古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第229話

 ツインドラゴンを倒した、得意としていたゴーレムナイトによる円殺陣を使いゴーレムルークで止めを刺せた、転生前の勘を少しずつ取り戻している。

 レベルも35に上がり徐々に力も取り戻し始めた、だが未だ足りない、全盛期の三割程度だろう。

 

 馬ゴーレムに乗り込み境界線まで早足で進む、魔力が二割程度しか残ってない、次にドラゴン種と戦うのは厳しい。

 暫く歩くと前方で手を振る人影を発見、近付くとアクアさんだった。

 

「凄いね、一人でツインドラゴンを倒せるとは流石に思わなかった」

 

 一緒に帰るのだと思い手を差し出して馬ゴーレムに引き上げたのだが、開口一番で僕がツインドラゴンを倒したのがバレてるよ。

 

「いや、そのね……」

 

「相手は15m前後の巨大モンスターよ、2km以上離れてても戦って倒したのは見えた。誰が倒したか迄は分からないけど想像は付くわ」

 

 そうだった、遮蔽物の少ない荒野だからな、全長14mのツインドラゴンは見えたが足元の僕やゴーレムナイト達は流石に小さくて判別出来なかったのか。

 だがゴーレムルークは全長6mは有るから見られてゴーレム使いの仕業とバレたかな?

 

「まあね、指名依頼の本当の目的はドラゴン討伐だ、二週間ずっと狩れるだけ狩る予定なんだ。知られると騒ぎになると思って嘘をついた、悪かったよ」

 

 此処まで知られたら嘘を続ける意味も無い、本当の事を教える。

 

「私を振った魔術師の少年は冒険者稼業を僅か二ヶ月でドラゴンスレイヤー……

気付いてないと思うから教えるけど私も冒険者養成学校に居たのよ、盗賊職の四人目として同じクラスにね」

 

「え?でもあのクラスで魔力を持っていたのはウィンディアだけだったぞ」

 

 思わず振り返って彼女を見るが、最初の入学式の時に調べたんだ、だが魔力反応は他に無かった筈だ。

 

「外せない予定が有って五日遅れの入学だったの、三回目の実地訓練で一緒になる予定だったけど、君は早々にギルドランクを上げて自主的に卒業したでしょ?」

 

 割と本気で睨まれた、盗賊ギルドから送り込まれた四人目って彼女だったのか。

 

「それは、その……申し訳無いのかな?」

 

 全然知らなかったエレさん達以外の人に絡む事になろうとは思わなかった、僅か二ヶ月前は学生だったのに今は男爵で宮廷魔術師を目指している、二度目の人生は摩訶不思議だ。

 

「でも私も嘘をついてた、アクアは偽名、本当の名前はティルノーツ、ティルって呼んで」

 

 水属性魔術師で名前がアクアは出来過ぎだと思ったが、やはり偽名だったのか。

 ティルさん、駄目だな、やはり思い出せない、クラスに居たっけ?そう言えば途中から入って来た子も居た様な……

 

「何か失礼な事を考えてないかな?」

 

 空を見上げて考えていたら思考を読まれたみたいだ、知り合いの女性陣には読心術をマスターしてる子が多くないか?

 

「いや、当時の僕ってクラスでも浮いた存在だったからさ、余り他の人達と交流してなかったなって思ったんだ」

 

 当時は午前中の講義はウィンディアやエレさん、ギルテックさんとベルベットさん姉妹に囲まれていたからな、午後の武術の実技は受けずに帰ってた。余裕が無かったとはいえ酷い学生生活だった。

 

「そうね、接触する機会が無くて実地訓練まで待ったのが敗因だったわ。一ヶ月も満たない内にランクを上げて卒業なんて思わなかったもの」

 

 腰に回された手に力が篭る、確かに三回目の実地訓練も無しに卒業したな、生き急いでいたから……

 

「成人後に廃嫡の予定だったからね、地盤固めに奔走していた時期だった。呑気に学生生活を送る事は無理だったんだ」

 

「知ってる、ラコック村の活躍からずっと追っていたもの」

 

「追っていた?僕を?」

 

 その後は何も話さずにワーズ村まで到着し宿屋の前で別れた、僕の活動を追っていた彼女の真意は何だろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 早めにワーズ村に到着、魔力消費が激しいドラゴン種狩りは時間が短くなるのは仕方ないと割り切ろう。

 翌日の朝食時間に結果をマダムに説明したら驚かれた、ツインドラゴンは近年でも討伐は稀だそうだ。

 それと何人か目撃者が居たらしく既に酒場で噂が流れている、未だ僕と特定はされてないみたいだ。

 だが安心は出来ない、状況的には冒険者ギルドの紹介状がないと泊まれない『陽炎の栄光亭』に居る土属性魔術師の僕は怪しまれるだろう。

 既にワイバーン十一体にアースドラゴンが五体、ツインドラゴンを一体、それとアースドラゴンの全身骨格が三体分有る。

 十分にドラゴンスレイヤーを名乗れる成果を上げた、ツインドラゴンは指名依頼の成果としても申し分ない。

 後は期限ギリギリまで粘り多くのドラゴン種を倒して経験値を貯める、出来ればレベル40までは上げたい。

 『陽炎の栄光亭』を八時半に出る、合わせた様にティルさんも扉を開けて『地竜の尾亭』から出て来た。

 

「おはよう、リーンハルト君」

 

「おはよう、ティルさん」

 

 ワーズ村の外迄は並んで歩いて行くが途中で何人かの冒険者に指を指されてヒソヒソ話をされた、魔術師が二人組は噂のツインドラゴン討伐話に真実味を持たせているだろう。

 門を抜けてから馬ゴーレムを錬成する、周りに何人かが僕等を訝しそうに睨んでる。

 

「嫌な感じね」

 

「全くだ、気にする必要は無いけど嫌なモノだよ」

 

 先に馬ゴーレムに跨がり彼女を後に引き上げる、今日も境界線まで一緒に行って僕はデスバレーに3km近付いてみる予定だ。

 特に話し掛けて来る訳でもないし境界線を越えてからは尾行もされないだろう、デスバレーに近付くのは命懸けだ。

 暫く進むと落とし穴の場所に近付いて来た、今日も穴掘りの為に冒険者達の団体が見える。

 

「酒場で聞き込んで来たマスターの情報だと他にも逃げ出して半数以下だそうよ、落とし穴自体も未だ数日掛かるって」

 

「アースドラゴンの動きを封じる落とし穴なら結構深く掘らないと飛び上がってくるよ、奴等の跳躍力は馬鹿にならない。竜殺しのドガッテイの真似らしいが僕は失敗すると思うな」

 

 実際に戦ったから分かる、ドガッテイ達は他にも何か手立てを用いている、単純な落とし穴だけじゃない。

 レベル20以下の戦士達と魔術師三人だと相当な被害が出る、尤も魔術師達は戦士達は全滅が望ましい筈だ、生き残り全員に金貨千枚は採算が合わない。

 

「そうね、自己責任とは言え甘い考え方よ、高い勉強代になるわ」

 

「奴等としては協力者の数を減らしたいから危険な方へと導いている、魔術師三人だしアースドラゴンの誘導さえしてくれれば何とかなるんじゃないか?」

 

 あの『忘却の風』の三人なら大量の囮が居れば落とし穴に嵌まったアースドラゴンも消耗戦に持ち込んで勝てるだろう。

 

「つまりは自分達以外は全滅でも構わないって事ね、逃げ出せば契約違反で無報酬だから問題は無いと……」

 

 金貨千枚は一見高額だが対価が自分の命じゃ問題が多いだろう、欲張ると命取りに成りかねないのが冒険者稼業なのにな。

 落とし穴を掘る連中の手前で今度は右側に大きく迂回する、ティルさんの為にも昨日とは違うルートを通った方が良い。

 彼女のレアスキルは『失せ物捜索』で特定のモノをピンポイントで探し出せる優れモノだ、十五分も歩くと目当てのアースドラゴンの骨を見付けたみたいだ。

 

「見付けた、この先左側30m位進んで」

 

「ああ、だがその前にワイバーンを排除する、上空を旋回しながら照準を合わせてるから……」

 

 ワイバーンが旋回してる時は周囲にアースドラゴン達は居ない、奴等は自分より強い奴には挑まない。

 

「あら、本当だわ。下ばかり気にしてたから気付かなかった」

 

 大きく三回旋回しながら高度を下げて来て最後に急降下してくる決まったパターンだ、魔法障壁に魔力を送り込み強化しアイアンランスの準備をする。

 真っ直ぐに急降下し直前で両足を前に向けて爪で攻撃するが、見せてしまった柔らかい腹にアイアンランスを撃ち込む。

 

「アイアンランス!」

 

 自分の周囲に浮かべた五本のアイアンランスをワイバーンの頭部と腹部に向けて撃ち込む、即死して制御を失い突っ込んで来るワイバーンを魔法障壁で左側に受け逸らして完了。

 

「全く動じなかったね」

 

 後に乗っているティルさんに話し掛ける、ワイバーンに襲われながらも全く動揺すらしない。

 

「信じてたから。さぁ骨を浮き出させて、牙と爪以外はあげるわ」

 

「はいはい。少々お待ち下さい、お嬢様」

 

 ワイバーンなど関係無いと先に馬ゴーレムから飛び降りて地面を指差す、その下にアースドラゴンの骨が埋まっているのだろう。先にワイバーンを空間創造に収納する、これで合計十二体だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 最初の一体目を発見する迄は同行し、その後は僕に牙と爪を抜いた全身骨格を渡して別れる、後はお互い自由行動だ。

 かなり遠いが数人が僕を見張っている、ワイバーンを倒す所は見られたが構わない、問題はデスバレーに近付くが何処まで付いて来るかだ。

 流石に尾行や見張りと言えども自分の身が危険に曝される迄はデスバレーに近付かないだろう、僕は助けないし……

 

「未だ付いて来るのは一人か、ティルさんにも言っておかないと危険かも知れないな」

 

 本人は隠れているつもりでも遮蔽物が少ない荒野では完全に隠れるのは無理だし馬ゴーレムに付いて来るのも大変だ。

 最悪の場合人質に取られる可能性も捨て切れない、人間は欲望が絡めば平気で悪事に手を染める連中が居るからな。

 お前に気付いているんだと暫く見詰めると向こうも気付かれた事を理解して去って行った、ワイバーン狩りは見られたが仕方ないか……

 

 その後、警戒しつつ境界線から3kmほどデスバレーへと近付く、この辺になると岩肌が目立ち生存競争に負けたドラゴン種の骨も多い。

 魔力結晶化はしてないがアースドラゴンの全身骨格を牙と爪が有る状態で見付けた、これで骨格も四体分手に入れた。

 3km進んでから近付くのを止めて横に移動する、今回は更に右側に進む、上空にワイバーンは居ない、完全なドラゴン種の縄張りだ。

 

「見付けた、二日続けてツインドラゴンとは嬉しいじゃないか!」

 

 一応尾行を警戒するが視界に入る中には人間らしき影は見えない、油断は出来ないが戦闘の詳細は知られないだろう。

 相手は食事中だったらしくアースドラゴンの臓物を食べている、あれだけの巨体を維持するには大量に食物を採らなければ駄目だろうな。

 

「相手も気付いた、二つの頭を持ち上げて僕を見ている」

 

 距離は約100m、途中に障害となる物は何も無い。

 

「仕掛けるぞ!」

 

 真っ直ぐ馬ゴーレムを走らせる、今のリトルキングダムの効果範囲は直径200mだが精密な運用をするなら50mまで近付きたい。

 直接見て指示した方が細かい動きが出来る、遠距離操作も可能だが半自動制御では強敵には対応出来ない。

 馬ゴーレムを走らせて距離が50mを切った所で一旦止まりゴーレムナイトの重騎兵部隊を三十組錬成、転生前の得意技の運用精度を高める為に円殺陣を使う。

 

「地上最強種のドラゴンよ、僕の無言兵団に圧し潰されるがよい、突撃!」

 

 十体横一列で三段構えの突撃陣、接近しながらランスを投擲しツインドラゴンを包囲する。内側十五体、外側も同じく十五体の二重の包囲網だ。

 十体ずつ三回の投擲によるダメージは殆ど無い、腹に二本刺さったが浅くて直ぐに抜けた。

 

「昨日の奴より大きい、そして歳を経た個体だな」

 

 接近して分かる、コイツは15m以上は有る、尻尾とブレスを巧みに使い内側のゴーレムナイトを倒していく、外側の補充が間に合わない。

 ならば制御数を増やして数の暴力で圧し潰すのみだ!

 

「クリエイトゴーレム、三重の包囲網を崩せるか?」

 

 更に十五体のゴーレムナイトを錬成する、三重に包囲する事により接近戦の内側、回復と補充の二重目、そしてランスを投擲し続ける中距離攻撃の三重目と攻撃の手段とパターンを増やす。

 

「背を向けた方からのランス投擲は防げないだろう」

 

 背中に何本もランスが刺さり徐々に弱まる、後少しだ。

 




明日から5/6(水)まで長期GWにて旅行に行きます。予約投稿は済ませてますがサイトのチェックは出来なくなりますのでご容赦下さい。

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