだろう、普通は大切に保管するだろう。

 

「さぁ帰ろうか。ポイズンスネークは三体固定、十回連続で三十体倒して鱗の盾が五個とスケイルメイルが三個か」

 

 スケイルメイルを鑑定したが魔力付加は『筋力UP効果:小』と『体力UP効果:小』それと『物理攻撃防御:小』だった、多分だが金貨三百枚から四百枚位でオークションで倍かな?

 

 半日の成果としては十分だろう、ポイズンスネークはゴーレム運用の訓練には最適だ、暫くは七階層でボス狩りをしてエリクサーを集めよう。

 

「リーンハルト君、外に誰か居る」

 

 扉に手を掛けたエレさんが小声で教えてくれたのでゴーレムナイトを八体に減らして扉を開ける。

 

「おおっ?大所帯かと思えばゴーレムか?」

 

 全部で十二人だとパーティ二組分の人数だしな。

 

「ええ、ゴーレムです。ボスに挑戦ですか?」

 

「ああ、俺達の迷宮探索の締めはボスに挑戦だからな。今日こそはスケイルメイルを手に入れてやる!」

 

 ドロップ確率3%、普通は三十体倒して一個手に入れられるかどうかだ。僕等みたいに一時間三個とかは無理、ドロップ率十倍は反則だろうな。

 

「頑張って下さい」

 

「俺達は『カッツエ』だ、宜しくな『ブレイクフリー』のリーンハルト男爵」

 

 む、バンクのゴーレム使いとして有名になり過ぎたか?美少女ゴーレム使いの噂は鎮静化したか……

 

「確かに僕はリーンハルトです、貴方達のお名前を伺っても宜しいですか?」

 

「おお、良いぜ。俺がリーダーのチャベ、紅一点の戦士マオ、兄弟戦士ゴルベとメーオ、盗賊のモールに僧侶のビラロだ」

 

 全員二十代前半、戦士職四人に盗賊と僧侶、装備も中々だ。

 全員が鱗の盾を持ってマオさんだけがスケイルメイルを装備している、つまりポイズンスネークを何体も倒しているんだな。

 

「僕がリーダーのリーンハルト、僧侶のイルメラに魔術師のウィンディア、盗賊職のエレさんです、こちらこそ宜しく」

 

 武器は男性戦士はハルバートに両手持ちアックスにパイク、一撃が強いのでポイズンスネークには有効だな。

 マオさんはレイピア二刀流で一撃よりも手数で勝負、筋肉隆々の僧侶はウォーハンマーとは物理攻撃特化パーティたな。

 因みに盗賊職はハンドアックスを装備している。

 

「ああ、宜しくな。もしスケイルメイルをゲットしたら教えてくれ、ギルドの買取り額より色を付けるぜ」

 

 笑顔で応えておいた、魔力付加防具は納品するとギルドポイントが貰えるから譲れない、しかも半日で三個とか知られたら大騒ぎだな。

 

「リーンハルト君、彼等って猫好きなのかな?」

 

「ん、何で?」

 

 女性は分からないが厳つい男性陣だったし猫好きとは言えないんじゃないかな?

 

「パーティ名もそうだけど全員の名前が地方で呼ばれる猫の事だよ、変わってるね」

 

「そうだね、偽名かも知れないし単に猫好きの集まりかも知れないが彼等は強いよ、多分だがレベルも30前後は有るだろう」

 

 流石に初級の魔法迷宮とは言え下層階には強いパーティしか居ないな、僕等も頑張らないと駄目だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 冒険者ギルド出張所に向かう、最近はドロップアイテムが武器や防具類が多く買い取りは本部の方でしていたので久し振りかな。

 

「今晩は、パウエルさん」

 

「おお、噂の新男爵様じゃないですか?」

 

 凄く嬉しそうな顔だが悪意は無いな。

 

「いえ冒険者の時は気にしないで下さい、買い取りをお願いします。先ずは数の多いのから良いですか、蜘蛛の卵が八十一個です。蜘蛛の糸は百個まで溜めます」

 

 帰りのエレベーター前で少しジャイアントスパイダーと戦ったので増えた、因みに蜘蛛の糸は六十八個だ。

 

「今日は七階層に下りたんですね、どうですか?」

 

 カウンターにトレイを並べてくれるので順番に蜘蛛の卵を積んでいく、ボス狩りの途中の休憩でイルメラ達が収納していた分も受け取っている。

 

「問題無いですね、暫くは七階層でボス狩りをしますが鱗の盾は四個、スケイルメイルは三個でした、防具なので冒険者ギルド本部に持ち込みます」

 

「スケイルメイルを三個もですか、人気商品ですから助かります。鱗の盾は此処で買い取れますよ、他に買取りアイテムは有りますか?」

 

 残りは、丈夫な紐が五本に蛹が三個だな。

 

「モーブキャタピラーを倒したのですね、丈夫な紐は金貨一枚、蛹は金貨十枚、蜘蛛の卵は金貨一枚銀貨五枚ですから……」

 

 天井を見ながら暗算している、何時も思うのだが全てのアイテムの値段を記憶しているのだろうか?

 

「蜘蛛の卵は金貨一枚銀貨五枚、八十一個ですから金貨百二十一枚銀貨五枚。

丈夫な紐は金貨一枚、五本ですから金貨五枚。蛹は金貨十枚、三個ですから金貨三十枚。

鱗の盾は金貨十枚、四個ですから金貨四十枚。合計で金貨百九十六枚銀貨五枚になります」

 

 カウンターに金貨百枚の束と十枚束を九列積んで後はバラで分かり易く並べてくれた、これでスケイルメイルを売れば金貨五百枚にはなるから合計で七百枚か、半日でも凄いな。

 

「有り難う御座います、あとギルドカードの更新もお願いします」

 

 金貨を空間創造に収納しギルドカードの更新をお願いする、レベル31だが今回は上がり幅が凄かった。

 

「よう、偉く稼いだな!」

 

「カッツエの皆さん」

 

 七階層のボス部屋で別れたのだがポイズンスネークを倒して僕等に追い付いて来たのか、つまり五分程度でボスを倒せる力が有る。

 

「今日は宝物庫は全然駄目だったぜ、ハイポーション三個に防毒のタリスマン、それに木の指輪が二個しか出なかった。武器庫組はプレートメイルが複数出たみたいだぜ」

 

 やはり武器庫や宝物庫は効率が悪い、彼等でも七回しか挑戦出来ないのは待ち時間が長いんだ。

 

「では失礼します」

 

 暫くは七階層で蜘蛛の糸とスケイルメイルを集めるかな。

 


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