古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第223話

 

 ドラゴン討伐初日、部屋に運ばれた料理は典型的なエムデン王国の定番朝食だが豪華だった。

 

 先ずはポリッジと呼ばれるオートミールの牛乳粥、それに数種類のフルーツをシロップとワインで煮込んだコンポート、キッパーと呼ばれる鰊(にしん)の薫製と目玉焼き。

 メインに分厚いベーコンとポテトフライ、朝から重たい料理だが凄く美味そうだ。

 クロワッサンに飲み物はミルクとプラムの果汁水。

 

「若いんだから沢山食べて下さいね」

 

 笑顔のマダムが付きっきりで給仕をしてくれるが、他に従業員は居ないのだろうか?

 

「有難う御座います、でもクロワッサンは二個で十分です」

 

 マダムの持つバスケットには焼きたてパンが山盛りだが二個で十分満足だ。

 

「そう?夕食は六時で良いかしら、初日から根を詰めては駄目よ」

 

 彼女は僕がエムデン王国から指名依頼を請けてドラゴン討伐をする事を知っている、たまにランクB以上の冒険者が数日滞在しドラゴンを狩るそうだ。

 

「はい、六時には帰って来ます。先ずはアースドラゴンを探して狩る予定ですが深入りはしません」

 

 メインの厚切りベーコンは脂がのっているし歯ごたえも良い、だが食べた事の無い味だ……

 

「このベーコンは?」

 

「珍しいけどワイバーンの肉で作ったベーコンよ、良かったら倒したワイバーンは下取りさせてね。

買い取り価格は金貨二百枚から二百五十枚よ、王都より安いけど地方だと輸送費や経費が掛かるから、この位の値段になるわ。

あとアースドラゴンは大きさや損傷具合にもよるけど、標準で金貨千五百枚を下回ったら足元を見られてるわよ、気を付けて下さい」

 

 ふむ、輸送費や商人の儲け分が有るのか……

 

 しかしワイバーンがこんなに美味しいなんて知らなかった、ステーキやソーセージとかも有るのかな?

 

「アーマードラゴンや拾った牙や骨は?」

 

「アーマードラゴンだとオークションね、平均落札価格は金貨四千枚前後にはなるわよ。

牙や骨は内包する魔力次第だけど牙で金貨一枚位かしらね、稀に強い魔力を帯びたのが見付かるけど……」

 

 一財産だな、だが末端の買取価格だから転売すれば価格が上がり王都まで持ち込めば更に値段は上がるだろう、だから危険を承知で人が集まる。

 牙や骨は余裕が有れば集めよう、宿代位にはなるかな。転生前の僕はドラゴン種の調査は余りしてなかった、人間相手の戦争ばかりだったから。

 

「色々有難う御座います、ワイバーンは倒せたら優先的に譲ります」

 

「一体で十分よ、加工すれば数百人分の食事になるから。それに在庫も有りますしね」

 

 この美味いベーコンがワイバーンの肉とは驚きだ、後で少し分けて貰おう、イルメラ達にも食べさせたいな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝食後に少し休んでからワーズ村からデスバレーに向かう、村を出て少し歩いてから馬ゴーレムを錬成、真っ直ぐに進む。

 デスバレーから10km辺りからワイバーンやアースドラゴンが現れる、遠目でも数匹のワイバーンが上空を旋回しているのが見えた。

 空に雲は無く晴天、風も殆ど無い、照り付ける太陽で既に汗か額に浮かぶ、湿度が低いのが救いかな。

 

「見渡す限り地上にアースドラゴンは見えない、更に先に進まないと駄目かな……」

 

 マダムの話によれば倒したワイバーンを餌にアースドラゴンを呼び寄せるのが普通で、周りに罠を仕掛けて倒すそうだ。

 確かに遭遇戦より待伏せの方が気持ちに余裕が有るな。

 

 境界線を越えた、上空を旋回するワイバーンが三体に増えて僕の存在に気付いたっぽい、奇声を上げている。

 暫くすると手前の一体が旋回を止めて急降下して来る、ザルツ地方で倒した奴よりも大型だ。

 

 奇声を上げて突っ込んで来る、だが慌てずに自分の周りにアイアンランスを十本浮かべ狙いを定める……

 作戦は接近時にアイアンランスで迎撃し、体当たりは魔法障壁で防ぐ。

 

「今だ、アイアンランス!」

 

 頭から突っ込んで来たが途中で体勢を変えて両足を開き、爪で攻撃しようと腹を見せた瞬間に狙いを定めた十本のアイアンランスを撃ち出す!

 

 攻撃が当たり体勢を崩して体当たりしてくるワイバーンの巨体を魔法障壁で受け止める、激しい衝撃で一歩下がるが何とか押さえ込んだ。

 だが正面から受けたので首の骨も折れたみたいだ、今度は左右に受け流そう。

 

「先ずは一体、あと二体だが連続で来るかよ!」

 

 様子を見ていたのか危険と感じたのか、残りの二体がタイミングをずらして左右から急降下してくる。

 

「アイアンランス!」

 

 今度は二十本のアイアンランスを自分の周りに浮かべる、未だ距離が有るが右側のワイバーンに二十本総てを遠距離から撃ち込んで牽制し左側に意識を向ける。

 もう目の前に足が迫っていたが、強引に魔法障壁を展開し衝突に備える、ワイバーンは身体を捻らせて衝突を避けた?

 

「山嵐!」

 

 そのまま飛び去ろうとしたが大地から無数の剣を生やして討ち取る、真っ直ぐに逃げ出す相手には合わせ易い。

 剣の林に突っ込んだ為に一番ダメージが大きいな、出血量も多いしアースドラゴンを誘い出す餌にしよう。

 比較的損傷の少ない二匹を空間創造に収納する、先ずはマダムへの依頼は完了だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 山嵐で串刺しになり血の海のワイバーンを誘い出しの餌として放置して三時間、目当てのアースドラゴンは来ない。

 

 ワイバーンは二体来たが問題無く倒しレベルアップし32となった、順調だ。

 

「大分流れた血も大地に吸われ乾燥して来たな、潮時かな?」

 

 余り放置してもワイバーンの価値が下がると思い空間創造に収納する、場所を変えるにしても直進してデスバレーに近付くのは無謀だ。

 右か左に90度曲がって進むべきだろう、馬ゴーレムを錬成し右側へと向かう。

 太陽は丁度頭の上に来ていて眩しい日差しが容赦無く肌を焼く、汗が染みた肌着が気持ち悪い。

 前方50m位に樹木と岩が見える、日影も有るし昼休みにしよう。

 周囲を確認しながら馬ゴーレムを歩かせる、大地が渇いているせいか歩く度に土埃が舞う、厳しい環境だ。

 

「あれ?これって骨だよな」

 

 土から顔を出しているのは黄色っぽい骨だ、ドラゴンかワイバーンかは分からないが肋骨部分が見えている。

 馬ゴーレムから下りて調べる、頭蓋骨が有れば大体解るし牙が一番高価なのも聞いている。

 背骨に沿って渇いた土を払うと大きな頭蓋骨が出て来た、多分だがドラゴンだと思い空間創造に収納、周辺に散らばる骨も集めた。

 全長8m程度だしアースドラゴンと思われる、殆ど全身骨格で頭蓋骨に牙が残っているので今回の滞在費にはなるだろう。

 

 予想外のお宝を手に入れたので少し気分が良くなった、目的の岩と樹木が生えている場所に到着、毒虫が居ない事を確認して腰を下ろす。

 ゴツゴツとした岩肌だが日影の部分はヒンヤリと冷たくて気持ち良い。

 

「出来れば錬金で休憩小屋を作りたいが目立つし周辺の索敵が出来ない、我慢するか……」

 

 空間創造から水の入った瓶を取出して一口含む、ジャリジャリするのは口の中にも土埃が入ったのか。

 口を濯いで土埃を吐き出し濡れタオルで顔や首筋を拭いて漸く落ち着いた。

 

「単独行動は独り言が増えるよな、気を付けないと変な人だ」

 

 昼食は栄養が有り食べやすい串焼き肉と冷やした葡萄だけにする、汗をかくので水分と塩分は多めに取る、体調管理は大切だ。

 暫くはスパイシーな味付けの串焼き肉を食べて水で流し込む、食事と言うよりは栄養補給を黙々と熟す。

 

「遠目にラクダや馬に乗る人が数人見える、彼等はドラゴンの牙や骨探しの連中か……」

 

 何かを探す様にゆっくりと下を見て動いている、ワイバーンかドラゴンを見付けたら逃げるのだろう。しかしラクダは初めて見た。

 僕が見付けた全身骨格も本物なら金貨五十枚にはなるだろう、モンスターは倒さないが命懸けの探索には違いない。

 三十分ほど休憩し、彼等から距離を取る為に反対側に移動する、僕の馬ゴーレムも遠目から見れば本物の馬と見分けられないだろう。

 上空と周辺の両方を警戒しながら、ゆっくりと馬ゴーレムを歩かせる、最悪ワイバーンが死角から攻めて来ても常時展開型魔法障壁で一撃目は防げる。

 暫く歩くと左前方上空に旋回するワイバーンを見付けた、未だ少し距離が有る。

 

「前方上空にワイバーンだ、アレを誘い出す餌にするか……」

 

 馬ゴーレムに乗ったまま旋回中のワイバーンへと近付く、奴等は人間を見付けると襲ってくるのは餌としてか縄張り意識かどっちかな?

 旋回を止めて真っ直ぐに滑空して来るワイバーンを睨み付ける、やはり頭から突っ込んで来て直前で両足を前に突き出して攻撃するのか……

 パターン化した攻撃をアイアンランスと魔法障壁のコンボで倒す、大分慣れたが油断は大敵だぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 午後も倒したワイバーンを餌にアースドラゴンを誘うが全然来ない、もしかしてワイバーンの肉は食べないのかな?

 いやマダムに教えて貰ったから嘘ではないな、初日からアースドラゴンは現れないって事だ。

 更に二時間待ってワイバーンが一体襲って来ただけだ、七体倒してもレベルは一つしか上がらない。

 

「アースドラゴンじゃなくて人間が近付いて来るな、面倒だから今日は終わりにするか」

 

 遠目でも大地に倒れるワイバーンは分かるのだろう、微妙な距離を置いていたラクダに乗った奴が真っ直ぐ僕の方に向かって来る。

 空間創造にワイバーンの死体を収納し待機させていた馬ゴーレムに乗り込む、面倒事に巻き込まれない内に早足でワーズ村へと帰る事にする。

 ラクダとの距離は約1kmは有るので、気付いて逃げ出したとは思われないだろう。

 

 デスバレー初日の成果はワイバーン七体とドラゴンの全身骨格が一つ、中々の成果だが周りに言えないのが残念だけどレベルアップも出来た。

 だが前回みたいな劇的なレベルアップはしない、あれは特別か異常だったのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 疲れ知らずの馬ゴーレムは僕の魔力が尽きる迄は走り続ける事が出来る、ラクダは耐久力は有るが馬程はスピードが出ない。

 もっとも馬ゴーレムは普通の軍馬より早く走れるのでラクダとの距離は2km以上引き離した、後はワーズ村の近くで馬ゴーレムを魔素に還して徒歩にすれば良い。

 相変わらずラクダは着いて来るが正体がバレなければ大丈夫だろう、バレても相手にはしない。

 ワーズ村の近くには数本の樹木が密集してる場所が有り、そこで馬ゴーレムを魔素に還して徒歩に切り替えた。

 ワーズ村とラクダとの直線上に有るので、奴からは僕が馬ゴーレムを消したのは見えてない筈だ。

 そのまま村に入るが時間は午後四時過ぎ、少しワーズ村を探索する事にした。

 

 村の中には数ヵ所井戸が有り公共なので誰でも使える、宿屋は『陽炎の栄光亭』の他に五軒有るが並が二軒に安宿が三軒。

 村の規模からしたら多いのはデスバレー周辺を探索する外部からの連中が多いからだ、食堂兼酒場も三軒とコチラも多い。

 露店も多いが店を構える商店も多い、これはドラゴン関係の買い取りだな、僕は空間創造のギフトで王都に持ち帰れるが普通は無理だ。

 高額の輸送費や護衛を考えるなら少し安くても売った方がマシと考える奴は多いだろう、冷やかしで露店を見るが特に欲しい物は無い。

 気になったのは民芸品レベルだがドラゴンの牙を使っている為か、護符として僅かながら機能してる品が売っているんだ。

 効果は低いがドラゴンの牙や骨が貴重なのは理解した、真面目に集める事にするかな……

 

「リーンハルト君」

 

「うわっ?アクアさんか油断したよ」

 

 また背後に気配の薄いアクアさんが立っていた、この子は絶対に僕を脅かす為に後ろを取っているよね?

 

「どうだった?」

 

 真面目な顔を近付けて聞いて来たが、初日の成果は在ったかって事か?デスバレーの難易度を聞いているのか?

 

「正直厳しい、荒野の環境は暑く乾燥して土埃っぽいし上空にはワイバーンが居るから油断出来ない」

 

「そう、私も明日から頑張る」

 

 ムンッて感じでガッツポーズをしたが特に同行とかの話は無い、彼女は僕との距離の取り方が上手いので困る。

 なにか手伝いたくなるんだよな……

 


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