古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第22話

 レベルアップの恩恵により空間創造のキャパが大きくなり転生前にしまい込んだ物が新たに取り出せるようになった。僕の空間創造は基本的にレベルによる解放条件が有り、最終階目に達すると魔法迷宮の製作が可能となる。

 先ず第一段階は下級の体力回復ポーションと魔力回復ポーションを大量にストックして、他にも収納スペースが縦横10m、高さ10mの空間を持っていた。

 ストックされていたポーション類は今の時代とは似ても似付かぬ品物となってしまったので使い辛い。体力回復ポーションは効果は同じでも色と量が違うのだ。

 魔力回復はポーションでなく魔力石が主流となりポーションはレシピが失われてしまったらしい。

 この二つについては多分だが使える場面は限られるだろう、レベルアップの恩恵で第二段階へと進化した。第二段階にストックしていた物は大量の金貨と軍用レーションだ、つまり金と食べ物。

 だが金貨は今は無きルトライン帝国製であり、現在は流通していない。

 古銭として売るか潰して地金にするか……普通に売る事も使う事も出来ないので、新米冒険者が持っている理由を考えないと駄目だな。

 純金じゃないから潰してもどれくらいの価値なのか分からないし…… 

 折角のルトライン帝国金貨10万枚も宝の持ち腐れだな。新米パーティが持っていたら不審に思われてしまう。

 軍用レーションにしても干し肉・固焼きパン・ワインと決して美味くはない。腹持ちと日持ち、それに収納性を考えて大きさの均一を重要視している。

 干し肉も赤肉を同じ大きさで切り分けてワイン・胡椒・スパイスを混ぜ込んだ調味液に漬け込んだ物を天日で乾燥させてから温燻(30~60℃の煙で燻す)したので形は均一だ。

 固焼きパンは軍でも人気が無くハード・タック(Hardtack)と言われて敬遠されていた。何故空間創造に入れた物は時間が経っても痛まないのにストックしてるかと言われれば国から支給されて誰も食べなかったので予備として収納して忘れていたからだ。

 これが500人×3食×30日で45000食分と飲料水が同数ストックされている。転生前の宮廷魔術師筆頭時代に直属の配下に魔導兵団が500人いて、その一ヶ月分の予備食料と軍用資金だったわけだ。

 つまりレベルアップしても空間創造の恩恵は少ない、自分で区分けしていたのだが少な過ぎるだろう。

 因みに収納空間は縦横30m高さ30mまで拡張した。

 第三段階になれば下級のマジックアイテムや属性を付与した武器防具が取り出せる。感覚から言えばレベル20になれば第三段階に進化しそうだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 丸一日休養したので魔力は漲っている。上級魔力石を三個買っていたので一個を魔力満タンに出来た。

 これで非常時には一回だけ魔力を全回復まではいかないが回復出来る。

 

「おはようございます、『静寂の鐘』の皆さん」

 

「おはよう、リーンハルト君、イルメラちゃん」

 

 何時ものように乗合馬車の停留場で待っていてくれる。確かに片道一時間は暇だから話し相手は嬉しいし他からの勧誘も防いでくれる。

 それに彼女達は無理な勧誘とかはしてこないので、『ブレイクフリー』が信用している数少ないパーティだ。

 

「今日は二階層のボス狩りをするの?」

 

「ええ、資金稼ぎと経験値狙いの為に一日中狩るつもりです」

 

 オークの最大ポップ数は三匹、僕のゴーレムポーンを攻撃三体防御二体のフォーメーションなら負ける事は無いだろう。

 仮に攻撃と防御のゴーレムポーンを抜いてもイルメラの魔法障壁で数秒稼いでくれれば僕の魔法で止めを刺せる、万全だ抜かりは無い。

 適度な休憩を挟み集中力を切らさないようにすれば魔力は余裕が有る。

 

「リーンハルトさん、あの宿屋で見せてくれた見事なゴーレムは使わないの?」

 

「アレは数を制御出来ないからね、拠点防御用かな……」

 

 会話の中から僕達の手の内が周りに知られているのだが、リプリーに悪意は無いので適当に誤魔化す。

 鋼鉄製のゴーレムナイトは切り札で有り実用的な制御なら属性武器を装備させても四体、デモンソードのコピーに成功したので非実体系の敵にも対応可能になった。

 

「そうなんですか、遠距離制御でしたものね。またゴーレムについて教えて欲しいです」

 

「良いよ、余り人に聞かせる話じゃないから細かい事はその時にね」

 

 遠距離制御は半自律行動と変わらない。最初に命令すればゴーレムは壊されるまで愚直に命令を守るのだが……それって奥義に近い情報なんだよ。

 乗合馬車の他の乗客が妙に静かに僕達の話を盗み聞きしているのが気になるんだ。さり気なく他の乗客を盗み見れば……

 奥の三人組は魔術師の若い男に戦士の女性が二人、他は中年男性四人組の戦士と盗賊。

 奥の魔術師の若い男は僕を凝視しており、連れている女性は美人の部類だが下品な派手さが有る。だが全員レベルは15以上ありそうだな。

 装備は皮鎧にショートスピア、それに弓を背負っているから中近距離攻撃タイプか?戦士系と言うよりは盗賊系か?

 見られている事を無視してリプリーと魔法談義をする。しかし、一つの乗合馬車に魔術師三人僧侶一人とは珍しい事だな。

 

「さて、バンクに到着しましたね。『静寂の鐘』の皆さんも頑張って下さい」

 

「言われなくても頑張るわよ。今日は用が有るので先に帰るから……」

 

 いや何時も待ち合わせしてないでしょ?とは突っ込めなかった。乗合馬車を降りても三人組が一定の距離を保って僕達を見つめている、何か用が有るのか?

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 両手持ちアックス装備を三体、ロングソードとラウンドシールド装備を二体召喚する。毎回思うが周りから歓声が上がる、見世物じゃないんだけど騒いでも無駄なのは前回で学んだ。

 

「我が呼び掛けに応えよ古の巨人ヘカトンケイル。クリエイトゴーレム!」

 

 同じ召喚呪文の掛け声に思わず反応し振り返ると、乗合馬車で一緒だった魔術師がゴーレムを三体召喚した……

 よく観察するが、体格こそ二回りも大きいが派手な造形に拘り過ぎて機能がおざなりな感じだな。鎧兜は黒地に金色の化粧が施され頭には赤い羽根飾りを付けている、武装はランスだけだ。

 ヘカトンケイル、たしか既に滅んだ国が崇めていた神の名前だったっけ? 神の息子なのに醜い姿の三兄弟だったかな?

 ぎこちない動きだがレベル15以下の戦士系では傷を付ける事も難しそうだ、硬い鉄の塊と戦うのは厳しい的な意味でだが……

 感想を纏めると「外見に拘り過ぎだ、残念」かな……

 

「どうだ、小僧!僕のヘカトンケイルの素晴らしさは!」

 

 物凄く上から目線で話し掛けられたが完全に名前負けしたゴーレムだな。魔素が鎧兜の隙間から漏れだしているぞ。

これは持続力は低いな、直ぐに動きが鈍くなる。だが普通に戦う分には十分な脅威に……なるのかな?

 

「(下品に)派手ですね、(無駄に)デカいし(見た目だけは)強そうだ」

 

 本音の部分をモヤモヤっと誤魔化して評価する。

 

「フハハハハハ!そうだろう、そうだろう。

お前のチンマリしたゴーレムよりも強く美しいのだ、我がヘカトンケイルは……」

 

 駄目だ、誰も聞き流しているのに自慢話を語りだしたぞ。面倒臭そうな展開だが彼は単に自分の粗悪なゴーレムを同じ魔術師である僕に自慢したかったのだろうか?

 

「そうですね、(ほんの少しは)勉強になりました……では、失礼します」

 

 適当に持ち上げて早くこの場を離れよう、全く無駄な時間を使わせないで欲しい。今日はオーク狩りをしてドロップアイテムの検証をしたいんだ!

 軽く頭を下げてその場を離れようと……

 

「待て待て待てー!折角の機会だしゴーレム比べをしようぜ!

お前のチンマリした奴と俺のヘカトンケイルと勝負だ。負けた奴は相手の傘下に入る、どうだ?」

 

 根拠の無い自信に満ち溢れたドヤ顔がウザい、両隣の女性だけが拍手しているのが憐れみを誘うな……

 自慢と勧誘をセットにしやがったのか、相当面倒臭い相手だな。

 それに勝ってもアレの面倒を見るなんて罰ゲームより質が悪い、僕達にメリットが何も無いじゃないか。

 

「いえ、遠慮します」

 

 一度目は断るが奴のニヤニヤした顔を見れば納得しないだろうな。周りの野次馬連中も止めるつもりは無さそうだ、余計に集まってきたぞ。

 つまり良い見世物でしかないし実力主義の冒険者として生きていく為の最初の試練なのだろうか?

 

「何だよ、負けるのが怖いってか臆病者が!ああん?黙って俺の傘下に入れガキが!」

 

 一変して分かり易い恫喝、咬ませ犬的な手頃な存在、まさか誰かが奴を操って僕の力を試しているのかと怪しむくらいの馬鹿っぷりだ。

 思わず周りを見回してしまったが、仕掛人が分かる筈もないけど……

 だが、此処で弱気や下手に出れば僕達は他の連中にも舐められるだろう。もはや逃げる訳にも躱す訳にもいかない、奴を叩き潰すしかない……覚悟を決めるか。

 

「馬鹿かお前は?僕が勝つのが分かり切ってるんだぞ。

勝てばお前の面倒を見なければならないのが嫌なんだよ、だから僕が勝ったら全財産を寄越せよ!」

 

 一瞬何を言われたのか理解出来ず、少し経ってから真っ赤になって挑発に乗ってるけどさ……

 本当に誰かの差し金じゃないのかな、この人?咬ませ犬感が半端ないんだけど。

 

「クックック……ガキが粋がりやがって!

お前は此処で殺す、その僧侶の女はお前の目の前で犯す!もう土下座しても許さないからな!」

 

 小動物みたいに手足を動かして何か騒いでいるが舌戦では僕の勝ちだな。チラリとイルメラを見るが小指の先ほども心配してないのが分かる。

 僕は彼女に信頼されているんだ、ならば信頼に応えねばならない。次は実力勝負だ!

 

「時間が勿体ないんだから始めるぞ。早く無駄にデカくて悪趣味な屑鉄を動かせよ」

 

 ノリノリで挑発しちゃうよ、ヤバい楽しくなって来たよ。転生前も無闇に突っ掛かってくる馬鹿共を粉砕したんだよな……

 奴が頭に血が上って聞き取れない何かを騒いでる間に、ゴーレムポーンを動かして戦闘準備をする。相手は三体、此方も攻撃役の三体を自分の前に並べる。

 

「死ねー、クソガキがー!ヘカトンケイル、ガキをブッ殺せ」

 

 漸くゴーレムに命令して制御を開始、ランスを構えて突撃しようとするが遅過ぎる。命令から伝達と制御が稚拙な為にタイムラグが生じるんだよね、台詞の後にワンテンポおいてから行動開始って駄目だろ。

 軽く手を振るだけで僕のゴーレムポーンは弾丸のように飛び出し、見てくれだけのゴーレムの関節の弱い部分を狙い両手持ちアックスを振り下ろす!

 本来人間が着て運用する鎧は関節部分にも色々な工夫が施されている。鎧の隙間は急所で有り曲げる為には幾つものパーツを組み合わせる必要が有り、この辺が鎧職人の門外不出の秘儀なのだ。

 だが人間が着ないゴーレムの鎧はこの辺が適当でビスとかで動くように接続するだけなのが多い。

 このヘカトンケイルもボルトを通してナットで固定し動けるようにしただけの構造だから、直径10mm程度のボルトなどゴーレムの力で重量級のアックスを振り下ろせば簡単に壊す事が出来る。

 甲高い金属音がしてヘカトンケイル三体の右腕が宙を舞う……

 更に追撃で腰の部分をフルスィングで破壊する。

 ゴーレムの体内に充填された魔素が漏れだした事で、ヘカトンケイルは只の鉄屑へと成り下がった。

 

「馬鹿な……僕のヘカトンケイルが……こんなチンマリした奴に負けるなんて……何故だ?何故なんだ?」

 

「ゴーレムの造形も制御も未熟だからだろ、見てくれ重視のハリボテに負ける方が難しい」

 

 決め台詞を言ってみたが恥ずかしいだけだった……膝を突いて惚ける馬鹿とお付きの女達の首筋に両手持ちアックスの刃の部分を当てる。

 

「手加減してもコレか……負けを認めるか胴体と首が泣き別れるか、好きな方を選びなよ」

 

 周りの野次馬から拍手喝采が沸き起こるが、この程度の相手を倒しても自慢にはならないと思う。高レベルの連中からしたら只の弱い者イジメだよね。

 だけど弱気な逃げ腰では冒険者稼業など勤まらない。

 

「そんな……馬鹿な……僕のヘカトンケイルが……あっさり負けるなんて……」

 

 半分魂が抜けているが約束は守らせねばならない。

 

「返事が無ければ首を刎ねるぞ。ほら、お付きの女の人も彼に何か言ってあげなよ」

 

 自分は関係無い、負ける訳が無いとか思ってたんだろうか?固まっていたが再起動して猛然と真ん中の男に掴み掛かったぞ。

 

「ちょ、ちょっとイヤップ、負けちゃったわよ!」

 

「そうよ、負けたのよ、殺されるわよ!お金出しなさいよ、お金渡して謝りなさいって!」

 

 取り巻きに手の平を返されたみたいだな。半分惚けたイヤップの懐からマジックアイテムの収納袋を取り出して震える手で差し出した。

 

「コレに全財産入ってる、入ってるから許して……」

 

「む、確かに頂いたよ。

今度は絡む相手を考えるんだな、もし僕達に何かしようとしたら……分かるよね?」

 

 最後に首を掻ききる仕草で脅しておいたが、イヤップはブツブツと呟いていた……

 

『僕が……バルバドス先生の三番弟子の僕が……負けるだと?僕を負かせても……残り二人の兄弟子が……必ず敵討ちを……最弱の僕を倒したからと……』

 

 どうでも良いが、イヤップには師匠が居て兄弟弟子も居るのか。

 仲間に両脇から抱えられて逃げていくのを見つめながら、あんな男でも見捨てないなんて女性達にとっては良い奴だったのかもと思う。

 取り敢えず無責任に拍手喝采する野次馬達をグルリと睨み付けてからバンクの入口へと向かう、早くこの場を離れたいんだ。

 そんな僕の思いを無視するかのように声を掛けられた。

 

「待てよ、勝ち逃げは良くないなぁ」

 

 ああ、残り二人の内のドチラ様かな?目立つ事は控えたいのだが今日は大人気だね。


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