古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第224話

 デスバレー挑戦一日目、成果はワイバーン七体とアースドラゴンと思われる全身骨格一体分、幸先の良いスタートと言って良いだろう。

 苛酷な荒野を徘徊しないと駄目なのだが経験値的にも金銭的にも非常に有り難い、未だアースドラゴンには遭遇してないが焦る必要はない。

 アクアさんと露店を冷やかし中央広場に向かった時に異変に気付いた。

 

「何かな、アレは?」

 

 冒険者と思われる群れが居た……

 

「今回のドラゴン討伐隊御一行様よ、パッと数えても四十人以上いるわ。まぁ半数以上が囮と肉の壁ね」

 

 毒舌お嬢様だが彼等ではワイバーンにも苦労するだろう、数日で半数近くは脱落するかな。

 ああ、あの『シックスウォーリアー』の連中も居るぞ、この陽気の中を歩いて来たのか皆さん汗だくらしく村共有の井戸を取り囲み水浴びを始めた。

 

「全く下品な連中ね、見るに堪えないわ。それでリーンハルト君は何処に泊まってるの?」

 

 確かに熱いから下着姿でバケツの水を掛け合っているのは気持ち良いだろうが、井戸の周りはビチャビチャだし貴重な水を無駄にしている。

 村の自警団員が何人か集まり文句を言いに行った、だが未だ代表者は到着してないみたいだな。

 

「僕は『陽炎の栄光亭』に泊まってるよ」

 

「一番高い宿屋とは流石ね、私は『地竜の尾亭』に泊まってる。明日は私も頑張るわ」

 

 地竜の尾亭って隣の建物だな、安宿は向かい側らしいし少なくとも宿屋では静かに休めるか……

 

「じゃね、また明日会いましょう」

 

「うん、また明日に」

 

 アクアさんの僕への距離の取り方は上手いな、負担を掛けない絶妙さだ、つい何かしてあげたくなる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

「はい、お帰りなさい」

 

 マダムが出迎えてくれたが軽く抱き締めてくれたので焦った、こういう出迎え方は初めてで戸惑う。

 

「あ、あの?」

 

「初めてデスバレーに向かい帰って来たお客様には無事を祝ってハグする事にしています」

 

 艶の有る笑顔のマダムには困ってしまう、しかも僕は少し汗くさいので余計だ。

 

「えっと、有難う御座います?ワイバーンを倒したので譲りますが割引しますのでベーコンを分けて貰えませんか?」

 

 あの美味しいベーコンが貰えるなら買取価格を大幅値下げでも後悔しない。

 

「流石ですね、お分けするのは構いませんがベーコンの他にも干し肉やステーキも有ります。今夜はワイバーンのステーキがメインですわ」

 

「それは楽しみですが先に風呂に入って良いですか?大分汗をかいたので洗い流したいのです」

 

 両手を広げて汚れている事を示す、汗が土埃を皮膚に貼付けて気持ち悪いので贅沢だが風呂で身体を洗いたい。

 アラアラと奥の浴室に案内された、汚れた衣服の洗濯も頼めるそうなので一式お願いする。

 流石に一ヶ月分の着替えは無いし、有ってもイルメラ達に一ヶ月分の洗ってない衣類を纏めて頼むのも気が引けるから。

 

 案内された浴室は洗い場も浴槽も総てが木で作られている、自然石を並べるのが一般的なのだがコレは浴槽など大きな樽みたいだ。

 一人が入ると一杯だが石造りとは違う柔らかさかな?いや温かみ?が有る不思議な風呂だ。

 丹念に身体を洗い掛け湯で汚れを落としてから浴槽に浸かる、疲れが癒される……

 

「木製の浴槽か、桶や樽みたいだが石造りの浴槽と甲乙付け難い良さが有るな」

 

 身体の芯まで温まり疲れが癒えた、明日も頑張る気力が湧いてくる。

 

 因みに夕食はワイバーンの肉を使ったステーキの他に、ミートパイだけどパイ皮の代わりにマッシュポテトを被せてオーブンで焼いたシェパードパイ。

 カリフラワーとチーズのグラタン、ウェルシュレアビットと呼ばれるチェダーチーズトーストと大量に出されて難儀した。

 マダムは料理上手で手料理を食べて貰うのが大好きらしく、少食の僕は少し不満らしい、冒険者は沢山食べるのが普通だと言われた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、煩い団体客に絡まれない様に少し早めに出発する。あの団体客は向かいの安宿に泊まったらしいが夜に酒場に繰り出して馬鹿騒ぎを起こし、何人かが自警団のお世話になったとマダムが教えてくれた。

 命懸けの危険なドラゴン討伐だから騒ぎたい気持ちは分かるが、他人に迷惑は掛けるなって事だ。

 

 昨日と同じくワーズ村から少し歩いてから馬ゴーレムを錬成し真っ直ぐ境界線に進む、今日は更に1km程近付いてみよう。

 

「今日も雲一つ無い晴天で微風、暑くなるな」

 

 見上げる空は真っ青で早朝なのに既に日差しが肌を焼く、防御は魔法障壁頼りにして鎧は着ずに日除け代わりのローブを目深に被る。

 左上空の遥か遠くに数体のワイバーンが優雅に旋回している、先ずは誘い寄せる餌として狩るか。

 馬ゴーレムに指示を出してワイバーンに近付いていく、大体2km以上は離れているかな?

 

「向こうも気付いたな」

 

 同じ場所を旋回していたワイバーンが僕の方に向かい真っ直ぐ飛んで来るが、未だ高度は下げていない。

 更に近付くと高度を下げながら近付いてくるがアイアンランスの射程外、一旦僕の上を素通りして旋回せずに高度を上げて飛び去ったぞ。

 

「逃げた、のかな?」

 

 普段と違うワイバーンの行動を不審に思うが、もうかなり離れてしまい馬ゴーレムで追っても無駄だろう。

 しかし何故ワイバーンは逃げたんだ、お腹が空いていない?

 

「しまった!僕より強敵が居たんだ」

 

 なだらかな丘を上っていたのだが、見えない向こう側に本来の目的の奴が居た。

 

「アースドラゴン、最強種族の末席……だが強いぞ」

 

 距離にして20mも無い、地に伏せていた頭を持ち上げると目が合った、間違いなく敵意を感じた。

 

「ガアアアアアアァ!」

 

 けたたましい咆哮、空気振動が鼓膜に伝わる、後ろ脚で立ち上がると6m近い高さになる。

 器用に尻尾でバランスを取っている、威嚇の為にか口を開いて再度雄叫びを上げた。

 

「クソッ、迫力に負けそうだ。アイアンランスよ、敵を撃ち抜け!」

 

 自分の周囲に二十本のアイアンランスを浮かべて一気に撃ち出す、狙いは胸から上の部分だ。

 狙い通りにアイアンランスは飛んで行ったが、奴は地に伏せる事で全てを躱わす。

 

「大地より生えろ。無慈悲な刃、山嵐!」

 

 アースドラゴンが伏せた場所を中心に刃の林を突き上げる!

 だが奴は尻尾の一振りで半数近い槍を弾き飛ばした、しかし下半身には何本か刺さったぞ。

 動きが遅くなるかと思えば20mの距離を飛び掛かる事で詰めて来た、右足の太股にも一本刺さってるのに動きが早い。

 

「不味い、魔法障壁よ!」

 高温のブレスを吐き出したが魔法障壁に魔力を注ぎ込み強度を増す、熱気が頬を焼く。全力に近い魔法障壁が押し負けそうだ……

 

「ぐっ、だが動きを止めたな。クリエイトゴーレム!ゴーレムルークよ、ドラゴンを締め殺せ」

 

 自身の最強戦力たるゴーレムルークを召喚、背中のメイスを抜く暇は無いので両手で首筋を締めさせ口を上に向ける、これでブレスは防いだ。

 更に二体のゴーレムルークを錬成し三体掛かりで首の骨を折る、なるべく外傷を少なくして倒したかった。

 

「首の骨を折ったのと右足太股と右脇腹に刺し傷だけで倒せた、だが魔法障壁の維持だけで保有魔力の二割以上を持ってかれたか……」

 

 ゴーレムルークでアースドラゴンを揺すり確実に死んだ事を確認してから、空間創造に収納する前に良く観察する。

 

「全長約8m、平均サイズだ。頭部だけで1mは有るな、僕なら一口で上半身が食われる。これで最低限の依頼は達成したが一体ではレベルアップはしないか……」

 

 満足するまで観察してから空間創造に収納する、拓けた荒野と言えども8m級のアースドラゴンの発見に手間取った。もしかしてアースドラゴンって待伏せタイプか?

 

 身支度を整えてからゴーレムルークを魔素に還す、地味に維持に魔力と制御に意識を割かれるから戦う時に呼び出す事にする。

 待機させていた馬ゴーレムに乗り込む、全周囲を見回すが近くに冒険者も居ない、つまり見られてない。

 正面に向かいデスバレーに近付くか左右どちからに向かうか暫し考える、体調は万全だし残りの保有魔力は七割程度、怪我も無い。

 

「右側に行けば戻る事になり、他の冒険者達に会う確率が高くなる。ならば左側にするか」

 

 馬ゴーレムに指示を送り馬首を左に回す、左側は2m級の巨石が点在する。

 隠れる場所は無さそうだが油断は出来ない、常時展開型魔法障壁が抜かれたんだ、有り得ない。

 ゆっくりと警戒しながら馬ゴーレムを歩かせる、上空に先程のと思われるワイバーンが旋回を始めた……

 

「さっきはアースドラゴンが居たので止めたが今回は襲ってくるか?」

 

 大きく旋回しながら高度を下げてくる、三回ほど直上を回ってから真っ直ぐに降下してくる、典型的な攻撃パターン。

 防御は魔法障壁頼り、接近して来た所をアイアンランスで撃ち落とす、複数で襲って来ない限りは大丈夫だ。

 

「今だ、アイアンランス!」

 

 真っ直ぐ頭から突っ込んで来るが攻撃の瞬間に両足を突き出して爪で掴もうとするので無防備な腹を曝す、そこに十本のアイアンランスを撃ち込む。

 

 攻撃を受けてバランスを崩し突っ込んで来た所を魔法障壁で防ぐ、真正面で受けず斜めに躱す。

 

「む、レベルアップしたぞ。流石にアースドラゴンの経験値は多いんだな」

 

 合計でワイバーン八体にアースドラゴン一体、これでレベル33になった。

 やはり劇的に魔力量が増える訳ではないが恩恵は分かる、ゴーレムポーンなら最大二百五十体は同時制御出来るかな?

 効率から言えばアースドラゴンを倒した方が良い、少しずつデスバレーに近付くか、地道にワイバーンを餌に誘い込むか……

 

「今日から冒険者達が増えている、ワイバーンと言えども倒した事を知られるのは避けるかな」

 

 ワイバーンの身体に触れて空間創造へと収納する、待機していた馬ゴーレムに乗り込み周囲を見渡すが近くに冒険者達は居ない。

 遥か遠くに豆粒程の連中が複数見える、彼等がドラゴン討伐御一行様かな?

 遠目でも三十人前後は居るのが分かる、何かをしているが……穴掘りかな?

 

 接触はしない、面倒事に巻き込まれるのも嫌だし悪い予感しかしないや。

 彼等から離れる様に馬ゴーレムを歩かせる、待伏せを警戒して遮蔽物の無いルートを選んで進む。

 初めてのドラゴン狩りを振り返る、巨体なのに素早く動きブレスは気を抜くと魔法障壁が押し負ける攻撃力だ。

 アイアンランスも山嵐による槍の林も半数近くは表面の鱗に弾かれた、有効な攻撃方法は打撃かな?

 

「流石は地上での最強種族、最弱のアースドラゴンでも苦戦するとはな……」

 

 暫く進むと大岩に背中を擦り付けているアースドラゴンを発見した、二本足で立ち上がり痒いのかガリガリ擦っているんだな。

 距離は50m以上有るが、僕の『リトルキングダム(視界の中の王国)』なら遠距離操作でゴーレムルークを三体同時に攻めさせられる。

 

「よし、安全に遠距離からのゴーレムルーク三体同時攻撃で攻めるぞ!」

 

 意識を集中してアースドラゴンを取り囲む様にゴーレムルークを錬成し背中のメイスを掴み構える。

 この段階で初めてアースドラゴンは気付いて手前のゴーレムルークに対してブレスを吐き出した!

 

 全長6mのゴーレムルークの上半身が溶け出した、自慢のゴーレムの鋼鉄の装甲が三秒も持たないとは……

 

 左右のゴーレムルークがフルスイングで頭を狙う、片方がコメカミに直撃した為にアースドラゴンがのけ反る。

 追撃をしようとしたが倒れながらも尻尾を振ってゴーレムルークを弾く、だが重たい為に何とか耐える事が出来た。

 流石はドラゴン種、ダメージを与えても反撃して来るから油断出来ない。

 ブレスで壊されたゴーレムルークを修復し三体掛かりで攻撃し何とか倒せた。

 

「遠距離だと細かい操作が難しい、そしてゴーレムルークよりも素早いな」

 

 何とか二体目を倒せたが自慢のゴーレムルークでも圧倒的な戦いは出来ない、次は何か作戦を考えないと厳しいだろう。

 


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