古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第226話

 デスバレー探索二日目、順調にアースドラゴンとワイバーンを倒している、前者は二体で後者は十一体、骨も価値は分からないが二体分は回収した。

 

 元来た道を真っ直ぐ戻り90度右に曲がればワーズ村への道だ、見通しの良い荒野だが底無し沼や毒虫の巣、砂地獄とか有るので知ってる道を戻る事にする。

 大体10km程進んだので一時間半位で交差点に到着、そこから三十分でワーズ村だが徒歩だと倍近くは掛かるかな?

 

「未だ居る、何かしてると思えば穴掘り……つまり落とし穴か」

 

 暫く進むと例の団体が見えた、午前中は分からなかったが今は穴を掘っているのが分かる。

 夜になると風が吹いて地形が変わる位土埃や砂が動くから養生は大変だよな、大体の場所を覚えてマダムに知らせよう、知らなくて落とし穴に落ちたとか危険過ぎる。

 近付き過ぎない手前で90度向きを変えてワーズ村へと向かう、昨日と同じ位には帰れるだろう。

 

 暫く進むと骨を見付けたが骨格の形からしてワイバーンだった、残念。

 昨日と同じ数本の木が生えて大岩が有る場所で馬ゴーレムを魔素に還す、だが余り意味が無い様な気がして来た。

 今の僕は魔術師の格好をしてるし、アシモフさんとヨゼフさんには見られた。口止めしてないし、しても無駄だし直ぐに噂は広がる。

 少なくともワイバーン一体は倒してるんだ、昨日とは対応も変わるだろう。

 

 今はバレてないから徒歩で帰る事にする、余り絡まれなければ良いが誰かが後を付ける様なら危険だがデスバレーに近付こう。

 追跡者が身の危険を感じれば離れていく、我が身が一番可愛いだろうし……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

狭い村だし昨日の内に探索も終えたから寄り道する場所も無い、酒場にも寄らないし真っ直ぐに『陽炎の栄光亭』に向かう。

 未だ僕の事は噂になってない、入口を守る自警団の人達も気さくに声を掛けてくれた。

 しかも例の集団を集めた冒険者の事も教えてくれた、割と有名らしい『忘却の風』と言う風属性魔術師をリーダーとする全員が風属性魔術師の三人組のパーティだそうだ。

 

 僕も『忘却の風』の事は聞いた事が有る、ランクCの古株冒険者らしく良い噂を聞かない依頼の為なら犠牲を厭わない連中らしい。

 犠牲にするのはパーティメンバー以外の協力者らしく共同依頼は避けるのが王都では有名だ、今回の件も同じ感じがする。

 あの連中、半数は生き残れるのか?そもそも罠の位置がワーズ村に近いがアースドラゴンは来るのか?

 

 色々と考えると微妙に効率が悪いし段取りも悪いのだが大丈夫なのか?

 

「おかえり、リーンハルト君」

 

「え?ああ、アクアさんか。ただいま」

 

 隣の建物の二階の窓から彼女が手を振っているので手を上げて応える、相変わらず魔術師のローブを被っている。

 

「少し話せるかな?」

 

「構わないが酒場とか煩いから嫌だよ」

 

 あの団体客が入り浸る酒場は昨夜も苦情が出ていたみたいだ、今日は僕は本業の魔術師、彼女は副業の魔術師、魔術師が二人も一緒に居れば注目されるし絡まれるだろう。

 

「此処の一階はお茶や食事が出来るから、入って来て」

 

 そう言うと窓から消えた、丁度知らせる事も有るから良いか……

 『地竜の尾亭』の看板が付いた扉を開くとテーブルが四つ程配された空間になっていた、カウンターは奥で中年の女性が座っている。

 

「いらっしゃいませ、宿泊かしら。それとも食事?」

 

 目が合うと話し掛けられた、マダムと同じく品の良い女性だ。

 

「私の客よ、紅茶二つね」

 

 奥からアクアさんが走り込んで来た、慌てなくても良いんだよ。

 

「急いでるが、何か有ったかい?」

 

 向かい合わせに座る、何か情報でも掴んだか?

 

「あの馬鹿達の雇い主が分かった」

 

「ああ、知ってる。『忘却の風』だろ、良い噂は聞かないから絡むつもりもない」

 

 何だ、知ってたのって不機嫌になったぞ、知らない振りをして感謝した方が良かったのか?仕方ない、こちらの情報を教えるか……地図を取出してテーブルに広げる。

 

「連中は此処に落とし穴を掘ってたよ、ワーズ村に近いのに危険だよな」

 

 地図を指差す、後でマダムにも知らせる情報だし問題無いだろう。

 

「この印は何かな?白丸が十一ヵ所、黒丸が二ヵ所に三角が二ヵ所、三角は骨って書いて有る」

 

 しまった、マダムに提供する情報の為の印を忘れてた、冒険者ギルドの協力者には必要な情報を提供する様に言われてたから討伐した場所を記してたんだ。

 

「もうワイバーンを狩ったのね、まさかアースドラゴンも?」

 

「いや、白丸は最近のワイバーン目撃場所、黒丸は僕が倒したワイバーンの場所、三角は文字通り骨はアースドラゴンの骨を拾った場所だよ」

 

 本当と嘘を混ぜて話すのがコツだ、騙すのには抵抗が有るが全て本当の事は教えてられない。

 白丸は確かに僕が目撃して倒した、隣り合わせの黒丸も倒したワイバーンを餌にアースドラゴンも倒した。嘘は言っていない、足りない部分が有るだけだ。

 

「そう、既にワイバーン二体とは凄いわね。私も今日は一日アースドラゴンの骨を探したけど集めたのは僅かね」

 

 懐から取り出した一本の牙、長さ7cm程度だが根本が魔力で結晶化している、これって稀に見付かるって奴か?

 

「凄いね、それって稀に見付かる魔力を帯びた牙だろ?確かに強い力を感じる。僕が見付けたのは本当に只の骨だった、気休め位には売れるかと思ってさ」

 

「これ一本で買い取り値は金貨百枚から百五十枚位かな、結晶の範囲が広いと更に高値になる」

 

 丁寧に懐にしまった、彼女も有能な冒険者って事だな、紅茶が運ばれたので暫くは味を楽しむ、そろそろ冷え込んで来たので温かい飲み物が美味しい。

 

「もう目的は達成かい?」

 

「未だよ、暫くは探索を続けるわ。リーンハルト君は?」

 

「僕も同じ、暫く滞在して探索を続けるよ」

 

 そう言えば互いの事は余り知らなかったんだと簡単な自己紹介をしている最中に、こちらに近付く魔力を感知した……三人だ。

 

「アクアさん、気付いてる?」

 

「ええ、噂の『忘却の風』ね。此処に泊まるのかしら?」

 

 魔力を帯びた気配が三つ、当然だが向こうも気付いているだろう。そして扉が開いた。

 

「おや?同業者の二人組とは珍しいな、しかも若い」

 

「三人組の方が珍しいでしょう」

 

 扉の前に立つ三人、全員が灰色のローブを目深に羽織っているので顔は分からない、だが纏う魔力は中々だからレベル30前後か。

 

「坊やは中々だけど、お嬢ちゃんはマダマダね」

 

 強さからして真ん中がリーダー、右側が女性だが上から目線だ、左側は僕等に興味が無さそうだ、カウンターを気にしている。

 

「誰でも最初はレベル1、どんな英雄様でも一緒ですよ」

 

「あら?彼女を庇うのね、妬けちゃうわ」

 

 わざわざ僕等のテーブルに近付いて来た、何か用が有るのか?または協力要請か?彼等は自分達以外は捨て駒みたいに扱うと悪評が有る、勿論手伝う気は全く無い。

 

「君達も手伝わないか?俺達はアースドラゴンを狩りに来たんだ」

 

 やはりか、魔術師二人なら利用価値は高いからな。

 

「急ぎの指名依頼の最中なので、他の依頼や共同作戦は出来ません」

 

 頭の僕はってのは付けないで応える、実際に急ぎだしエムデン王国からの指名依頼だ、他の事は出来ない。

 

「そうなの、諦めてね」

 

 アクアさんも理解して追従してきた、彼女の依頼が一般か指名かは知らないが『忘却の風』に絡むのは愚かな行為でしかない。

 

「その年で指名依頼か、君達は……」

 

「早くチェックインしようぜ、もう疲れたから早く休みたい」

 

 僕等に興味が無かった左側の男が急かす、それを機に会話を止めた。

 向こうは未だ話足りないみたいだった、今回集めた連中が使えなければ再接触をしてくるかもな。面倒臭くなる事を予感しつつアクアさんと別れた。

 

 マダムに落とし穴の件とワイバーンの件を伝えた、若い個体が金貨百八十枚は妥当だが食肉としては若い方が良いらしく譲る事にした。

 金貨百枚で良いからベーコンや他の加工肉も譲って欲しいと頼んだらOKを貰えた、これでイルメラ達に良い土産が出来るな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ドラゴン討伐三日目、今日は曇り空だ。荒野の雨は短期で集中的に降るらしい。

 雨だと上空を飛ぶワイバーンを認識し辛いし雨音で周辺の警戒も薄くなる、どうしようかな?

 宿屋の外で空を見上げて暫く考える、完全休養にするには疲れてない。

 

「あら?私を待っててくれたの?」

 

「ん?ああ、おはよう。今日は天気が荒れそうだ、荒野の雨は短期で豪雨らしい。雨は周囲を警戒し辛い状況に追い込まれる、だが休養するにも疲れてないから勿体ない、それで悩んでた」

 

 見上げた空は雲が厚く覆っている、遥か遠くに見えるデスバレーの辺りは真っ暗だ。

 

「そうね、視界も悪く雨音で気配も掻き消されるか……でも一日無駄にするのは勿体ないわね」

 

 そうなんだ、ワイバーンの攻撃なら奇襲されても魔法障壁で防げるから問題無い、だけどアースドラゴンと遭遇戦になった時が苦戦しそうなんだ。

 不意打ちで全力ブレスを喰らったらノーダメージとはいかないだろう、今回は一人だから無理は出来ない。

 

「ああ、境界線ギリギリを徘徊しての探索も効果が有るのかは謎だし無駄に雨の中を行動するのは避けるべきかなと思い始めた」

 

 悪天候に無理して風邪をひいたら何日か休まないと治らない、無理するスケジュールでもないんだ。

 

「体調を崩したら明日以降の探索に響く、止める決断も時には必要。私は二度寝するわ、お昼を一緒に食べない?」

 

「そうだね、僕も休むよ。十二時に『地竜の尾亭』に顔を出せば良いかな?」

 

「それで良いわ、酒場兼食堂に行くのは煩さそうで嫌だし、オーナーに頼んでおくわ」

 

 そう言って彼女は宿屋の中に戻って行った、休む事をサボるみたいで嫌だったが背中を押されたな。さて、久し振りに二度寝でもするか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 部屋に戻りベッドで天井を見上げて色々と考え事をしていると屋根に雨粒が当たる音がし始めた、時計を見れば十時過ぎか。

 

「休んで正解だな、こんなに大粒の雨は久し振りだ。出掛けてたら行動に支障が出るレベルだったぞ」

 

 窓に近付き空を見上げる、真っ黒な雲に覆われていて暫くは止みそうにない。

 

「さて、二度寝するか。休む事を決断出来たアクアさんに感謝だな」

 

 ベッドに飛び込んで二度寝を楽しむ、毛布を頭から被れば激しい雨音も気にならないから不思議だ。

 

 正午少し前に起きて身嗜みを整える、寝癖を直す程度で完了、服は魔術師の格好で良いや。

 相変わらず外は豪雨だ、朝と雨粒の大きさも降る勢いも変わらない。

 

 陽炎の栄光亭と地竜の尾亭との入口は10mと離れていない、だが雨具無しで行ったら全身ずぶ濡れは間違いないので魔術師のローブの上から防水加工を施したマントを羽織って小走りに向かう。

 足元が少し濡れたが許容範囲だ、既にテーブルにアクアさんが座って待っていた。

 

「ごめん、待たせたかな?」

 

「平気、暇だからずっと此処に居たから」

 

 何やらテーブルの上で採取したアースドラゴンの牙や爪を磨いていたみたいだ、魔力が結晶化した牙が三本有るが見せて貰った奴が最大みたいだな。

 

「片付けるわ、朝から三人組が騒いで大変だった。彼等はこの雨の中で落とし穴を作っている、土留めをすれば大丈夫とか馬鹿よね」

 

「下手したら陥没、雨水で池になってるだろうね。無駄な事をさせてるな」

 

 土属性魔術師の僕なら大地に干渉して落とし穴を作れるが、人力の手堀りでは無理が有る。

 

「その内に諦めて帰ってくるよ、今日のメニューは?」

 

「お任せにしたけど、メインは牛タンシチューよ」

 

 奥から漂う匂いに何割か意識を持って行かれたが、牛タンシチューなら納得だ。アクアさんと昼食を楽しんでいる時に自警団が飛び込んで来た。

 

「大変だ、馬鹿が大穴掘って埋まった。生き埋めだ、手を貸してくれ!」

 

 まぁ当然の結果だよな、だが手助けは必要だ。急ぐ事にしよう。

 


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